<まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん>

2007・10・14

 「まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん」は、Gファンタジーで2007年4月号より始まった連載で、タイトルからも分かるとおり、「三国志」を元ネタにしたマンガとなっています。それも、三国志の世界を直接描く「三国志マンガ」とはかけ離れた内容で、一部のキャラクターや設定のみを三国志から借りた、パロディ要素の非常に強い作品です。最近では、この手のマンガも珍しくなくなりましたが、この作品は、その中でも特に突き抜けたものとなっているようです。主人公の呂布が、ロリ系の美少女と化している点が最大のポイントで、本来の三国志世界にはありえない「萌え」をネタ化した作風が大きな特徴となっています。作者は、同誌で「壮太くんのアキハバラ奮闘記」や「ひぐらしのなく頃に 祟殺し編」で人気を集めた鈴木次郎

 そして、それと同時に、このマンガは、その「壮太君のアキハバラ奮闘記」のスピンオフ作品でもあります。「壮太くんのアキハバラ奮闘記」は、オタクの生態を面白おかしく描く「オタクネタマンガ」ですが、その作中内に登場する作品(劇中アニメ)のひとつとして、この「呂布子ちゃん」がありました。その時のタイトルは、「天下無双 突きさせ!! 呂布子ちゃん」。この時は、主人公の呂布が女の子であったり、周りのキャラクターたちもすべて原作とはかけ離れたバカキャラになっていたりするものの、それでも一応舞台は三国志の世界でした。

 しかし、その後作者の暴走はさらにヒートアップしてしき、この「呂布子」に対する過度の思い入れが極度に目立つようになります。本編である「壮太くんのアキハバラ奮闘記」をさしおいて「呂布子」の方が頻繁に掲載されるようになり、ついには「壮太」本編は、かなり中途半端なところでいきなり最終回を迎えることとなりました。そして、この「呂布子」の方が、完全にスピンオフしてひとつの作品として独立連載されるに至ります。この時点で、元の設定にさらにアレンジが加わり、完全にリアルな三国志の世界を離れた舞台へと変わってしまい、タイトルまで現行の「まじかる無双天使〜」へと変更され、今に至ります。


・「壮太」後期での作者の動向。
 元々、「壮太君のアキハバラ奮闘記」には、これ以外にも劇中アニメとして、「パピコ(正式名称:ワンだーデジタルドキドキドギー おキャンなPaPiCo!)」なる作品が存在しており、これは連載初期の頃から、作中で「大人気アニメ」としての扱いをされていました。しかし、こちらの方はいまいち萌えないのか(笑)、スピンオフの話までは出てきませんでした。

 しかし、連載の中盤になって、この「パピコ」に加えて、新たなる劇中アニメとして、この「呂布子」が登場します。初出は、氷川へきる「ぱにぽに」第7巻初回版の付録で、この時点では作者のお遊び的なキャラクターでしかありませんでした。しかし、このキャラクターを本編の端々で出していくにつれて、これに対する作者(と担当編集者)の熱意が必要以上にヒートアップ、扱いが極端に大きくなっていきます。しまいには、本編を差し置いてこちらの外伝がまるまる一月掲載されることも行われるようになり、コミックス最終6巻では、表紙までが呂布子に独占されてしまいます。

 しかも、この少し前に、作者が「ひぐらしのなく頃に 祟殺し編」の連載を優先し、「壮太」の連載が不定期になった影響もあったのか、作者の「壮太」への思い入れが減少していったようにも見受けられ、ますますこの「呂布子」に対する傾倒度が大きくなっていきます。そして、最後には「壮太」の連載は数カ月に渡って掲載されなくなり、2007年7月号をもって、付け足したかのような後日譚でいきなり最終回を向かえ、あっさり終了してしまいます。

 そして、そんな経緯で「壮太」を半ば無理矢理終わらせたあと、待っていたとばかりに、この「呂布子」の正式連載開始。また、この時期には、「壮太」アニメ化の告知が長い間なされていましたが、結局「壮太」最終回まで発売されることはなく、その後にようやく決まったその内容も「呂布子」メインになることが判明します。もうこの時点で、すべての企画が「呂布子」の方に集約されていったことは間違いないでしょう。しかも、これがTVアニメではなく、OVAシリーズとして完全に呂布子のストーリーとなることに決まってしまいました。


