<BAMBOO BLADE>

2006・5・10

・剣道少女は好きですか?
 「BAMBOO BLADE(バンブーブレイド)」は、ヤングガンガンで創刊号から連載を開始した、剣道もののスポーツマンガと言える作品です。当初は他の看板作品の陰に隠れた中堅どころの作品という位置づけでしたが、コンスタントに連載を重ねるうちに確かな面白さを発揮し、次第に人気を集め、今ではヤングガンガンでも上位クラスの人気を誇るまでに成長してきました。今のヤングガンガンは、創刊当初からすれば非常に誌面が充実してきましたが、それにはこのような、雑誌を下から支える優良作品の存在を抜きにしては語れません。さらには、これまでガンガン系ではスポーツマンガでほとんど成功作が出ておらず、そんな中でほぼ唯一成功したマンガという点でも非常に優秀です。

 このマンガは、原作を土塚理弘、作画を五十嵐あぐりが担当しています。この原作担当・作画担当の双方が、過不足なく自分の実力を発揮しており、それがこの作品の完成度を高めています。このふたりは、双方ともに一人でも活動してきたマンガ家であり、別に原作専門・作画専門の作家というわけではありません。描こうと思えばどちらか一人でも描けるわけです。しかし、もしこのふたりのどちらかが欠けて、一人でこのマンガを執筆したところで、それほど面白いマンガにはならなかったでしょう。このふたりを選んだ企画自体が成功だったと言えます。


 さて、このマンガは、室江高校という学校の剣道部を舞台にしており、その部は男女が共に活動する部活で、実際に男女双方の部員のキャラクターが登場します。しかし、この作品でクローズアップされているのは、主に女子部員であり、剣道部顧問の先生であるコジローの思惑に乗って、他校との対抗試合に向けて奮闘する様子が、ギャグも交えて軽妙に描かれています。
 で、この女の子たちの魅力がとても大きいのです。とにかく作画担当の五十嵐あぐりさんがいい仕事をしていて、その萌えレベルは非常に高い(笑)。そもそも剣道を扱うマンガが少ない中、まさか今になって始まったマンガで剣道少女に萌えるとは思いませんでした。

 そして、単に見た目がかわいいだけでなく、性格や内面も個性的であるところが最大の魅力です。当初から圧倒的な読者人気を誇る、正義のヒーローに憧れる小さな天才剣士・タマちゃんこと川添珠姫(タマキ)、剣道部部長にして明るいムードメーカーである千葉紀梨乃(キリノ)、気が強そうにみえて実は繊細で思い込みが激しい桑原鞘子(サヤ)、学園の不良生徒で極端な二面性と凶暴性を持つ美人生徒・宮崎都(ミヤミヤ)と、とにかく個性派揃いです。
 さらには、のちに対戦相手となる高校の女子部員たちも登場しますが、彼女たちもまた明確に面白い個性が与えられています。このあたりのキャラクターの作りこみは本当に見事で、原作者の土塚さんもまたとてもよい仕事をしているのです。


・軽妙に進む脱力感全開のまったりストーリー。
 キャラクターの作りこみだけではありません。ストーリーに関しても、原作の土塚さんがよくやっています。
 とにかく脱力感全開でまったりと進むストーリーは、しかし一方でテンポよく進み、読んでいてとにかく楽しいのです。いわゆる熱血系のスポーツものとは一線を画する軽妙なノリがあります。
 その軽妙な脱力感全開のストーリーを象徴する存在が、主人公(?)である剣道部顧問のコジロー(石田虎侍)でしょう。この万年貧乏な高校教諭は、部活においても非常にいい加減な男で、部員もろくに集めず適当なノリでやっていました。しかし、この男は、他校の剣道部顧問をしているかつての学生時代の先輩と賭けをして、教え子同士の試合で勝てば「本格江戸前寿司一年間食い放題」という報酬につられ、いきなりはりきって剣道部員たちをけしかけ、部員を集めて練習させようとします。このような、自分の生活と食費と寿司のみしか頭になく、自分勝手な目的に邁進する様がとにかく笑えるのです。

 もちろん、コジロー以外のキャラクターも一癖もふた癖もある連中ばかりです。彼らが、その個性を存分に発揮しつつ、時には真剣な面を見せつつも、全体としてはまったりとした雰囲気で軽妙なノリでストーリーを進めていく。同時に、かなりの頻度でギャグも入るのですが、これがまたとても面白い。原作者の土塚さんは、元々はギャグマンガで一世を風靡したマンガ家であり、そのギャグの面白さにぬかりはありません。

