<魔法科高校の劣等生>

2012・9・21

 「魔法科高校の劣等生」は、Gファンタジーで2012年1月号から開始された連載で、同名のライトノベルのコミック化作品に当たります。原作ノベルは、電撃文庫で2011年7月から刊行が始まっており、現在(2012年9月現在)では7巻まで刊行されているようです。

 さらに、このノベルは、元々は「小説家になろう」という小説投稿サイトに投稿されていた作品であり、いわゆるオンライン小説でした。そのサイトでもトップクラスの人気を博し、その人気を受けて電撃の編集部によって紙媒体の小説として刊行されました。このようなオンライン小説が書籍化されるのは、電撃文庫において2作目であり、近年ではこのレーベルも、こうしたオンラインからの起用を重視してきているのではないかと思われます。

 作者は、原作の小説が佐島勤、イラストを担当しているのが石田可奈、そしてコミカライズの作画をきたうみつなが担当し、構成に林ふみのの名前も挙がっています。
 作画担当のきたうみつなは、以前からGファンタジーで何度か連載を行っていましたが、ここ近年では長らく登場がなく、さらにはかつての連載時よりもGファンタジーの誌面の雰囲気が変わってきたこともあって、再登場の望みは薄いのではと考えていました。それが、ここに来て「ライトノベルのコミカライズ」という意外な形での復帰となりました。最近では、スクエニでも他社のノベルのコミカライズは定番ですが、こうした機会を得てかつての作家が復帰したのはうれしく思っています。肝心の作画も、長いブランクもありながらまったく申し分なく、原作のイラストの雰囲気を忠実に再現しており、かつ全体的な作画レベルも非常に安定しています。

 構成に当たっている林ふみのも、以前よりスクエニ各誌で何度も連載を行ってきたマンガ家ですが、今回は構成面での担当となったようです。こちらの構成する脚本もよく出来ていて、原作ノベルの出来の良さも重なって、読み応えのあるストーリーとなっています。人気作品のコミカライズということで、雑誌編集部も大きくこの連載に力を入れているようで、先日発売されたコミックス1巻の扱いも大きなものがありました。


・今ではオンライン小説が電撃文庫の本命に。
 上記のように、原作の小説は、電撃文庫によって書籍化された2番目のオンライン小説となります。そして、1番目に書籍化されたオンライン小説は、「ソードアート・オンライン」で、こちらもオンライン小説の時代から非常に高い人気を得ていて、さらには電撃文庫の書籍化後もトップクラスの人気と評価を獲得しました。2012年にはアニメ化され、同季のアニメの中でも最大の本命作品として、大きな注目と話題を集めました。このアニメの出来も素晴らしく、こちらもやはり大人気となっています。オンライン小説でからヒットした作品としては、最も大きな成功例となるでしょう。

 そして、この「魔法科高校の劣等生」も、やはりオンライン時代から人気の非常に高い一作ということで、やはり電撃文庫でも非常に大きな扱いとなっています。実質的に「ソードアート・オンライン」の後を継ぐ作品と考えているようで、今後の大きなメディア展開も視野に入れているようです。

 まず、このGファンタジーでのコミカライズと同時に、電撃大王の方でも、本編のスピンオフ作品となる「魔法科高校の優等生」の連載がスタート。スクエニの雑誌で本編のコミカライズ、電撃大王で外伝スピンオフの連載は、かつての「とある魔術の禁書目録」と同じパターンです。他にGファンタジーでの電撃文庫コミカライズでは、あの「デュラララ!」もあり、どちらもアニメ化して大ヒットしています。この「魔法科高校の劣等生」も、次期アニメ化をすでに想定しているのではないでしょうか。このように、今ではオンライン小説が電撃文庫の大本命になっているようです。


・「劣等生」の兄と「優等生」の妹、対照的な兄妹の動向に注目。
 さて、肝心の作品の内容ですが、これは近未来の日本を舞台にしたSFファンタジーと言える設定の作品となっています。具体的には、西暦2095年の日本で、この時代にはいわゆる「魔法」と呼ばれる超能力的な力が一般に広く認められ、魔法を使役する職業が広く存在する社会となっています。そのような者は「魔法師」(「魔法技能師」)と呼ばれ、世界各国が有能な魔法師の育成を競っている状態 となっています。日本では、国立魔法大学と、その下に付属する高校で魔法師が育成されており、タイトルにもある「魔法科高校」が作品の舞台となっています。
 さらに、この魔法科高校では、魔法の能力に優れた「一科」の生徒と、魔法の能力に劣った「二科」の生徒に分かれており、双方の間に大きな待遇の隔たりがあり、勝る側の一科生は「ブルーム(花)」、そして劣る側の二科生の方は「ウィード(雑草)」と呼ばれて劣等生扱いされ、露骨に差別を受けている状態となっています。この理不尽な差別が見られる学内の姿が、この物語最大のキーポイントとなっています。

