<ラブ×ロブ×ストックホルム>

2010・2・20

 「ラブ×ロブ×ストックホルム」は、ガンガンJOKERの創刊号である2009年5月号から開始された連載で、創刊からの連載の中では少数派の、他社からの作家によるオリジナル作品になっています。
 作者は晴瀬ひろき。これまでは電撃系雑誌や双葉者のウェブ雑誌「COMIC SEED!」で連載を重ね、それ以外の挿絵等の仕事もすべて他社で行ってきました。それが、このガンガンJOKERの創刊に際して、スクエニで初めて連載を行うことになったようです。

 創刊当時のガンガンJOKERは、スクエニで休刊した雑誌からの移籍連載や、あるいはすでにスクエニで人気を獲得していた作家たちによる新作が中心となっていました。前者の代表が「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」「”文学少女”と死にたがりの道化」「コープスパーティー」などの旧パワードから移籍された人気マンガ(それもゲームやノベルの原作付きコミックが中心)、後者の代表が小島あきら・藤原ここあ・河内和泉ら旧WING連載陣による新作連載です。
 その一方で、完全な新規作家によるオリジナル作品は少なく、スクエニからの新人による新作「黄昏乙女×アムネジア」「プラナス・ガール」「ヤンデレ彼女」などの数作品がある程度でした。そして、他社で既に活躍していた作家による新連載となると、この晴瀬ひろきの「ラブ×ロブ×ストックホルム」が、ほぼ唯一の作品だったと見ていいでしょう。主にスクエニの作家・作品で固めた創刊時のJOKERで、数少ない他社からのゲストだったと言えます。

 なぜ彼が新創刊の雑誌に招かれたのかはよく分かりませんが、以前から他社のいろいろな雑誌で連載を重ねていた作家でもあり、その実力を買われての招聘だったのかもしれません。このガンガンJOKERの連載も、今まで同様に安定した執筆を続けているようです。

 作品の内容ですが、過激な性格で大胆な行動を取りまくる美少女逃亡犯(?)と、彼女の行動に巻き込まれて毎回えらい目に遭う男子予備校生を中心としたドタバタコメディとなっていて、犯罪をモチーフにしたマンガの割にはとてもギャグ色の強い、非常に明るい話になっています。一部にシリアスな要素も見られなくはないですが、基本的にはドタバタ・ギャグが中心で楽しく読めるマンガになっていると言えるでしょう。


・晴瀬ひろきのこれまでの作品。
 これまでの晴瀬さんのマンガの中で、最も知られているのは、やはり電撃系雑誌で連載された2作品、それも電撃文庫のライトノベルである「アリソン」「リリアとトレイズ」でしょう。どちらも時雨沢恵一原作のライトノベルのコミック化作品で、「アリソン」は電撃コミックガオ!で連載が始まったのち、同誌の休刊に合わせて電撃コミック大王へと移籍。「リリアとトレイズ」は、電撃では珍しい少女誌である「コミックシルフ」(現在は「シルフ」)の創刊号から連載が始まりました。人気の高いノベルのコミック化ということで、当初は看板的な扱いだったと思います。確か、「リリアとトレイズ」の方が先に連載が開始されましたが、ほどなくして「アリソン」の方も連載が始まり、揃ってコミックスが刊行されてフェアも開催された記憶があります。最終的には共に2巻という比較的短い巻数で完結しましたが、いずれも中々よくまとまっていたと思います。晴瀬さんの絵柄も、原作の黒星紅白さんと絵柄は若干異なりますが、雰囲気はよく再現していたのではないでしょうか。

 このふたつの電撃での連載と並んで、晴瀬さんのもうひとつの代表作が、かつて双葉社から刊行されていたウェブ雑誌「COMIC SEED!」で連載されていた「ゆーあい☆エトランゼ」でしょうか。宇宙人の女の子と友達になった女子高生たちの楽しい日常を描いた作品ですが、本格的なSF作品の要素を持ち合わせ、読み応えのあるマンガになっていました。個人的にはこの作品が最も好きですね。ウェブ雑誌の連載ということで、知名度が低かったという点は否めませんが、作者のSFマインドが良く出た隠れた良作だったと思います。

