<Gファンタジーの異色の方向性>

2005・8・23

 現在、4つあるエニックスの雑誌の中でも、「ファンタジーマンガ誌」として独自路線を歩み続けるGファンタジーですが、この雑誌には他には見られない大きな特徴があります。

 それは、「男性向けのマンガと女性向けのマンガが、平然と同時に掲載されている」事です。

 考えてみると、マンガという媒体は不思議なジャンルです。なぜか「男性向け」の作品と、「女性向け」の作品とが完全に分かれており、それぞれ「少年マンガ雑誌」「青年マンガ雑誌」と「少女マンガ雑誌」「レディース雑誌」というように、雑誌ごとに住み分けが為されているのです。これは、映画やドラマ、小説などでは見られない現象です。もちろん、個々の作品ごとに「男性好みの映画」「女性受けを狙ったドラマ」など、特定の性別を狙った作品は当然見られますが、最初から「これは男性(女性)向けです」と指定してある作品は少数派です(例えば映画館で、「男性向け映画」「女性向け映画」とスクリーンが指定してあるところがあるでしょうか?)。
 ところが、それがマンガでは最初から対象となる性別が厳密に指定され、雑誌ごとに住み分けが為されている。これはマンガ特有の現象です。

 もっとも、最近ではマンガも男女を問わない雑誌作りが次第に浸透してきて、「男女どちらでも読める」方向性を目指した雑誌作りも珍しくなくなってきました。エニックスの雑誌もその典型的な存在であり、もちろんその中のGファンタジーもそのような「男女どちらでも読める」雑誌であると言えます。
 しかし、Gファンタジーの場合、そのような「男女を問わない」雑誌の中でも、さらに特異な方向性を持っています。それが上記の「男性向けと女性向けの共存」です。


・Gファンタジーのマンガを分類してみる。
 ここで言う「男性向け」とは、単に「男性向けのエロ、萌え、美少女や、男性が好みやすいSFやミリタリー等の要素が多い」点が特徴のマンガのことを指し、「女性向け」についても、単に「女性向けの美形男性キャラクターや、女性に好まれる恋愛の要素がある」点が特徴のマンガを指しています。これ以外に、そもそもこのような特徴が少なく、男女共に抵抗無く読めるマンガ(いわゆる「中性的なマンガ」)も存在します。
 そして、このような観点からGファンタジーのマンガを分類してみると、見事に男性向けと女性向けと、そして男女共に読める中性的なマンガに分かれるのです。


 まず、Gファンタジーの全体的なイメージとなっている、女性向けのマンガから見ていきます。Gファンタジーは、男女共に読める雑誌とは言え、エニックスの他の雑誌と比較すれば女性向けのイメージが多少強いと思われます。

 そして、これら雑誌のイメージを形作る女性向けの要素が強い作品として「switch」「夢喰見聞」「現神姫」「隠の王」「阿佐ヶ谷Zippy」などが挙げられます。微妙ですが「ZOMBIE-LOAN」「カミヨミ」もこれに加えてよいかもしれません。これらの作品は、作品から受けるイメージ、特に絵やキャラクターに於いて、女性好みの要素がかなり強いのではないかと思われます。

 といっても、単に「美形の男性キャラクターが多い」「絵柄が繊細で女性好み」といった程度の根拠であり、内容的には特に女性向けとは言えないものも多く(「夢喰見聞」などは特にそうです)、別に男性が読んでもストーリー自体は普通に楽しめるものです。決してベタベタの少女マンガと言うわけではありません。しかし、それでもこの絵とキャラクターから受ける女性向けのイメージはかなり大きく、男性読者は多かれ少なかれ抵抗を感じると思われます。


 さて、次に、明らかに男性向けと思われる作品をピックアップしてみます。まず「ククルカン」「私の救世主さま」のふたつはほぼ確定で、それとつい最近終了しましたが「宇宙賃貸サルガッ荘」も明らかに男性好みのSF作品でした。さらには、原作がノベルゲーム(もしくはギャルゲー)のゲームコミックである「ひぐらしのなく頃に」「To Heart2」も男性寄りだと言えるかもしれません。そして、かなり微妙ですが、アニメ化もされた大人気マンガ「ぱにぽに」もこれに該当する可能性があります。実際には「ぱにぽに」は女性読者の人気も少なからず高いのですが、それ以上に美少女系のマニアへの人気が高い点が大きく、多かれ少なかれ男性向けの傾向はあると考えられます。


 これ以外では、特に男性・女性のどちらにも片寄っておらず、男女どちらでも抵抗なく読めるであろう作品もかなりあります。というか、これこそがエニックスに特徴的な「中性的」なマンガであり、Gファンタジーでも多数を占めます。
 具体的には「E'S」「聖戦記エルナサーガ2」「プラトニックチェーン」「ティルナフロウ」「うたた日和」あたりでしょうか。これに加えて、原作がRPGのゲームコミックである「テイルズオブデスティニー2」「ラジアータストーリーズ」あたりも該当しそうです。
 そして「壮太くんのアキハバラ奮闘記」もこの中に入れてよさそうです。これは、オタクをネタにしたマンガということで、一見して男性向けにも見えますが、実際には女性読者にも受けがよく、幅広く楽しめるギャグマンガとなっています。


