<高橋さんが聞いている。>

2013・11・30

 「高橋さんが聞いている。」は、ガンガンJOKERで2013年6月号から始まった連載で、ショートギャグコメディとも言えるマンガになっています。もともとは連載直前に読み切りで掲載された作品で、それがひどく好評だったのか、掲載直後にいきなり連載の告知が行われました。読み切りからの連載化は、この雑誌ではかなり多く見られますが、ここまで早いケースはさすがにあまりないような気がします。

 作者は北欧ゆう。以前から主に他社の雑誌で読み切りマンガの掲載、あるいはアンソロジーやイラストの仕事をしていたようですが、連載はこれが初のようです。絵に関してはシンプルでまだ若干こなれていないところも見られるようですが、一方でギャグ・コメディの描き方はかなり面白く、ひとつの形として完成されているような気がします。

 作品の内容ですが、高校生にしてアイドル活動にも日々励んでいる「高橋さん」が、クラスメイトの男子高校生2人組の会話を日々盗み聞きするという、ただそれだけのシンプルな?ストーリーです。ふたりの会話でバカバカしくもぶっ飛んだものばかりで、それを大真面目に語っている様が爆笑もので、さらにそれに対する高橋さんのツッコミも楽しいギャグマンガとなっています。男子2人がボケて、高橋さんが影からツッコミというシチュエーションがとても面白い。

 さらには、その盗み聞きが、高橋さんのアイドル活動の進展につながっているのも面白い。日々のアイドル活動は、厳しい難関に直面することも多いようですが、この盗み聞きがいいストレス解消になって、あるいはアイドルの活動の思わぬヒントになって、日々の活動を乗り越えていくきっかけになってしまう。そのバカバカしい頑張りがとても楽しい。最近増えた数あるアイドルもの作品の中でも、異色中の異色のマンガだと思いますが、このオリジナリティは大いに買いたいと思います。


・アイドルが主人公ながら中身は新鮮な?シチュエーションギャグコメディ!
 このマンガの主人公は、「現役女子高生アイドル」と紹介される高橋さん(高橋エナ)。学校では現役アイドル一目置かれた存在で、日々努力しているのですが、しかしマネージャーからは厳しめの評価を下されることもしばしばで、学業との両立もあって中々大変な日々を送っているようです。

 しかし、そんな彼女には、とある意外な趣味がありました。それは、クラスメイトの男子高校生である奈良くん御影(みかげ)くんの会話を盗み聞きすること。奈良くんはクラスの委員長を務めていて真面目だと定評のある生徒、対して御影くんはクラスで一番目立たない男子と、見た目も中身も好対照に見えるのですが、しかしなぜか馬が合うのか、よく一緒にいて他愛も無い会話に興じています。そして、高橋さんは、その会話を「クラスで一番面白い」と評価して、一番の盗み聞きの対象にしているのです。

 面白いのは、高橋さんが、この盗み聞きに一定の罪悪感、というかはしたなさを感じつつも、しかしやめられないでいることです。どんなに落ち込んだことがあっても、なぜかこの趣味をやると元気が出る。明日も頑張るために、気は進まないけどコレに手を出すしかない・・・。と自分に言い聞かせる様がなんとも笑えます。「聞こえてしまっただけ、ちょっと聞こえてしまっただけだから・・・!」というのが、高橋さんの定番の言い訳になっています(笑)。

 「アイドルマスター」や「ラブライブ!」、あるいはAKB48などの人気に合わせて、今ではアイドルを主役にした作品はいくつも出るようになり、このスクエニでもアイドルマスターのコミカライズが盛んに行われたり、アイドルを描くオリジナルの作品がいくつか連載されてきましたが、しかしこんな風にアイドルが学校で盗み聞きをする話は前代未聞でしょう(笑)。現役アイドルの女の子をギャグの中に組み込んだ、異色のシチュエーションギャグコメディとして、非常に面白いものがあると思います。


・男子高校生ふたりの会話が面白すぎる!
 さらにこのマンガが面白いのは、なんといってもその男子高校生2人のバカバカしい会話の中身です。むしろこの2人の会話の方が話の中心とも言えるくらいなのですが(高橋さんはある意味「聞いているだけ」の役割)、しかしこの会話が双方ともボケの応酬とも言える中身の濃いギャグになっていて、聞いているだけでも脱力、爆笑してしまうのです。

 連載初回の話では、「人生はギリギリアウトくらいがちょうどいい」というセリフで始まり、しかもそのセリフの引用元が「ごんぎつね」だったという驚きの展開となり、しかもそのごんぎつねに兵十という村人が登場、銃を持ったヤクザのような風貌で、ゴンさん(ごんぎつね)を殺し、行き絶え絶えなキツネを見下ろして、「人生はギリギリアウトくらいがちょうどいい・・・」などというセリフを吐いて終わるという、爆笑のエンディングにまで突き進んでしまいます。