 物語の主役となるのは、この高校に入学する新入生の兄妹。兄の司波達也(しばたつや)は、「雑草」たる二科に入学したことで、いわゆる「劣等生」扱いを受けるもののひとりとなっています。しかし、彼は、必ずしも劣等生という言葉のような、劣る生徒としては描かれていません。入学試験のペーパーテストでは、今までにないほどのトップ成績で先生たちを驚かせるほどの秀才で、さらには冒頭で体術(武道)に取り組むシーンがあるのですが、そこでは熟達の師範とやり合うほどの腕の冴えを見せています。まさに文武両道と言えますし、これならば劣等生どころか抜群の優等生です。
 しかし、そんな達也には、決して優等生にはなれない致命的な欠点がありました。魔法師になるために必要な生まれつきの「魔法」の能力、これが決定的に劣っていて、魔法を使う実技試験では、大幅に劣る結果しか出せなかったのです。一科の生徒はおろか二科のほかの生徒と比べても見劣りする状態で、それゆえに「劣等生」に甘んじている。つまり、作品のタイトルは「劣等生」でも、実際の主人公は決してそのような人物ではなく、そのあたりで独特の含みを持たせるタイトルになっています。

 そして、この司馬達也、普段から常に冷静沈着で、学業やその他普段の言動でも非常に真面目、かつ周囲の状況をよく捉えて巧みに気を配るような、そんな生徒としても描かれています。ライトノベルやマンガの主人公で、ここまで堅物な性格なのもちょっと珍しい。時に不真面目だったり浮ついたりするようなところがほとんどない、こういった主人公の姿には、個人的には非常に好感が持てました。

 そして、もうひとりの主役にしてこの物語のヒロインが、この達也の妹である司馬深雪(しばみゆき)。こちらは、実技も含めて入学試験をトップで合格し、もちろん一科生として入学、新入生の総代として入学式で挨拶も行うなど、まさに正真正銘の優等生として描かれています。普段は才色兼備で礼儀作法もよく身に着けた完璧な生徒とも言えます。
 しかし、この深雪、兄の達也には深く敬愛、もしくは心酔していて、二科生として入学した兄を、何かにつけて引き立てようとします。その姿を見て多くの生徒から「かなりのブラコン」だと思われているほどで(笑)、これが完璧な妹が見せる意外なほどかわいらしい一面となっています。もはや兄妹の関係を超えるほどの感情も抱いているようで、逆に兄の達也の方は、妹は大切に思いつつも、今のところ妹ほどには極端な感情は抱いていないようで、そのあたりの双方のギャップが楽しい一面を見せています。


・唯一、魔法の設定が複雑なのがちょっと気になる。
 そして、この二人を取り巻く学校の生徒たちも個性的で、かつ一科生と二科生の双方が登場し、双方で異なる対応を見せるところが、この物語の大きなポイント。二科生の同級生がすぐに気の合う友達となったのに対し、一科の生徒には露骨に差別意識を投げかけてくるものも多く、そのあたりの軋轢をいかに乗り越えていくかが見所です。軋轢を経てなんとか邂逅する生徒もいて、あるいは一科でも最初から達也たちに好意的な生徒も存在し、中でも生徒会長をはじめとする生徒会の面々は、その多くが進歩的な意識を持っているようです。

 そんな風に、魔法科高校ならではの生徒同士の関係が興味深く描かれ、中には魔法の実技や魔法による対人戦のシーンもあるのですが、この魔法の設定がちょっと、というかかなり複雑で、とっつきやすいとは言えない点だけが、ちょっと気になるところです。ライトノベルにはこうした独特の設定を持つ作品はよく見られますが、その中でもこの「魔法科高校」の設定はかなり本格的で複雑です。

 冒頭で登場するのが、CAD(術式演算補助器)と呼ばれる、魔法を行使するために使われるツールのようなもの。これだけならまだ難しくないですが、その後に出てくる、そのCADを使った魔法の行使の説明で大きく面食らいました。「魔法師は、想子(サイオン)と呼ばれる粒子をCADに送り込み、電子式魔法陣『起動式』を出力する。起動式は魔法師の肉体を介して吸収され、魔法師はそれを自分たちだけが持つ精神機構『魔法演算領域』へ送り込み、『魔法式』を組み上げ魔法を発動させる」。これが、この物語の「魔法」の定義らしいのですが、多くの読者にとって、これを一回読んだだけですべてを理解するのは難しいでしょう。後にはさらに複雑な説明も登場しますし、そこに「個別情報体(エイドス)」「サイオン(想子)」「プシオン(霊子)」「起動式」のような独特の用語が次々と出てきます。さすがにとっつきやすい設定とは言えないでしょう。

