<カミヨメ>

2011・7・15

 「カミヨメ」は、ガンガンJOKERで2011年1月号から始まった連載で、新人の読み切りから昇格して連載化された作品です。元々は、新人読み切り競作企画「J1グランプリ」にノミネートされた作品のひとつでしたが、10以上あった候補の中から読者投票で見事に1位に選出され、晴れて連載権を獲得することになったのです。

 この企画は、ウェブ上で掲載された作品のうちまず3作品が選ばれ、その3作品の読み切りがガンガンJOKERに掲載され、その中からさらに1位が選ばれるという2段階の方式を採用していました。このJOKERに読み切りが連載されたのが2010年5月。しばらくして1位になったと告知があり、「この秋連載開始」となっていたのですが、実際には中々始まらず、2010年も冬の年末になってようやく開始されました。ようやく登場した連載版は、読み切り版とは設定やキャラクターデザインがかなり変わっていて、連載開始までに相当な調整作業が行われたものと推測されます。

 作者は鍵空とみやき。元々は同人で活躍している作家で、ウェブ上のサイトや同人イベントでオリジナルの創作作品を発表し続けています。数多くの作品を手がけ、イベントごとに新刊を出すなどその活動は精力的で、同人創作界隈ではかなりの評価を獲得していたのですが、一方で商業誌での活動には長い間恵まれませんでした。唯一、数年前に芳文社のきららフォワードで、2回ほど読み切りを掲載したことがあるのですが、その後の進展が見られなかったところを見ると、大きな反響は得られなかったのかもしれません。それゆえに、今回スクエニのJOKERで連載が決まったことは本当に意外であり、大いに喜ぶべき結果だったと思います。

 作品の内容ですが、「カミヨメ(神嫁)」のタイトルどおり、神様のお嫁さんになった女の子を主人公にしたラブコメ作品となっており、素朴な性格のかわいらしいキャラクターたちが織り成すほほえましい作品になっています。一方で、この作者独特の厳しい設定、ダークなストーリーも時折垣間見えており、そちらの方でのより深い物語作りにも期待したいと思います。


・鍵空とみやきさんとは?
 わたしが鍵空さんの活動をネット上で見かけたのは、かれこれ今から5年以上前の2005年頃のことです。とあるイラストサイトで絵を見かけて気に入ってしまい、そこからサイトにリンクがつながっていたので行ってみたのですが、その頃からサイトで数多くのオリジナルの創作作品を打ち出していて、しかもウェブ上のファンの反響も既に大きく、その活動ぶりに感心してしまいました。その後、一旦サイトは閉じてしまうのですが、じきに別の場所で再開し、さらにはウェブ上での作品発表だけでなく、イベントで同人誌も出すようになります。その後は、今に至るまでコンスタントに同人で作品を発表し続けています。これまでに発表した作品は、非常に数が多いのですが、代表作として、作者最大のシリーズ作品となっている「あの子と旅」、さらに「スウリ」「しろいろとくろいろ」「空の英雄と罪人」などがあります。

 これら鍵空さんの作品の特徴は、まずなんといってもファンタジーであること。今では商業では下火になっている異世界を舞台にしたファンタジー。これが同人の創作界隈ではまだ健在なのです。ファンタジーと言っても、剣と魔法でモンスターと戦うバトルファンタジーの要素だけでなく、独特の世界観に重きを置いた雰囲気溢れるファンタジー世界の描写が特徴的で、この種の創作には、こういった世界に対する憧憬のようなものが感じられます。

 さらに大きな特徴として、中性的でかわいらしいキャラクターがあります。これも、鍵空さんを始めとする同人の創作ジャンルでは非常に重要な要素で、男性向けの萌え・エロ作品とは大きく異なり、あるいは女性向けの少女マンガともまた一風異なる、いわば昔のエニックス時代のマンガにも近いニュアンスがあります。特に鍵空さんのキャラクターのかわいさは、突出して目立つもので、今回の「カミヨメ」の連載でも、JOKER編集部によって「キュン萌え」なるコピーがつけられています(笑)。

 そしてもうひとつ、そんなかわいいキャラクターから受けるイメージとは対照的に、驚くほどシビアで重いストーリー、テーマがあります。人が傷つけられたり精神的にさいなまれたりする展開がよく見られ、かわいいイメージからは意外なほどシビアでダーク、もしくは悲劇的な物語となっていることが多い。そして、これは鍵空さんだけでなく、ファンタジー創作界隈でよく見られるもので、かわいいキャラクターに愛着を抱くと同時に、それとは対照的に重いストーリーを求めるという創作姿勢が、この界隈のファンタジー創作のひとつの本質ではないかと考えています。


