<戦國ストレイズ>

2008・5・18

 「戦國ストレイズ」は、ガンガンWINGで2008年2月号から開始された連載で、タイトルどおり日本の戦国時代を舞台にした戦国もののマンガになっています。作者は、かつてステンシルとガンガンWINGで長期連載「KAMUI」を手がけてきた七海慎吾で、前回の連載からかなり間をおいての久々の連載となりました。
 元々は、かつて発刊されたガンガンの増刊誌「ガンガンカスタム」において掲載された読み切りが元になっていますが、設定はかなり大幅に変更されており、しかも読み切り掲載からも相当な間をおいての連載開始で、この間に相当に大きな調整期間があったのだと推測されます。読み切りは、悪くはないもののいまひとつ、といった評価の作品であったので、やはりそのまま連載するのは難しかったのかもしれません。

 元々、ステンシルという少女マンガ誌での連載を行った作者の作品だけあって、やはり女性的な要素の強い作品となっています。いかにも女性的な絵柄とキャラクターは、昨今戦国ファンとなった女性読者には大いに人気の出そうな作風でもあり、実際にその手の女性読者を中心にかなりの話題を呼んでいるようです。昨今のガンガンWINGは、ある程度女性読者を視野に入れた連載を採り入れようとしているように感じられますが、このマンガもその一貫なのかもしれません。

 ただ、これは作者の前作「KAMUI」も同じような作風であり、しかもそちらはいかにもくせの強い耽美的すぎる絵柄が人を選ぶマンガでした。少女誌だったステンシルでの連載ではそれでも良かったものの、ガンガンWINGに移籍して以降は雑誌の中でも異色の雰囲気となりました。対して、この「戦国ストレイズ」は、前作よりも大幅にくせが少なくバランスの取れた絵となっており、抵抗は大幅に少なくなりました。ガンガンWINGの掲載でもあまり違和感がなくなり、雑誌の中に素直に溶け込んでいるようです。

 内容的にも中々に良好で、確かに美形キャラクターが目立つ女性好みのイメージの作品ではあるものの、それ以上に戦国を舞台にした比較的明るく前向きな娯楽作品となっており、素直に楽しめるマンガとなっています。


・作者の前作「KAMUI」からの流れ。
 作者である七海慎吾の初連載作品である「KAMUI」は、元々は2001年のステンシルで開始された連載で、当時の誌面でも看板クラスの人気を誇っていました。当時はまだあの「エニックスお家騒動」以前であり、ほどなくしてお家騒動が勃発、ステンシルも主要な人気連載が多数抜けるという事態に見舞われます。そのため、その後の誌面ではこの「KAMUI」の存在感はさらに高まり、騒動で混乱した雑誌の中でも数少ない安定した人気連載として、雑誌を引っ張っていくことになりました。

 しかし、お家騒動後のステンシルは、結局のところ往時の勢いを取り戻すことができず、慢性的な不振に陥り、2003年には廃刊してしまいます。その時に、いくつかの人気連載のみはスクエニの他誌に移籍して連載継続が決まったのですが、その中にこの「KAMUI」も含まれることになりました。しかも、他の移籍作品が、すべてGファンタジーへと移籍したのに対して、これのみガンガンWINGへと移籍されます。これも少女誌連載作品らしく、女性に人気の出る作風であり、どちらかと言えばGファンタジーへの移籍がふさわしいとも思いましたが、これのみWINGへと移籍された理由は不明です。ある程度雑誌間のバランスを取りたかったのかもしれません。

 WINGへと移籍後の「KAMUI」も、相変わらず堅調に連載を重ね、2006年1月号をもって終了するまで、こちらの雑誌でも主要連載となりました。この「KAMUI」連載後のWINGは、他にも主要連載が次々と抜け、後を受けて始まった「1年間連続新連載」もふるわず、誌面は一気に不安定なものとなってしまいますが、それにはこの「KAMUI」の連載終了も少なからず影響しています。

 その後、作者の次回作がすぐあるかとも思ったのですが、ずっと長い間何の音沙汰もなくなります。ようやく同年の11月になって、この「戦国ストレイズ」の原点となる読み切り「YOUGSTER GANGSTER」が、ガンガン増刊カスタムに掲載されます。これも戦国ものの作品で「ガンガンWINGで掲載予定」となっており、ようやく作者の次回作が顔を出したと思いましたが、肝心の作品の評価は今ひとつで、あまり印象に残る作品ではありませんでした。そのためか、その後再び長い間音沙汰がなくなり、一時はこの連載の企画自体立ち消えになったのかと考えていました。しかし、実際には作者と編集者の間で長く調整が続いていたようで、ようやく2008年になって、タイトルをこの「戦国ストレイズ」と変えて、作品の設定も大幅に変えて、ついに連載が開始されます。既に「KAMUI」の終了から丸二年が経過しており、ここに来てようやく実力派作家の再登場となりました。