 このように、これまで他社で中々の良作を手がけてきた晴瀬さんですが、このガンガンONLINEの連載は、スクエニでも新雑誌として注目度の高かったJOKERの連載ということで、以前よりも一回りよく知られた作品になっているようです。今のところ、雑誌の表に出るほどの有名な連載こそ少ないものの、いろいろな出版社で健闘していると言えるのではないでしょうか。


・破天荒な展開が笑える爽快なドタバタコメディ。
 さて、この「ラブ×ロブ×ストックホルム」ですが、これまでの晴瀬さんの連載と比べても、突き抜けたほど破天荒で明るいスラップスティックコメディとなっていて、最初に読んだ時には少々意外に感じました。「アリソン」も「リリアとトレイズ」も、どちらもある程度明るいコメディシーンこそあるものの、シリアスなストーリーが物語の中心でした。一方で「ゆーあい☆エトランゼ」の方も、コメディ中心でありながらSF色の濃い設定・ストーリーが各所で見られ、決してコメディだけの作品ではなかったと思います。

 それに対して、この「ラブ×ロブ×ストックホルム」は、のっけから派手な展開、ケレン味に溢れるキャラクターたち、破天荒で非現実的すぎるアクションとそれに対する突っ込みと、あらゆる点で底抜けに明るいギャグコメディとなっているようです。

 実家から離れて、日々浪人生活を送っている予備校生の狭山潤一郎(18)は、受験勉強で辛い毎日を過ごしていて、ゲームみたいな非日常的な展開に憧れていました。しかし、そんな彼がある日マンションに帰ると、ピストルを構えた凶暴な美少女が待ち構えていて、いきなり銃を突きつけられ、脅されて人質となり、部屋に半ば監禁され、彼女を匿うことになってしまいます。彼女は、五千円札を見て一葉(カズハ)という偽名を名乗り、部屋に好き勝手に居座ってしまいます。外に連絡を取ろうとするとピストルで携帯を壊され、今度変な真似をしたらお前のハードディスクの中身を全部ネットに流すと脅され、やむをえず土下座して従わざるを得なくなります。

 その後の狭山は、なんとか予備校に行くことだけは許されるものの、下手なことをすると外から狙撃され、貯金を勝手に全部使われて武器を持ち込まれ、外ではヤクザに絡まれるところを一葉に荒っぽい手段で助けられておびえ、なぜか持っていた高性能ぬいぐるみ爆弾を命がけで処理させられるはめになったりと、日々ドタバタと危なっかしい日々を送ることになってしまうのです。

 いきなりライフルで狙撃するとか、街ひとつをぶっとばすほどの高性能爆弾とか、破天荒で非現実的な設定がいろいろ出てきますが、これがこのマンガならではの特徴と言えるでしょう。ありえないほどバカバカしい、派手な展開とアクションで思いっきり笑えるマンガになっています。


・行き過ぎたキャラクターたちの個性が魅力的。
 そして、そんな破天荒な展開を繰り広げる、キャラクターたちの強烈な個性が最大の魅力となっています。どのキャラクターも、なぜか行き過ぎたこだわりを持っているものばかりで、そんな彼らが絡んで繰り広げるドタバタが最高に楽しい。