・やはりかわいい絵柄とキャラクターが最高。
 さて、その鍵空さんの初めての商業連載となったこの「カミヨメ」ですが、やはりそのかわいい絵のキャラクターは健在でした。やはり鍵空さんの描く女の子は素晴らしいの一言に尽きます(笑)。

 読み切りの時とは主人公の女の子(彗華)の容姿が大きく変わっていて、やや幼いイメージのポニーテールの女の子になっています。そしてその姿がとてもかわいらしい! ただ見た目がちまっとしてかわいいだけではなく、びっくりしたり怒ったり顔を赤らめたりするリアクションもいい。「〜じゃ」という語尾でしゃべったりする、ちょっと古風でやや天然な性格として描かれていますが、いかにも鍵空さんらしい愛らしいキャラクターになっていると思います。
 読み切りの時の主人公は、割と等身大の中学生になっていて、こちらの活発な姿も魅力的だったので、この変更はちょっと惜しい気もしましたが、こちらはこちらでかわいいのでまったく問題ありません。久々にポニーテールのキャラクターに萌えてしまいました(笑)。

 そして、主人公の伴侶となり、あるいは付きまとってくる神様の男の子や女の子たちも、極めて中性的な魅力に溢れています。そもそも、鍵空さんのマンガは、女の子だけでなく男の子の方にも大きな比重が払われていて、特に「カミヨミ」の場合、神様の男の子の方が登場数も多く、主人公の女の子+男の子多数という、どちらかといえば少女マンガ的な作品となっていて、むしろ女の子の読者向けなのではないかとも思えます。この鍵空さんのキャラクターは、同人時代から、女性の読者にとても好まれる力を持っています。

 また、今回の商業連載に際して、以前よりも画力が上がり、整った絵柄となっているのもポイントが高い。以前の作品は、絵のかわいさは変わらないものの、やや線の仕上がりがおぼつかなく落ち着かないところがありました。それが、今回は大きく改善され、整って安定した作画となっています。カラーイラストもよく映えて申し分なく、特典で配布されたイラストカードの絵柄も大変よく描けていたと思います。


・甘いラブコメ的な展開を楽しみつつ、主人公に降りかかるシビアな運命も。
 さて、肝心のストーリーですが、あることがきっかけで、神社に住む少年・万(ヨロズ)が神様だと知ってしまった少女・彗華が、「神様と正体がばれたからには嫁になれ」という神様に言われ、日々恥ずかしながらも付き合っていくことになるというもの。彗華と万の二人の関係を中心に、彼の仲間である雷神や風神、生神などと共に、賑やかに神社で過ごしていきます。
 彗華は、今時では珍しく古風なところもある純粋な少女で、結婚して嫁になるということにもはずかしがって引いてしまいますが、しかし万が本当に好きだと気付いて、たどたどしくも真摯に付き合って行こうとします。一方で万は、口数も少なくぶっきらぼうで、一見して何を考えているか分かりにくいところもありますが、それでも神様である自分を慕う彗華の心に触れ、自分にも同じような感情があることに気付き、自分の嫁になってほしいと強く思うようになります。

 このような、互いを思う心を綴る甘いラブコメディが、このマンガのひとつの柱ですが、それともうひとつ、主人公の少女を巡る、暗く悲劇的な運命を提示する展開も見逃せません。
 彗華は、まだ小さな中学生でしたが、日々を一人で暮らし、神主をやっている万に会うために神社に通う毎日を送っています。学校でも親しい友人が何人もいて、とても幸せそうに暮らしているようにも見えました。しかし、これは実は偽りの日常であって、彗華の過去には悲劇的な出来事があり、その記憶を消されていたのです。彗華を死から守るために、神様だった万があえて記憶を消した・・・。こうした重くシビアな設定は、鍵空さんの本領と言うべきもので、それを物語冒頭の1話にして見ることが出来たことで、この作者らしさを存分に感じることが出来ました。
 その後、記憶を取り戻して万と結婚することになった彗華ですが、これで幸せになったと思いきや、神様と人間との間には、避けがたい運命の違いがあり、むしろ多難な前途が待ち構えています。こうした苦難をいかにふたりが力を合わせて乗り切っていくか。甘く優しいラブコメディだけでなく、このマンガにはこうした本格的なストーリーにも期待したいところです。


