<鳥籠学級>

2009・3・22

 「鳥籠学級」は、Gファンタジーで2007年10月号から開始された連載で、少し前まで同誌で「夢喰見聞」を連載していた真柴真による新しい連載作品です。Gファンタジーは、おそらくはスクエニの雑誌の中で最もラインナップが安定しており、昔からの定番の連載作家がいまだに多く健在で、この作品も長期連載だった「夢喰見聞」同様に、Gファンタジー読者には見慣れた作風となっています。

 作者の前作である「夢喰見聞」は、大正時代の喫茶店が舞台で、主人公の獏(ばく)の蛭孤が、悪夢に苦しむ訪問者の依頼に応えるという、大正時代の浪漫溢れる美しい世界観と、それとは対照的な暗澹とした人間心理が印象に残る鮮烈な作品でした。かつ、依頼人の心に秘められた謎を解き明かすという凝ったミステリーの要素もあり、そちらでも存分に楽しめる、実に完成度の高い作品でした。耽美的な絵柄も、このマンガの世界観を表すにはふさわしいものでした。暗い話が多く、人を選ぶ作品だった感は否めず、あまり大きな人気の出るタイプの作品ではありませんでしたが、それでも素晴らしい良作だったと思います。

 そして、晴れてその長期連載を終了させたあと、約半年の間を経て、次回作であるこの「鳥籠学級」を開始。これは、前作とは打って変わって学園ものとなっており、コメディ的なシーンも前作より多く見られるなど、大きくイメージが変わった感があります。こちらも、この作者ならではの暗い人間心理や凝った謎解きが見られる作品ではあるのですが、それ以上にひどく奇抜な設定とキャラクターが特徴的な作品で、少々とっつきにくい作品になってしまった感があります。かつ、前作よりも女性向けというか、耽美的とも言えるキャラクター描写がより顕著になり、この点でもさらに人を選んでしまうように思えます。

 そして、これは最近のGファンタジーにおいて顕著な特徴でもあり、女性向けのイメージの強い作品が大幅に増えてしまったようで、雑誌自体がそのようなカラーをより強くしたように思えます。このマンガも、あの「黒執事」とコラボレーションを組んでフェアを行うなど、近いイメージの女性に好まれる作品として見なされているようです。


・一応は学園ものだが、トリッキーで奇抜な設定が目に付く。
 このマンガは、記憶喪失で自分がどこから来たかも分からない主人公・ミカゲが、鐘楼学園なる学校の生物教諭・クギウチに拾われ、彼の元で「異世界の平和を維持する」ために様々な命令をこなしていくというもの。そのほとんどは、クラスメイトたちの小さないさかいの解決であり、彼らの関係の修復に日々奔走することになります。
 しかも、クギウチの話によれば、ミカゲは異世界人で、この世界に与えた小さな影響が、異世界では大きな影響になってしまうと言い、ミカゲがいさかいの解決に失敗してしまうと、異世界の人間が大量に死んでしまうような悲惨な事態となる、とまで言うのです。これが本当かどうかまるで分かりませんが、とにかくそのことを妄信するクギウチに脅され、毎日のように「世界平和のために」クラスメイトの間を奔走することになるのです。

 このように、一応は学園を舞台にした学園ものとはいえ、不可解で奇抜な設定がベースにある作品であり、定番の学園ものとは大きく一線を画する、あまりにも異質な作品となっています。いかにもこの作者らしいトリッキーな設定で、ミカゲが関係の修復に失敗しそうになるとなぜか異世界に災厄が巻き起こり、なぜか人々が大量に死んでしまいそうになるくだりは、何度見ても理不尽すぎて、思わず笑えるシーンにもなっています。

