<君と僕。>

2006・5・16

 「君と僕。」は、ガンガンパワードの連載作品で、ガンガンパワードで連載デビューした作家の作品としては、最も人気を得て成功途上にある有望な作品です。 ガンガンパワードは、ガンガンの増刊扱いの雑誌で、新人の読み切り作品の掲載を主目的とした雑誌であり、創刊当初は連載作品はありませんでした。しかし、次第に新人を中心に連載作品の掲載も始めるようになり、この「君と僕。」もその中のひとつとして、2004年の後期から連載を開始しました。そして、パワード初の新人連載としては、他の数作品とともに、最初にコミックスになった作品のひとつでもあります。そして、おそらくは同時期の連載作品の中でも、最も安定した評価を得ることに成功し、今ではパワードの主要連載のひとつとなっています。作者は堀田きいち(堀田和哉とは関係ありません)。

 内容的には、「個性的な男子高校生4人組を描いた、脱力系まったりゆるゆる日常マンガ」といったところでしょうか。少女マンガ的な趣きがあり、かっこいい(かわいい)男性キャラクターが多数登場するということで、女性読者の人気が特に高いのが特徴的です。後述しますが、このような「ゆるゆるな日常を描く作品」には、女の子のキャラクターが主に登場する、いわゆる「萌え系」に属するものは多々あります。が、このように、「女性に人気のある少女マンガ的な作品」となるとかなり珍しいでしょう。その点でも注目すべき作品です。

 さらに、2009年4月号でのガンガンパワードの休刊に伴い、Gファンタジーへの移籍が決定します。元々女性に人気のある作品であったことは明白でしたので、女性読者の多いこの雑誌への移籍は妥当かもしれませんが、大きく誌面の方向性が異なる雑誌への移籍だけに、今後の動向が注目されます。


・複雑な(?)連載経緯。
 しかし、このマンガは、パワードで連載が開始されるまでに、少々複雑な経緯を辿っています。
 まず、最初に読み切りとして少年ガンガン(本誌)で掲載されました。これが2003年末のことなのですが、この時の作品内容は、連載版とは大きく異なっています。前述のように、パワードで始まった連載では、主人公は男子高校生4人組なのですが、このガンガンでの読み切り版は、彼らとは直接関係のない、「あきら」と「こういち(こーちゃん)」の男子高校生2人組を描いた作品でした。さらには、このマンガは通常のストーリーマンガではなく、4コマもしくは1P程度で終わるショートコミックであり、その点でも連載版とは異なっています。さらには、連載版よりもかなりギャグ色が強かったのも特徴です。
 しかし、その一回目の読み切りが終わった直後のガンガンで、今度は、幼稚園の男児4人組を主人公にした読み切りが掲載されます。これが、実は連載版の男子高校生4人組と同一人物であり、こちらの読み切りの方が連載版に直接つながっています。読み切り版では幼稚園児だった主人公4人組を、高校生に成長させたバージョンを、パワードで連載化したわけです。

 その後、最初の読み切りの「あきらとこういち」の二人組を主役にしたバージョン(あきらくんとこーちゃん編)、2番目の読み切りの幼稚園児4人組を主役にしたバージョン(陽だまり幼稚園編)が、それぞれ数回ずつ読み切りで掲載され、さらには幼稚園編であきらとこういちが先生として登場する回があるなど、両編のつながりが見える演出も見られました。しかし、その後パワードでは、その両編のどちらとも異なる、幼稚園編の4人組が高校生として主役となるバージョンが連載化されるという、かなり複雑な経緯となっているわけです。
あきらくんとこーちゃん編 陽だまり幼稚園編 高校生編(連載本編)

 その結果、「君と僕。」のコミックス一巻では、パワードでの男子高校生4人組が主役の連載版に加えて、ガンガン時代の読み切り版である「あきらくんとこーちゃん編」「陽だまり幼稚園編」が同時に掲載されるという、極めて変則的な構成となっています。これらの作品は、設定そのものは大きく異なりながら、根底にある「脱力系でまったりゆるゆるな日常描写」という点では共通しており、そのために読み切り版も連載版同様に人気があり、中には読み切り版の方が好きだという人も大勢いるようです。


・少女マンガ的(?)な要素を持つ作品で、女性人気が高い。
 そして、このマンガは、ガンガンパワードの作品の中では珍しく、女性読者に対して大きな支持を得ているのがポイントです。かっこいい(かわいい)男の子が多数出てくるのが最大の理由ですが、どうもそれだけではなく、この作品自体が「少女マンガ」に近い雰囲気や方向性を持っている点が大きいような気がします。時折女性キャラクターとの恋愛(的な)話も出てきますし、その点でも少女マンガ的要素をかなり意識できます。絵柄的にも少女マンガに近いかな。つまり、女性人気が高いといっても、「鋼の錬金術師」のように、少年マンガで女性人気が高いのとは、かなり毛色が異なるわけです。

 ただ、「少女マンガ」とは言うものの、実際にはかなりオリジナル色の強い作風でもあり、実はそのような「他であまり見られない作風」という点でも、女性読者に人気を得ています。作品の絵柄や雰囲気は少女マンガ的でも、その内容は、従来型のマンガではあまり見られないものだったのです。


・この毒(皮肉)も散りばめた脱力系ゆるゆるまったり感はすごい。
 この作品の最大の特徴は、前述の通り、脱力系でゆるゆるでまったりな日常描写に尽きます。「ユルユル青春グラフィティ」「僕らの春は、こんなにも青い」などのキャッチコピーにも象徴されるような、とにかく「熱血」「青春」といった単語とは無縁な、いやむしろ正反対な、のんびりまったりした高校生活が丹念に描かれる点が最大のポイントです。