 電撃文庫のオンライン小説の先行作品である「ソードアート・オンライン」は、オンラインゲーム(MMORPG)の世界が舞台で、実際にあるようなゲームの世界を再現することが大きなコンセプトとなっています。そのため、非常にとっつきやすく分かりやすい設定で、とりわけその手のゲームを知っている読者なら、とても馴染みやすいものとなっています。むしろそのリアルなゲームの世界が、作品最大の魅力のひとつともなっていると言っても過言ではありません。この「魔法科高校の劣等生」の、魔法が存在する近未来の世界というのも、それはそれで大変魅力的な世界観だと思いますが、ただその設定を理解するまでに乗り越える壁がちょっと高く感じるのが、ややネックになるのではと感じました。


・今回もきたうみつなさんの絵は素晴らしい。
 ただ、このコミカライズでは、作画担当のきたうみつなさんの絵が素晴らしく、これがこの作品をさらに魅力的なものにしています。上記の複雑な設定も、絵で解説してくれることでかなり分かりやすくなりました。

 そして何より、原作の石田可奈さんのイラストの絵柄を、極めて忠実に再現していることが非常にうれしい。キャラクターの造形に関しては、ほぼ完璧ではないかと思います。主人公の司馬達也に代表される男性キャラクター、ヒロインの深雪に代表される女性キャラクター、そのいずれもが原作のイラストの雰囲気そのままに描けていて、あるいは原作よりもさらに絵が綺麗なところまで感じられます。

 きたうみさんは、かつてGファンタジーで2つほど連載を行なっていました。「まじかる☆アンティーク」と「To Heart2〜colorful note〜」で、いずれもリーフの美少女ゲームのコミカライズでした。そして、この時も、原作のキャラクターの再現度に見るべきものがありました。特に、後発の連載だった「To Heart2」のキャラクターは実によく描けていて、これは原作ゲームの人気も相まって、非常に高い人気と評価を得ることが出来ました。

 そのふたつの連載は、美少女ゲームのコミカライズということで、女性キャラクターが作品の中心ではありましたが、一方で主人公を初めとする男性キャラクターも、しっかりと描けていたことが印象的でした。 それは、今回の「魔法科高校の劣等生」の連載でも、存分に活かされています。この原作をコミック化するのに、ふさわしい作家ではないでしょうか。また、今回の連載では、魔法を使った戦闘や試合の描写も多数登場しますが、そのアクションシーンの出来もまったく申し分ない。全体的な作画のレベルも高く、非常に優秀なコミカライズとなりました。


・今後の展開に大いに期待できる、今のスクエニでも最有力作品のひとつ。
 以上のように、この「魔法科高校の劣等生」、魔法が普及した近未来の高校が舞台という設定で面白く仕上がっていて、魔法に劣る兄と優等生の妹という主人公とヒロインの対比が面白く、一科生と二科生という学内の生徒同士の対立を軸にしたストーリーも興味深いものになっています。かなり複雑でとっつきにくいとはいえ、深く考えられた本格的な魔法設定も魅力のひとつだと思いますし、ひとつのSFファンタジーとして完成度の高い一作になっています。やはり、オンライン小説から抜群の人気を誇っていた作品には、大いに見るべきものがありました。

 加えて、このコミック版では、やはり作画できたうみつなさんが起用されたことが、非常に大きな長所になっていると思います。かつては美少女ゲームのコミカライズで好評を得たきたうみさんでしたが、最近のGファンタジーは、以前にもまして女性向けの要素が強くなり、かつてのコミカライズのような連載は、まず載らないような誌面になってしまいました。そんな状況では、もうきたうみさんが帰ってくる可能性もないかなとあきらめかけていただけに、ここでライトノベルのコミカライズ、それも原作からして抜群の評判を誇るこの作品の作画担当として復帰されたことは、個人的にも本当にうれしいものがありました。肝心の作画も以前と変わらぬ申し分ない仕事ぶりで、原作の雰囲気をこれ以上ないほど忠実に再現していて、これならば原作の人気にも大きく貢献することと思います。

 そして、その原作も、最近はこれまで以上に盛り上がってきて、近いうちのアニメ化まで視野に入っているのでは?とまで思えるようになりました。このコミックス1巻の発売時にも、原作の最新7巻との同時発売で、どこの書店も非常に大きな扱いとなっていました。出版社の方からも大きなてこ入れが入っていることが感じられましたし、おそらくはこれが「ソードアート・オンライン」に次ぐ電撃文庫からの次の本命作品となっているのではないでしょうか。その上で、完成度の高いこのスクエニでのコミカライズと、さらには同時に開始された電撃大王でのスピンオフコミックも出来がいいようで、本当にいい感じに盛り上がりを見せていると思います。スクエニ、Gファンタジーとしても、この「魔法科高校の劣等生」のコミカライズが、今の最有力作品のひとつとして、大いに期待できるのではないでしょうか。


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