 しかし、今回のこの設定は、あまりにも奇抜に過ぎるもので、少々とっつきにくいものになっている感は否めないでしょう。思えば、前作「夢喰見聞」は、「依頼人の悪夢を解決する」という、非常に分かりやすいコンセプトであり、毎回分かりやすいストーリーと結末が用意されていました。しかし、今作は、記憶喪失の主人公がいきなりどこともつかぬ学園に突然編入させられ、そこでなぜ先生の求める(強要する)依頼を解決しなければならないのか、そのあたりの設定があまりにも突飛過ぎて、一見してよく分からないと感じる読者もいるのではないでしょうか。今回は、少々妙な設定に凝りすぎてしまった感があります。このあたりの大きな謎は、やがて連載が進めば明かされる日も来るのでしょうが、それまではなんとも妙な設定に戸惑いながら読み進めることになるかもしれません。


・異様なキャラクターたちのオンパレードも人を選びそう。
 そして、学園を構成するミカゲのクラスメイトたちも、一筋縄ではいかないものたちばかりで、こちらでもかなり人を選ぶところがあると思います。

 一見してこの作者ならではの端整な美男美女が多く、見た目的には良好なのですが、その内面は完全に破綻しきっているキャラクターばかりで(笑)、自分の好きなものに対する思い入れが異様だったり、極端に卑屈だったり、極端に嗜虐的(ドS)だったり、なぜかある行動にこだわっていたりと、なんというか奇人・変人のオンパレードと言った感が強く、学園ものというにはあまりにも異色です。

 そして、そんなキャラクターたちが起こす問題行動にミカゲは徹底的に振り回されることになります。気の弱い主人公であるミカゲは、なるべく相手を刺激しないように徹底的に下手に出て丁寧に悩みを解決しようとするのですが、そんなミカゲの話をまともに聞いてくれる生徒自体ほとんどおらず、その破天荒な振る舞いにひたすら翻弄されることになります。この異様に個性的なキャラクターたちの行動の理不尽さ、バカバカしさこそが、このマンガの最大の魅力(?)と言えるかもしれません。

 そして、そんな傍若無人なキャラクターの振る舞いに、ひたすら我慢を重ねて応対していたミカゲが、ついには耐えられなくなってブチ切れ(笑)、思うがままの本音を相手にぶちまけるさまがまた面白い。この豹変したミカゲによる暴言とも取れるすさまじい発言こそが、このマンガの最高に笑えるポイントであることは間違いありません。見た目以上にギャグ、コメディ的な要素も強いマンガであるとも言えます。

 しかし、このような異様な奇人変人揃いの生徒たちと、それに対する主人公の豹変ぶりを見ても、このマンガは人によっては相当に抵抗が強いことが予想されます。ミカゲに問題の解決を依頼する教諭のクギウチも、相当に偏執的で理不尽な性格で、尊大にミカゲを脅して無理難題を押し付けるなど、こちらでも異様なキャラクター性が目に付きます。学園ものと称するにはあまりにも異質な作品であり、この異様な奇人変人キャラクターたちに感情移入することは、えらく難しいのではないでしょうか。もちろん、こういった作風が好きという人もいるとは思いますが、やはり相当に人を選ぶ作品であることは間違いないでしょう。


・耽美的で女性向けのイメージが増加したのもどうか?
 そしてもうひとつ、主に絵柄とキャラクターにおいて、耽美的な要素で女性向けの作品のイメージが強く感じられ、実際に女性人気を見込んた作品になっているような売り込み方も見られ、その点でも少々疑問です。

 作者の前作「夢喰見聞」においても、確かにその要素は見られました。もともとこの作品は少女誌であったステンシルの連載でしたし、絵柄も女性的で耽美的なイメージを感じるキャラクターが特徴的で、Gファンタジーに移籍してからもそれはまったく変わりませんでした。
 しかし、この「夢喰見聞」は、それ以上に全体的な絵柄の美しさと練りこまれたストーリー、登場人物の暗い心理を描く重厚なテーマ、そして凝りに凝った謎解きのギミックなど、誰もが楽しめる高い完成度を持ち、決して女性にしか楽しめないような作品ではありませんでした。ある程度絵柄が人を選んだかもしれませんが、それ以上に幅広い読者に評価された良作になっていたと思います。

