<黄昏乙女×アムネジア>

2009・9・20

 「黄昏乙女×アムネジア」は、ガンガンJOKERで2009年5月号の創刊号から始まった連載で、同誌の中では貴重な新人作品にあたります。この雑誌、創刊当初から人気ゲームコミックや人気作家の新作が看板として大きく扱われていますが、このような新人による作品にも見逃せないものがいくつかあります。中でも、このマンガは、特に高い完成度を有している実力派の作品ではないかと思います。
 作者はめいびいで、コミックスの作者紹介を見ると、どうも原作担当と作画担当のふたり組のマンガ家のようです。作風からは男性か女性かもいまいち判然としませんが、作画ではやや女性的なところもあるので、こちらの方は女性なのかもしれません。

 元々は、休刊したガンガンパワードで2008年6月号に掲載された読み切りが原点で、このときのタイトルは「乙女心と夕の空」。これが好評を得たのか、半年後の2008年12月号に続編が掲載されます。この時のタイトルが「黄昏乙女×アムネジア」で、このタイトルで新創刊されたガンガンJOKERに移籍して連載化されました。コミックスでは、このすべてが最初から収録されており、パワードで読み切りだった「黄昏乙女×アムネジア」は、「零の怪(零話)」として扱われています。ストーリーは、最初の「乙女心と夕の空」からずっとつながっており、読んでいて違和感はありません。

 内容的には、古びた学校の校舎を舞台にしたホラー的作品であり、学校に住み着く幽霊が登場し、彼女と学校の在校生が共に学校の怪談の噂話を解決していくというもの。ひどく怖いタイプのホラー作品ではありませんが、放課後の学校の陰鬱な空気感はよく出ており、濃い陰影が特徴の重いタッチの作画とあいまって、実に雰囲気溢れる作品に仕上がっています。加えて、快活な幽霊少女を中心とした意外にも明るいコメディや、その一方で彼女の過去を探る謎に満ちたストーリーにも惹かれるものがあり、いろいろな側面で楽しめる作品となっています。


・この陰鬱な放課後の雰囲気、独特の設定に惹かれる。
 まず、このマンガは、コミックスの表紙に代表される、黒を貴重とした重々しいタッチの絵柄に惹かれるところがあります。カラーページの黒の美しさはもちろん、白黒の本文ページでも黒のベタが活きた鮮烈な色彩表現が魅力で、その重厚な世界に引き込まれるところがあります。

 そして、そんな絵柄で描かれる放課後の古びた校舎の姿、その独特の陰鬱な表現がいい。主人公の通う学校は、中学校舎と高校校舎があまたの増築で絡み合い、内部には多数の建物がひしめき合う複雑な構造の巨大学園となっています。とりわけ、主な舞台となる旧校舎は、60年前に建てられた最も古い校舎という設定で、内部は数々の増築で迷路のような建造物と化し、使われなくなった教室や誰も昇らない階段、袋小路の廊下など、怪しげな雰囲気の漂うところが各所にあるという、いかにもホラー作品にふさわしい空気が感じられる設定です。背景の描写も緻密で陰影が効いており、陰鬱な雰囲気作りに大いに貢献しています。

 このような場所で、主人公の新谷貞一は、夕子さん(庚夕子)と名乗る少女に突然出くわします。彼女は、自身を「旧校舎の幽霊」と名乗り、主人公につきまとうようになります。主人公には見えも触れもする普通の人間のように見えるのですが、周囲の人間にはまったく見えず、やはり幽霊なのかと思わずにはいられなくなります。学校の最も古いタイプの黒セーラー服をまとった彼女は、かつてその当時に死んだ生徒だとも思われますが、彼女自身は自分がなぜ死んだのかまったく覚えていません。そこで、貞一と夕子のふたりは、学校で噂となっている怪談を手がかりに過去を探るべく、怪しげな旧校舎の一角の部屋に「怪異調査部」というクラブを立ち上げて活動することになります。


・ホラー作品の怖さに加えて、時にぱっと明るいコメディが入るのも魅力。
 「怪異調査部」を立ち上げた彼らは、この怪しげな学校に数々存在する怪談、それにおびえる生徒たちの頼みを聞くようになり、怪異の噂の解決に向けて奔走します。この「学校の怪談」という定番の物語を、実際の幽霊である夕子さんが解決するという展開が、捻りが効いていて面白いのです。

 実在の幽霊である夕子さんは、ほとんどの場合怪談の有り無しを最初から知っており、あくまで噂は噂、ないものはなく、原因は他にあると言い放ちます。そして、その原因を解決するべく、幽霊ならではの方法で解決に導くのです。得体の知れないものに追われる恐怖におびえる生徒には、わざと自分が恐ろしい幽霊となって追いかけ、わざと貞一に倒されることで彼女の恐怖心を解放します。ポルターガイスト現象に苦しむ少女に対しては、やはり自分がその原因となる幽霊だと思わせ、葛藤に苦しむ少女の心を救う役目を果たします。様々な心理に悩む思春期の生徒たちを、貞一と夕子さんの奇妙なコンビが救うというくだりに魅力を感じます。