・ギャグは確かに面白いのだが・・・。
 さて、そんな歪んだ経緯で始まったこの「まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん」ですが、さすがにかねてより爆笑ギャグで人気を得た作者だけあって、今回もギャグマンガとしてはかなり面白い作品に仕上がっています。

 内容的には、「三国天使界」なる、三国志のキャラクターたちが住まう天上世界で、なぜかロリ系美少女の姿で圧倒的な戦闘力で暴れまわる主人公・呂布子ちゃんと、その参謀でロリ系メガネっ娘の陳宮のふたりが、地上界(現代の日本)に「宝玉」を求めて修業に赴くことになり、同じくこの世界に来ているほかの三国志の英雄たちと「宝玉」の争奪戦を繰り広げるというもの。よく考えると、スクエニ系でよく見られる「天使修業もの」に近い設定ですが、イメージ的にはまるでかけ離れており、ハイテンションなギャグ連発のマンガとなっています。キャラクターの見た目的には萌えを重視したマンガにも見えますが、実際には萌えは一種のネタとして扱われている感が強く、ほぼギャグ中心のマンガとなっていると考えてよいでしょう。

 とにかく、ひとりひとりのキャラクターのバカバカしい言動がやたら面白い。ロリ系美少女として原作とのギャップがすさまじい呂布子の子供じみたな行動と、それをうまくサポートする知性派ロリキャラ・陳宮はもとより、その周りを固めるキャラクターたちも、それぞれバカバカしい個性派揃いです。とりわけ、主人公たちがホームステイする家の少女・マリエなどは、女子中学生でありながらなぜか二沢なるプロレスラーの大ファンで、ほとんど信者のごとき信奉ぶりを示し、その上端々で徹底的に腹黒い言動を垣間見せ、異様にねじれた表情で黒いセリフを吐きまくる、いかにもこの作者らしい黒いキャラクターと成り果てています。

 そして、なんといっても、呂布子たち同様に登場する、三国志を元ネタにしたキャラクターたちの言動が面白い。呂布子同様、原作とはかけ離れたアレンジで登場するキャラクターばかりで、そのギャップがなんとも言えません。特に、呂布子最大のライバルである曹操孟徳と夏侯惇元譲 は、かつての「天下無双 突きさせ!! 呂布子ちゃん」時代からやたら個性が際立っていましたが、今回もほとんど同じような性格で登場します。曹操は、原作の勇姿とはかけ離れたヘタレ的不幸キャラクターと化しており、マイペース過ぎる夏侯惇の言動にいちいちツッコミを入れる様が非常に面白いものとなっています。


・しかし、この設定には魅力を感じない。
 しかし、ギャグマンガとしては一定以上の面白さはあるかもしれませんが、作品全体の評価では、今ひとつ疑問が払拭しきれません。この「三国志のパロディ」という設定に、さほどの意味、魅力が感じられないのです。単に三国志のキャラクターを借りているだけで、それ以上のものが見られない。

 その点では、「壮太」連載時代の劇中アニメであった「天下無双 突きさせ!! 呂布子ちゃん」の方が、はるかに面白いものがありました。こちらの方は、キャラクターこそ原作からはかけ離れた容姿や言動をしているものの、作品の舞台は三国志の世界そのものであり、真面目な三国志の世界において、破天荒なキャラクターたちがバカバカしい言動を繰り返すという、そのギャップが大変に面白かったのです。三国志に詳しい読者ならばより楽しめるような細かい知識も散見され、その点でもよく出来ていました。三国志のパロディものとしては、かなり優秀な作品だったと思います。

 ところが、この「まじかる無双天使突き刺せ!!呂布子ちゃん」になって、舞台は完全に一新され、三国志の世界とはまったく関係のない「三国天使界」なるファンタジー的な舞台となってしまい、元ネタの三国志との関係は著しく薄くなってしまいました。しかも、実際の舞台は下界した先の現代日本であり、その点でも三国志との関係は非常に薄い。もはや、単に登場キャラクターのみが三国志キャラを元ネタにしているだけで、それ以外は三国志とはまったく無関係の設定となってしまったのです。この時点で、「硬派な三国志の世界で、バカバカしい性格となったキャラクターが、破天荒な言動をしまくる」という、元々あったギャップの面白さが、思いっきり減じてしまいました。これではもうさほど楽しめません。単にキャラクターだけが、原作の三国志から元ネタとして引っ張ってこられただけで、それ以上の意味が感じられないのです。

