<うみねこのなく頃に Episode1 Legend of the golden witch>

2009・5・20

 「うみねこのなく頃に Episode1 Legend of the golden witch」(以下「うみねこ」「EP1」と表記)は、ガンガンパワードで2007年No.10(12月発売号)から開始された連載で、同名のPCゲームのコミック版にあたります。同誌には、同一の原作者の手によるPCゲーム「ひぐらしのなく頃に」(以下「ひぐらし」)のコミック版も掲載されていますが、新作にあたるこちらの作品もまた、同時に掲載される運びとなりました。開始当初から非常に大きな扱いとなっており、「ひぐらし」のコミック版と並んで同士の看板作品となっていました。

 原作者は、もちろん竜騎士07。「ひぐらしのなく頃に」のヒットで非常に有名となった作家であり、コミック版を大々的に展開したスクエニとは特に緊密な関係になったようで、今作の発売に際しても、事前に同誌やオンライン上で何度も特集やインタビュー記事が組まれるなど、ゲーム発売以前から既に大きく採り上げられていました。そして、2007年8月のコミックマーケット72で、シリーズ最初の作品である「Episode1 Legend of the golden witch」が発売され、その約4ヵ月後の2007年12月にコミック版がパワードで連載開始されました。「ひぐらし」のコミック版開始時には、既にシリーズの5番目までが刊行されていた状態でしたが、後に続いたこの「うみねこ」の方は、シリーズの開始直後からコミック版の企画がスタートしたことになります。「ひぐらし」の開始当初はまだ無名のゲームであり、コミック化されるまでの人気・知名度を得たのはずっと後なのに対して、この「うみねこ」は、「ひぐらし」の成功で得た知名度で当初から注目されていましたから、このような扱いになるのも当然のことかもしれません。以後、2007年冬に公開された「Episode2」も、約半年遅れの翌年7月からGファンタジーでコミック版が開始されています。

 そして、このEP1の作画は、夏海ケイが担当しています。直前までガンガンで「王様の耳はオコノミミ」という料理マンガを連載していましたが、こちらの方は今ひとつの出来に終始し、作画面でもあまり奮わなかったと思います。そのため、当初は「うみねこ」の作画担当としてどうなのか、他にもっと適切な作家がいるのではないか、とも思っていたのですが、実際に始まった連載を見ると、予想以上にレベルの高い作画を見ることができ、事前の心配は完全に杞憂に終わりました。「オコノミミ」時代と比較しても作画の質の向上は明らかで、完全に一皮向けた印象すらありました。

 現在では、2009年4月号(2月発売号)をもってパワードは休刊、代わって新創刊された「ガンガンJOKER」へとこの作品は移籍し、こちらでも最初からやはり看板クラスの作品として大きく扱われています。パワード掲載時から毎号掲載ページ数は非常に多く、質も高い状態を維持してきましたが、それは移籍後も変わらないようです。今後も期待してよいでしょう。


・もはやスクエニ屈指のキラータイトルとなった「ひぐらし」「うみねこ」。
 それにしても、この「ひぐらし」と「うみねこ」のふたつの竜騎士07作品は、今やスクエニでも最大のキラーコンテンツのひとつとなったようです。
 「ひぐらし」のコミック化作品は、連載開始当初から非常な注目を集め、コミックスも爆発的な売れ行きを示しました。最初に出た3つの編だけでも相当な売れ行きだったのですが、それ以降も次々と出される各編のコミカライズ、そしてコミック版オリジナルの一編に至るまで、そのすべてが安定した人気を獲得し、コミックス一冊につき数十万部の売り上げを確保、すべての編を合わせれば500万部を軽く超えるヒットとなっています。今のスクエニで、これを超えるヒットとなると、「鋼の錬金術師」を始めとするごく一部の人気マンガのみでしょう。

 知名度も突出して高く、普段スクエニのマンガを読まない読者の間でも、「ひぐらし」のコミックスを知っている、買っている人は多いはずです。これは、もちろん原作ゲームの人気あってのことですが、コミック版の方までここまで圧倒的な知名度を獲得したのは異例でしょう。実際のところ、今のスクエニ系作品で、「鋼の錬金術師」に次いで一般読者の間で名前が挙がることが多いのが、この「ひぐらし」シリーズであり、マイナーなスクエニ作品の中では別格的な存在だと言うことはよく分かります。

 そして、それを継ぐ「うみねこ」のコミック版ですが、さすがに今はまだ前作ほどの圧倒的な人気には及ばないものの、それでもやはり当初から安定した人気を確保しており、コミックスも「ひぐらし」と同じような扱いを受けているようです。当初はこちらまで成功するかどうか多少危ぶんでいたのですが、実際にはまったく問題ありませんでした。