 そして、この脱力感溢れるストーリーとギャグこそが、このマンガの最大のオリジナリティになっています。このような気楽なノリは、従来の熱血系・主人公成長系のスポーツものには見られなかったものです。そして、これこそが、このマンガがガンガン系のスポーツマンガで唯一成功した最大の要因ではないかと思えるのです。今までの(特に最近の)ガンガン系のスポーツマンガは、ジャンプあたりに見られるメジャー系のスポーツマンガの内容を踏襲するばかりで、平凡でなんら特別な面白さが見られませんでした。しかし、このマンガは違います。このテンポよく軽妙に進むまったり全開のストーリーは、従来のスポーツマンガに半ば飽きつつあった読者の興味をも大いに引きつけました。


・原作者と作画担当者の絶妙なコラボレーション。
 上記のように、作画担当者によるキャラクターの魅力と、原作者によるオリジナリティ溢れるストーリーが噛み合い、このマンガを安定して読める良作に仕上げています。このふたりのうちどちらが欠けても、このような面白いマンガにはならなかったと思います。
 元々、原作者である土塚さんは、ガンガンでの現行連載である「マテリアル・パズル」において、ストーリーの面白さに関しては定評を得ていました。しかし、その一方で、どうしようもない「絵のレベルの低さ」という欠点も抱えていたのです。その土塚さんの絵の中でも、特に致命的なのは、「女の子がまったく描けない」という点です。場合によっては、「女の子が女の子に見えない」ほどで、これでは、女子剣道部員がメインキャラクターであるこのマンガの作画は、どうしても無理がありました。

 そこで、かわいい女の子が描ける作画担当者として、五十嵐さんを採用したのですが、この人選が極めて適切でした。単にキャラクターがよく描けているだけでなく、全体的な作画レベルも良好で、土塚さんの絵よりも見た目のイメージははるかによくなりました。この五十嵐さんの絵がなければ、このマンガは絶対に成功しなかったでしょう。
 また、この五十嵐さんは、かつて廃刊したギャグ王において連載を抱えていた古株の作家であり(当時のペンネームは「曾我あきお」)、彼女がこの作品で復活したことも意義深いものでした。今は忘れられたかつての人気作家が、このような形で復活できたのは、古参読者としては大変に嬉しいものでありました。


・スポーツものとしても優良、剣道の姿もよく描けている。
 さて、ここまで、キャラクターの魅力と脱力感全開のストーリーの面白さについて書いてきましたが、実は、このマンガは、スポーツものとしてもよく描けています。そう、肝心の剣道の描写もよく描けており、剣道ものとしてもかなり読めるものになっているのです。

 もっとも、剣道の経験者からすると、細部のディティールにまだ不満があるみたいですが、それでもこの内容ならば十分許容範囲であり、全体を通してかなりよく描けている印象があります。単なる剣道の練習や試合の描写だけでなく、剣道の練習方法や用具の説明、さらには剣道の精神についての解説も見られるなど、剣道の魅力を広く伝えようという作者の意志が強く感じられ、これはかなり好感が持てます。軽いノリの作品に見えて、実は剣道もの、スポーツものとしても楽しめる作品になっているのです。

 そして、これも最近のガンガン系スポーツコミックには見られない長所です。近年、主にガンガン本誌で幾度もスポーツマンガの読み切りや連載が掲載されましたが、どれも細部のリアリティがいい加減だったり、主人公たちの超人的すぎるプレイばかりが目立ったりと、決していい出来の作品ではありませんでした。中には、スポーツのルールさえろくに分かっていないマンガも散見されました。その中で、この「BAMBOO BLADE」には、作者の剣道に対する確かな思い入れが感じられ、ガンガン系スポーツマンガで唯一このマンガが成功した一因にもなっています。