・ただ、定番すぎるラブコメ展開が作品の中心なのは気になる。
 ただ、そうした重くシビアな物語が見られるのはいいのですが、一方でやはり中心となっているのはやはり定番のラブコメシーンであり、はずかしがりやで純粋な主人公の少女と、その恋の相手となるクールな美少年の神様、もしくはその周囲を取り巻く賑やかな仲間たちと、あまりにも少女マンガ的なラブコメ設定を踏襲しすぎているのは、少々気になります。実際、ラブコメ展開の部分のみを取り上げれば、さほどオリジナリティは高くなく、むしろ女の子向けの少女マンガの定番とも言えます。鍵空さんならではのキャラクターのかわいさというのは大きな魅力ではありますが、ラブコメというジャンル自体は商業誌では決して目新しいものではありません。

 そもそも、鍵空さんの同人誌時代の作品は、決してこのようなラブコメは多くなかったのです。一応、そういった作品がないわけではないのですが、創作全体の中では少数派で、このマンガのように甘いラブコメシーンや、恋愛感情を吐露するような展開はそう多くは見られないのです。
 男女間のつながりの描写がないわけではありません。むしろ、鍵空さんの創作では、女の子と男の子との間の親しい関係(いわゆるノーマルカップリング)は、どの作品でもよく見られます。しかし、その関係の描写がかなり違うのです。確かに、二人の間に淡い恋愛感情が感じられる場合もありますが、それよりもまず、「信頼できるパートナー」とも言える関係がよく見られ、この「カミヨメ」のような、露骨な恋愛感情の描写はあまり見られないのです。甘い恋愛関係ではなく、共に同じ旅路を歩む、普通の友人よりも距離の近い強固で親密な関係のパートナー。「好きだ愛してる」ではなく「一緒に行きましょう」とでも言うべき関係。このようなつながりを、鍵空さんの創作では(あるいはそれに近い創作同人では)、むしろ主流だったのです。

 それなのに、初めての商業連載となった今回の「カミヨメ」では、あくまでラブコメ的な設定・展開がより前面に出ていて、とりわけ主人公の彗華が万への恋愛感情を吐露するシーンが目立ちます。こうしたシーンが必ずしも悪いわけではありませんが、しかし今までの鍵空さんの創作と比べると、ちょっとした違和感がありますし、やはり商業連載の作品だとこういった作風になってしまうのかなと、少々引っ掛かってしまいました。


・それでも待望の鍵空とみやきさんの連載として期待したい。
 あるいは、ここ最近のJOKERは、他にもラブコメ系の連載をいくつも打ち出すようになり、雑誌のひとつの路線としてラブコメ作品を揃えようとしているのかもしれません。「ヤンデレ彼女」や「プラナス・ガール」は今では人気作品となっていますし、カザマアヤミさんの「はつきあい」「ひとりみ葉月さんと。」もラブコメの作風を強く打ち出しています。最近では、ラブコメ系ライトノベル「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」のコミカライズ連載も始まりました。それ以外の作品でも、ラブコメ要素を持つ連載はかなりの数にのぼっているようです。そして、この「カミヨメ」も、そうしたラブコメ作品の一角を担って連載が始まったという側面があるのではないでしょうか。また、この「カミヨメ」以降、J1グランプリからの新連載作品がさらに登場していますが、そちらもラブコメ作品であるようで、この傾向はまだ続きそうです。

 また、こうした商業誌での定番の売れ線ジャンルと言えるラブコメの連載で、初めて鍵空さんも商業誌での活動が軌道に乗ったと言う側面もあるでしょう。以前、芳文社のきららフォワードで掲載されたふたつの読み切りは、それぞれ「ゆめのみち」「ユウグレ」という作品でしたが、いずれも決して今回のようなラブコメではありませんでした。むしろ、同人誌での作風でそのまま描かれていたように思います。しかし、このふたつの作品以後、さらなる掲載へとつながる動きが出なかったところを見ると(「評判がよければ連載も」と言う話を聞いたことがあります)、読者の反応は芳しくなかったのかもしれません。それが、今回のJOKERの連載は、今のところかなりうまくいっているようで、センターカラーを任されることも少なくなく、コミックス1巻の発売も大きな扱いとなっていました。やはり、こうしたラブコメの方が読者の人気は得られやすいのかなと、ちょっと複雑な心境ではあります。

 しかし、それでも、この作品が面白いことには変わりありません。甘いラブコメのシーンも、これはこれで決して悪いものではありませんし、真剣に自分の心と向き合う彗華や万の姿は見ていてほほえましいものがあります。そして、人間と神様を巡るシリアスで重いストーリー、こちらこそが作者の真骨頂だと思いますし、こうした読み応えのある物語に期待したい。同人ではあれだけいい創作を続けていた鍵空さんの作品が、商業誌で連載で読めるだけでも非常にうれしいですし、彼女をこうして連載に導いたガンガンJOKERの英断には感謝したいと思います。


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