 現在も、スクエニには他にもゲームコミックやライトノベル原作のゲームは多数ありますが、その中でも「ひぐらし」「うみねこ」の人気は突出したものがあります。新創刊された雑誌・ガンガンJOKERでの扱いもやはり特別で、創刊号から付録の小冊子で掲載されました。元から人気コンテンツとして派手な展開が目立った両作品でしたが、今後もまだまだこれを押していくスクエニの姿勢は続きそうです。


・格段にレベルアップした印象的な作画。
 まず、このマンガを読んでいて印象深いのは、夏海ケイさんによる作画が前作「オコノミミ」よりも格段に向上していることです。一目見ただけでも作画がよくなっていることは明らかで、前作の連載からほどなくして始まったにもかかわらず、いきなりここまで作画が進化したのはあまりにも意外でした。「オコノミミ」と比較すると、大きく ふたつほど絵に進化したところが見られます。

 まず、キャラクターの描き方がはるかにしっかりしてきたこと。「オコノミミ」では、全体的に雑とも感じられる作画が目立ち、特にキャラクターの造形では、やや極端なデッサンと雑に思える描線があまりいい印象を与えず、キャラクターの見た目の魅力があまり感じられなかったと思います。それが今回、絵が格段にしまってしっかりした見た目のキャラクターになったのです。まだ多少は雑に感じられる部分、やや極端な造形を感じる部分は残ってはいますが、実際にはまったく気にならないほど低減されており、この作画ならば十分に合格と見てよいでしょう。こわもての年配キャラクターから、かわいらしい小さな女の子に至るまで、すべてのキャラクターに強い存在感が感じられるようになり、このマンガの重厚な雰囲気をよく再現しています。また、原作のキャラクターデザインもバランスよくうまく再現している点もポイントです。

 そしてもうひとつ、重厚な雰囲気をよく表現している点として、絵が格段に濃くなったことも挙げられます。「オコノミミ」は、全体的にベタが少ない淡白な画面で、こちらでも見た目の印象はいまひとつでした。それが今回、原作ゲームの重厚な世界観もあってか、背景も含めて黒いベタがふんだんに採り入れられた作画となっており、舞台となる孤島、洋館の重々しい雰囲気をもよく表現し、こちらでもまったく見た目の印象は変わりました。ぱっとみただけでは、同じ作者の作品とは思えないくらいで、これほどレベルアップした絵を描いてくるとはまったく予想しませんでした。当初、前作「オコノミミ」の絵を知っていただけに、夏海ケイにこの作品の作画担当を任せるのは荷が重いのではないか、他にいい人がいるのではないかとも思っていたのですが、実際に登場してきた作画は、原作ゲーム「うみねこ」の世界観を表現するには申し分のない出来となっていました。この担当への抜擢は大いに成功したと見てよいでしょう。


・前作よりもオーソドックスな設定でとっつきやすい。
 さて、今作のストーリーですが、前作よりもミステリーの王道をつくようなスタイルとなっており、幅広い読者に対してとっつきやすいものになっていると思われます。

 右代宮(うしろみや)家という財閥の一族が、伊豆諸島にあるという「六軒島」という架空の孤島で親族会議を行うという設定で、嵐によって隔絶された孤島の中で、残虐な連続殺人が起こるというストーリーとなっており、これは「閉鎖された空間の中で、次々と殺人が起こる」というミステリー・推理小説のまさに王道を地で行くような設定です。一族は兄弟姉妹同士で仲が良いとは言えず、現当主の遺産相続の権利を巡っても争いの火種を抱えており、さらには当主の残した黄金の隠し財産の存在もほのめかされ、ますますみなの間で険悪な駆け引きが繰り返されることになりますが、このような設定もミステリーの定番とも言えるようなもので、一般の読者(特に高年齢の大人の読者)でも理解しやすくとっつきやすいものになっているのではないでしょうか。

 前作「ひぐらし」では、物語の序盤で、主人公たち学校の部活メンバーが楽しく過ごす日常が長く続き、様々なオタク的とも言える要素もちらほら見られたため、人によってはこの独特の始まり方に抵抗を覚えた人もいたかもしれません。しかし、今回はそのようなことはなく、序盤から孤島に集まる親族たちの関係が説明され、次第にきなくさい雰囲気になってやがてショッキングな連続殺人が起こるという流れは、極めてオーソドックスなものです。唯一、コミックスの1巻ではまだ殺人事件が起こらないなど、やや序盤の展開が遅めにはなっていますが、それもさほどの欠点とも言えず、緊迫した雰囲気の中でやがて殺人が起こるまでの流れも、興味深く読み進めることができるでしょう。

 そして、実際に殺人事件が起こった後からは、生き残った数少ない者たちの中に凶悪な殺人者がいるかもしれないというさらに緊迫した展開を迎え、主人公の少年・戦人(ばとら)を中心に各人がさまざまな推理を巡らせていく様も、ミステリーそのものです。戦人の義母にあたる霧江が提唱した理論「チェス盤をひっくり返す」(犯人の立場に立って考える)という推理論法や、それ以外の様々なこの作品独特の思考理論も、この作品のミステリー性をよく表現しています。


