<ヤンデレ彼女>

2009・9・17

 「ヤンデレ彼女」は、ガンガンJOKERで創刊号である2009年5月号から開始された連載で、同時にウェブ雑誌であるガンガンONLINEでも掲載されており、ふたつの雑誌で同時掲載という形をとっています。4コマ+ショートコミックという体裁のマンガであり、4コママンガに力を入れているONLINEとの並行連載にもふさわしいと判断されたのでしょう。同じくONLINEと同時掲載されているJOKERの作品として、「ダメっ妹喫茶でぃあ」という作品もあります(こちらはJOKERでは4コマ、ONLINEでは非4コマという違いがあります)。

 作者は、忍(しのび)で、元々はガンガンパワードの読者投稿企画「4ページで4コママンガをやってみないか?」にエントリーした投稿者であり、このマンガもそこでの掲載が原点となっています。この掲載が好評を得て、読者投票によって3回連続で勝ち抜きを達成し、同誌で単独の読み切りとして掲載されました。
 しかし、ガンガンパワードはじきに休刊となり、その後継的な雑誌として始まったガンガンJOKERへとなかば引き継がれるような形で、JOKER創刊号から連載が開始されました。また、ガンガンONLINEの方もパワードの後継的な趣きが強く、この時期のスクエニの雑誌再編を象徴するような掲載履歴を辿ることになりました。ちなみに、前述の「ダメっ妹喫茶でぃあ」も、同じ読者投稿企画の勝ち抜き作品であり、こちらもほとんど同じような経緯で連載に至っています。

 内容的には、まさにタイトルどおり、「ヤンデレ」な彼女とその彼氏によるラブコメディなのですが、ここで言う「ヤンデレ」とは、この界隈で一般的に使われる「病ん(病み)+デレ」(精神的に病んだ状態で相手に好意を抱く姿)ではなく、「ヤンキー(不良)+デレ」という意味で使われており、読者に対する一種の引っ掛けのようなタイトルになっています。また、これに先立って週刊少年サンデーの方で連載開始された「オニデレ」(クリスタルな洋介)と近い設定であり、同作品からの影響も一部で語られましたが、特になんらかのつながりはないようです。


・「ヤンデレ」というタイトルとは正反対のかわいいマンガになった。
 上でも少し書きましたが、もともと「ヤンデレ」とは、精神的に病むほどに相手に執着する様子や、そのような行動を取るキャラクターを指すのが一般的で、恋敵であるライバルを力づくで排除しようとして時に殺そうとしたり、あるいは想う相手に執着しすぎてそれすら殺そうとしたりと、とにかく恐ろしくダークな行動を取ることが多く、多くの場合、ストーリー全体にも重苦しい恐怖の影を落とすことになります。このマンガも、「ヤンデレ彼女」というタイトルを聞いただけなら、やたらダークな作品を連想してもおかしくないのですが、実際にはまったく意味の異なる作品になっていることは、上記で記述した通りです。

 また、実際の意味である「ヤンキー+デレ」の「ヤンキー(不良)」という言葉からも、不良が多数登場するような荒々しいマンガのイメージがされるかもしれませんが、それともまったく異なっており、確かに主人公のレイナをはじめ、ヤンキーと言えるキャラクターは何人か登場するものの、別にそこまで激しいマンガにはなっておらず、暴力的な表現も笑えるギャグに昇華されていて、誰もが気兼ねなく笑って楽しめる楽しいマンガになっています。

 絵柄も新人らしくまだそれほどのレベルには達していないものの、ギャグマンガらしく軽快な絵柄となっていて、こちらでも明るく楽しいイメージを抱かせます。時に見られるデフォルメの効いた作画も、キャラクターのかわいらしさを感じるもので、コミックス1巻の帯に書かれた「意外とかわいいマンガになりました!」という言葉そのものの、タイトルのイメージからは正反対のかわいらしい4コマ+ショートギャグマンガになっています。