 しかし、この「鳥籠学級」では、基本的な作風は大きく変わっているわけではなさそうですが、しかし設定が大きく変わり「学園もの」になったこと、学園の生徒の多くが女性的なイメージの美少年や美少女であること、さらには彼ら同士の愛憎の関係、時に強く身体で迫るような描写まで見られることから、ひどく女性好みの作品になってしまったような気がするのです。逆に、男性にとっては、この作風はかなり抵抗の強いものになったのではないか? そのため、この「鳥籠学級」は、前作ほど幅広い読者に注目されておらず、ひどく読者層が狭まってしまったように推測できます。

 また、編集部の方でも、このマンガをそのようなイメージで売り出している傾向が見られます。このマンガ、あの「黒執事」と組んで、何度か書店でフェアを行ったことがあり、その時もふたつの作品でイメージが似ていることを利用したコラボフェアのように感じられました。そして、このところのGファンタジーは、このような女性向けの要素を非常に強くしており、このマンガもその一環として扱われているのではないかとも感じられるのです。


・前作に比べるとえらく微妙な作品になった。面白いと言い切れるか難しいところ。
 このようにこの「鳥籠学級」、作者の前作「夢喰見聞」に比べると、奇抜でトリッキーな設定がひどく目立ち、かつ絵柄やキャラクターを中心に女性向けのイメージが強くなるなど、全体的に人を選ぶ要素が増え、かなりとっつきづらい作品になってしまったようです。前作はあまり大きな人気の出ない作風ながら、通好みの良作として多くの読者に評価されましたが、今回も同じように幅広い読者に評価されるかは難しいところです。実際に今のところでも、前作ほどの話題性を感じることが出来ず、一部の読者に限定された人気にとどまっているように思われます。

 とりわけ、このマンガが、今のGファンタジーで顕著な、女性向けのカラーを強く体現しているように思えるところに、私的にもかなりの抵抗を覚えます。前作の「夢喰見聞」も、確かに女性的で耽美的な絵柄・キャラクターにほんの少し抵抗を感じることがありましたが、それ以上に物語や謎解きの面白さ、レベルの高い美しい絵柄で再現される世界観と、ひどく見所の多い作品となっていて、少々の抵抗はまったく問題になりませんでした。しかし、今作では、その耽美的なキャラクターの表現が前作よりも強調されているようで、しかもひどくいびつな学園ものと言えるトリッキーな設定とあいまって、どうしても抵抗を感じてしまいます。

 加えて、前作で特徴的だった謎解きの面白さが薄れ、キャラクター同士の愛憎の関係に大きく焦点が当てられるようになったことで、作品の印象も大きく変わってしまいました。奇抜で耽美的なキャラクターの絡みが強調されることで、そういった関係を好むマニア系女性に人気が出そうな作風で、それ以外の読者にはひどく抵抗の強い作品になったと思えるのです。

 もちろん、これはこれでキャラクター同士の微妙な心理や駆け引き、主人公のミカゲがそれに振り回される面白さと意外な奮闘ぶりと、そういった点をじっくりと見れば確かに面白いものはあります。ただ、そこまで読み込んで作品を楽しめるようになるまでに、ひどく難のある微妙な作品になったと言えます。
 とりわけ、今のGファンタジーが求めているであろう女性向けの要素が、ひどく強くなったことに相当な懸念を感じます。これでは、今のGファンタジーの主要読者であろうマニア系の女性読者以外には、あまり読んでもらえない作品になってしまったのではないか。そのような雑誌の方針の中に、この真柴真の作品まで組み込まれてしまったようで、これは少々残念に思ってしまいました。


「Gファンタジーの作品」にもどります
トップにもどります