<デュラララ!!>

2009・1・12

 「デュラララ!!」は、Gファンタジーで2009年7月号から開始された連載で、同名の電撃文庫のライトノベルのコミック化作品となっています。他社であるメディアワークスの電撃文庫の作品を、スクエニのGファンタジーで連載しているわけですが、最近ではこのような企画は珍しくありません。以前よりガンガンで連載され、アニメ化もされた「とある魔術の禁書目録」と同じパターンであると言えますし、あるいは今ではガンガンJOKERで連載されている「”文学少女”と死にたがりの道化」とも共通しています(こちらはエンターブレインのファミ通文庫のライトノベル)。最近では、スクエニが、この手の企画を他の出版社に先駆けて、率先して行っている状態ともなっています。

 しかし、この「デュラララ!!」のコミック化作品に関しては、「とある魔術の禁書目録」や「”文学少女”と死にたがりの道化」のコミカライズと比べると、やや知名度で劣って推移してきた感があり、これまではあまり知られてこなかったのではないかと思います。スクエニでは最もメジャーなガンガンの連載で、しかもアニメ化もされた「禁書目録」、スクエニの新雑誌で注目度の高いJOKERで連載され、こちらも劇場版アニメで話題の「文学少女」と比較すると、この「デュラララ!!」のコミック版は、スクエニでもややマイナーなGファンタジーの連載で、原作もこれまでは話題にはのぼることが少なく、雑誌の読者以外でとりたてて注目して読んでいた人は少なかったと思います。

 しかし、ここにきて、原作の「デュラララ!!」がアニメ化され、コミック版も合わせてメディアミックス的な展開が行われるようになって、俄然注目度は高くなりました。アニメ放映と時期を同じくして発売されたコミックス1巻も、予想以上に数多くの書店で特典フェアが行われるなど、アニメ化を控えての盛り上げにも見るべきものが出てきました。

 それだけではありません。Gファンタジーのコミック版も、これまでは注目度は低かったものの、その内容はかなり良質で、原作の雰囲気をよく再現した優れたコミック化作品になっているのです。そして、原作のライトノベルの評価の高さも手伝って、これ単体で見ても非常に期待できる作品となっていると思います。


・成田良悟の原作をうまくコミック化。
 コミックス1巻の後書きによれば、「デュラララ!!」のコミック化の話は、今よりずっと前、4年も前からあったようです。しかし、当時は、原作者である成田良悟の別作品、「バッカーノ!」のアニメ化の話が控えており、この「デュラララ!!」のメディアミックスの話は、随分と日延べになってしまったようです。そして今になってついにコミック化されたわけですが、その話を持ちかけた担当編集者が、Gファンタジーでは有能編集者として有名な熊剛(熊さん)で、彼がこのコミック版の為に引っ張ってきた期待の作家が、茶鳥木明代(さとりきあきよ)でした。この茶鳥木さん、以前よりGファンタジーで発掘された新人作家で、いくつかの読み切りを重ねてきました。さらには「憑かれて候」という短期連載も一時期掲載したこともありましたが、これはいまひとつ奮わず、その後長い間連載がありませんでした。

 そして、久々の連載としてこの「デュラララ!!」のコミック版を手がけることになったわけですが、さすがに熊さんが特に一押しするだけあって、今回の仕事ぶりは以前よりずっと優れたものとなっています。作画の技術面ではそれほど目立つものはないものの、垢抜けた絵柄がうまく原作の雰囲気を再現しており、個性的なキャラクターたちの再現度も高く、これにはひどく好感が持てます。今回のコミカライズの仕事で一皮むけたと言えるでしょう。以前の連載がいまひとつで、それ以降長い間ブランクがあった作家だけに、今回のコミカライズが成功したのは嬉しい。ここ最近のGファンタジーは、有望な新連載・新作家が中々出てこないのが、少々物足りないのですが、そんな中でこれは2009年の数少ない期待作となったようです。

 さて、Gファンタジーの熊さんと言えば、あの「黒執事」を手がけている担当編集者としても有名なのですが、この茶鳥木さんは、「黒執事」の作者枢やなのアシスタントを勤めるなど、以前より親しい仲のようで、このあたりのつながりで今回の連載への抜擢となったようです。その関係もあってか、コミックス1巻では、枢やなと茶鳥木明代との合作ピンナップも掲載されています。


・現代の池袋を舞台にした魅力的な設定。
 成田良悟のもうひとつの代表作「バッカーノ!」は、禁酒法時代のアメリカが主要な舞台でしたが、この「デュラララ!!」の舞台は現代日本の池袋、それも今とほぼ完全に同時代を意識しているようです。90年代でも80年代でもなく、まさにこのノベルが書かれている2000年代の今の池袋そのもの、それを舞台にしているのではないかと思えます。

 池袋を舞台に、個性的な若者たちが騒ぎを繰り広げるストーリーは、一昔前にドラマ化されて人気を博した小説「池袋ウエストゲートパーク」と近い作風を感じるもので、それをそのまま今の池袋に時代を移してライトノベルにしたような印象です。裏社会に属するキャラクター、危険なイメージのキャラクターが多いのも共通していますが、「ウエストゲートパーク」に比べれば殺伐とした印象は薄く、より垢抜けた読みやすい作品になっています。また、インターネットのチャット画面でのやり取りが頻繁に登場するのも、いかにも今現在が舞台であることを感じさせます。

 そのため、今の同時代を生きるわたしたちには、とても強い親しみやすさを感じます。今の池袋の建物や通りがそのまま登場しますし、池袋近郊に住んでいる人、池袋によく行く人ならば、さらに楽しむことが出来るでしょう。コミック版においては、協力店であるアニメイト池袋店がそのまま登場。また、原作では電撃文庫の他の作品がすべて実名で登場するのですが、コミック版では加えてスクエニのコミックスもそのまま登場。このようにオタク的な場所やアイテムまで実名で出てくることで、秋葉原と並ぶマンガやアニメの中心地となっている池袋の今の姿がよく表現されています。