 そして、そんなバカバカしい会話に対して、盗み聞きしている高橋さんが繰り出す突っ込みがいちいち面白い。基本的に2人ともボケにひたすらボケで返す会話なので、高橋さんが貴重なツッコミ役となっているのです。また、このように男子高校生たちがバカバカしい会話を延々と繰り広げるスタイルは、あの「男子高校生の日常」を彷彿とさせるところがあり、むしろこのマンガが好きな人にもおすすめできるものになっていると思います。

 回が進むと、さらに無茶なシチュエーションを展開する会話も見られるようになります。夏祭りの屋台の輪投げで、店主と客に分かれて対決をするという話(第12話)では、ただの輪投げをカードゲームのデュエル風な会話でバトル、「俺のターン!デッキからわなげの輪を5本ドロー!」「滅びの二連続輪投げ攻撃!」「ライフ(お小遣い)を300円支払い!さらに5つのリングをドロー!!」などと絶叫し、それに対していつもは突っ込む高橋さんまでもが、「それは欲望に魅入られた力・・・今宵は死者が蘇生せし盆踊りの日・・・闇に導かれ落ちていくのね・・・」と思わず中二病的なセリフを続けるという、まさに爆笑のやりとりになっています。


・高橋さんのアイドル活動とリンクしているのも面白い。
 そしてもうひとつ、その盗み聞きが単なる趣味ではなく、時に高橋さんのアイドル活動とリンクしているのがまた笑えます。単に気分転換になって学業やアイドルのレッスンに励めるようになるだけでなく、なぜか盗み聞きで聞いた内容がアイドル活動のヒントになって、一皮向けた形になったりするのです。それも、かなり無茶な展開で「これはありえないだろ」と思う成功シーンもあって、これがもうひとつのギャグになっています。

 ふたりの不穏な会話を聞いて、「盗み聞きをしている自分も同罪だ」と妄想し、遠洋でマグロ漁に従事させられる自分の姿まで思いつめ、「肉体労働のアイドルなんていやだ!」と思いつめるあまりに校舎から飛び降り、ついには高く飛び上がる曲芸的なダンスの習得まで達成する。このときに面白いのが、エナを育てる敏腕(?)美人マネージャー・冴島Pのセリフで、「何かものにしてきたわね・・・エナ・・・!」というありえない評価がさらに笑いを誘います。

 さらには、無理すぎるポーズで彫刻の裏に隠れ続けたことが幸いして、ヨガの練習がうまくいくようになったり、ひたすら会話にツッコミを入れ続けるリズムで魂が落ち着きすぎて、菩薩のような境地に達してしまったり(笑)、バカバカしい恋愛話を聞いてラブソングがきっちり歌えるようになったり、さらには日記の挨拶文にバリエーションを持たせようなどという会話に着想を得て、「どうぞよろしくお願い致します!」などと丁寧な挨拶を心がけるようになって、それが意外な人気を呼ぶなど、なんでも自分の活動に生かしてしまう高橋さんのポジティブぶりに感心(?)してしまいます。

 このように、バカバカしいとも思える高橋さんの努力の繰り返しですが、しかしそれでも少しずつアイドルとしての成長につながっていますし、その一生懸命ぶりに思わず応援したくもなります。なにげにアイドル成長ものとしての楽しさも備えているのではないでしょうか。


・JOKERらしいショートギャグコメディの秀作。もう少しゆっくりのペースでいいので長く続けてほしい。
 と、このように「高橋さんが聞いている。」、男子高校生ふたりのボケに満ちた会話だけでも面白いギャグになっていますし、さらにそれを聞いている高校生アイドルのツッコミでさらに笑いを誘い、そしてその盗み聞きが彼女のアイドル活動に意外な成果をもたらすという、もうひとつのギャグ的な展開も面白く、随所で笑えるギャグコメディになっていると思います。ちょっとくだけた絵柄の雰囲気も手伝って、ちょうど「男子高校生の日常」を思わせるような学園ギャグになっています。「男子高校生の日常」で爆笑した人なら、こっちのマンガにもすぐ親しめると思います。

 1回の話がかなり短く、テンポよく読めるショートギャグに仕上がっている点でも、この作品とよく似ています。ただ、その分毎回の連載で掲載本数が多く、ネタの消化がかなり早いように感じるのがちょっと心配だったりします。月刊の連載で毎月3本のショートストーリーが掲載されていて、わずか4ヶ月で12本の話がたまり、その4か月分でかなり早い時期にコミックス1巻が刊行されました。これはもちろん喜ぶべきことではありますが、しかしそんなハイペースで大丈夫か?といらぬ心配をしてしまいたくもなりました。

 なにしろこのマンガ、毎回の会話ギャグが高橋さんのアイドル活動の進展・成長というストーリーとリンクしているので、このままのハイペースだと高橋さんのアイドル活動が進みすぎてしまい、真のアイドルに成長して高みにのぼってしまい、とうとう盗み聞きをやめてしまうかもしれません(笑)。それでは連載終了はさけられない。もう少しペースをゆっくりにしてもいいので、長くこのギャグを読み続けたいと思ってしまいました。


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