<キューティクル探偵因幡>

2008・4・13

 「キューティクル探偵因幡(いなば)」は、Gファンタジーで2007年9月号より始まった連載で、ドタバタ系のギャグマンガとして、Gファンタジーの中でも異彩を放っています。作者はもちで、かつて廃刊したステンシルにおいて、同系のギャグマンガ「パパムパ」を連載しており、こちらの作品でも非常に面白いギャグを見せてくれました。

 しかし、2003年にステンシルが廃刊して以降、長い間次の連載を持つことがなく、時たまGファンタジーで読み切りを描く程度で、それ以上の掲載はありませんでした。しかし、2006年に掲載された読み切り版「キューティクル探偵因幡」が好評を博したのか、約1年後にこれが連載化され、ようやく久々の連載を獲得することが出来たようです。元々、非常に面白いギャグ作家なので、この復帰は素直に嬉しいもので、実際のマンガの内容も、かつての秀作「パパムパ」同様の面白さを持っており、再びかつての爆笑ギャグを楽しむことが出来るようになりました。

 内容的には、「探偵」というタイトルどおり、主人公が探偵であり、かつての刑事時代の相棒であった刑事と協力して凶悪犯に立ち向かう、というような設定の話ではあるのですが、実際のところそのあたりの設定はあまり意味がないようで、ひたすらボケツッコミ連打の爆笑ギャグに仕上がっています。最近のGファンタジーの連載らしく、女性向けとも言うべき男性キャラ中心の構成ですが、他のGファン連載作品と違い完全なギャグマンガとなっており、男性美形キャラを強調したような内容でもないため、誰もが素直にギャグで楽しめる作品になっていると思えます。雑誌の中では、他の人気作品の影に隠れて目立たない存在ではありますが、非常に爆笑度の高いギャグとして、実は隠れた秀作ではないかと思われます。


・ステンシルの秀作のひとつ「パパムパ」。
 かつてスクエニ(当時はエニックス)から発売されていた少女マンガ誌・ステンシルですが、お家騒動の影響で雑誌の看板だった人気作品ばかりが抜けてしまい、一気に部数は低下、泡沫雑誌へと転落してしまいます。その後、2003年に廃刊となるまで、最後まで人気を取り戻すことは出来ませんでした。
 しかし、そんな後期のステンシルではありましたが、残った連載陣には地味ながらも秀作と言える作品が多く、決して悪い誌面ではなかったと思います。中でも、この「パパムパ」は、お家騒動直後の2001年11月号から連載が開始され、騒動で抜けた作品の穴埋めとして始まった感もありましたが、その後廃刊までの長い間爆笑ギャグを提供し続けてくれました。

 内容的には、ハムスターとパンダを足して2で割ったような謎生物・パパムパが、人間の友人たちと共に「動物保安隊隊長」として、動物たちを助けていくというような設定の話なのですが、実際のところパパムパのバカバカしい行動にやたらツッコミが入りまくる過激なギャグマンガとなっており、一方で毎回のごとく登場する動物たちも面白くギャグに花を沿えており、とても優秀な爆笑ギャグに仕上がっていました。絵的にはあまりうまい絵ではなかったと思いますが、ギャグマンガとしては十分な勢いを感じることが出来る秀作でした。

 このマンガは、もし雑誌が廃刊しなければもっと続いていてもおかしくなかったと思いますが、ステンシルの廃刊でこの作品も立ち消えになり、コミックスも3巻どまりで終わってしまいました。末期のステンシルの人気作品には、スクエニの他雑誌(GファンタジーとWING)に移籍した作品もかなりありましたが、この「パパムパ」も是非移籍して続けてほしかったとつくづく思ってしまいました。

 その後、長い間作者の連載がなくなってしまったのも惜しいところで、もし雑誌が続いていればもっと活躍できたに違いありません。このステンシルの廃刊は、他にも多くの良作家の活躍の場を失わせてしまいましたが、この「パパムパ」の作者・もちについては、その中でも最も惜しかった作家だったと言えます。


