<瀬戸の花嫁>

2002・11・12
改訂2003・10・1
全面的に改訂2006・8・15

 「瀬戸の花嫁」は、ガンガンWINGで2002年から連載中のマンガで、基本的にはドタバタラブコメといった感のある作風ですが、実際には相当にギャグ色の強い作品です。作者は木村太彦ですが、この作者は、かつて「余の名はズシオ」という怪作で連載デビューして以来、コアなマンガファンの間では非常に評価の高いマンガ家となっていました。彼の作品は、常識の限度を超えるような暴走ぶりを示すギャグが最大の持ち味ですが、この「瀬戸の花嫁」もまさにそのような作風で、木村太彦らしい暴走ぶりを存分に振りまいています。

 この「瀬戸の花嫁」連載開始当時のガンガンWINGは、1年前のブレイド騒動で多くの作者が抜けた被害からまったく立ち直っておらず、急遽穴埋めで連載を開始した新人たちの作品も全体的にふるわず、誌面の雰囲気もひどく混乱していました。そんな中で、実力派の作家である木村太彦が「瀬戸の花嫁」の連載を開始し、これが抜群の面白さで誌面の一角を占めるようになってから、ようやく雑誌も落ち着いてきた感がありました。そして、この「瀬戸の花嫁」を筆頭として、他にも雑誌を支える成功作が何本も出てくるようになり、これでようやくガンガンWINGは立ち直ることが出来たのです。雑誌ひとつを立ち直らせるきっかけを作ったという点で、この「瀬戸の花嫁」の貢献度はあなどれないものがあります。特に、このマンガは、他のガンガンWINGの連載に比べて一般性が高く、普段WINGを読まない読者、とりわけ少年マンガのファン層や、「ズシオ」でこの作者に注目したコアなマンガマニア(マンガ読み)の間でも評価が高く、幅広い層に読まれている点が最大の特長です。

 なお、この「瀬戸の花嫁」と同時期に連載を開始した成功作としては、「dear」「機工魔術師〜enchanter〜」「天眷御伽草子」「BEHINDMASTER」「がんばらなくっチャ!」「ショショリカ」などがあり、うち前者ふたつは、今でも「瀬戸の花嫁」と共にガンガンWINGの人気連載として継続しています。


・木村太彦というマンガ家。
 さて、この木村太彦というマンガ家は、かつて「少年エース」(角川書店)誌上で、前述の「余の名はズシオ」という作品でデビューしたのですが、この作品がデビュー作とは思えないほどの常識外れの内容でした。とにかく暴走しまくったギャグのオンパレード。作者がノリと勢いだけで描いているとしか思えない内容で、相当人を選ぶだろうと思っていたのですが、これが意外にもコアなマンガ読みに大いに評価され、木村太彦の名は一気に広まります。

 そして、しばらくの間、「少年エース」で「ズシオ」の連載を続けていたのですが、どういうわけか中途で立ち消え(打ち切り?)になり、それと入れ替わるように、今度は「少年ガンガン」で「ARTIFACT;RED」というマンガの連載を開始します。なぜ、連載を途中で打ち切ってまで、しかも角川の少年エースからエニックスのガンガンへと別の出版社へ移籍したのか、その理由にはよく分からないことも多いのですが、実はこの当時、なぜか角川とエニックスの出版社同士の関係が緊密で、互いにマンガ家が移籍し合うケースがいくつか見られ、木村さんの移籍もその一環だった可能性があります。
 肝心の「ARTIFACT;RED」の評価ですが、これはこれでかなり木村太彦らしい作品で、前半のうちは暴走ギャグも炸裂して面白かったのですが、さすがに「余の名はズシオ」に比べるとかなりおとなしめの作風で、しかも中盤以降ギャグ色が薄くなり、むしろ少年マンガ的なバトル要素が強くなるなど、いまひとつ本来の「木村太彦」を期待していた者としては物足りないところもありました。

 そして、それがしばらくして終了した後、今度はガンガンWINGに場を移して、この「瀬戸の花嫁」の連載を開始します。そして、今度こそ木村太彦本来のギャグが全面的に見られ、かつ「ズシオ」ほど人を選ぶほどの暴走ぶりは控えめでとっつきやすくなり、さらに女の子のキャラクターが今まで以上に人気を獲得するなど、ここでようやく幅広く読まれる安定した作品を生み出した感があります。


・人魚+極道のハイテンションラブコメ。
 このマンガは、基本的には少年マンガのラブコメの要素が強く、それが幅広い読者に読まれる長所になっています。
 特に、初期の頃の内容は本当にラブコメで、「人魚にして極道一家の娘」である燦(さん)ちゃんに助けられた縁でつきあうことになった主人公・永澄くんが、交際に反対する燦ちゃんの父親の極道オヤジに命を狙われつつ(笑)、毎回ドタバタ騒ぎをするという、まあ本当にオーソドックスなラブコメです。しかし、その中でも、「人魚」「ヤクザ」という、他ではあまり見られない、オリジナリティあふれる設定の組み合わせが見られるのは面白い。キャラクターもよく立っていて、豪気なヒロインである燦ちゃんに勇気づけられて強くなる主人公の永澄くんという、ハイテンションなラブコメカップルの組み合わせはもちろん、燦ちゃんの父親にして極道一家の組長である瀬戸豪三郎・その妻の瀬戸蓮、組の若頭で比較的良識人である政(まさ)等の極道一家、そして一家に翻弄される普通人の家族である永澄父・母あたりの存在もアクセントが効いていて面白い。また、題名どおり、瀬戸内の人魚ということで、随所に瀬戸弁のしゃべりが見られるのも笑えます。