・バランスの取れたくせの少ない絵になったことに好感。
 まず、今回の連載で真っ先に気づくことは、昔よりもはるかにバランスの取れたくせの少ない絵になったことでしょう。「KAMUI」の時と比較してももちろん、読み切りの「YOUGSTER GANGSTER」の時と比較しても相当に絵が変わっており、かつてよりも抵抗の少ないより中性的な絵に近いものになりました。

 元々、「KAMUI」の時の作者の絵は、元の掲載誌が少女誌ということもあり、相当に女性向けの要素の強い絵柄でした。いわゆる耽美的な絵柄で、ひどく線が細いキャラクターの造形で、相当に癖が強い絵柄でした。それでも少女マンガ誌だったステンシルでは、また誌面で違和感は少なかったのですが、のちにWINGに移籍して以降は、さすがにそこの誌面の中ではかなり異色の浮いた存在となり、WING最大の特徴である「ゆる萌え」系のマンガの中に、ひとつのみ少女マンガ的な耽美系のマンガが交じっているような状態となっていました。

 しかし、今回の「戦国ストレイズ」の絵は、この当時と比べると目に見えて変わっており、キャラクターの造形のくせがひどく少なくなり、男女共にバランスの取れた見た目のキャラクターになりました。それでも、まだ女性的な絵柄であることは変わらず、登場する戦国武将たちが美形揃いだったり、女性キャラクターもやや少女マンガ的に感じられたりといった要素はありますが、それでも多くの読者にとって(特に男性読者にとって)、随分と抵抗の少ない絵になったことは間違いありません。読み切り版と比べても絵柄の変化は明らかのため、連載するまでの間に絵柄でも調整・進歩があったのかもしれません。

 加えて、元からの画力の高さも健在です。「KAMUI」連載時から、その絵の緻密さには定評がありましたが、今回はよりくせの少ないすっきりした絵になったことで読みやすさも加わり、さらにレベルの高い作画になったような気がします。「KAMUI」の時のような、SF的な緻密な建造物はさすがに今回は見られませんが、それでも戦国時代の自然が残る背景は過不足無く描けています。


・明るく前向きな話作りにも好感が持てる。
 肝心の内容、ストーリーについてですが、読み切りが純粋に戦国時代を扱う歴史物(?)だったのに対して、この連載版では大きく設定が変わり、主人公の女子高生がタイムスリップして戦国時代に飛ばされてしまうという、いわゆるタイムスリップものになっています。「戦国ものでタイムスリップ」という、設定だけならば他にも似たような作品がいくらでも見られる、ありきたりとも言えるジャンルかもしれません。が、このマンガに関しては、この設定の変更が功を奏しているようです。

 主人公の剣道少女・草薙かさねは、不慮の事故に巻き込まれた衝撃で、突然戦国時代の尾張に、あの織田信長の領内に飛ばされ、しかも成り行きで織田の領民たちを助けることになり、そのことがきっかけで信長とその配下の武将たちに出会い、彼らの生き様を垣間見ることになります。そして、信長の生き方に共感を覚えたかさねは、現代に帰る方法が見つかるまでの間、信長の元で生きていこうと決意します。

 戦国乱世が舞台ということで、戦いに満ちた殺伐とした描写も散見されますが(冒頭などは、織田の領民が他の領主の兵士に蹂躙されるシーンから始まります)、しかし、それ以上に主人公や周りのキャラクターの生き方が前向きで力強く、全体を通して明るい雰囲気になっているのが特徴的です。作者自身も、「前回の連載(「KAMUI」)がシリアス一辺倒だったので、今回は明るく楽しいものがいいと思った」とコミックス後書きで記述しています。

 まず、主人公の少女・かさねの性格が、非常に前向きで明るいのが目立ちます。現代にいる頃から、両親がいないにもかかわらず明るく弟たちに接し、剣道の道場を継ごうと日々頑張る姿が強調されていました。タイムスリップで飛ばされた後も、いきなり兵士に捕まり、他の領民の女たちと共に牢に入れられますが、それでも自力で脱出し、一緒につかまった女たちをも励まし、明るくあきらめない性格で周りの雰囲気をも変えてしまいます。信長に出会った後も、物怖じせずに言いたいことをずばり言ってのける度胸の良さを見せます。

 主人公だけでなく、戦国時代を生きる信長の配下の武将や兵士たちも、みな前向きに生きている姿が目立ちます。多かれ少なかれ、みなが信長に力を認められて仕えており、中には本来ならば用無しとされるような者が信長に拾われて仕えているようなケースもあり、そのため主君に対する信頼は厚い。そのうえで、誰もが「この主君ならばなにかやってくれそうだ」という期待を抱いており、やがてはそれが領民たちにも波及していきます。最初のうちは、「うつけ者」という噂から信頼していなかった領民たちが、じかに信長の型破りながら優れた言動に接することで大いに見直し、自分たちも協力して国づくりに励むようになる。そのような話は、読んでいてすがすがしいものがあります。


