<東京魔人學園剣風帖 龖(トウ)>

2007・8・17

 「東京魔人學園剣風帖 龖(トウ)」は、ガンガンWINGで2007年2月号より始まった連載で、同名のアニメ作品、及びその原作であるPSゲームのコミック化作品となっています。作者は新人の佐倉諒

 元々、そもそもの大元の原作である「東京魔人學園剣風帖」は、1998年にプレイステーションで発売されたゲームであり、もはや10年近い前のゲームとなってしまいました。当時から、非常にコアな人気を有する作品で、様々なメディア展開も行われ、実はかつてのガンガンWINGでも、すでに一回コミックス化されています(その時のコミックス化担当は喜名朝飛。連載期間は1999年7月号〜2001年4月号)。
 しかし、その人気には非常に根強いものがあったのか、この2007年になって、「東京魔人學園剣風帖 龖(トウ)」というタイトルで、初のTVアニメ化が達成されます。このTVアニメ、基本的なストーリーは原作に準拠していながらも、細部でかなりのアレンジが加えられた、言わば「リメイク」的な作品となっているのが最大の特徴です。そして、このTVアニメ版「龖(トウ)」をコミックス化したものが、今回のガンガンWINGの連載作品です。

 基本的にアニメ版に準拠した構成となっているため、かつての原作ゲーム、または喜名朝飛版のWING連載作品と比べると、かなりの部分でアレンジが加えられており、一部には大幅に変更された要素も見られます。とりわけ、アニメ版では、細部のストーリーや設定ばかりか、キャラクターの性格や容姿までかなりのアレンジが加えられているため、これに準拠したコミックス版もまた、かつての作品とは見た目の印象でかなり異なる作品となっています。

 しかし、その一方で、ストーリーそのものはかつての原作と変わらないため、今となっては古さをも感じさせる、平凡な作品にとどまっているようにも思えます。とりわけ、ストーリーを構成する各エピソードの内容が、アレンジされているとはいえ本質的に大きく変わってはいないため、今ひとつ新鮮味に欠ける感は否めません。加えて、マンガの完成度自体もさほど突出したところがなく、平均的な作品にとどまっており、コミックス版ならではの面白さにも乏しいように思えます。


・絵柄のバランスが取れているのはよい。
 まず、このような原作付きのコミックの場合、何よりも原作を再現する「絵」の出来が、作品の出来を大きく左右します。原作付きならばそもそもストーリーはある程度完成されているわけで、むしろマンガ独自の要素である絵の方が、より重要視されるかもしれません。

 そして、この「東京魔人學園剣風帖 龖」の絵は、原作(この場合アニメ版)の絵柄をある程度再現しながら、よりくせが少なく、バランスの取れたとっつきやすい絵柄になっているところが、かなり評価できます。とりわけ、肝心のキャラクターの絵が、アニメ版よりもかなり好感が持てます。
 TVアニメ版のキャラクターは、元々の原作ゲームからは大きく容姿がアレンジされている上に、かなりくせの強いデザインで、極端な髪型や顔の造形も散見され、人によってはかなり抵抗を覚えるようなものだったと思います(特に主人公の龍麻や京一)。それが、コミック版では、基本的なデザインこそアニメ版準拠ではありますが、極端なくせが大きく半減し、抵抗の少ない画風へと変わっています。一部のアニメ版にあった女性受けしやすい(耽美系の)容姿も薄れ、より中性的な外見になりました。これは、まさにWING的・スクエニ的な絵柄とも言えるもので、いかにもガンガンWINGの連載らしいマンガになったとも言えます。

 また、かつてのWING連載だった喜名版と比較しても、こちらの方がよりくせが少なく、好感が持てます。喜名さんは、元々画力自体もあまり高いとは言えず、しかも一部のキャラクターの造形にかなりのくせがあり、原作ゲームの絵柄を再現しているとも言えないようなマンガでした。それが、今回の佐倉諒によるコミック版では、少なくとも原作(アニメ版)のイメージはかなりの部分で再現していますし、その上でバランスの取れたとっつきやすい絵になっていることが評価できます。


・しかし、ビジュアルのレベルはさほど高くない。
 ただ、キャラクターを中心にバランスの取れた絵は評価できますが、絵のレベル自体はさほど高いとは言えません。新人作家のレベルとしては、この程度でも平均レベルで、まずまずの仕事ではあると思いますが、しかし物足りない点も多いです。

 最も物足りないのは、やはりアクションシーンでしょうか。肝心のキャラクターたちの攻撃、とりわけ必殺技のシーンがうまいとは言えず、何となくエフェクトだけで終わっているシーンが多く見られます。加えて、敵キャラクター(モンスター)の造形も今ひとつで、モンスターの恐ろしい異形ぶりを示すには力が足りません。原作はオカルトやホラー要素満載の伝奇もので、そういった作品では「恐ろしさ、おどろおどろしさ」を見せることも重要だと思うのですが、このマンガでは、そこまでの描写にはなっていないように思えます。絵柄自体がライト感覚の中性的な作風で、原作のビジュアルの「濃さ」とは離れた画風であることも、その要因かもしれません。

 ただ、前任の喜名版との比較では、こちらのビジュアルの方がまだかなりよいと感じます。喜名作品の最大の欠点として、とにかく絵がうまいとは言えず、特にアクションシーンがまったく描けていないという問題がありました。その点では、こちらの佐倉版の方が、まだまだ力不足で不十分とは言え、それなりに読めるだけの絵にはなっており、比較的抵抗が少なく読むことができます。


・肝心のストーリーがいまいち盛り上がらない。
 というわけで、絵的にはさほどレベルが高くないながらも、それなりのバランスで読むことが出来るのですが、問題なのはストーリーの方です。とにかく、こちらの方がかなり平凡な出来で盛り上がりません。