 そして、基本は割とオーソドックスなラブコメでありながら、やはり木村太彦の本分であるギャグが圧倒的に面白い。大ゴマの連続で叩きつけるかのようなハイテンションギャグの連発は健在でした。また、ギャグの内容も、木村太彦らしいノリと勢いも随所に見られながら、「余の名はズシオ」ほど常識外れで人を選ぶような過度の暴走はなくなり、バランスのよい万人向けと言える内容になったのも大きい。ラブコメとギャグの双方がバランスよく楽しめる、優秀な良作であると言えるでしょう。


・連載中盤から、作者の暴走が始まる(笑)。
 しかし、このマンガは、連載が中盤にさしかかるあたりから、木村太彦が本来の姿を表していき、過激な暴走ギャグがどんどん目立つようになっていきます。発端は、単行本では3巻で見られる「燦派とルナ派の学内派閥闘争」あたりだったと思うのですが、これは、ヒロインである燦ちゃんと、もうひとりのヒロインである現役アイドル・ルナちゃんとが、永澄が通う学内で男子生徒の人気を二分し、その両者のファン同士で争いとなり、あれよあれよと言う間に学校全部にスケールを拡大した武装派閥闘争へと発展するという、まさに木村太彦の際限のない暴走ぶりがストレートに発露したような凄まじいハイテンションエピソードでした。

 そして4巻では、主人公の永澄が人魚の薬で巨大化、自分の家をぶっ壊して全裸で暴れまくるという、ビジュアル的にも過激すぎるエピソードを展開。このエピソードは、あまりにも作者の暴走が激しすぎて、初期の頃からの読者の間でも賛否両論で、今後の「瀬戸の花嫁」の行く末に不安を抱かせるには十分でした。

 そして、その不安は当然ながら現実のものとなり、特に6巻では、新たに登場した剣士でポニーテールのヒロイン・不知火明乃がその暴走の犠牲となりました。しかも、その暴走ぶりがエロい方向に傾いていたのが大問題で、明乃が読者サービス的なエロ担当として、さんざんひどい目に合わされるというエピソードが続き、これにはWINGの読者の間でもかなりの戸惑いが見られました。


・そして、時代は萌えをネタにしたギャグマンガへ。
 その後、作者の暴走はとどまるところを知らず、最近では、凄まじくはじけた設定を全面に出した派手なエピソードが中心のハイテンションギャグになっています。
 しかもこの時期、なぜか作者がギャルゲーにはまってしまったらしく、そのためかギャルゲーや萌え、メイド喫茶、百合などをネタにした話が頻繁に見られるようになり、「萌えをネタにしたギャグマンガ」という側面が頻繁に見られるようになりました。特に10巻では、メインヒロインのほとんどが、街に出来たメイド喫茶で働くようになるという話(「マーメイド喫茶物語」)が何本も続き、タイトルロゴまで専用のものを作るという凝りようで、そのバカバカしいノリを作者自身もことごとく楽しんでいる様子も窺えます。

 さらには、それ以上にぶっ飛んだエピソードとして、ヒロインの一人である眼鏡キャラの委員長が、眼鏡を外すことでなぜか「女好き好きラストアマゾネス」という変態的なキャラクターに変身し、しかものちに人魚による性転換の弓を渡されて、それで不良を女に変えて成敗するという、作者の暴走もここまできたかというような凄まじい展開で、もともとまじめ系キャラクターだった委員長が、一気に変態的なキャラクターを強制されるという、まさにとんでもない状態になっています。

 そして、ここまで派手な設定のハイテンションギャグがパワーアップしてきた反面、初期の頃のラブコメ的な要素が、多かれ少なかれ薄れてきた感もあります。初期の頃のラブコメ色が強い作風からは、かなり変化したことは間違いないと思われます。


・面白いマンガであることには変わりない。
 ただ、この変化自体が別に悪いわけではありません。むしろ、木村太彦本来の行き過ぎた暴走ぶりがより顕著になったことで、元々の木村太彦に近い作風になった感すらあります。これはこれで十分に楽しいマンガであることは確かでしょう。
 また、この最近の「瀬戸の花嫁」に関して、作者の絵もかなり向上していることもポイントです。元々、木村太彦は、「余の名はズシオ」「ARTIFACT;RED」の時代から、決して絵がうまいとは言えないところがあり、「瀬戸の花嫁」でも初期の頃は、絵が荒々しく読みづらいところもかなりありました。それが、「瀬戸の花嫁」の連載を重ねるにつれて、ようやく絵がまとまってきて、安心して読める作画へと進化してきた感があります。
 さらに、このところの作者の萌え趣味も反映してか、以前よりキャラクターの作画が、萌え対応になったような気がします。初期の頃から比べて、萌えレベルが向上している感は確かにあり、これはもう名実共にWINGを代表する萌えマンガになったといってよいでしょう(笑)。ラブコメにハイテンションギャグという圧倒的な面白さに加えて、萌えの力まで補完したこのマンガ、このままアニメ化まで突っ走っても悪くないと思いますが、どうでしょうか。


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