・この信長の姿は一見の価値あり。
 そして、そんなみなに信頼される存在である、信長の姿も中々に堂に入ったものがあります。他の戦国作品でもそうかもしれませんが、このマンガも例に洩れず、信長というキャラクターの型破りながら魅力的な姿を存分に描いています。その存在感は非常に強く、実質的にこちらも主人公と見てもいいかもしれません(コミックス1巻の表紙も信長ですし)。

 いかにも女性作家らしい美形キャラクター的な容姿となっていますが、それでも他のキャラクターに比べれば、豪快で力強い側面もよく出ており、従来の信長のイメージもよく出ている造形で、比較的違和感は少ないと思えます。そして、その言動も型破りながら実は切れ者という、これまでの信長の姿をよく捉えています。

 あるいは、これまでの信長像と比較しても、もう一歩踏み込んだ描写も見られます。豪快果断で時に奇行や苛烈な振る舞いで家臣を戸惑わせる一方で、身分を問わず能力重視で家臣を重用したり、領民を保護したりといった善政を行う、といった描写はこれまでの作品でも見られました。が、その裏で見せるやむにやまれる事情、他に頼れる者がいない境遇で使えるものならば誰でも使わざるを得ない状況や、あるいは奇行と呼ばれる行為の裏にあるそれなりの理由など、そういった事実を描くシーンも見られます。これまでにあまり歴史上の信長を知らなかった読者に対しても、そのあたりの現実をきっちりと分かりやすく見せている点は好感が持てます。このような描写がなければ、「信長は型破りの天才」という従来のイメージからは踏み出せなかったかもしれません。

 そして、これは設定上の話ですが、物語が始まるタイミングを、信長がまだ尾張を統一していない、群雄割拠の一地方領主に過ぎない時点に設定したのも良い。実は、読み切り版の「YOUGSTER GANGSTER」では、いきなり今川義元と戦う話から始まり、個人的には「いきなり今川と戦うのか」とちょっと拍子抜けした感がありました。やはり、信長がまだ頭角を現していない段階から、丹念にその足跡を辿っていく方がよいと思うので、その点でもこの連載版の方が優れています。これもまた、読み切り版から連載版への設定変更の、優れた点のひとつでしょう。


・WINGで久々に現れた快作。連載ペースも早く、今後も期待が持てる。
 以上のように、この「戦國ストレイズ」、絵的にも内容的にも過不足無く描けており、さすがに「KAMUI」で見せた実力派作家の力は健在でした。読み切り版と比べても明らかによくなっており、時間をかけて調整した成果が窺えます。読み切り版からかなり時間が空いたので、一時は連載自体が立ち消えになったのではと大いに不安だったのですが、その心配は杞憂となりました。

 そして、このところのWINGの新連載の中でも、本当に久々に安定して読める作品が登場した形となりました。WINGは、2006年を通して行った「1年間連続新連載」の成果が芳しくなく、その後の2007年に始まった新連載も、いまひとつ安定した作品は少なく、どれもいまだ微妙な連載に終始しています。そんな中で、2008年最初の新連載として始まったこの作品は、久々に文句なく読める快作が登場したと言ってよいでしょう。ようやくWINGに安定して楽しめる連載がひとつ加わったようです。そして、冒頭にも書いたとおり、このところのWINGは、女性読者を視野に入れた連載を採り入れようとしているように感じられますが、その中でもこれが最大の(現時点では唯一の?)成功作ではないかとも思えます。

 そして、連載ペースが極端に早いのも、このマンガの魅力のひとつとなっています。新連載一回目でいきなり106ページ、2回目も64ページで、いきなりこの2回の掲載だけでコミックス1巻が発売されてしまいました。連載が始まったのが12月、コミックスが出たのが翌年4月ですから、連載開始からコミックス発売までわずか4カ月しか経っていません。これは、スクエニのコミックスでは非常に速い。コミックスの反響もかなりあるようで、やはり女性の戦国ファンを中心に好評を集めているようです。そして、3話以降のペースも速く、これならば次のコミックスもかなり早い発売となりそうです。毎回のペースが速い分、連載そのものに勢いがあり、今後の展開にさらに期待が持てそうな作品となっています。

 ただ、コミックスの発売に際して、連載時に毎回付属している戦国コラム記事「試験に出る戦国ストレイズ」が掲載されていないのが、唯一残念なところです。かなり細かい知識まで突っ込んで書かれたコラムで、中々に読み応えもあって好印象なのですが、コミックス1巻には残念ながら掲載されていませんでした。雑誌読者しか読めないのは惜しい良質の企画ページなので、2巻以降、是非掲載を検討してほしいと思います。


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