<ZOMBIE-LOAN(ゾンビローン)>

2003・2・23
全面的に改訂2004・1・9
全面的に改訂・画像追加2006・10・24

 「ZOMBIE-LOAN」は、Gファンタジーで2002年11月号より連載を開始した、今では同誌の中核作品のひとつと言える作品です。作者は、PEACH-PITですが、このマンガ以外の他誌での連載の方が一躍人気を得て、そちらの方でむしろ知れ渡っている作家です。このマンガの連載開始当時は、さほど知られた作家ではありませんでしたが、その後の連載作品のヒットに伴い、現在では非常な有名な作家となっています。

 しかし、この「ZOMBIE-LOAN」は、他誌での連載と異なり、さほど大きなメディア展開(アニメ化)が行われておらず、今ひとつ知名度の点では劣る感は否めません。しかし内容はひどく充実しており、決して他の作品に見劣りするものではありません。美少女系のキャラクターが前面に出た他作品と比べて、女性キャラクターが主役の視点で、かつ美形の男性キャラクターが前面に出てくるあたり、やや少女マンガ的で女性読者寄りの印象もありますが、しかしPEACH-PIT作品の本質的なところは変わっていません。現在ではGファンタジーの中核となる長期連載マンガに成長しており、これからの連載クオリティも期待できる作品だと思われます。


・PEACH-PIT三大連載作品の一角。
 作者のPEACH-PITは、「千道万里」「えばら渋子」の二人の女性作家によって構成されるマンガ家ユニットであり、この「ZOMBIE-LOAN」の開始当時の頃から、複数の雑誌で3つのマンガを同時連載という、かなりの精力的な製作活動を行っています。

 まず、この「ZOMBIE-LOAN」以前からの連載として、「電撃コミック・ガオ!」(メディアワークス)にて連載を行っていた「DearS」があります。宇宙人の美少女との同居系ラブコメといった印象の作品でしたが、意外にもそれに留まらない本格的でシリアスな設定・ストーリーも併せ持っており、作者の才能の片鱗を感じることが出来るものでした。コンスタントな人気もあったようで、のちにアニメ化もされています。
 そして、この「DearS」の連載中、ほぼ同時期に、新たに2つの新連載が開始されます。ひとつが、この「ZOMBIE-LOAN」、そしてもうひとつが、あの「ローゼンメイデン」です。この「ローゼンメイデン」、「コミックバーズ」(幻冬社)というかなりマイナーな雑誌での連載だったため、連載初期の頃はまったくと言っていいほど注目されていませんでした。しかし、これがのちにアニメ化され、しかもこのアニメが素晴らしいクオリティを持ち、大ヒットします。そして、原作の方にも一気に注目が高まり、今ではPEACH-PIT作品の中で、突出した人気と評価を持つ作品となっています。
 一方で、この「ZOMBIE-LOAN」、「ローゼンメイデン」とほぼ同時期の連載開始作品であり(「ローゼン」の方が2、3カ月早い)、こちらはこちらで雑誌内でこそかなりの人気を獲得したものの、アニメ化等の外へ向けたメディア展開は少なく、雑誌外ではさほど知られないままでここまで来た印象があります。しかし、その内容は決して他のPEACH-PIT作品に劣るものではなく、むしろそれ以上に優れた点も多い作品です。個人的には、PEACH-PITの連載作品の中で、僅差で「ローゼンメイデン」をかわして最も評価している作品です。

 なお、現在では「DearS」の連載は終了しており、その後、「しゅごキャラ!」という連載をなかよしで開始しています。なかよしだけあって、低年齢向けの少女マンガの趣きが強い作品ですが、それでも作者の力量は健在で、やはりかなり読めます。「ローゼンメイデン」のヒットに伴う作者の知名度の上昇で、こちらの作品も売れているようです。


 このPEACH-PITというマンガ家ユニットの面白いところとして、どちらかひとりが原作、もうひとりが作画というよくある分業制を採用しておらず、双方が共に原作(ストーリー)を考え、双方が共に作画を行っているという、珍しいシステムを採用している点が挙げられます。そのため、同じ「PEACH-PIT」名義の作品でも、作品ごとにその絵柄が大きく異なるのが特徴的です。具体的には、「DearS」と「ZOMBIE-LOAN」の作画は主に千道万里が担当しており、「ローゼンメイデン」は主にえばら渋子の方が担当しています。そのため、この双方で、同作者の作品とは思えないほど、絵柄が劇的に異なります。



