<Xiphos〜新世界の墓標〜>

2005・2・10
一部改訂・画像追加2006・10・29

 「Xiphos(サイフォス)〜新世界の墓標〜」は、2004年にGファンタジーで不定期のシリーズ連載として始まった作品です。作者は、原作に千葉克彦、作画に結賀さとるを起用しています。現在、作画担当の結賀さとるは、同じGファンタジーの誌面で、同誌の看板作品である「E'S」を連載中であり、この「Xiphos」は、その連載の合間を縫って、数ヵ月の1回のペースの不定期連載、という形を採っていました。しかし、一年ほど続いた後で長く連載が休止しており、単行本も一巻のみが出た状態で止まっています。

 内容的には、壮大な世界観が売りの「大河スペクタクルファンタジー」と言ったところでしょうか。前向きで勇敢な少年が主人公で、迫力のバトルシーンもあり、その点では少年マンガ的な要素も強く感じられる作品です。同じエニックスの作品では「ロトの紋章」をイメージしてもらえれば分かりやすいでしょう。
 あるいは、かつて結賀さとるが少年ガンガン誌上で連載した「天空忍伝バトルボイジャー」を彷彿とさせるイメージもあります。その「バトルボイジャー」も原作者付きの企画で、かなりの力作でしたが、今回の「Xiphos」もまた、原作者・作画担当者双方が存分に実力を発揮しており、極めてレベルの高い作品に仕上がっています。


・原作者の千葉克彦とは何者か。
 さて、作画担当の結賀さとるに関しては、Gファンタジー読者には(あるいはエニックス読者には)おなじみのマンガ家なわけですが、では、この原作を担当している「千葉克彦」とは一体何者なのでしょうか?

 千葉克彦さんは、本職はTVアニメの脚本家です。「ラムネ&40」「テッカマンブレード」「ガンダムW」「アウトロースター」「∀ガンダム」等、数々のTVアニメのシリーズ構成・脚本を担当しています。また、これらのアニメ作品のいくつかについては、ノベライズ(小説化)の仕事もやっているようです。
 (さらには、このマンガの連載前に、結賀さんのもうひとつの連載である「E'S」のTVアニメ版「E'S OTHERWISE」のシリーズ構成・脚本をも担当しており、おそらくはこれが、今回の連載企画が立ち上がる直接のきっかけになったのだと推測できます。)
 このマンガの単行本前書きで、千葉さんは「ずっと戦う少年ばかりを書いてきました」とコメントしていますが、これらのTVアニメのラインアップを見れば、なるほどと納得できます。

 しかし、この「Xiphos」に関しては、これらのTVアニメと比べれば随分とイメージが異なっており、わたしも最初に千葉さんの過去の経歴を知った時には、過去の担当作品とのイメージのギャップに戸惑いました。これらのTVアニメに比べれば、随分と落ち着いた重厚な雰囲気が感じられ、さらには歴史的・政治的な要素まであり、少年向けでありながら同時にかなり高い年齢層をも視野に入れた「渋い」作品になっています。
 別の言い方をすれば、「これをそのままアニメ化しても、まず一般受けはしないだろうな」とも思わせる作品でもあり、その点では、千葉さんが今までのアニメ関連の仕事では出来なかったことを、この作品でやろうとしているのではないかとも思えました。つまり、この作品こそが、千葉さんが本当に書きたかった物語ではないかとも考えられます。実際、単行本のあとがきを読むだけでも、原作者のこの作品に対する思い入れの強さが感じられ、もちろん肝心の作品内容も非常に力のこもったものになっています。


・圧倒的な作画レベルの高さ。
 まず、このマンガで目を引くのは、やはり圧倒的なビジュアルレベルで見せる壮大な世界、そして迫力のバトルシーンでしょう。

 作画担当の結賀さんは、間違いなくエニックスでは最高の作画レベルであり、もちろん他社の漫画と比較してもトップレベルの絵のうまさを持ち合わせています。彼女の絵は、しっかりしたキャラクターの造形はもとより、むしろ緻密な背景の描き込みと、エフェクトをふんだんに採り入れた迫力のアクションシーンが持ち味です。この、壮大な世界観とバトルアクションが持ち味のマンガの作画担当としては、まさにうってつけの存在であると言えます。Gファンタジーの作品は、エニックスの他雑誌と比べても作画レベルが高いのですが、その中でもやはり結賀さんの作品は突出しています。このビジュアルを見るだけでも、このマンガを手に取る価値は十分にあると言えるでしょう。

 ちなみに、結賀さんはカラーの原稿も非常に美しいのですが、単行本ではそのほとんどがモノクロページに編集されて失われているのが残念ですね。美しい彩色原稿が、表紙と扉絵くらいしか見られないのは惜しい。


・少年向けの要素を持ちながらも、それ以上に重厚さを見せる物語。
 そして、肝心の「原作:千葉克彦」による物語についてですが、少年マンガ的とも言える、分かりやすいファンタジーやバトルアクションの要素を持ちながらも、決してそれだけでの作品にはなっていません。むしろ、凝りに凝った厚みのある設定、優れたプロットによるストーリー展開のうまさ、そして何よりも、主人公とそれを取り巻く人物たちの重厚な人間描写が最大の魅力でしょう。

