<ぱにぽに>(前編)

2001・11・14
全面的に改訂・画像追加2006・10・7

*後編記事はこちらです。

 「ぱにぽに」は、Gファンタジーで2000年11月号より連載されている「1Pコミック」で、長らくGファンタジーでも一、二を争う人気作品として、雑誌の看板となって久しい作品です。「1Pコミック」とは、4コママンガに近い方向性を持つショートコミックで、この「ぱにぽに」の場合、学園ものコメディにしてシュールなギャグの要素の強いにぎやかな作品となっています。作者は氷川へきる

 この作品は、早い時期から多数の固定ファンがつき、そのコアな人気に応えて、凝りに凝った初回限定版やドラマCDシリーズ等の関連商品も多数発売されてきました。しかし、これだけの人気作品でありながら、長らくアニメ化の話はなく、ようやく連載開始から4年半以上経った2005年7月からTVアニメ化されました。そして、これが原作以上の大ヒット作となり、このアニメの効果で原作の人気・知名度もさらに高まり、今ではGファンタジーのみならず、スクウェア・エニックス全マンガの中でもトップクラスの人気を誇る作品となっています。

 このマンガがGファンタジー2000年11月号で連載を開始した時、奇しくも同じ2000年11月号の「ガンガンWING」の方では、あの「まほらば」が連載を開始していました。偶然にも、その後このふたつの作品がそれぞれの雑誌の看板として、スクエニ系マンガを引っ張ってきたわけです。どちらもかなりマニアックなファンを集めた作品で、しかも双方とも同時期(2005年)に、しかも同一の番組枠でアニメ化されるなど、その経緯には重なる部分が多く、そのあたりでこのふたつの作品が2000年以降のスクエニマンガを支えてきた事実は見逃せません。現在では「まほらば」の連載は円満に完結しましたが、「ぱにぽに」の連載はまだまだ健在であり、しかもさらなる新しい広がりも見せています。


・なんの前触れもなく始まった連載。
 しかし、今となっては大人気連載としての知れ渡っている「ぱにぽに」ですが、雑誌で連載を開始した時には、まるで知名度はないどころか、連載自体がなんの前触れもなく突然開始され、雑誌の中でも際立って異色な存在でした。

 そもそも、作者の氷川へきるからして、エニックスとはつながりが薄かった作家で、この連載の前に読み切りなどは一切残していません。ゲーム系のアンソロジーにも参加した形跡がなく、まったく何の前触れもなく雑誌での連載が始まったのです。実は、この氷川へきるという人物は、元々は「コミックゲーメスト」の編集者だったらしいですが(笑)、当時から主に同人誌で活躍していた作家であり(代表作は「スパイシー大作戦」)、商業誌での露出はほとんどありませんでした。したがって、一応は「エニックスからの新人作家」という扱いになるのでしょうが、通例このような新人作家の連載は、読み切り作品の掲載を重ねて実力・実績を得てから始まるのが普通です。しかし、この氷川へきるに関しては、事前になんの読み切りも残さず、いきなり雑誌の連載枠を獲得してしまった。つまり、連載前の下積みが一切無い作家なのです。これはエニックスの作家の中でも(あるいは他出版社においても)かなり珍しいケースだと思われます。


・いきなり予想外の人気を獲得。
 加えて、掲載誌が「Gファンタジー」というのも、かなり意外な決定でした。
 当時のGファンタジーは、あの「最遊記」の絶頂期であり、女性読者の比率がかなり増えていた状態でした。そのような状態で、むしろ男性向けの要素が強い「ぱにぽに」の連載が始まったことが意外だったと言えます。
 また、女性読者の存在は抜きにしても、当時のGファンタジーは、割と本格的なストーリーを持つ長期連載型の、いわば「大型連載」が多く、この「ぱにぽに」のような、気軽に読める1Pコミックのようなジャンルは極めて少数派でした。そんな中で、ぽっと出たようにいきなり連載を開始したこのマンガは、かなりの意外な印象を持って読者に迎えられました。

 しかし、このマンガは、ある種「場違い」とも言える連載開始だったにもかかわらず、開始直後からいきなり大きな読者人気を獲得します。それも、作者の同人誌時代からの読者層である男性のマニア読者だけでなく、Gファンタジーの主要読者である女性読者にも幅広く受け入れられ、しかも低年齢の女の子にまで受けるという意外な展開を見せます。

 いきなり雑誌読者に人気を得た最大の理由は、とにかくキャラクターがかわいかったことです。それも、絵的にかわいい、萌えるというだけでなく、その個性的な性格がひどく受け、個々のキャラクターのファン層がいきなり登場します。
 中でも、圧倒的な人気を獲得したのが、一応の主役(?)であるチビッ子教師・レベッカ宮本(ベッキー)です。11歳のチビッ子でかわいらしい外見でありながら、天才として高校の教師をしているという驚きの設定で、そのかわいい外見とスレた言動とのギャップが幅広い読者に大いに受け、いきなり大人気を獲得します。そして、連載を重ねるにつれて、他の個性的なキャラクターにもスポットが当たるようになり、さらに幅広く個々のキャラクターにファン層が広がります。