・「キューティクル探偵」という設定ではあるが・・・。
 さて、この「キューティクル探偵因幡」についてですが、主人公である探偵・因幡洋(いなばひろし)は、実は元警察犬を務めていた狼男であり、相手の髪の毛を噛むことでその成分を分析して犯人を当てたり、なぜか自分の能力をアップさせたりできるという謎な設定になっています(だから「キューティクル探偵」)。そして、警察時代の相棒だった警部・荻野(おぎの)と共に、日本を混乱に陥れようとする凶悪なイタリアンマフィアを追い詰める、というようなストーリーで始まりました。

 しかし、これらの設定は、連載冒頭の1話か2話でかなり詳しく語られ、その後もちょくちょく出てくることは出てくるのですが、それ以上にひたすらギャグの連打で作品が構成されており、実際のところあまり顧みられないものとなっているようです。

 また、作者の前作「パパムパ」では、掲載誌が少女誌だったためか、主要なキャラクターが女性で、かつ男女キャラクターがバランスよく配置されていたのですが、今回の「キューティクル探偵因幡」では、主要キャラのほとんどが男性で占められています。女性向けのGファンタジーでの掲載をより意識したのかもしれませんが、そのためか前作に比べるとややとっつきにくくなっている印象もあるような気がします。

 ただ、基本的にはギャグマンガであり、「パパムパ」と比べてもギャグの質・内容はほとんど変わりません。「キューティクル探偵」などの微妙な設定もさほど大きなウエイトを占めているわけではなく、見た目のキャラクターや設定から来るとっつきにくさほどマニアックなマンガではありません。作者の持ち味であるギャグの面白さはまったく変わっておらず、純粋にギャグマンガとして読むべきでしょう。コミックスの表紙デザインを見ても、一見してギャグマンガとは分かりにくいのが残念なところです。


・とにかくギャグの連発が圧倒的に面白い。
 むしろ、このマンガは、あくまでギャグが最高に面白い点が最大のポイントです。純粋にギャグ100%のマンガと言えますし、スクエニのギャグマンガの中でもその爆笑度は一、二を争うほどです。それでも、連載最初の基本設定を説明しているうちは、今ひとつ微妙な感じで眺めていたのですが、数話以降完全にギャグ主体の話になってからは、文句無く毎回楽しむことが出来るようになりました。

 とにかく、軽快なボケツッコミの連発が最高に笑えます。ギャグのネタにキレがあり、それに対する激しいツッコミのリアクションにも笑えるものが多い。キャラクターをいじるネタも見られますが、あまり不快感を覚えるようなシーンはなぜか少なく、気持ちよく最後まで笑える良質のギャグになっています。これは、作者の前作「パパムパ」でもそうで、パパムパがひどい目に遭うシーンが多々ありながら、むしろそれがやたら面白く、気持ちよく笑うことが出来ていました。この作者のキレのあるギャグと激しいツッコミは、過激なところも結構ありながらも、それが不快ではないのが優れたポイントですね。

 キャラクターにも個性的で面白いメンバーが多い。意外なお調子者で毛フェチな変態である因幡と、堅物な相棒の刑事・荻野のコンビは、まさにデコボコなコンビでギャグの応酬には事欠きません。そして、因幡にひたすら溺愛しまくり荻野他近寄る人間に腹黒な非道を働く美少年・優太がやたら面白く、「パパムパ」でも見ることが出来たこの作者ならではの腹黒キャラの面白さを見ることが出来ます。彼らに対して、唯一の常識人である圭がひたすらツッコミを繰り返すことになります。
 しかし、それ以上に抜群に面白いのは、彼ら探偵や刑事の宿敵であるはずのイタリアンマフィアのボス・ヴァレンティーノ(ヤギ)とその側近のロレンツォ(袋)でしょう。このヤギと袋のコンビのバカバカしさは圧倒的で、このマンガの最大の魅力となっていることは間違いありません。