・「ZOMBIE」と「LOAN」という面白い設定の組み合わせ。
 前置きが長くなりましたが、ではこの「ZOMBIE-LOAN」の内容に入ります。
 この「ZOMBIE-LOAN」は、「ZOMBIE(ゾンビ)」とタイトルに名の付くように、オカルト要素をふんだんに取り入れた現代ファンタジーといった趣きの作品であり、主人公たちが街に潜むゾンビたちを退治するという「退魔バトルもの」の要素も強いものです。これだけなら実にありがちな、どこでも見るような平凡な設定の作品だと言えますが、問題はもうひとつの「LOAN(ローン)」というタイトルです。
 「LOAN」とは、もちろんローン会社のことで、すなわち消費者金融です。この、いかにも現代的で、カネにまみれた世俗的な存在が、「ZOMBIE(ゾンビ)」というオカルト的、非現実的な存在とセットになってタイトルに組み込まれているのが、実は大変に面白く、しかもこれがマンガのオリジナリティをそのまま体現しています。

 このマンガの主人公である、チカ(赤月知佳)シト(橘思徒)のふたりの高校生は、不慮の事故に巻き込まれて若くして死んでしまい、しかも「Z LOAN」を名乗る怪しげな消費者金融の経営者と、ゾンビとなって借金を負いこの世に留まる契約を結んでしまい、借金を返済して人間に戻るために同族であるゾンビを退治する使役についています。このように、「ゾンビ」というオカルト的・非現実的な存在のバックに、「消費者金融」といういかにも現代的で世俗的な組織がついている、そのアンバランスで異色の設定、タイトルセッティングには見るべきものがあります。実際、この「ゾンビローン」というタイトルは、「ゾンビ」と「ローン」という、正反対のイメージの単語で構成されている点が実に印象的で、誰もが思わず「一体どんな内容なのか」と関心をそそられる作りになっています。

 そして、もうひとつ面白いのは、このマンガの主人公たちは、特に何の落ち度もないのにゾンビとなって同族退治に奔走させられている、という設定です。最近、どういうわけか、このような「人外となった主人公が、同族である化け物退治を強制される」マンガがかなり頻繁に見られるのですが、この「ZOMBIE-LOAN」はその中でも先駆的な存在です。


・キャラクターの生き方を問う重厚な物語。
 そして、このマンガは、ゾンビと言う存在を核にしたオカルト的な設定や、ゾンビたち人外の者同士のバトルアクション、そしてテンポよく進むストーリーと、娯楽作品としてかなり良く出来ています。しかし、それ以上に、ひとりひとりのキャラクターの「生き方」を問う重厚なテーマ、思想性が非常に重視されているように思えます。そして、それらのキャラクターの多くが、非常にネガティブな言動を取ることも特徴的です。

 具体的には、チカとシトと並ぶもうひとりの主人公と言える、紀多みちるの存在が印象的です。彼女は、言いたいことがはっきり言えない気弱な性格で、学校では同級生たちにパシリとして体よく使われ、そして家では、両親の死別で手に入れた莫大な遺産を狙う叔父夫婦とまるで打ち解けない関係で、日々鬱積しつつ、しかしどうにもならないと半ばあきらめて過ごしています。しかし、ある日「死者の首にある輪を視る」(=人間の間にまぎれたゾンビを見分ける)という特殊能力を持つことを買われ、チカとシトと共にゾンビ退治を行うことになります。
 実は、連載の最初のエピソード(単行本一巻収録)は、このみちるがほぼ主役で、彼女が日々を何となく死んだように過ごす状況から、本当に自らが生きているという前向きな 状況へと脱出するまでの過程が、丹念に描かれています。そして、このエピソードが本当に面白かった。一巻の最後でみちるが完全に立ち直り、そこできれいに終了しているため、もうここで連載が終わってもいいと思ったくらいです(笑)。
 中でも圧巻は、エンディングの直前のシーンで、みちるが叔父夫婦に対して絶縁を宣言し、今までの養育費を札束にして突き出し、家を出ていくシーンです。ここは本当に素晴らしく、ひとりの人間が完全に立ち直ったことを象徴する、非常に鮮烈なシーンでした。