 基本的には原作(アニメ版)に忠実なストーリーではあるのですが、丹念にひとつひとつ単発のエピソードを繰り返していくだけで、そのあたりで盛り上がりに欠けます。これは、原作のゲームがそもそもそうで、ドラマ仕立ての1話完結でゲームが進んでいくことが、原作最大の持ち味でした。しかし、これをコミックにした場合、単に単発で完結するエピソードを繰り返すだけになってしまい、どうにも面白さが減じてしまっています。とりわけ、原作を知らない読者には、特にそう感じてしまうのではないでしょうか。
 前述のように、ビジュアル的な完成度が今ひとつなのも、ストーリーの足を引っ張っているように思えます。ストーリーが単純でも、伝奇ものらしいホラーやアクションが色濃く描けていれば、それはそれで十分面白いわけですが、この作者の絵は中性的でライト感覚の絵柄でビジュアルレベルもさほど高くなく、そこまで読者を魅せる力が出ていないようなのです。

 原作ゆずりのキャラクターの多さも問題です。毎回のエピソードでたくさんの仲間を得られるのが、原作ゲームでは最も面白いところなのですが、これをコミック化した場合、いちいちすべてのキャラクターを登場させるわけにはいかず、主要キャラクター以外は大抵一度きりの登場で終わってしまい、使い捨ての感も否めなくなります。かつての喜名版では、このあたりを何とかしようと、とにかく全部のキャラクターをきっちり活躍させようとしてすべてを登場させ、とうとう最後には収拾がつかなくなってしまったのですが(笑)、それでも今考えればその方がましだったかもしれません。今作では、最初から主要キャラクターである主人公5人組のみにストーリーが集中しており(特にヒロインの美里)、これはこれで妥当な線だとは思いますが、その影でそれ以外のキャラクターたちの存在意義が、かなり削がれているような気がします。


・リメイクものだけに新鮮味の無さが最大の問題。
 しかし、このマンガの場合、そんなストーリーの問題だけでなく、「かつての10年前のゲームのリメイクで、大幅に新鮮味に欠ける」ことが大きいように思えます。

 そもそも、大元の原作である「東京魔人學園剣風帖」は、もう10年近く前に出たゲームです。しかも、ガンガンWINGで一度コミックス化されています。そんな作品を、今になってTVアニメ化されたからといって、もう一度ガンガンWINGで連載するというのは、もうそのこと自体がひどく新鮮さに欠けているように思えるのです。TVアニメ版は、かつての原作をあまり知らない視聴者を中心に、中々の話題を呼んだようですが、このガンガンWINGでの連載については、そこまでの幅広いユーザー層も期待できず、単に古びたイメージの作品にとどまっているように思えます。

 もちろん、このガンガンWINGでの連載も、かつての喜名版の連載からははるかに時間が経過しており(喜名版の連載はエニックスお家騒動以前)、もうその当時のことを知らない読者の方がはるかに多い状態で、かつての原作も知らない人もたくさんいることでしょう。このコミック版を、完全な新作として見る人もいるかもしれません。しかし、そのことを考慮しても、なおこの作品は、さほど新しい面白さを確保できていないように思えるのです。原作のストーリー自体も、「学園伝奇ものの王道」を強調したようなストーリーで、その王道的展開も一つの売りだったわけですが、かつては一つの特長として活きたその作風も、10年近い時が過ぎた今となっては、もうかつてほどの魅力は無いように思えます。この作品以外に、学園+伝奇ものというジャンルで、他にも多数の人気作品が登場しているのも、その大きな要因でしょう。そんな中で、ガンガンWINGのような知名度の低い雑誌で、10年前の王道的作品をリメイクして連載したところで、今から読者を惹きつけるのは難しいように思えるのです。


・今のガンガンWINGでは平凡な作品。大幅なクオリティの上昇がないと厳しい。
 以上のように、この「東京魔人學園剣風帖 龖」、TVアニメのコミック化というメディアミックス作品ではあるものの、内容的には今ひとつ平凡な感が否めず、かつ一昔以上前の原作のリメイクということで新鮮味にも乏しく、さほどの作品にはなっていないように思えます。今のガンガンWINGの連載作品の中でも、さほど見るべきところの少ない作品で、大きな読者人気も感じられず、雑誌の質の向上には結びついていないようです。

 しかも、TVアニメのコミック化ということで、原作のほぼ忠実なストーリーの再現にとどまっており、これ以上独自の面白さを出すことも厳しいような状況です。これでは、今後大きく発展して人気を得ることも難しいのではないか。唯一、作者の実力の向上で、作画方面のレベルが上がり、ホラーやアクションシーンが魅力的なものになったり、あるいは、原作のストーリーを巧みにアレンジしてコミックス独自の面白さを出せるようになれば、そこで初めてかなり読めるようになるとも思えますが、連載がある程度続いた今の状況を見る限りでは、今後そこまでの大幅なクオリティの上昇はさほど期待できないような気がします。

 今のガンガンWINGは、連載本数がかなり少なくなっており、本誌の厚さもひどく薄い状態にまで落ち込んでいます。その点では、この作品も数少ない連載の一角を担う作品として、貴重な存在ではあるのですが、しかし雑誌を今後支えていけるほどの連載にはなっていないようにも感じられます。かつての2006年に行われた「1年間連続新連載」の後に打ち出された新連載作品であり、不調だった連続新連載の穴を埋めるべき作品になるかと思って期待もしたのですが、現時点では思ったほどの成果を挙げていません。 今のところは単なる平凡なゲームコミックに過ぎず、これからのクオリティの向上も期待しづらい作品にとどまっていると言えます。


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