・非常に珍しいタイプの雑誌。
 さて、上記のように、今のGファンタジーでは男性向けと女性向け(そして男女を問わない中性系)のマンガが平然と混在しているわけですが、これは雑誌としては極めて異色です。このような形態は、今の雑誌の運営上ではひどく不利だと思われるからです。

 例えば、男性向けの連載マンガに引かれた男性読者が、Gファンタジーを手に取って読んでみたとします。この場合、誌面に女性向けのマンガは多く存在しているのを知れば、かなりの抵抗を覚えるでしょう。アニメ化された「ぱにぽに」でGファンタジーを知って、実際に手に取って読んでみた読者の中でも、少なからず抵抗を感じた人は多かったのではないでしょうか。これでは男性の新規参入者がひいてしまい、男性読者の確保が難しくなります。
 同じことは、逆に女性読者にも言えます。女性向けのマンガに惹かれてGファンタジーを読んでみて、明らかに男性向けのマンガに遭遇したらかなりの抵抗を感じるでしょう。これでは女性の新規参入者も引いてしまい、女性読者の確保も難しくなります。

 つまり、ひとつの雑誌の中で、全くターゲットが異なる作品を同時に連載させることは、明らかに読者の確保の上では不利なのです。マンガ読者が雑誌を買う基準として「どれだけ好きなマンガ、読みたいマンガがあるか」という点は大きいと思います。今のGファンタジーでは、あまりにもターゲットの異なるマンガが並存しているため、一定の読者を強く満足させるラインナップを揃えることは難しい。どうしても自分の好みに合わないマンガが存在するのです。これでは雑誌の購入に二の足を踏む読者も多いのではないか。
 それに加えて、今はとにかく雑誌が売れない時代です。雑誌が売れないがために、ある一部の読者層にターゲットを絞り、雑誌のカラーを統一して同系の連載マンガを揃える誌面作りが主流になっています。しかし、Gファンタジーのあり方は、このような今の雑誌作りの方向性とは全くの正反対であり、非常に珍しいケースとなっています。


・なぜ、このような誌面になったのか?
 しかし、なぜこのような異色の誌面が生まれたのでしょうか。これには、次のような理由が考えられます。

(1)エニックスの他雑誌の連載を数多く引き受けた。
 エニックス系雑誌では、雑誌間で連載が移動することが珍しくなく、しかもGファンタジーの場合、他の雑誌から移籍して入ってくるケースがかなり多く、それによって全く方向性の異なる作品を同時に連載せざるを得なくなるケースが多いのです。

 大規模な移籍の例としては、数年前に、少女マンガ誌「ステンシル」が廃刊になったことに伴う大量移籍が挙げられます。この時に、本来は少女誌に連載されていた女性向けのマンガを5つも引き受けたために、その後のGファンタジーはかなり女性寄りの誌面に片寄った感があります。上記の作品のうち「switch」「夢喰見聞」「現神姫」などは、この時にステンシルから移籍してきた作品群であり、今の連載の中でも特に女性向けのイメージが強いものとなっています。
 逆に、少年寄りの雑誌であるガンガンからの移籍もあります。「私の救世主さま」は、元々はガンガンの連載であり、しかも美少女やバトルの要素も強い、かなり男性寄りの作品です。元雑誌のガンガンで、編集部との軋轢が原因で移籍させられたらしいのですが、これをGファンタジーで引き受けたため、今度は同一の誌面で男性向けの連載を抱えることになってしまいました。

 このように、エニックスの他雑誌からの移籍を引き受けるケースの多いGファンタジーでは、そのたびに全く方向性の異なる連載を抱えざるを得ない状況にあると考えられます。


(2)昨今のゲームマンガの投入。
 ここ最近、エニックス雑誌全般で、ゲーム原作のマンガの連載を数多く始める傾向があり、Gファンタジーも例外ではありません。この「ゲームマンガの大量投入」自体の是非はさておき、この方針によって、Gファンタジーはまたもや方向性の異なる連載を抱えざるを得なくなってしまいます。

 原作がRPGである「テイルズオブデスティニー2」「ラジアータストーリーズ」あたりは、男女共にさほど抵抗無く読めるのですが、原作がノベルゲーム(もしくはギャルゲー)である 「ひぐらしのなく頃に」「To Heart2」の連載は、原作は男性ファンの方が多いゲームであり、これにより今度は男性寄りの連載が増える結果となりました。実際には「ひぐらし」も「To Heart2」も女性のファン層はいますし、マンガ連載もさほど男性向けに片寄った印象はないのですが(特に「ひぐらし」)、しかし原作ゲームが男性ユーザー、それもマニア層に片寄っていることを考慮すれば、やはり多かれ少なかれ男性向けの連載だと考えるべきでしょう。

