<TARI TARI>

2012・7・6・

 「TARI TARI」は、ガンガンJOKERで2012年6月号から開始された連載で、同年7月より開始された同名のテレビアニメの先行コミカライズとなっています。最近では、このようなアニメに先駆けてのコミック化が、スクエニでも本当に増えてひとつの定番企画となってきた感があります。

 とりわけ、この「TARI TARI」は、「花咲くいろは」を制作したP.A.WORKSによるオリジナルアニメのコミック化であり、その「花咲くいろは」も以前JOKERで先行コミカライズされ、この「TARI TARI」開始時点でもまだ連載が継続しています。この「花咲くいろは」のコミカライズからのつながりで、「TARI TARI」の方もJOKERでコミック化しようという流れになったのだと思われます。

 コミック版のスタッフは、原作がEVERGREEN、キャラクター原案にTANU、構成に尚村透、そして作画に鍵空とみやきの名前が挙がっています。この作画担当の鍵空さんは、つい先日まで同じJOKERで「カミヨメ」というオリジナル作品を連載しており、その終了直後に今度はこのテレビアニメのコミカライズを担当することになったようです。元々、以前から同人での創作で知られていた作者であり、今回のようなアニメ原作のコミカライズの仕事は、個人的にはかなり意外で、その出来をやや不安視するところもありましたが、いざ始まった連載を目にしてみると、予想以上によく描けた力作となっていて、これには素直に感心してしまいました。

 内容ですが、高校で音楽を志す女子生徒3人+男子生徒2人の男女5名の青春を描いた学園ものと言える作品で、思った以上に序盤からシリアスでシビアな展開が目立つものとなっています。かなり重くつらいシーンも随所に見られますが、キャラクターひとりひとりの音楽にかける思いが伝わってくるいい話になっています。鍵空さんの作画も卒なくうまくまとまっていて、こちらも文句のない出来栄えでした。JOKERの連載はどれもいい作品が多いですが、これも良作となるかもしれません。


・P.A.WORKS制作アニメからの先行コミカライズ。
 以前「夏色キセキ」の記事でも詳しく触れたのですが、このところのスクエニは、アニメの放映に先駆けてのコミカライズが、どの雑誌でも盛んに行われるようになりました。とりわけ、ヤングガンガンでいくつも出ているのですが、このJOKERでは少なめで、過去には「花咲くいろは」の1本程度でした。しかし、この「花咲くいろは」、P.A.WORKS制作のアニメの方がかなりの高評価を獲得し、それに合わせてこちらのコミカライズにもかなりの反応があったようです。コミカライズの出来はそこそこだったと思うのですが(決して悪い作品ではありません)、それ以上にアニメの評価で大きな反響を得た作品となりました。

 そして、このアニメで手ごたえをつかんだのか、P.A.WORKSは、また同じスタッフで次回作の制作を決定したようです。それがこの「TARI TARI」。放映の3ヶ月ほど前に告知され、その後わずか1ヶ月程度でJOKERのコミカライズ開始。このいきなりの連載開始には驚きました。

 さらに驚いたのが、作画担当に鍵空さんを起用していたこと。驚いた理由はいくつかあり、ひとつには、先にも書いたとおり、以前はオリジナルの創作で知られていた作家にコミカライズを担当させたこと。そしてもうひとつは、女の子中心の作品のコミカライズをさせたことです。
 この「TARI TARI」、アニメの公式ページなどを見ても分かるのですが、作品の中心となっているのは、主に女子生徒3人の方です。ある程度女の子キャラクターの人気を想定したアニメとなっているわけですが、それに対して鍵空さんの以前の創作作品は、確かに女の子のかわいさは際立っていたものの、それ以上に男子・男性キャラクターも数多く登場し、男女のバランスの取れた作風となっていたと思います。そういった作家に対して、このアニメのコミカライズを担当させたのは、当初は随分と意外に感じました。
 ただ、実際には、女子生徒だけでなく男子生徒もかなり重要な役割を担う作品となっているようで、鍵空さんのコミカライズでも、2人の男子生徒がひどく魅力的に描かれています。実は、この辺りの作風を十分に考慮したコミカライズ抜擢だったのかもしれません。


・音楽に対する真剣な取り組みを正面から描く。
 この物語は、坂井和奏(わかな)・宮本来夏(こなつ)・沖田紗羽(さわ)の3人の女子生徒が中心となっているようですが、冒頭ではまず来夏の視点からストーリーが進んでいます。

 来夏は、かつて小さい頃に音楽で受けた感動から、音楽活動を真剣に志すようになり、音楽科のある高校で普通科の生徒でありながら、声楽部に入って日々部活動に勤しんでいます。しかし、人前で極度に上がる性格が災いし、かつての合同発表会本番で大きな失敗をしてしまったことから、顧問の教諭(教頭先生)にその後の活動をとがめられるようになり、今では練習の時間でも歌わせてもらえず、他の部員のサポートのみをやらされる状態が続いています。

 そして、ついにその扱いを教頭に訴えに行くのですが、ひどく冷たくあしらわれ、それをきっかけについに声楽部をやめ、自分で新たな部を創設しようと奮闘することになるのです。
 この時に出てくるのが、「音楽を楽しむ」というフレーズです。顧問の教頭に、「音楽は遊びじゃない みんな真剣に向き合っている 苦しみながら技術を磨いている」「笑って楽しむことが 遊ぶことが目的のあなたとは違う」と声を荒らげて言われたことで、来夏は退部することを決意することになります。また、その後、かつて元音楽科で声楽担当だった和奏に新部創設の声をかけたときにも、「楽しく歌いたいだけならカラオケにでもいけば」とやはり冷たく突き放されます。
 それに対して来夏は、「苦しい時こそ楽しくしてくれるのが音楽」「それなのに苦しいからやめるというのは本末転倒」と主張。自分の音楽に対する真剣な取り組みを精一杯表現します。その後、上がり症を克服するために必死で人前で歌を練習する姿に大きく心を打たれ、和奏も新部に協力することになります。