・とにかく主人公レイナのテンパリぶりがやたら面白い。
 まず、このマンガのギャグの面白さは、主人公であるヤンキー少女・竜崎レイナの笑える言動にあると見てよいでしょう。不良としてはレディースのボスとして圧倒的な強さを誇る彼女ですが、しかし慣れない彼との付き合いにはどう対処していいかつねに悩みまくり、あらゆる時において常にテンパっている(焦りまくっている)、その姿がとても笑えるのです。焦って顔を真っ赤にしたり泣いたり時には走り去ろうとしたりほぎゃーと叫んだり(笑)、その激しいリアクションがいちいちほんと面白い。

 そして、焦った照れ隠しのあまりに、ヤンキー得意の殴り攻撃で周りの人間を殴って終わるオチも定番で、これが毎回笑わせてくれます。殴られる役は、多くの場合彼氏の田中学(後述)ですが、それ以外に手近にいるキャラクターが大抵思いっきりぶっ飛ばされて終わっています。暴力的なネタではあるのですが、カラッと明るくかわいい作風のギャグになっていて、そこに荒々しいイメージはほとんどありません。また、殴られる側のキャラクターが、いずれもやたら個性的で、殴られるリアクションにも笑えるものが多く、ギャグの爆笑度を一気に上げています。

 中でも特に面白いネタは、彼氏の田中学と抱き合っているところを不良の手下たちに見られたレイナが、ごまかそうとするあまりに田中に対して垂直落下式ブレーンバスターを仕掛けようとするオチと、田中学の笑えるヘタレライバルキャラ・白鳥翼が突然現れたところで、「誰だテメェはああぁぁぁ───!!!」といって思いっきりはるか彼方へぶっ飛ばすオチでしょうか。特に後者は、相手キャラのあまりにバカバカしい言動も手伝って、大爆笑できるシーンになっていると思います。


・本当にこの男はさえない平凡な男なのか?
 そして、そのヤンキー彼女の相手役となる男・田中学もやたら面白い。この男、作中の紹介文では「真面目で普通」「ごく普通の優等生」「クラスにひとりはいる地味系男子」となっているのですが、果たして本当にそれだけの男なのか。むしろレイナに負けず劣らずの個性的なキャラクターではないかと思われるのです。

 この田中、ふとした出会いからレイナと付き合い始めることになるのですが、慣れない恋に常に戸惑ってテンパリ気味のレイナに対し、ほとんどあらゆることに対して驚くことがありません。常に冷静と言うかやたら淡々としていて、レイナにぶっ飛ばされても平然としていたりします。それどころか、数日の間殴られ続けた結果、「なぜか最近体が鍛えられて屈強になってきました」と平気で言い放ちます。
 その上、不慮の事態や新しい出来事にも常に臨機応変に平然と対応し、レイナの喧嘩相手の不良に捕まってしばられた時にも堂々とした対応で、しまいにはそのまま平然と寝ている有様で、実は相当な豪傑なんではないかとも思えます。

 そう、この男、何事にも動じない実は相当に出来る男であり、喧嘩は強いながらも常に焦って激しいリアクションを取るレイナとは好対照のキャラクターとして、このマンガの面白さに大いに貢献しているのです。つまりこのマンガ、あたふたとテンパったリアクションを取るレイナと、平然と何事にも動じない田中と、ふたりのリアクションのギャップがやたら面白いマンガになっているのではないか。レイナと田中、このふたりの極端すぎる個性派キャラクターがセットになっていることで、その間にえもいわれぬおかしさを生む良質なギャグマンガになっています。


・周囲を固めるキャラクターも個性派揃い。
 さらに、面白いのはこのふたりだけではありません。連載が進むに連れて登場する、ふたりの周囲を取り巻くキャラクターたちも、いずれ劣らぬ濃いキャラクターばかりで、さらに面白いギャグを生み出してくれるのです。

 まず面白いのが、田中学の妹として登場する田中真夜美(まやみ)でしょう。兄が基本普通のキャラクターになっているのとはどういうわけか極端なマゾキャラになっていて、ことあるごとに周囲の人間をぶっとばすレイナを溺愛し、思いっきり殴られることに快感を覚えて何度でも殴られようとする、異様な言動のキャラになっています。元々の初期設定では、真のヤンデレ(本来の意味でのヤンデレ)のキャラクターとして、お兄ちゃんに近づく彼女をズバッと殺そうとする、とんでもないキャラクターだったらしいのですが、設定が変わった今となっても、やはり別の意味でとんでもないキャラクターになっています。しかし、こちらの方が普通のヤンデレよりもポシティブで明るく、楽しく軽快なこのマンガの作風には合っているようで、この変更は成功だったと言えるでしょう。