 ちょっと残念なのが、コミック版では、完全にすべての建物の名前まで実名で登場するわけではないこと。アニメイト池袋店のように、協力店として名前入りで出るところを除いては、一部の有名どころの建物の名前が登場する程度で、完全に今の街並みを再現するのは難しかったようです。現代の池袋そのままが舞台であることが、作品最大の魅力であるがゆえに、これは少々惜しいと思ってしまいました。


・切れた個性的なキャラクターたちが多数登場して繰り広げる楽しいストーリー。
 そして、そんな今の池袋を舞台に、キレたとまで言えるほど個性的でアクの強いキャラクターたちが登場し、騒ぎを繰り広げるストーリーが面白い。コミックス1巻においては、1本の明確なストーリーはまだ見えてこず、まずは登場人物の顔見せとばかりに、ひとりひとりのキャラクターの短いエピソードが語られる構成になっていますが、これは原作でも同様のようです。そして、そのキャラクターたちの行動がとにかく楽しい。

 竜ヶ峰帝人は、非日常に憧れる高校生で、池袋にそんな刺激を求めて田舎から引っ越してきました。そして、池袋で初日からいきなり非日常的な出来事に遭遇することで、比較的純真だった少年が、次第にこの危険で楽しい世界にのめりこむようになります。
 帝人の幼馴染で親しい友人である紀田正臣は、帝人を池袋に呼んだ張本人であり、池袋の街に慣れた軽い性格の少年です。今は日々楽しそうに生きていますが、池袋の暗部をも知る存在であり、危険な人物との邂逅を恐れてもいます。
 このふたりのクラスメイトとして登場するのが、園原杏里。一見して真面目そうな性格で、1巻では目立った活躍はしませんが、実は彼女もまた特殊な存在です。

 池袋で最も危険な人物のひとりとして知られる折原臨也は、一巻では主役級の活躍を見せます。そのイカれた思想を全面に振りまき、自殺サイトで知り合った少女たちを手玉に取るその姿は、この作品の数あるキャラクターの中でも最もイカれた存在感を見せてくれました。彼と並ぶ危険人物で、池袋で最も喧嘩が強いと恐れられる平和島静雄は、1巻では残念ながらほとんど登場しませんが、今から登場が待ち遠しいほどこちらもキレたキャラクターです。

 池袋の寿司屋の店員で、ロシア人にして黒人の巨漢・サイモンや、筋金入りのオタクコンビ・遊馬崎ウォーカー狩沢絵理華らも印象に残るキャラクターです。特に遊馬崎ウォーカーと狩沢絵理華は、アニメイト池袋で電撃文庫やコミックスを買い漁るまさにオタク的な言動と、それとは一線を画する過激な裏の顔が強く印象に残ります。

 そして、彼らすべての注目を集めるのが、池袋を疾走する生きる都市伝説・首なしライダーのセルティ・ストゥルルソンでしょう。首なしでありながら理性を保ち、自らの首を探し求める女性である彼女は、そのファンタジックな設定でこの「デュラララ!!」という作品を象徴するような存在となっています。彼女と同棲する闇医者・岸谷新羅との関係も見逃せません。

 そして、こんなキャラクターのうち幾人かは、ネット上のチャット画面でもハンドルネームで登場し、そのハンドルネームを使っているのが誰か判明するごとに、その者の裏の顔が知れてストーリーの真相に近づき、より楽しめるようになっているようです。


・卒なく原作の魅力を再現した良作。アニメとの連動での盛り上がりに期待。
 このように、この「デュラララ!!」、今の池袋という魅力的な舞台設定と、個性的なキレたキャラクターたちの姿が前面に押し出され、これからこの街でこのメンツで何が起こるかを期待するわくわくするような楽しさ、高揚感が感じられる楽しい作品になっています。茶鳥木明代による軽快な作画も、その雰囲気をよく再現していますし、魅力的な原作のテイストををうまくコミック化していると思います。

 ただ、コミックス1巻に描かれる序盤においては、いわばキャラクターの顔見せに終始し、肝心のストーリーはまだこれからといったところです。しかし、原作小説では、彼らキャラクターたちの行動がうまく絡み合い、あっと驚く展開を見せるストーリーの評価も高く、今後はコミック版でもそのストーリーに期待できるのではないでしょうか。

 加えて、放映が始まったTVアニメと合わせての盛り上がりにも期待したいところです。先日より、アニメ化が発表されてから間髪いれずにコミック版の連載が開始され、アニメ・コミックと時期を合わせてのメディアミックス企画のようですが、ここに来てアニメの放映開始に合わせるかのように、原作の方も最新刊が発売されました。元々評価の高い原作に加えて、ここまで述べたようにこのコミック版もかなり出来がよく、さらにはTVアニメにおいても、かつて「バッカーノ!」を制作したアニメスタッフが集まり、池袋の街並みを忠実に再現した作画など、その実力を見せているようです。電撃文庫の原作小説・Gファンタジー連載のコミック版・そしてTVアニメと、三者ともにすべて期待できるのではないでしょうか。

 Gファンタジーとしても、ここ最近有望な新規連載が中々出てこない状態の中、メディアミックス的な企画とはいえ、こうして注目できる良作がひとつ出てきたことは大きいと言えます。コミックス1巻の意外なほどの各店舗での盛り上がりを見ても、実は潜在的にはかなり注目されているのではないでしょうか。原作小説のストックも豊富であり、長期の安定した連載を期待したいと思います。


「Gファンタジーの作品」にもどります
トップにもどります