 そして、これらゆったりまったり系の雰囲気の中で、登場人物たちが繰り出すシニカルで毒のある言動がなんとも言えません。このマンガの主役4人組の中で、双子として登場する祐太・祐希兄弟がその最たるもので、彼らがなんとなく日常会話に織り込んでくるシニカルな発言がかなり笑えます。実は、このマンガはギャグマンガとしての要素も強い作品であり、シニカルな発言で笑いを取るギャグマンガとして読んでも中々に笑える内容となっています。
 そして、これは「あきらくんとこーちゃん編」「陽だまり幼稚園編」でも共通する要素であり、「あきらくんとこーちゃん編」では、このあきらの物事をナナメから見たような発言がいちいち面白く、そして「陽だまり幼稚園編」では、高校時代とまったく変わらないませた言動を見せる幼稚園児たちが、その姿とのギャップも手伝って一層笑えるものとなっています。個人的には、幼稚園児たちがひねくれたてるてる坊主を作る話が非常にバカバカしく、思った以上に笑ってしまいました。


・子供の心理がうまく描けている。
 そしてもうひとつ、このマンガでは、子供たちの微妙な心理が丁寧に描かれている点もポイントが高いですね。子供たちが勘違いしたままで何かに憧れている様子とか、「確かにそんなことが子供時代にはあったな」と感じられて、これもまた感心します。
 「陽だまり幼稚園編」の主人公人組などはまさにそのままですが、それ以外の編においても、ゲストキャラクターの形で子供たちがよく登場し、主人公たちと触れ合うシーンが頻繁に見られます。そして、この時の主人公たちのふるまいがまた面白い。勘違いしたままのことを覚えている子供たちを見て、子供たちの純真さを大切にしてそのままにする者もいれば、子供たちに現実を見せようと教える者もいる。子供が夢見る理想と本当の現実は違うと気付かせるか、それとも見守るか。そのあたりのやりとりが、微笑ましくもあり、また考えさせるものでもあるのです。


・実は、萌え系のマンガでは珍しくない?
 そして、このような「脱力系のまったりとした日常描写」「シニカルで毒のある言動」「子供の心理の描写」などの特徴は、従来の男子高校生が主役となるマンガでは、他にはあまり見られなかった独特なものであり、このあたりの独創性が高い人気を集めました。
 しかし、実はこのような特徴は、いわゆる「萌え系」のマンガでは、決して珍しいものではありません。ゆるやかな日常の描写を最大の特徴とした萌えマンガは、実は昨今ではひとつの主流を占めつつあるほどで、かなり多くの作品が存在しています。まず、「脱力系のまったりとした日常描写」「シニカルで毒のある言動」といえば、同じスクエニ系で「まほらば」という偉大なる先例が存在していますし、「子供の心理の描写」という点でも、電撃系のコミックスで「よつばと!」や「苺ましまろ」などの大人気作があります。これらのマンガは、キャラクターの萌え要素もさることながら、それ以上に作品全体の穏やかな雰囲気に浸って癒されるような「作品の雰囲気に対する萌え」の要素が大きいのです。

 そして、この「君と僕。」においても、このような作品の穏やかな雰囲気で癒されるような「雰囲気萌え」(このサイトでは「ゆる萌え」と表現していますが)の要素が非常に大きく、その点で上記の萌えマンガ群と共通しています。主に男性の読者を対象とした萌えマンガと、女性人気の高い「君と僕。」・・・このふたつは、まったく異なる読者に人気を集めながらも、意外にも作品の方向性は非常に近いと言えるのです。


・女性に人気のある、少女マンガ的な作品で見られた点が面白い。
 しかし、この「君と僕。」では、今までは萌えマンガで主に見られた作風が、少女マンガ的な作品で見られたことに大きな意義があります。
 これまでは、このようなマンガは、女性向けの作品ではあまり見られませんでした。同じスクエニ系でも、より女性読者の多い「Gファンタジー」では、これに近い作品は、今までなかったような気がします(あえて言えば「うたた日和」ですが、あれはむしろ萌え系ではないかとも)。かつてエニックスより出ていた少女誌「ステンシル」でも、あまり例がありません。元々、エニックスは、このような「雰囲気萌え」(「ゆる萌え」)なマンガは、ひとつの得意分野のはずですが、それでも女性向けのマンガではあまり見られなかったのです。そして、エニックス以外のマンガでも、やはりかなりの少数派でしょう。このマンガを読んだ女性読者の間でも「今まであまり見たことがないタイプのマンガ」という声が多数聞かれていますし、確かに、とにかく恋愛要素の強い少女系のマンガでは、この手の日常だけをまったりと描写するタイプの作品は、意外と少なかったのだと思われます。

 しかし、この「君と僕。」で、ついに少女マンガ的な作品でも、このような「脱力系まったり日常萌え」な作品が登場したのです。そして、実際に女性読者に非常に高い人気を集め、これで新たなる方向性を確立した感もあります。この手の「ゆる萌え」なマンガが、少女マンガ的な作品にも進出し、さらなる広がりを見せていることを如実に証明した。この点において、大変に興味深い一作であると言えるでしょう。

 そして、このマンガは、ガンガンパワードのオリジナル連載の中でも、最も安定した人気マンガとなった感もあります。隔月刊行へのパワーアップを果たしたガンガンパワードの中核連載として、なくてはならない存在となりました。シンプルな絵も独特のイメージがあり、雑誌の中で見た目でも印象に残るものがあります。元々はガンガンでの読み切りから複雑な経緯で連載にこぎつけた一作でしたが、それがここまで成長したことは特筆に値すると言えます。そして、Gファンタジーへの移籍後も変わらず注目すべき作品であることは言うまでもありません。


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