 それとは正反対のキャラクターとして、おとなしくレイナに振り回される吉本聖(よしもとひじり)というキャラクターも面白い。気弱で最初のうちはおっかなびっくりでレイナに振り回されながらも、やがては勇気を出して自分から友達になりたいと近づいていく姿は、意外にも気弱な少女の成長物語的な側面まで見せてくれます。当初は1回限りのゲストキャラクターだったらしいのですが、意外な成長でレギュラー入りした幸運なキャラクターと言えます。

 そして、そのふたり以上に笑える個性派キャラクターが、ヘタレ系イケメンキャラ(?)の白鳥翼でしょう。当初は成績優秀・容姿端麗なイケメンライバルキャラとして登場したはずが、肝心の言動自体はやたらへっぽこで、ライバルであるはずの田中学に妙に気を使ったり、レイナの前に意味もなく突然現れてぶっ飛ばされたりと、とてつもなく面白いリアクションのキャラクターになっています。「文武両道、才色兼備な自称田中のライバルキャラだが、見ての通り圧倒的なヘタレ臭」というキャラ紹介も笑える、このマンガの隠れた名物キャラと言えるでしょう。


・明るく楽しく爆笑できる、優秀なラブコメギャグに仕上がっている。
 以上のようにこのマンガ、テンパリ系ヤンキー少女レイナと、偉大なる凡夫・田中学を中心に、濃い個性的なキャラクターたち楽しい言動とリアクションで笑わせてくれる、掛け値なしに本当に笑える優秀なラブコメギャグマンガになっています。キャラクターの個性はいずれも濃すぎるものがあるのですが、それが決してどぎついものにはなっておらず、明るく楽しく見た目もかわいらしいマンガになっていて、これには本当に好感が持てます。見た目の絵柄では、特にこれといった突出して人目を引くマンガではないのですが、中身は本当に面白い。これは本当に期待できるマンガが出てきました。

 掲載誌のひとつJOKERは、旧パワードからの人気ゲームコミックや、旧WINGの人気作家による新連載が雑誌の看板となっており、当初は新人の作品で注目されているものは多くありませんでした。しかし、そんな中でこのマンガは、堅実に面白いギャグマンガとなっていて、ガンガンJOKERでいきなり思わぬ良作が登場した形となりました。折りしも、これと同じくJOKER創刊号から開始された新人による新連載「黄昏乙女×アムネジア」(めいびぃ)、「プラナスガール」(松本トモキ)も揃って面白い作品となっていて、定番の人気連載を中心として始まったJOKERにおいて、新人作品の方でいきなり豊作に恵まれることになったようです。これは、この雑誌において非常に心強い戦力となったことは間違いないでしょう。

 さらに、ガンガンONLINEとの並行連載という形も、いい効果を生んでいます。ONLINEは、現在非常に多くの作品を打ち出してはいるものの、ひとつひとつの作品に対する注目度は他の雑誌より低く、左遷的な扱いのマンガも目立ちます。しかし、このマンガの場合、JOKERとの同時並行連載なので、ONLINEのみの連載よりも注目度は高く、しかも掲載ペースも速いのも利点です。読み切り形式のギャグマンガなので、どちらか一方だけ読んでいても問題なく、コミックスで未読の分までまとめて読む楽しみもあります。

 一時期、冒頭でも書いた先行するサンデーでの連載「オニデレ」と設定が似ていることを一部で懸念する声もありましたが、別に影響を受けて描かれたわけではないようですし、こちらはこちらで掛け値なしに楽しい作品になっているので、まったく問題ないかと思います。近年良作を数多く出しているスクエニの4コマ&ショートギャグですが、ここでまた新しい期待作がひとつ出てきました。


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