<まなびや>

2009・10・30

 「まなびや」は、ガンガンJOKERの創刊号である2009年5月号から開始された連載で、同誌において創刊号から最も有力な連載として、最大の看板作品のひとつとなっています。同誌は、休刊されたガンガンパワードとWINGを受け継いで創刊されたという経緯があり、パワードの人気コミックだった「ひぐらしのなく頃に」や「うみねこのなく頃に」が最大のキラータイトルとなる一方で、こちらの新連載にはそれと同等か、あるいは以上の扱いになっているようです。

 作者は小島あきら。WINGで2006年まで長らく連載を続けた「まほらば」の作者であり、WINGを受け継いだこのJOKERにおいて、久々の連載復帰となりました。実は、半年前に創刊されたウェブ雑誌「ガンガンONLINE」でも、すでに「わ!」という4コママンガの連載を開始していたのですが、この「まなびや」は紙媒体の雑誌が掲載先であり、より本格的なストーリーマンガでの連載と言うことで、「わ!」以上に大きな扱いとなっているようです。同誌では、同じく旧WINGの人気作家だった藤原ここあや河内和泉の新連載も大々的に扱われており、かつての人気作家を再び雑誌の中核に据えようという方針が明確に窺えます。

 内容的には、まなびや(学び舎)というタイトルどおり、湘南に立地した高天原学園という学校を舞台にした学園もので、かつての「まほらば」に見られたような、小島らしい軽快なコメディタッチの作品となっています。その一方で、高校の映写部(写真部)の活動を描く青春ものでもあり、主人公の槙嶋武(マキシマ タケル)が再婚相手の母親や連れ子の妹とまだぎこちない関係だったり、ヒロインだと思われる白雪も何か悩みを抱えるかのような態度を見せたりと、シリアスな側面も少なからず見えています。一方で、写真部としての活動、本格的な写真撮影やカメラの描写も今後出てくるかもしれません。

 しかし、連載開始約半年後の10月号をもって連載が長期中断し、代わってガンガンONLINEから「わ!」が移籍してきて、そちらが連載されることになりました。原因は、作者の深刻な持病らしく、「まほらば」の連載中から長く懸念されていた作者の体調不良が、ここにきて本当にひどくなってしまったようです。ここまでの半年間の連載を見ても、かなりの良作ぶりが感じられたので、この決定は非常に残念であると思います。


・「まほらば」から「まなびや」に至るの軌跡。
 小島あきら最大の名作「まほらば」が始まったのは、ガンガンWINGの2000年11月号。今から考えるともう9年も前になります。当時はあの「エニックスお家騒動」以前であり、小島さんの「まほらば」も、数多くある人気連載の中では、当初から評判こそよかったものの、いまだひとつの新人作品に過ぎませんでした。
 しかし、2001年のお家騒動勃発でその連載陣がことごとく抜け、ほぼ唯一残った人気作品の「まほらば」が、いきなり雑誌の看板に抜擢されてしまいます。その後の「まほらば」は、お家騒動で壊滅的な被害を受けたWINGを一手に支え、やがて2005年にアニメ化も達成してこちらも人気を得て、ついにはスクエニを代表する人気作品となります。

 その後、2006年に円満な最終回を迎えるのですが、一方で終盤の展開がややあっさりとしすぎ、意外にも早く終わりすぎたという声も聞かれました。これは事実であり、実は連載中から作者の持病で体調が常に不安定であり、終盤になって特に悪化したため、早めの終了を余儀なくされてしまったようです。
 その後の小島さんは、以前体調が万全ではなく、いくつかの雑誌でたまに読み切りや短編を手がけるものの、「まほらば」を継ぐ連載が始まることは長いことありませんでした。その間に「まほらば」という最大の人気作品を失ったWINGは、不振の極致を極め、やがて休刊への道を辿ることになります。

 一方で小島さんは、2008年10になって創刊されたウェブ雑誌・ガンガンONLINEにおいて、「わ!」という4コママンガで、ついに連載復帰します。「まほらば」の連載終了から数えて、すでに2年以上が経過していました。この「わ!」は、雑誌でも最大の看板作品として、内容も良質で評価も高く、ここでようやく小島あきらが本格復帰する形となりました。
 そして、「わ!」の開始から半年後の2009年4月、もう一つの連載であるこの「まなびや」が始まります。こちらはより本格的なストーリーマンガとなっており、高校の写真部を舞台にした本格青春ストーリーとして、あるいは小島あきららしい楽しいコメディ作品として、かつての「まほらば」と比べても遜色ない作品に仕上がっています。


