<ブラパ THE BLACK PARADE>

2012・5・23

 「ブラパ THE BLACK PARADE」は、2011年Vol.16から開始された連載で、いわゆる「ボーイミーツガール」を描いた青春ものストーリーとなっています。ヤングガンガンは、月2回刊行の雑誌ですが、これは月1回のペースでの連載となっており、連載開始から1年足らずの翌年4月になって、ようやくコミックスの1巻が発売されました。

 元々は、少し前に読み切りで掲載された作品が原点で、その時のタイトルは、「THE BLACK PARADE」。連載版では、このタイトルを略した「ブラパ」が正タイトルとなり、「THE BLACK PARADE」の方はサブタイトルとなりました。個人的には、そのまま「THE BLACK PARADE」の方がよかったと思うのですが・・・。この読み切りの段階から、非常な力作となっていて、そのためか読者の反響もよかったようで、ほぼそのままの形で連載化されることになりました。

 作者は、緑のルーペ(原作協力・フジワラキリヲ)。元は成年マンガで活躍していた作家で、そちらではすでに非常に高い評価を獲得していたようです。そして、これが、作者の初の一般誌での連載となりました。成年(エロ)マンガ出身とはいえ、このマンガにはそのような描写は非常に少なく(というかほとんどなく)、むしろ少年少女の青春劇を正面から描いた、ひどくきれいな印象のマンガになっています。作者自身のコメントでも「綺麗な作品にしたいと思った」といった言葉があり、今までの作品とはまた違った側面を持つマンガになりました。

 内容ですが、日々なんとなく鬱屈した日々を送っていた高校生・留美が、フジノという名の不思議な少女に出会い、彼女に半ば引き込まれる形で付き合うようになり、ふたりで「冒険」の日々を送るというストーリーとなっています。随所にコミカルなシーンも織り交ぜつつ、しかし切なくもいとおしい青春の日々を描いた、時にひどく叙情的なシーンも見せる奥深い作品になっています。


・「緑のルーペ」とは。
 前述のように、作者の「緑のルーペ」さんは、元々は(あるいは今でも)成年誌で執筆している作家で、主に「COMIC 天魔」という雑誌で作品を発表しているようです。多数の読み切りや短編を掲載してきたようで、少し前までも「ガーデン」という連載を行っています。この天魔での掲載作をいくつかまとめた「イマコシステム」というコミックスも発売されており、これが読者の間で非常に評判がよかったようです。

 この「イマコシステム」、成年(エロ)マンガとしてのエロシーンの出来のよさも大きな評価のポイントだったようですが、それと同時に、その卓越したストーリーとキャラクター描写にも評価が集まりました。いわゆる「寝取られ」ものなのですが、そこに至る主人公とヒロインとの関係性の描写に、非常に優れたものがありました。

 そもそも、成年マンガから一般誌へと移ってそちらでデビューする作家は珍しくなく、多くの作家がその道を辿っています。そして中には、このように成年マンガ時代からストーリーや心理描写で注目を集める作家も多く、一般誌に移ってもその時の作風で良作を描き、さらに大きな人気を得る作家もいます。しかし、この「イマコシステム」ほど、成年誌の段階で大きく注目を集め、評価を得た作品は珍しい。スクエニのヤングガンガン編集部も、その評価に触れて読み切りでの起用に踏み切ったのではないでしょうか。

 そして登場した作者初の一般誌作品が、この「ブラパ(THE BLACK PARADE)」ですが、元からの重厚なストーリー作りはそのままに、思った以上にきれいなイメージの作品となっていて、成年時代の濃厚なエロとは大きく異なる雰囲気で、新しい境地を開いた形となっています。


・不思議な少女キリノのどこまでも大胆で自由な行動に惹かれる。
 さて、肝心の「ブラパ」ですが、なんといってもヒロインであるキリノの魅力が、とにかく光る作品となっています。作品紹介では「不思議な少女」と紹介されていますが、自分の立てた目標に向けて日々邁進し努力を惜しまず、時にあえて危険を冒すほどの大胆さを見せ、破天荒な行動で主人公の留美を驚かせる、どこまでも自由奔放な姿を見せてくれます。留美も、最初のうちはその行動に戸惑うことも多かったのですが、しかし付き合っていくうちに、彼女の真剣な生き方を目の当たりにして、ついには自分から彼女に協力するようになります。

 廃工場の片隅に放置された廃車両を秘密基地に見立て、そこの所有権を巡って留美と街中で鬼ごっこゲームに興じ、破天荒な行動で留美を追い詰める。さらには、廃車両を占拠に来た不良グループに果敢に立ち向かい、見事な戦略を立てて追い出してしまう。廃工場探索では、目的地にたどり着くために危険な場所もあえて進む道を選び、最大の危機も機転を利かせて鮮やかに乗り越える。特徴的な大仰で独特の台詞回しが、その姿をさらに凛々しくさせて見えます。

 その一方で、時に女の子らしく弱い点も見せるところも面白い。冒頭の留美との鬼ごっこゲームでは、留美がずるをして「勝った」と宣言してしまうのですが、それで負けたと思ったキリノは、思わずひざを付いて涙をこぼしてしまう。これが、留美に大きな後悔と罪悪感を与え、彼女とともに過ごし協力することを決めるきっかけとなります。その申し出を受けた時のキリノの思わぬ笑顔、これもまたとても印象的なシーンです。
 廃工場の探索で周囲がまったく見えない暗闇に迷い込んでしまった時も、彼女は急に気弱になって留美に助けを求めてしまいます。普段は奔放で大胆な性格でまったく気後れしない彼女も、暗闇だけは苦手だった。こうした思わぬ時に見せる人間らしい姿、女の子らしい姿が、さらに大きなキャラクターの魅力を生み出しています。このキリノという、多彩な姿を見せる少女の存在が、作品最大のキーポイントとなっていることは間違いないでしょう。