 そして、1Pコミックとしてのギャグの面白さも幅広く支持を獲得します。かなりシュールな要素の強いギャグで、人を選ぶギャグではあるのですが、それでもかなりの読者に受け入れられ、シュールなギャグを好むコアな読者層も生まれていきます。こうして、なんの前触れもなく始まった意外な連載であるにもかかわらず、最高に近い形でのスタートダッシュに成功します。

 なお、このあたりの連載開始前後〜連載初期の頃の経緯については、「とらのあな」のインタビュー記事である「NO COMIC NO LIFE」で詳しく語られています。興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。

 「NO COMIC NO LIFE」第5回:『氷川へきる』先生インタビュー


・偉大なる「あずまんが」の血を引く1Pギャグ。
 しかし、このマンガは、特に初期の頃は、あるひとつの人気マンガの影響を直接的に受けています。そう、もちろん「あずまんが大王」です。
 元々、マンガの基本スタイルからして、学園もののショートコミックで(あずまんがは4コマ・ぱにぽには1Pコミックという違いはあるが、雰囲気的には大差ない)、シュールな要素もあるギャグが主体と、多くの箇所で方向性が一致しています。

 しかし、実はそれだけではなく、細かい設定面でも、意図的に「あずまんが」の設定をパロディ化(オマージュ)している箇所が多く、直接的に「あずまんが」を意識して作られたマンガになっています。これは、作者である氷川へきるが、あずまんが大王の作者・あずまきよひこと個人的な親交を持つ友人であることも大きな理由で、まるで友人に対してあてつけて描いたかのような、あずまんがへのパロディ要素が多数見られました。

 具体的には、まず主役格のレベッカ宮本(チビッ子の天才先生)というキャラクターからして、「あずまんが大王」の、年齢的には小学生だが飛び級して高校生になった“ちよちゃん”のオマージュであることは明らかで、まず中心となる設定からして、あずまんがのパロディであることを強烈にアピールしています。それ以外にも、特に初期の頃にあずまんが的な設定やセリフが随所に見られます。
 そして、このことを意識してか、コミックスの一巻では、その装丁を「あずまんが」と同じ「よつばスタジオ」が担当しており(以後ずっと一貫して担当)、しかもその帯には、「俺もこういうタイトルのマンガにすればよかった」というあずまきよひこのコメントまで掲載され、これは当時かなりの話題となりました。

 そして、これらのあずまんがとの類似要素・パロディ要素は、当時「あずまんが」を読んでいたマニア系読者の間でも話題となり、あまりにも似すぎている方向性から、一部で批判や抵抗、違和感を覚える向きもあったようです(最初期の頃ほど抵抗が強かった)。ただ、それ以上にマニアに注目と人気を集めたことも事実で、この「あずまんが」的要素は、最初期からこのマンガのマニア人気を確立する一要因となりました。
 また、比較的「あずまんが」との接点が薄いGファンタジーの読者、特に女性読者や低年齢読者には、当然ながらこの種の抵抗は薄く、純粋に雑誌内で異色のマンガとして読まれていました。最初期からして、すでに様々なタイプの読者に読まれていたマンガだったと言えます。


・同系の作品とは一線を画するシュールな作風。
 しかし、このマンガは「あずまんが」とは明らかに方向性を異にする、大きな特徴があります。それは、とにかく人を選ぶ、シュール系のギャグや設定が非常に多いということです。
 もちろん、元となった「あずまんが」も、かなりシュールなネタが散見される作品なのですが、「ぱにぽに」の場合、その点がさらに突き詰められていて、全編シュールな意味不明系のネタで満ちています。完全に投げっぱなしたかのような終わり方をする話も多く、「どこで笑っていいか分からない」という困惑を一部読者に抱かせました。
 そして、これは読者を選ぶ要因となり、初期の頃から一般層の読者から離れた、ひどくマニアックな受け方をするマンガとなりました。「あずまんが」にもある程度マニア向けの要素はあり、実際にマニア人気もありますが、それ以上にそのギャグの面白さは幅広い読者層に受け、一般層にも広く認められる作品となっています。それと対照的に「ぱにぽに」は、あくまでもマニア・オタク向けに特化し、一般層には受けがたいような内容のギャグに終始しており、このあたりで先行する「あずまんが」とは明らかな方向性の違いが見られます。

 そして、「あずまんが」との比較だけでなく、それ以外の同系の作品ともかなり離れた作風になっています。現在多数の作品が出ている「萌え系4コマ」というジャンルの作品も、多かれ少なかれ「あずまんが」の影響を直接受けて生まれた作品群だと思いますが、それらと比較しても、この「ぱにぽに」の作風は異質であり、これら同系作品の中でも一線を画する作風を確立しています。

 ただ、実際には、意外にもシュールなギャグを好む一般層の読者も結構いたようで(意外な人に受けていたという話をよく聞きます)、しかも連載が進むにつれてネタのシュールさが少しずつ軽減され、分かりやすいギャグが多くを占めるようになり、かつ原作の人気の広がり、さらにアニメの爆発的なヒットにより、かなり幅広い層に読まれるようになったのも事実で、このあたりの人を選ぶ要素は今ではかなり薄れた感もあります。


 長くなったので続きは後編記事でどうぞ。こちらです。


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