・小島あきらならではの個性的なキャラクター、楽しいコメディは健在。
 さて、この「まなびや」ですが、今回も「まほらば」を始めとする小島作品で見られた、楽しいコメディは健在です。「まほらば」の鳴滝荘の住人同様、今回舞台となる高校の映写部(映像写真部)も個性派揃いで、新入部員である主人公を賑やかに歓迎してくれます。

 そんな中でも最大の個性派は、なんといってもぶちょうこと龍胆花輪(りんどうかりん)でしょう。ツインテールで小学生と見まがうばかりの幼い外見で、言動もハイテンションで幼さを感じさせるかわいい映写部部長で、なによりも甘いもの好きの大食いで大量のコッペパンをむさぼり食う様がなんとも言えません。このマンガの中でもとりわけ突出した個性を持つ名物キャラクターとなっています。

 そして、クールで時に毒舌をも発し、部長をやたらかわいがる副部長のギボギボこと擬宝珠夢(ギボウシユメ)、おかっぱの眼鏡っ娘でノリのいい性格をしているユカリンこと蘇芳縁(すおうゆかり)、ハイテンションで暴走しがちな女子生徒で、白雪と初対面でいきなり「脱いで」と言い放った竜田薊(タツタアザミ)、ぶっきらぼうな性格の男子生徒・金雀児譲(エニシダ ジョウ)、眼鏡のオタク男子生徒の苧環三郎太(オダマキサブロウタ)と、いずれ劣らぬ賑やかで楽しい面々が揃っています。そして、彼女たちが発する明るい会話、部室での賑やかな交流が本当に楽しい。常に一生懸命で底抜けに明るく場を盛り上げるぶちょうを中心に、それぞれ性格の異なるキャラクターたちが一堂に会して、思い思いに活動している。そんな楽しい部活動の雰囲気が、本当によく描けているのです。

 「わ!」と世界観を共有し、一部に共通するキャラクターが登場してくるのも面白そうです。今のところ、「わ!」から登場しているのは生徒会長の岩千鳥と映写部の顧問である千両千晶くらいですが、連載が進めばさらに両作品間の交流が見られるかもしれません。


・写真に取り組む本格的青春ストーリー。美しい背景と感傷的な雰囲気も魅力。
 しかし、そのような掛け値なしに楽しいコメディの一方で、主人公を中心とする本格的な青春ストーリーといった側面も強く、美しい背景をバックに感傷的なシーンが随所に織り込まれているのも、また大きな魅力です。

 主人公の槙島武は、母をなくして以来父親と長らく二人暮らしでしたが、しかし家事や雑用を不平一つ言わずこなし、父親の大きな助けとなって生きてきました。しかし、父親の再婚を契機に、これからは新しい母親に家事をしてもらえるし、「お前もこれからはやりたいことをやって生きろ」と父に促されます。しかし、これまでの生活を当たり前として生きてきた武には、すぐにはやりたいことが見つかりませんでした。新しい家族ともいい関係を結べましたが、まだぎこちなさが残っている微妙な状態の中、高校へと入学することになります。ここで、唯一ちょっとした趣味とも言えた携帯電話での写真撮影に目をつけ、高校の映写部(映像写真部)で活動しようと試みる。そんなシリアスな設定がバックにあるのです。新しい環境の中で、自分のやりたいことに向けて模索する、というところは、「まほらば」の主人公白鳥くんとちょっと共通するところがありますし、今回もまた楽しいコメディの裏で感動を呼ぶシリアスなストーリーが期待できそうです。

 主人公と同じくして映写部へと入部することになる、白雪という少女も、序盤から写真にまつわるシリアスな展開をはらんでいます。初登場時から感情表現に乏しく人に慣れない性格で、映写部に入るのもためらっていましたが、武との出会いをきっかけに映写部へと入ることになります。彼女は、自分の今の境遇を嫌い、あえて人を避けるような行動を取ってきましたが、武との出会いと映写部への入部によって、また大きく変わろうとしています。この彼女の変化と成長も見逃せません。さらには、三人目の新入部員となる芝瑠璃もまた、映写部で思い出を作るために入部を試み、武と白雪の3人で入部記念の写真を撮ろうとがんばるなど、こちらでも成長のストーリーが顕著に見られそうです。