・スポーツ(剣道)、ストーリー、ギャグ、萌えと、あらゆる要素のバランスが取れている。
 以上のように、このマンガは、とにかく色々な要素がよく出来ており、バランスの取れた作品になっているのが最大のポイントです。
 もちろん、最大の人気の理由が女の子のかわいさであることは間違いありません。繰り返しますが、このマンガの萌えレベルの高さは非常に高く(笑)、ヤングガンガンの錚々たる萌えマンガのラインナップの中でも最上位の一角に位置する素晴らしいマンガとなっています。このマンガのマニア人気の高さはあなどれません。
 しかし、その一方で、このマンガは、単なる美少女萌え一辺倒のマンガにもなっていません。決して萌えばかりを強調した内容ではなく、キャラクターの描写自体は意外にあっさりとしており、他の要素とのバランスが取れているのが最大の長所です。確かに出てくる女の子はとてもかわいいし、それが人気の大きな要因でもあるのですが、しかし単なる「萌えマンガ」にはなっていないのです。スポーツマンガとして剣道の描写はきちんと描けているし、軽妙に進むストーリーや合間に入るギャグも大変に面白い。このあたりのバランス感覚こそが、実はこのマンガの最大の魅力だと言えます。


・タマちゃんの人気は絶大、実は最大のポイントか?
 しかし、そんな中でも、ひとつだけ突出したポイントを挙げるとすれば、それはこのマンガの主人公であるコジロータマちゃん(川添珠姫)に尽きると言えるでしょう。
 このタマちゃん、連載開始当初から大人気のキャラクターで、いきなりこのマンガのシンボル的存在となった感がありました。その圧倒的な強さと凛々しさの一方で、ちんまりとしたかわいらしい外見と、アニメや特撮の戦隊ものヒーローに憧れ、正義のために闘うという微笑ましい精神をも併せ持っているというキャラクターで、その凛々しさの中にキラリと光る幼児性というかなんというか、そのあたりが一部の読者に異様な支持を呼び、このマンガのスタートダッシュの大きな要因となった感すらあります。もうなんていうかタマちゃんタマちゃんタマちゃんタマタマタマタマみたいな熱狂ぶりで、いっそこのマンガのタイトルをタママママママにしてもいいんじゃないかとすら個人的には思ってしまいました。まさに主人公にふさわしい人気ぶりだと言えるでしょう。

 何?主人公はコジローではないかと? なに言ってるんですか。あんないい加減な男が主人公なわけないじゃないですか。いいですか、このマンガは、主人公の天才剣士・タマちゃんの成長ぶりを描く青春系剣道コミックなのですよ! だいたい一巻の表紙だってタマちゃんじゃないですか。主人公が最初の表紙に来るのは当たり前。表紙に描かれる以上、タマちゃんが主人公に決まっているのです。


・ガンガン系唯一のスポーツもの成功作として貴重な存在だ。
 このように、「BAMBOO BLADE」は、様々な点で楽しめる良作に仕上がっており、今のヤングガンガンを支える連載のひとつとして、なくてはならないものとなっています。しかも、ガンガン系でほぼ唯一のスポーツマンガ成功作という点が非常に大きい。
 これまで、ガンガン系ではスポーツマンガで成功した例がほとんどありません。ガンガン創刊時代には、いくつか低年齢向けの王道少年マンガ全開のスポーツものがいくつもありましたが、どれも平凡の域を出ず、早期にことごとく打ち切りとなりました。そして、ガンガンが独自路線に移行した中期以降、スポーツマンガは誌面のカラーにも合わなくなり、あえて載せる必要すらなくなり、スポーツもの不在が長らく続いていました(それがガンガンのカラーでした)。そして、最近になってガンガン編集部が大幅な路線の変更をして以来、また王道的なスポーツマンガの掲載を始めましたが、これがどれもまったく低レベルかつ平凡で、これまた成功作はまるで出ていません。
 そんな中で、この「BAMBOO BLADE」だけは、その萌え要素・軽妙なストーリーとギャグ・卓越した剣道描写など、様々な点で人気を集め、見事に成功しました。やはり、従来の王道的なスポーツマンガにこだわらなかった独創的な作品創りが、成功の最大理由ではないでしょうか。

 ところで、昔ギャグ王で、廃刊間際にこれに似たカラーのマンガが一時連載されたことがありました。「逆転!イッポン!」(岬下部せすな)とかいうタイトルの「女子柔道マンガ」で、萌え要素にライト感覚のストーリー、ギャグと、「BAMBOO BLADE」に近いカラーを持っていました。しかし、連載開始直後にギャグ王の廃刊が決まってしまい、わずか2話で打ち切りという不遇な末路に終わってしまったのです。それが今、今度は「女子剣道マンガ」という新たなモチーフで、ついに成功作品が登場し、しかも作画担当者がかつてギャグ王で活躍した五十嵐あぐり(曾我あきお)ということで、かつてのギャグ王読者にとっては、まことに感慨深いものがあると言えるでしょう。


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