 主人公はエーゲ海の小国の王子イーレ。彼は、自分の国を守る力を手に入れるために、強大な力を持つ「神の遺物」が眠るという未知の大陸に探索の旅に出ます。王子を取り巻く友人や家臣、父王や王位継承者である兄、そして神の遺物を求める旅で出会う個性的な人物たち、そのいずれもがそれぞれの思惑を持っており、神の遺物を強く求めようとする確固たる意志や、あるいは国や世界の行く末を思って苦悩する姿が丹念に描かれており、複雑かつ重厚な人間模様を見せてくれます。このシリアスな人間ドラマこそが、作品最大の魅力であると言えます。主役級のキャラクターだけでなく、脇役とも言える人物も余すことなく描かれており、それぞれの人物の描写に深みがあります。
 個人的には、物語の序盤で、王子を助けて未知の大陸へ導く海賊船の船長が気に入っていました。単なる豪快な船長ではなく、重い過去を抱えて自らを救済するために神の遺物を求めようとする姿に、言いしれない哀愁と人間としての深みが感じられました。物語序盤のうちにあっさりと命を落としてしまったのが非常に残念でしたが・・・。


・現実の歴史の設定が入っているのも魅力。
 さらにこのマンガの優れているのは、単なる幻想的なファンタジーではなく、現実の歴史を舞台にした設定がふんだんに盛り込まれている点です。幻想的で壮大なファンタジーの要素だけでなく、現実の歴史を範とした政治的なドラマが楽しめるのは大きい。

 前述のとおり、主人公はエーゲ海の小国の王子であり、彼の国は常に隣国の強大国家(オスマン=トルコ帝国だと思われる)の侵略の脅威にさらされてきました。その吹けば飛ぶような小国が、今まで独立を保ってこれたのは、ひとえに「竜眼」と呼ばれる超越的な力を持つ兵器のおかげでした。その「竜眼」による、海に渦を巻き起こす力で敵の海軍を撃破して、国を守ってきたのです。

 しかし、王子の時代になって、この頼みの「竜眼」が突然壊れてしまい、小国は一気に侵略の危機に見舞われます。だが、幸運なことに、当時のトルコ帝国は、先のレパントにおける海戦で大敗を喫しており、いまだ体勢を立て直している時期であって、すぐには攻めてくる気配はありませんでした。そこで、王子であるイーレは、この機に乗じて、新たに国を守る力を手に入れるべく、強大な「神の遺物」が眠るという未知の大陸へ、探索の旅へ出ることを決意します。

 このように、架空のファンタジーの設定もありながら、そこに現実の歴史の設定がうまく取り入れられ、独創的で重厚な世界設定を作り出すことに成功しています。もちろん、エーゲ海やトルコ関連だけでなく、当時のヨーロッパ近辺の情勢を範とした要素もふんだんに見られます。こういった歴史関係の話が好きな人ならば、より楽しく読める作品ではないでしょうか。
 小国の国内で、あるいは国家間で、政治的な要素がふんだんに見られるのも面白い。基本的には少年層を読者に据えたファンタジー物ですから、決して凝りに凝った政治物というわけではないのですが、それでも要所要所で政治的な駆け引きや思想、閉鎖的な王宮内で芽生える暗い思惑の部分もあますことなく描かれており、そのあたりの描写も見るべきものがあります。


・あらゆる点でレベルの高い、完成された作品。
 このように、この「Xiphos」は、現実の歴史要素も取り入れた力のこもった設定とプロット、重厚な人間描写に加えて、卓越した作画能力による壮大な世界描写、そして迫力のバトルアクションまでが楽しめる、極めてレベルの高い作品であり、実力派の原作者と作画担当者双方がいかんなく実力を発揮した、非常に優秀な企画であると言えます。今のエニックスの全マンガの中でも、ほぼトップレベルの完成度をもつ作品ではないでしょうか。


・連載休止のままにしておくのはあまりに惜しい逸品。
 現在、この作品はGファンタジー上で不定期連載という位置づけであり、次にいつ載るかも未定の状態です。現状では、もう最後に掲載されてからかなり長い期間が経過しており(実質的に休止中)、最悪の場合このまま立ち消えになってしまう可能性すらあります。いや、その可能性はかなり高いと言えるかもしれません。
 しかし、ここまでの作品が、今の状態で埋もれたまま終わってしまうというのはあまりにも惜しい。結賀さんのもうひとつの連載である「E'S」が雑誌の看板作品であり、しかも連載が佳境に入っている今、無理をして「Xiphos」を再開させるのも難しい状況ですが、それでもなんとかして、この作品を日の当たる場所に押し出していく努力が欲しいですね。
 単行本も一巻が出ただけで打ち止めになっていますが、これが今のところ我々読者の唯一の拠り所となっています。一巻だけでも十分読み応えのあるマンガであることは疑いないですが、「これから本格的にストーリーが動く」というところで話が止まっているのも事実で、なんとももどかしい思いがします。

 個人的には、これほどのマンガなのですから、「E'S」が終了した暁には、最優先で連載を再開してほしいと思います。そうしないと、原作者の千葉克彦さんにも悪いでしょう。何年越しの復帰でもよいので、なんとしても再開させるべきだと考えます。


(余談)
 それにしても、このマンガは「勇敢な少年によるバトルアクション」という、少年マンガ的な要素も持ち合わせているわけですが、このようなレベルの高い作品が、少年マンガ路線を採るガンガンではなく、ファンタジーコミック誌であるGファンタジーから出てくるというのは大いなる皮肉です。作画レベルにしろ、現実の歴史まで絡めた重厚な設定にしろ、人物の深い描写にしろ、優れたプロットによる卓越したストーリーにしろ、あらゆる点でガンガンの「少年マンガ」よりもはるかに高いレベルの作品だと思いますが、どうでしょうか?


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