 これならば、劇中アニメ時代の「天下無双 突きさせ!! 呂布子ちゃん」をそのままスピンオフさせたほうが、はるかに良かったと思いますし、なぜこのようなアレンジを行ってしまったのか、それが非常に疑問です。個人的にも、新連載に際してこのような魅力的でない設定に変わってしまったことで、大きく落胆してしまいました。「壮太」の方が面白かっただけに、それを強引に終わらせてまでわざわざ連載に昇格させるほどのマンガなのかと、深く考えてしまいました。


・このエロを強調したネタはどうなのか。
 それともうひとつ、このマンガには大きな疑問があります。
 連載の第4回から登場することになった、曹操の部下の典韋というキャラクターなのですが、これも元ネタの三国志とはかけ離れたキャラクターと化しており、しかもそれが半裸の巨乳(爆乳)キャラであり、作中でもそのことをいちいち強調したような内容となっています。

 萌えをネタにしてギャグ化するのはまだよいのですが、このような露骨にエロを採り入れたキャラクターを出し、エロいビジュアルをネタにした作風というのは、さすがに少々抵抗があるように思います。作者の鈴木次郎さんは、女性作家でありながら男性的なオタク趣味を多数所持しており、このような男性向けとも言えるネタにも精通しているようですが、それにしても自作品にここまで露骨に趣味を採り入れるような作風は、少々以上に疑問です。

 掲載誌であるGファンタジー(スクエニ系では比較的女性向けの要素が強い雑誌)では、もちろん誌面に合っていませんし、読者の受けがよいとは考えにくいです。そして、Gファンタジーのみならず、スクエニマンガ全体の中で考えても疑問です。このところのスクエニは、このような露骨にエロを採り入れたマンガが頻繁に目立つようになり、特にガンガンやヤングガンガンでは、少年向け・男性向けのエロ要素を採り入れるのが、もはや当たり前にまでなってしまった感があります。これは、かつてのエニックスではまず見られなかった方針で、元々あったマンガの良さが失われているような気がしてならないのです。そして今、そのような要素が薄かったGファンタジーにまでエロ要素を露骨に見せるマンガが登場したことで、さらにその懸念が増大したように思うのです。


・アニメ化も含めて、今後の展開が不安。
 以上のように、この「まじかる無双天使 突き刺せ!!呂布子ちゃん」、作者の持ち味であるギャグには一定の面白さが見られるものの、それ以上の魅力には乏しい感があります。とりわけ、最大の売りと言える三国志を元ネタにした要素において、単に三国志のキャラクターのみが原作から借りてこられただけで、それ以上三国志との関係が薄い作品になってしまったことで、著しく魅力が減退してしまいました。

 元々、「壮太君のアキハバラ奮闘記」が非常に面白い連載で、個人的にもとても楽しみにしていた作品だったために、それがこのようなさほど魅力のない作品に取って代わられたことで、さらに不信の念も強くなっています。今のところ、「壮太」を超えるほどの作品になっているとは思えません。単に、作者の個人的な趣味だけが露骨に出た、自己満足的な要素の強いいびつな作品になっていると強く感じます。

 その上、今後展開されるアニメ化の企画も不安です。こちらも、元々は「壮太」のアニメ化企画だったのに、今では完全に「呂布子」に取って代わられ、しかも、それも4巻のOVAという中途半端な企画となってしまい、内容的にも脱力感漂う単発のギャグコメディとなっているようで、これで本当に成功できるのか著しく疑問です。OVAというコアなユーザー以外にはあまり興味を持たれないメディアで、決して知名度が高くないGファンタジーでの新連載が原作で、しかも内容的にもストーリーに乏しい単発のギャグコメディに終始するようでは、まず大きな人気・売り上げを得ることは難しいのではないか。これは、かなりはっきりと予想できる事態です。

 そして、アニメだけでなく、原作の方もあまりのびしろはないように思えます。結局のところ、三国志キャラのおバカな個性ばかりが全面に出たギャグコメディとなっているだけで、単発でのドタバタストーリーに終始しており、今後面白いストーリーに展開できるようになるとは思えないのです。ギャグマンガとして一定の面白さがある分、そんなに悪い連載ではないですが、それでも今後の発展性には大いに疑問符が付く作品だと考えます。


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