 そして、そんなシリアスなストーリーを構成する感傷的なシーン、とりわけ作品の舞台となる湘南の美しい風景が描かれた、数々の遠景シーンが見逃せません。これは、作中を通して最も印象に残る箇所になっているようでもあり、黄昏時の海岸・穏やかな町並みの一画・そこを走る電車(江ノ島電鉄と思われる)や車の姿など、いずれも日常の1シーンを切り取った実に美しい光景を見せてくれます。


・写真やカメラをテーマにした描写は見られるか。
 そのようなキャラクターの青春ドラマに加えて映写部の活動の中心である「写真」や「カメラ」をどれだけ扱っていくかという点にも、大きな注目が集まります。

 写真と撮影するという行為が、携帯やデジカメで非常に幅広く普及した今、あえて映写部(写真部)に入って写真を撮るという行為にどのような意味があるのか。主人公の槙嶋武もまた、元々は学校の登下校中にちょっと携帯で撮影するという程度の趣味であり、彼が映写部に入ることで、写真との付き合いがどのように変わっていくのか。写真撮影やカメラに対する知識や技術面での成長は見られるのか。高校を映写部を舞台にしているマンガだけあって、そのような点も気になります。

 連載の序盤では、まださほど詳しい描写は出てきませんが、それでも映写部の一部のキャラクターが使っているカメラの機種の話や、主人公が美しい光景に対して思わずカメラを向けてしまったときの気持ち、そういったシーンが一部に見られますし、今後より本格的にそういう描写が出てくれば面白いかもしれません。

 ところで、このような学校の写真部をモチーフにした作品が、既存のマンガで既に存在しています。「瞳のフォトグラフ」(杜 講一郎×さくら あかみ)という作品で、こちらは作者たちが写真撮影を趣味にしており、さらにはカメラ雑誌の協力も得て、かなり本格的で詳しいカメラや写真についての知識が見られます。こちらも非常な意欲作だと思うのですが、この「まなびや」の方もまた、それに続くかのような作品になればいいなと思いますし、これまでの写真を意識したような美しい背景シーンを見れば、その可能性も大いにあるのではないでしょうか。それゆえに、この時期になっていきなり連載中断してしまったことが、あまりに大きく悔やまれるのです。


・この連載中断は無念すぎる。これまでが良かっただけに非常に惜しい。
 このように、かつての「まほらば」同様の楽しいコメディとシリアスなストーリー、そして湘南の高校の写真部が舞台ならではの美しい背景シーンと、変わらぬ優れた作品作りを見せてくれたこの作品、ガンガンJOKERで創刊時からの看板作品にふさわしい作品になっていたと思います。先行して始まったガンガンONLINEの「わ!」の方も良作に仕上がっており、あの小島あきらがここでついに完全に復帰したと思われました。「まなびや」と「わ!」が世界観を共有しているのも大きな楽しみであり、今後両作品の間の交流もさらに増え、双方で盛り上がっていくかと期待していました。

 しかし、その期待はあっさりと打ち切られてしまいます。2009年10月号になって、作者の体調悪化に伴う「まなびや」の連載中止と、代わって「わ!」のONLINEからの移籍が告知されました。作者の持病の容態はひどく深刻なようで、両作品の連載を続けることはどうしても不可能であり、作業の負担の軽い「わ!」のみがかろうじて連載継続、という形になったようで、これは致し方ないところでありました。

 だが、これで「まなびや」が長期中断となり、いつ再開されるかも分からない状態になってしまったのは、あまりにも惜しい。これまでの半年分の連載だけでも、十分な良作ぶりが感じられる作品となっており、今後の武や白雪の成長、写真やカメラへのさらに突っ込んだ描写など、さらに期待したい要素も多かっただけに、このタイミングでの連載中断は無念の一言に尽きます。JOKERにとっては、まだ「わ!」の方の連載が継続できるだけよいのかもしれませんが、より本格的なストーリーマンガだった「まなびや」が抜けるというのは、やはり大きな柱を失ってしまったことに変わりありません。

 しかも、中断の理由が作者の持病という困難な問題であり、今後「まなびや」が連載再開できるかどうか、それは非常に厳しいものがあると思います。小島さんが健康な日々を取り戻し、忌憚なく連載が再開できる日が来ることを願ってやみません。


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