・廃工場をRPGのダンジョンになぞらえた冒険のわくわく感。
 そして、そんなキリノの行動は、町のはずれの廃車両の秘密基地を拠点にし、そこから廃工場をまるでゲームのダンジョンのように見立て、夢のある冒険を繰り広げることに集約されていきます。普通の人が見ればただの廃工場、しかし、キリノに言わせれば、そこは魅惑的なファンタジー設定に溢れた世界であるのです。
 工場の区域をひとつひとつ「ヘル坑道」「ククルカンの工房」「オモイカネ屋敷」「要塞都市へイムダル」「廃棄施設タルタロス」「ガイア魔導工場」と名づけ、それにまつわる詳細な設定を滔滔と語り続けるキリノ。そして、最後の目的地として、「創生神(ティアマト)の塔」なる建物を指差します。そこは、6つの鍵を手に入れないと入れない場所らしく、そこに至るために6つのダンジョンを巡って鍵を集めていくのだと。

 こうしたキリノが目指す冒険、それは彼女の心の中にしかないものかもしれないけど、しかしそんなことのために時に命までかけることが出来る。そんなキリノの思いを知った留美は、自分までわくわくしてきて、充実した思いを感じることになります。

 この、キリノに感化されていく留美の変化、もしくは成長の姿が、この物語のもうひとつのポイントとなっています。物語冒頭の留美は、日々学校に普通に通って家ではネットゲームに興じる日常を送っているものの、なんとなく漠然とした苛立ちのようなものを日々感じていました。しかし、ふと気晴らしのような形で出たサイクリングの途中でキリノに出会い、彼女の行動に付き合っていくうちに、非日常のわくわく感を感じ、充実した日々を送るようになります。さらには、行動的でなんでも卒なくこなす彼女に比べて、自分の無力感を切々と感じ、せめて出来る限り自分の方から彼女に協力しようとまで努めるようになる。これは、そんな少年の成長物語でもあるのです。


・読み切り版の「THE BLACK PARADE」にも注目。
 そして、このようなテーマは、連載前に描かれた読み切り版にも共通しており、しかもこちらの方がより情感豊かに描かれているように感じます。
 読み切り版の「THE BLACK PARADE」は、作者によるコミックスのコメントに寄れば、連載時に色々と細かな設定の変更があったようで、そのためにキャラクターの雰囲気や話のシチュエーション等が微妙に異なっているとのこと。ある意味では、本編のパラレルストーリー的なものになっているようです。

 しかし、この読み切り版、これはこれで非常に面白い話になっているのです。秘密基地である廃車両で過ごすふたりの一夜を描いた物語で、火を起こして食事を作り、花火をして楽しみ、そして寒い夜をふたりが1枚の毛布の下で過ごす。ただそれだけのストーリーで、成年誌のときのようなエロ展開などもまったくないのですが、しかしそこには確かなに濃密な情感が描かれていました。「まるで地球の自転から取り残されたような」「何か異世界にでも来たような」非日常感、誰も知らない秘密基地で、火を起こしたり食事を準備や後片付けだけでいちいち苦労して、外気に触れて感じる夜は凍えるように寒くて2人で身を寄せ合って寝る。まるで冒険の旅に出たような気分。そのような情景が、本当に叙情的に描かれている。ふたりが語るそんなシーンには本当に痺れてしまいました。

 また、主人公の留美の焦燥が、こちらでも描かれているのも注目です。楽しい日々だったけど、そのほとんどはフジノが用意してくれたもの。自分は何もしていない。一言ありがとうとか楽しかったとか伝えたいけれども、その一言が出てこない。そんな少年の複雑な心境もまた、実によく描かれているのです。


・これはよく描けた力作。作者の新境地を歓迎したい。
 さらには、このマンガ、作画から受けるイメージが非常に綺麗なのもポイントです。作者が綺麗なマンガを目指したと言っているとおり、とりわけキャラクターがとてもきれいに描けています。ここでもヒロインのフジノの存在感が光っていて、美しい黒髪の長髪と澄んだ眼が非常に印象的な外見となっています。あるいは、背景も含めてよく描き込まれた画面からも、綺麗なイメージで描こうという作者の意思が伝わります。これまで作者が描いてきた、濃厚なエロシーンも多数盛り込まれた成年マンガとは、大きく変わったイメージで、まさかこのようなマンガに仕上がっているとは思いませんでした。

 いや、実は、成年マンガの時代から、このような綺麗さを感じさせるところはあったのではないかとも感じています。意外に涼やかな外見のキャラクターたちは、今の連載につながるものはありました。こういったマンガを描いてみたいという志向はあったのではないでしょうか。

 と、このように、綺麗なイメージで描かれるボーイ・ミーツ・ガールの青春劇として、作画も内容も実によく描かれているこの作品、紛れもなく良作と言ってよいでしょう。それも、毎回作者の思いが感じられる相当な力作ですね。ヤングガンガンでの連載が月1回なのが惜しいくらいで、そのせいもあっていまだ雑誌内での注目度はさほど高くはないようですが、しかしこれはずっと期待できるのではないでしょうか。待望のコミックス1巻も、読み切り版も収録されて300ページを超える分厚いものとなっていて、読み応えのある1冊になっています。

 また、成年マンガの方でも、6月に久々の新刊コミックス「ガーデンI 」が刊行されるようです。こちらの方の活動も堅調なようで、今後のさらなる成長が楽しみな作家が1人増えました。ヤングガンガンは、スクエニ雑誌の中でも特に新人の発掘がうまいなと感じますが、この作家もここで新しい世界を開いたようでうれしく思いました。


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