・このヤギこそがこのマンガ最大の人気キャラクター。
 そう、実はこのヤギこそが、このマンガで圧倒的な読者人気を誇るキャラクターになっています。
 その妙に可愛らしい外見と、「〜であろー」という妙な言葉遣い、異様にバカバカしいこだわりを見せるはた迷惑な犯罪行為、アジトはなぜか木造平屋建てのと、とても凶悪なマフィアとは思えない設定を大量に持ち、見た目的にも性格的にも最高に笑える魅力的なキャラクターになっています。実際、このヤギの読者人気は圧倒的で、女性読者の間でも他の男性キャラクターにもはるかに差をつけて絶大な支持を集めているようです。
 大抵の話では、このヤギがバカな行為を繰り広げ、ツッコミでひどい目に遭わされるのが定番で、そのいじられ方がやたら面白い。パパムパ同様に、愛すべき謎生物として味のある憎めないキャラクターになっています。

 中でも最高に面白かったネタは、なぜかすごろくで日本の過去に行くエピソードで、弥生時代の奴国(なのくに)に行くことになり、そこでなぜか金印の焼印を押されて帰ってくるというもので、見た目的にも大爆笑出来る屈指のギャグシーンだったと思います。

 ヤギの配下のキャラクターも面白く、ヤギになぜか惚れている頭から袋をかぶった側近・ロレンツォと、美人だがやたら気が短くことあるごとに銃を撃ちまくるスナイパー・ガブリエラと、どちらも非常な個性的なキャラクターに仕上がっており、ヴァレンティーノファミリーとして因幡サイドに負けず劣らずの爆笑ギャグシーンを繰り広げてくれます。


・スクエニでも爆笑度の高い隠れた良質ギャグマンガだ。
 このように、とにかく爆笑できるギャグネタと個性的すぎるキャラクターが魅力のこのマンガ、実際に読んでみて非常に面白く、その爆笑度はスクエニのほかのギャグマンガと比べても上回っているように感じます。とにかく良質のギャグネタとそれに対するツッコミの仕方がやたら面白い。Gファンタジーでは数少ないギャグマンガとして、誌面でも異彩を放つ作品として独特の存在感があります。

 しかし、このマンガ、残念ながら決して知名度は高くなく、スクエニ読者の間でさえ、あまり知られているとは言えません。掲載誌がマイナーなGファンタジーである点、一見して女性向けな要素(美形男性キャラクター)が目立つ点などが、とっつきにくさの大きな原因となっているようです。ガンガンの「清杉」、パワードの「仁岡先生」、ヤングガンガンの「WORKING!!」、あるいは同じGファンタジー連載の「ぱにぽに」あたりと比べても、その露出度は大幅に低く、先日発売されたコミックス1巻でようやくほんの少し日の目を見たかな、という程度の印象に留まっています。

 しかし、このマンガは、良質なギャグマンガとしてもっと読まれてもいいマンガだと思います。作者の前作「パパムパ」も、Gファンタジーよりもさらにマイナーなステンシルに連載され、こちらも良質のギャグとして雑誌読者には大いに評価されながらも、全体的には圧倒的に少ない知名度に終始してしまいました。これはあまりにも残念な結果であったと言わざるを得ませんし、今回の「キューティクル探偵因幡」も、まったく同じ経過を辿っているようで、少々この作者の扱いの不遇さが目立ちます。

 しかし、このマンガは、もっと多くの人に読んでほしいところです。純粋にギャグマンガとして面白い。さすがに、マンガに女の子が出てこないとダメと言う人には向かないですが、そうでなければ、このマンガは誰でも笑える実に優れたものになっていると思います。ギャグマンガ好きならば、この作品と、この「もち」という作者は、是非ともチェックすべきでしょう。


「Gファンタジーの作品」にもどります
トップにもどります