・ファンタジー、ホラー要素も同時に混在する竜騎士ならではの作品。恐怖・残虐シーンは今作も健在。
 しかし、単純に王道ミステリーというだけでなく、作品に非現実的な幻想、ファンタジーの要素が入ってきて、ミステリー要素と拮抗するように存在しているのも大きな特徴です。作品の売り文句でも、「アンチミステリーVSアンチファンタジー」となっていて、現実的で論理性を重視したミステリー要素と、非現実的で論理を超越したファンタジー要素と、その双方の要素を同時に味わえるように作られているようです。

 凶悪な連続殺人の犯人について考える戦人たちですが、どうしても自分たちの中にそんな犯人がいると考えるのが難しくなり、さらには親族の1人でまだ幼い子であるはずの真里亜が、「ベアトリーチェ」なるこの島に住む魔女の存在をたびたびほのめかし、さらにはそんな人外の存在がいると思われるような不穏な気配まで感じるようになり、本当に超自然的な存在がいるのでは?とたびたび心を揺さぶられることになります。読者の方としても、あくまでミステリーとして犯人の存在を追及するのか、あるいはひとつのファンタジー、幻想的な要素もありとしてそちらを楽しむのか。そのような幅の広い楽しみ方のできる、懐の広い作品になっていると言えます。

 そして、これは前作「ひぐらし」にも共通していた要素で、前作のそれを色濃く受け継いでいると言えます。前作も、一応は推理を売りにしながら、人間を超えた超越的な存在、時に時空まで超えるような設定が常にほのめかされていました。そして今作では、一方でより王道的なミステリー要素を強調し、それとファンタジー要素を明確に対立させることで、前作ではあいまいになりがちだったミステリー要素を、よりはっきりと際立たせることに成功していると思います。

 さらには、非現実的な怖さをそそる恐怖・残虐シーンも健在です。コミックス2巻の作者前書きの「頑張って耕してきました」という言葉に表現される、強烈に残酷の限りを尽くす殺人シーンのグロテスクぶりは、「ひぐらし」シリーズでも散々見せてくれた恐怖要素が今作でも存分に発揮されることを、これ以上ない形できっちりと見せてくれます。


・パワードからJOKERへと移籍し、変わらぬ看板作品として今後も期待できる。
 以上のように、この「うみねこのなく頃に EP1」、大ヒット作「ひぐらしのなく頃に」の後を継ぐゲームコミックとして遜色ない完成度を有しており、こちらも非常に優れた作品に仕上がっていると感じます。当初やや心配していたこともほぼすべて杞憂に終わり、今では「ひぐらし」と並ぶスクエニの2大人気ゲームコミックとなったと見てよいでしょう。

 とりわけ、作画担当の夏海ケイさんの健闘が、予想以上に光ります。「王様の耳はオコノミミ」と比べて格段によくなっており、前作がいまいち奮わなかっただけあって、今作において高いレベルの作画を見せ、作品自体も高い人気を獲得したことで、ここにきて大きくその地位を高めたと見てよいでしょう。スクエニとしても、優れた連載作家をまたひとり発掘したような形となり、その点でも大きな収穫が得られたのではないでしょうか。

 また、現在のところ、「うみねこ」のコミックは、この「EP1」のみが単独で大きな扱いとなっており、その点でもこの作品は重要です。「ひぐらし」のゲームコミックが、当初は三部作が揃って連載を重ねて成功したのに対し、この「うみねこ」では、EP1のみ連載が単独で始まり、のちにEP2がGファンタジーでも開始されたものの、今のところはまだ雑誌内でさほど目立つ扱いではないようで、一方で最初から雑誌の看板扱いだったこのEP1の存在感の方が非常に際立っています。このEP1の活躍ぶりが、今後のうみねこシリーズのコミック化を引っ張っていく形になるのではないでしょうか。

 そして今、かつての掲載誌だったパワードは休刊し、新創刊雑誌のJOKERへと移籍されました。移籍後の雑誌では、小島あきら・藤原ここあらの旧WINGの人気作家陣の新連載と共に、この「うみねこ」および「ひぐらし」のゲームコミックが、雑誌でもトップクラスの看板作品として扱われており、旧パワード時代と比べてもさらに大きな存在になったことは間違いないでしょう。ストーリーも、序盤のスロースタートを乗り越えて、繰り返される連続殺人事件とほのめかされる魔女の存在感とで大きく盛り上がってきています。コミックスも2巻まで出ていますが、この分だとまだまだストーリーは続きそうで、分量的にも申し分のない一編となりそうです。今後の展開、およびこれが終了したのちの「うみねこ」の他編のコミック化にも期待してよいでしょう。


「ガンガンJOKERの作品」にもどります
トップにもどります