 このように、ここ最近のゲームマンガの大量投入の方針によって、再び方向性の異なる連載をいくつか抱えることになったと考えられます。


(3)最初からこのような雑誌だった。
 しかし、上記の(1)(2)は、あくまで二次的な理由であり、本当に大きな理由は別にあります。実は、このGファンタジーという雑誌は、創刊当初からこのような「男性向けと女性向けが共存している」誌面だったのです。
 Gファンタジーの創刊は1993年ですが、この当時は今よりもファンタジー作品に対する需要が高く(対して、今はどちらかと言えばキャラクターへの「萌え」作品に片寄っている)、このGファンタジーでも多種多様なファンタジー作品が掲載されていました。男性向けから女性向けまで、多彩なファンタジー作品が受け入れられる余地があったわけです。
 それに加えて、まだ当時は「雑誌が売れない」という現象が今ほどには見られず、雑誌のカラーを統一して、一定の読者にターゲットを絞る必要性も低かったと思われます。そのために、このような雑誌作りでもさほど違和感はなかったのでしょう。実際、創刊当時のGファンタジー(当時は「ガンガンファンタジー」でしたが)は、今以上に連載作品の幅が広く、誌面は混沌として活気に溢れていました。そして、この創刊当初の雑誌作りの方針を、今に至るまで延々と続けてきたと考えられるのです。


・創刊当初からの誌面作りを維持。
 しかし、創刊当初の混沌とした誌面はしばらくして終焉し、以後はエニックスの中ではやや女性寄りのイメージの強い誌面となります(これは、創刊当時からの人気連載が箱田真紀・堤抄子・夜麻みゆきなどの女性作家に片寄っていたことが主要因だと思われます)。そして、雑誌の中期に入って、97年にあの「最遊記」が連載を開始し、当初は予想しなかったほどの女性人気を獲得してしまい、以後しばらくは女性人気の高さがさらに顕著になってきます。そして、雑誌側としては、このまま女性向けの誌面に完全にシフトする方針もあったと思いますが、実際にはその方針は取らず、女性向けのイメージが強い中でも男性向けの連載も確実にキープして、創刊当初の方針を維持し続けました。そして、一連のエニックスお家騒動によって「最遊記」が他出版社の別雑誌に移籍していった結果、再び元のバランスの誌面に戻ってきた感があります。

 実際、今に至るまでGファンタジーは、女性向けの傾向が強まった時期でさえ、必ず男性向けの連載を続けてきました。具体的には、「神さまのつくりかた」「ククルカン」等の高田慎一郎作品、「パステリオン」や「華の神剣組」等の松沢夏樹作品、「フランケンシュタインズ・プリンセス」「ペンデュラム」等のたつねこ作品、男性マニア向け作家・TAGROによる「宇宙賃貸サルガッ荘」、リーフのPCゲームのコミック化である「まじかるアンティーク」「To Heart2」など、常に男性寄りの作品を維持し続け、「ファンタジーなら何でも幅広く載せる」という雑誌創刊当初の方針を頑なに守り続けてきたのです。

(余談)
 ちなみに、一連のお家騒動によって、「最遊記」の移籍先となった雑誌「コミックゼロサム」は、Gファンタジー系作家の中でも特に女性寄りの作家を主に採用し、ほぼ完全に女性向けの誌面を作り上げます。先ほど「このまま女性向けの誌面に完全にシフトする方針もあった」と書きましたが、まさにこの方針を採用したのがゼロサムだと言えます。


・今となっては珍しく貴重な存在の雑誌となった。
 そして、気が付けば今は雑誌が売れない時代に突入し、雑誌のカラーを統一して一定の読者を確保する雑誌作りが主流となりましたが、そんな中でGファンタジーの雑誌作りの方針が、今や異色のものとなってしまったのです。
 しかし、今のGファンタジーを取り巻く状況を見る限りでは、必ずしも商業的には成功していないようです。雑誌の発行部数としてはエニックスの中でも、あるいは他出版社との雑誌と比較しても最低に近い位置にあると思われますし、実際に読んでみても、全くターゲットの異なる作品が平然と混在しているのはかなりの抵抗があります。新規参入者にはとっつきにくい雑誌であるのも窺えます。

 しかし、創刊して10年以上もの間、一貫して当初の方針を守り続け、幅広い読者層に向けた雑誌作りを続けてきた点は評価に値すると言えます。一定の読者を確保するために同系の似たような連載を集め、そのために連載ラインナップの多様性が失われつつある雑誌が多くなった昨今、珍しく古い時代の方針を維持する貴重な雑誌だと言えるでしょう。


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