 2巻以降の展開では、今度は主人公のチカとシトによる、人生論とも言うべき思想の片鱗が目を引きます。
 チカとシトはゾンビとしてこの世に留まっているわけで、その気になれば年も取らずに永遠にでも生きることが出来ます。これは、一見して魅力的にも見えます。しかし、チカによれば、それは非常に耐え難いもので、生命のサイクルを歩む周りの人々からひとり取り残され、ただ呆然と立ち尽くしている状況でしかないと吐露します。このあたりの「ゾンビから見た人間の生のあり方」は非常に説得力があります。

 そして、その状況からなんとしても脱出すべく、日々借金を返済すべくカネ稼ぎに奔走します。この、「人間として生きるためにカネを稼ぐ」という点に一分の迷いもないその姿には、大いに惹かれます。というか、カネを稼ぐという行為がこんなにカッコイイとは。貪欲にカネを稼ぐという行為が、ここまでカッコよく描かれている物語は、あまり見たことがないですね。一般的には、典型的な俗物的行為と見られている「カネ稼ぎ」を、人間の生きる目的として再構成する。この逆転の発想が面白い。


・この絵の完成度は残念。
 しかし、このマンガは、内容的には重厚で読み応えがあるものの、絵的には少々完成度が低いかもしれません。
 もっとも、実はこのマンガの絵を評価する人も多く、確かに深みのあるキャラクター描写には惹かれるものもあり、一枚絵のイラスト(特にカラーイラスト)も綺麗に描けてもいます。しかし、それ以上に安定感に欠けている点は否定できません。作画が雑に思えるコマがかなり頻繁に見られますし、しかも肝心のバトルアクションの出来がいまいちです。全体を通して、勢いこそあるがそれ以上に画面構成が大雑把で、キャラクターの作画も崩れていることが多く、いまひとつ魅力に欠けます。

 この「ZOMBIE-LOAN」の作画は、PEACH-PITのふたりのうち千道万里が担当していますが、個人的には、えばら渋子が担当する「ローゼンメイデン」の作画の方が好きですね。こちらの方は、かなり繊細な絵柄で、雰囲気のある落ち着いた画面構成がよく出来ています。キャラクターの作画も崩れることが少なく、安定しています。どうもこのあたりで、「ZOMBIE-LOAN」の方が、絵的に劣っている感がしないでもありません。


・アニメ化の声がかからない惜しい作品。
 しかし、作画面でのマイナスを差し引いても、これが面白い作品であることは間違いなく、内容的にはPEACH-PITの他作品と比べても見劣りしません。そして、キャラクターの生き方を前面に押し出した深みのある内容は、やはりこの「ZOMBIE-LOAN」のそれが最も強く響きます。

 しかし、このマンガは、PEACH-PIT作品の中で、ほぼ唯一アニメ化の声がかかりません。ドラマCDは積極的にリリースされ、雑誌内では高い人気を保っており、かつあの「ローゼン」を描いたPEACH-PITの別作品ということで、その点でも有利なのですが、しかしアニメ化の話は聞かれない。その理由は、昨今のTVアニメ事情を考慮すれば容易に推測できてしまうのが惜しいところであり、少々理不尽な感もあります。Gファンタジーという、スクエニ内でもマイナーな雑誌連載というのも、アニメ化を遠ざける大きな要因のひとつでしょう。現時点では今後のアニメ化も可能性は低いように思われます。

 もちろん、だからと言って、このマンガの価値が落ちるわけではありません。むしろ、Gファンタジー内では、連載初期の頃から編集者側にも面白さが認められ、かなりの積極的な推進ぶりが見られており、そして読者側の反応も上々で、男女問わず個性的なキャラクターの生き方に人気が出ています。一個のマンガ連載としては非常に優秀な存在でしょう。このまま、下手に派手な展開をせずに、コンスタントに連載を続けて、有終の美を飾るのもひとつの道ではないでしょうか。


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