 この「楽しいからこそ苦しくても真剣にやる」という来夏の主張、これには非常に納得できるものがあり、音楽への取り組みを正面から描いた青春物語としてよく出来ていると思います。教頭の「音楽は遊びじゃない 楽しむことが遊ぶことが目的ではない」、和奏の「楽しく歌いたいだけならカラオケにでもいけば」という言葉は、明らかに間違っていると思いますし、それに対して来夏らが、自らの活動を通じて違う回答を見せていく物語になればいいと思っています。

 ただ、物語冒頭では、とりわけ教頭先生があまりにいやなキャラクターとなっていて、露骨に来夏の新部創設を妨害する行為に出るなど、憎まれ役を一手に引き受ける形になっていることに、少なからず抵抗を覚えます。が、彼女にも過去に何らかの事情があったようで、今後単なる憎まれ役から一歩抜け出るストーリーにも期待したいところです。


・鍵空さんの作画は本当によかった。アニメとは異なる絵柄だが非常によい。
 そんな風にまずシリアスなストーリーがよく出来た本作ですが、このコミカライズならではの作画の良さも見逃せません。
 作画担当の鍵空さんは、同人時代から絵はたいへんうまかったのですが、しかし一部で仕上がりに不安定なところがあったように感じます。最初の商業連載だった「カミヨメ」でも、最初のころはそれを感じることがまだあったのですが、しかしこの「TARI TARI」では、そのような部分はほとんど見られなくなり、ずっと安定した作画となっていて、これには思わず感心してしまいました。

 まず、持ち前のキャラクターのかわいさが、今回の作品でも健在です。以前から女の子(男の子)のかわいさには定評があり、「カミヨメ」では「キュン萌え」なるキャッチコピーまで雑誌で見られたほどでしたが(笑)、今回もその持ち味はまったく変わっていません。とりわけ、キャラクターたちの、明るくころころ変わる表情やちょっとシリアスな奥行きのある表情などには、いかにもこの作者らしい豊かな情感を覚えます。

 加えて、アニメの作画と比較すると、非常に柔らかい感じのよい絵柄となっていて、それにも好感が持てます。アニメの作画とは明らかに異なる絵柄なのですが、むしろこちらの方がくせがなく抵抗の少ない絵柄になっているとも感じます。以前の「花咲くいろは」のコミカライズも、アニメの絵柄とは異なる作画だったのですが、こちらも決して悪くなくむしろアニメ以上に好感が持てました。この「TARI TARI」も、この鍵空さんの絵の方に、非常に大きな魅力を感じます。

 さらには、以前より背景の作画もうまくなっていて、作画全体のレベルが上がっているのも好印象です。作品の舞台は江ノ島のようですが、カラーで描かれた海に沈む夕日の1カットも思わずみとれるほど美しいものがありました。


・ストーリーも作画もハイレベル。このコミカライズは期待できる。
 この「TARI TARI」のJOKERでのコミカライズ、正直に言えば、JOKERで告知された時には違和感が強くて、あまり期待できないでいました。いきなりのアニメ発表とコミカライズ告知で、内容すらよく分からずに戸惑ったこと、さらには、作画にこれまでオリジナルの創作作品で定評を得ていた鍵空さんを採用したことに、最も不安を感じました。「カミヨメ」が比較的早い時期に終了したことで、鍵空さんの次回作はしばらくないのかな・・・と思った矢先の作画担当への抜擢だったので、再登場をうれしく思う反面、アニメのコミカライズの作画担当というのはあまりに意外で、出来れば鍵空さんのオリジナルをまた読みたかったというのが本音でした。

 しかし、いざ始まった冒頭第一話を見て、その考えは大きく変わりました。作画もストーリーも予想よりずっとよく出来ていて、はっきりいって文句のない出来栄えとなっていて、これには素直に感心してしまいました。思ったよりずっとシリアスだったストーリーは、同じ音楽をテーマにした過去の作品と比較しても、真摯な音楽への取り組みが感じられ、読み応えのある力作になっています。個人的に最大の疑問だった鍵空さんの作画も、以前より作画レベルがさらに上がっている上に、柔らかい絵柄でキャラクターたちが本当にかわいく描けていて、アニメの作画よりもこちらの方がずっと好みなくらいでした。

 さらに現在、コミカライズも非常にハイペースで進んでいて、連載第2回では大増ページで一挙2話掲載、そして開始からわずか2カ月でコミックス1巻まで発売されます。これはアニメの放映に合わせてのペースだと思いますが、今のところまったくクオリティが落ちることなくよく描けていますし、アニメが開始直後に盛り上がっている時に、早めにコミックスも発売もされるのもいい配慮だと思います。

 肝心のアニメの方も、開始直後から評判は良好のようで、こちらも期待できそうです。このJOKERのコミカライズ連載も、アニメに合わせて人気を得てほしいところ。以前の「花咲くいろは」のコミカライズは、アニメに比べるとあまり話題にならなかった印象があるのですが、この「TARI TARI」のコミカライズはさらなる良作になっていますし、是非多くの人の目に触れてほしいですね。


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