 狭山の家に押しかけてきた逃亡犯・一葉(年齢不詳)は、逃亡犯にしては大胆すぎる行動が目立ち、大量の武器を買い占めて部屋を占拠し、なにかあればすぐ銃をぶっぱなし、おしかけてきた狭山の妹となぜかコスプレ対決を繰り広げたりと、そのオーバーなアクションで笑いを誘うキャラクターになっています。彼女は、本当に犯罪を犯しているわけではなく、なにかの陰謀に巻き込まれて濡れ衣を着せられているようで、それに対して敢然と立ち向かっていきます。
 そして、狭山が通う予備校の同級生・国木田小春(18)は、なぜか狭山に憧れを抱いており、強烈なストーカーとしてつきまとい、一葉にライバル心を燃やして矢文を放ったりバレバレの落とし穴を掘ったりと、行き過ぎた行動に出てしまいます。彼女の掘った落とし穴に、たまたま居合わせたヤクザが落っこちて狭山が因縁をつけられるくだりは、作中でも最も笑えるシーンとなっています。
 そんな彼女らに振り回される主人公の狭山は、何かにつけてひどい目にあっていますが、実は家は大金持ちの資産家で、今はあえて過保護の家から離れて勉強に頑張っている最中です。たまに見せる主人公のこの姿は、このマンガで数少ない真面目なシーンかもしれません。

 さらには、逃亡犯の一葉を追う刑事たちも、ひとくせもふたくせもある行き過ぎた個性派揃いです。刑事課の巡査部長・貴志尊(29)は、身体能力と正義感には非常に優れていますが、真面目で一直線なあまりどこかずれており、捜査の行く先々で余計なことに首を突っ込み、本来ならとがめるべき一葉たちの派手な騒ぎにも、自分から協力してしまうという間抜け振りを見せます。彼のパートナーである警部補・歌野りさ(23)は、いつもは貴志に振り回されるかわいそうな役どころなのですが、一度PCを前にすると性格が一変、機械好きが高じた凄まじいハッカーぶりをみせて暴走してしまいます。

 こんなキャラクターたちが集まって繰り広げるドタバタ騒ぎ、中でも第5話は一葉と狭山・貴志と歌野の双方が協力して火災の発生したデパートから脱出する話は、キャラクターたち全員が派手に活躍して窮地を脱出する非常に楽しいものになっています。


・これは楽しいスラップスティックコメディ。JOKERの中では気楽に楽しく読める作品のひとつ。
 このように、行き過ぎた個性的なキャラクターが揃ってドタバタ騒ぎを繰り広げる作風が楽しい本作、JOKERの中でも比較的気軽に読めるマンガになっています。同誌の中では、他に「ヤンデレ彼女」や「今日の魔王様」あたりも明るいコメディとなっており、それらと並んで気楽に読める貴重な作品になっています。あるいは、ガンガンONLINEの方で連載されている「ひゃくえん!」や「ちょく!」などのコメディ作品と合わせて、コミックス1巻の発売時に「コメディコミック7」と称してフェアが開かれたようで、こういったコメディ作品をJOKERやONLINEでは定番として打ち出す方針なのかもしれません。

 加えて、この「ラブ×ロブ×ストックホルム」は、今後につながるストーリーも中々楽しみです。コミックス1巻ではドタバタの大騒ぎが中心でしたが、最後になって一葉と因縁のありそうな少女と青年が登場、一葉が今のような状況に陥らされた事情の一端が明かされ、さらには今までは脅されていやいやながら従っていた主人公の狭山も、一葉の事情を察し、進んで協力するようになっていきます。タイトルの「ラブ×ロブ×ストックホルム」とは、長時間一緒に過ごすことで被害者が犯人に感情移入してしまう「ストックホルム症候群」という現象を指していますが、果たしてこれから一葉と狭山が本当の信頼関係になるのか、一時的に同居していたがゆえに感情移入してしまっただけなのか、そのあたりの行く末が気になるところです。

 さらには、作者の晴瀬さんの今後の活動にも注目したいところです。「ラブ×ロブ×ストックホルム」連載開始からもうじき1年という2010年3月から、秋田書店のチャンピオンREDで、「増殖少女プラナちゃん」なる新連載を開始。順調に仕事の幅を広げているようで、今後の展開も楽しみなところです。他社での仕事が増えることで、「ラブ×ロブ×ストックホルム」の執筆作業も以前より大変になると思いますが、うまく両立させてコンスタントに連載を続けていただきたいと思います。



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