 この時の夕子さんの姿は、「見たいものにはそのように見える」という言葉どおり、生徒には非常に恐ろしい姿で見えるようで、真っ黒くおぞましい姿で存分に描かれます。これこそが、このマンガならではのホラーシーンかもしれません。ひどく怖いホラー作品ではありませんが、このシーンばかりはその光景に恐ろしいものを感じます。
 しかし、その反面、一転して明るいコメディライクなシーンもふんだんに入ってくるのも特徴です。生徒たちには恐ろしい姿に見える夕子さんも、実際には普通の女の子がこっけいな姿で脅しているというのが実態で、その種明かしが最後に語られ、ここで一気に読者の緊張が解かれ、穏やかな気持ちで物語を読み終えることが出来ます。恐ろしげなホラーシーンと茶目っ気に溢れる夕子さんの姿が見られるコメディシーン。その緩急のメリハリがよく効いた作品になっているようです。


・夕子さんの過去の真相を探る、シリアスなストーリーにも惹かれる。
 また、そのような和むコメディの一方で、このヒロインである夕子さんの出自を探るシリアスなストーリーにも、ひどく興味深いものがあります。
 幽霊である夕子さんは、自分が死んだときのことをまったく覚えておらず、旧校舎の中で自分の死体を発見しても、過去につながることはまるで思い出すことはできませんでした。そこで、怪異調査部として怪談から過去の手がかりを探るため、学内のあちこちを巡ることになります。
 夕子さんを見ることが出来るのは、今のところ主人公の貞一だけであり、他の人にはその人が望むような形で、大抵は恐ろしい怪談の正体として見られ、怖がってみんな逃げてしまいます。普段は快活な夕子さんの、そんな切ない想いがにじみ出る姿には、ひどく引き込まれるところがあります。学内にはあちこちに夕子さんの過去の手がかりとも思える場所もありますが、それでも中々真相には辿り着くことが出来ず、貞一も焦りを感じるようになります。

 雑誌の最新の号では、大きな転機となる展開も訪れています。貞一の前に新たに現れた少女は、夕子を悪霊だと言い放ち、それから離れるように貞一を説得します。その言葉に動揺した貞一は、今まで親しく眺めていた夕子の姿に疑心暗鬼を呼び起こされ、そこに恐ろしい姿を見てしまいます。少女は夕子の血縁の者で、彼女はかつて無残にも旧校舎で死んだ少女で、今では悪霊となっていると言います。信頼できる貞一まで心が揺らいだ今、夕子さんとの関係はどうなるのか。これからさらに見逃せない展開に入ってきたと言えるでしょう。


・このお色気描写は効果的だと思う。
 そしてもうひとつ、そのようなシリアスなストーリーとはまったく別の要素として、夕子さんのエロ・お色気的なシーンの挿入も、このマンガでは効果的に働いているように思えます。

 雰囲気溢れる背景描写から来る陰鬱な世界観も魅力的なこの作品ですが、一方でキャラクターの作画にもはっきりとした力強さが感じられ、とりわけ夕子さんの作画は黒髪のロングヘアに黒一色のセーラー服の濃さも印象的で、そこには極めて強い存在感が感じられます。その上で、肉感的なエロ表現もあって、そのようなシーンもよく見られるのですが、これも夕子さんのキャラクターの特異な個性付けに大いに貢献していると思えるのです。

 幽霊という、普通なら触れることも出来ない、影が薄いとされるような存在ながら、この夕子さんは、はっきりとした黒を貴重とした濃さと肉感的な身体表現で読者の前にその姿を示してきます。これは、単なる男性読者向けのサービスシーンにはとどまらない描写として、キャラクターの圧倒的な存在感を生み出すことに成功していると思えるのです。茶目っ気たっぷりな積極的な性格も合わせて、幽霊とは思えないほどの極めて人間的な存在感を見せてくれる。この夕子さんという人間味豊かなキャラクターの姿が、このマンガ最大の魅力のひとつとなっていることは間違いないでしょう。


・JOKERを支える新人による実力派作品のひとつ。
   このように、この「黄昏乙女×アムネジア」、黒を基調とした作画で描かれる雰囲気溢れる放課後の学校と濃いキャラクターの存在感、効果的に盛り込まれたホラー要素とコメディシーン、そしてヒロインの出自の謎に迫る興味深いストーリーと、見所の多い優秀な作品になっていると思います。新人による連載でありながら、すでに高い完成度を有している作品として、今のJOKERの貴重な新戦力のひとつとなったことは間違いないでしょう。休刊したパワードの読み切りから、こういった有望な作品が出た幸運は大きいと言えます。

 そして、他にもJOKERには、「ヤンデレ彼女」(忍)、「プラナス・ガール」(松本トモキ)など、創刊号から人気を得ている新人作品がいくつかあり、これらと合わせてもすぐれた連載陣を形成しています。JOKERは、パワードから移籍した人気ゲームコミック(主に「ひぐらし」「うみねこ」)や、ガンガンWINGからの移籍となる人気作家(小島あきら・藤原ここあ・河内和泉)の新規連載を雑誌の中核として、これらの作品を全面に押し出してスタートしましたが、一方で新人の作品でこれだけまとまった良作が出たのは、思わぬ成果だったと言えるでしょう。今のJOKERは、これらの作品が前に出てくることも珍しくなくなり、連載ラインナップの充実に大いに貢献しています。

 そして、そんな連載の中でも、この「黄昏乙女×アムネジア」の実力には確かなものがあり、新人の新連載でありながら、すでにかなりの完成度を有しているように思われます。見た目の印象が鮮烈で読者の目を引きやすく、内容的にも謎に満ちたストーリーを追うホラー作品としてとても面白い。これからも、新人の連載にとどまらない、雑誌の中核作品の一つに昇格してさらなる活躍も期待できる作品ではないでしょうか。


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