<キャタピラー>

2012・8・17

 「キャタピラー」は、ヤングガンガンで2012年No.06から始まった連載で、先にガンガンJOKERで開始されていた連載「アラクニド」のスピンオフ作品となっています。どちらも、「蟲(虫)」の能力を持つ殺し屋たちがバトルを繰り広げるバイオレンスアクションで、同一の世界での物語を描いており、スピンオフらしく一方のキャラクターが他方に登場する展開も盛り込まれているようです。

 作者は、原作が村田真哉、作画が匣咲いすか。原作担当の村田さんは、本編である「アラクニド」と共通して原作を担当しており、かつ、以前このヤングガンガンで「JACKALS(ジャッカル)」という同じくアクションマンガの原作を担当したことがあり、この「キャタピラー」が久々のヤングガンガン復帰となりました。決して原作専門の作家というわけではなく、以前は自身の画でマンガを描いていたのですが、ここ最近は原作の仕事が中心のようです。

 一方で、作画担当の匣咲いすかは、これ以前に名前を聞いたことがなく、このマンガがデビューとなるスクエニの新人作家ではないかと思われます。一方で、本編の「アラクニド」の作画は、いふじシンセンが担当しており、本編とこのスピンオフで異なる作画担当者を採用する形式となっています。しかし、2作品の作画の雰囲気、力強い描線から繰り出される濃いキャラクターデザインや迫力のアクション描写は、かなり近いものを感じますし、両者でよくイメージが統一されているような気がします。

 肝心の内容ですが、本編と同様の過激なバイオレンスアクションとなっており、随所に苛烈な暴力描写・虐待描写が見られる点で共通しています。また、掲載誌のヤングガンガンが青年誌だからか、本編よりさらに過激度が増してようにも感じます。ただ、描写に過激なところがあるとはいえ、ストーリーはしっかりしており、また決して暴力や悪を推進しているわけでもありません。むしろ、ひとつのアクションマンガ、とりわけ本編同様に「虫」の生態を駆使したバトルアクションとして、非常に読み応えのある作品になっていると思います。この作品ならではの過激な暴力・虐待描写を乗り越えることができれば、よりおすすめしたい作品ですね。


・無骨な作風ながら力作だった「JAKCALS」。
 ヤングガンガンは、ここからのテレビアニメ化作品も相次いでいる雑誌ですが、それらのメジャーな作品とは別に、一連の「硬派」とも言える青年誌らしいバトル・バイオレンスアクション作品があるようです。雑誌として青年誌らしさを追求する方針なのか、あるいはこのような作品が好きな編集者がいるのかもしれません。

 たかしげ宙によるクロスオーバー作品の一角でもある現代軍事バトルアクション「死がふたりを分かつまで」、スクエニのゲームコミックながら、ハードな戦争ものとして散々読ませてくれた「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」、過酷過ぎるいじめ描写とバイオレンス描写が凄まじかった「激流血 〜over bleed〜」、新解釈で人斬りと隊士とのバトルも見せてくれた「新選組新選組刃義抄 アサギ」、東京を舞台にした風水伝奇アクション「TOKYO BALDO」、重厚な世界観で織り成される本格ファンタジー「牙の旅商人 〜The Arms Peddler〜」など、最近ではかなり人気を得る作品も珍しくなくなりました。

 そんな中でも、とりわけ異彩を放っていたのが、この「JAKCALS」。マフィアやギャング組織が横行する19世紀アメリカの都市を舞台に、異形の武器を駆使して組織の殺し屋たちと闘うニコルという青年の姿を描いた物語で、作画に韓国作家のキム・ビョンジンを起用。韓国作家らしい極めて太い描線で描かれた作画で迫力のアクションを見せてくれました。あまりにも無骨な作風で、とても売れ線の作品には思えませんでしたし、残念ながらそれほど人気を得られなかったようでしたが、しかし骨太なストーリーも含めて、これは相当な力作だったと思うのです。連載中はほとんど休載もなく、コミックスも7巻まで出ていますし、本当によく健闘したと思っています。


・蟲(虫)の能力を駆使したアクションは健在。それにしてもなぜ主人公は「芋蟲(芋虫)」なのか?
 さて、この「キャタピラー」、基本的に本編の「アラクニド」のコンセプトをそのまま受け継いでいて、主人公の女性「芋蟲」や、彼女の前に立ちはだかる組織の暗殺者たちが、それぞれ現実の「蟲(虫)」をモチーフとした特殊能力を持ち、それを駆使して人間離れした異様な闘いを繰り広げる作品となっています。本編「アラクニド」では、「蜘蛛」の能力を持つ主人公を始めとして、スズメバチ・カマキリ・サソリなど、いかにも強力な捕食能力を有した「狩人」的な虫も多数登場、主人公とシャープなバトルを繰り広げる様が、最大の見所となっています。

 しかし、この「キャタピラー」では、タイトルどおり、主人公の女性は「芋蟲」(=芋虫、イモムシ)と呼ばれ、その芋虫(主に昆虫の蝶や蜂の幼虫の総称)の能力を持っているファイターとして描かれています。しかし、この「芋虫」というのは、主人公のバトルスタイルとしては、かなり意外な選択だと言えないでしょうか。ごく一般的な認識では、芋虫といえば、鈍重な動きでとりたてて戦闘能力は持っていないようで、外敵となる鳥や他の肉食昆虫に捕食される存在ではないか。そう思ってしまう人も多いと思います。

 しかし、作中の説明では、芋虫とは、必ずしもそんな風に食われるだけの存在ではないと言っています。実は、芋虫は、生きるために効率的に能力を結集した生物であると。円筒形のシンプルなフォルムは、厳しい環境に耐えて長い幼虫時代を過ごすには最適で、そして捕食者に対する防衛能力も存分に持ち合わせていると言うのです。頭から角状の突起を出して威嚇したり、眼状紋(いわゆる目玉模様)で擬態をとって捕食者の鳥を脅かしたり、さらには直接的な抵抗として体内に毒を有する芋虫もいるようです。威嚇行為や毒などで存分に対抗しているわけです。

 さらに、作中で見られたひとつ面白かった話として、「芋虫には(他者の)毒が効かない」という逸話もありました。芋虫に他の生物の毒を注入しても、まったく効果がないというのです。なぜこのような抵抗力を持っているのか、いまだにその理由は分かっていないと。つまり、芋虫は、一見して無抵抗な鈍重な姿に見えて、実は強烈な防御力を持っているのだと。

 そんな芋虫の能力を持つ主人公の闘い方は、とにかく強烈なタフさをもって相手を正面から屠るスタイル。強靭さと柔軟さを持つ身体能力で相手を圧倒する。「芋蟲は一時的に退いても逃げることはない」という言葉どおり、少々劣勢になって傷ついてもひるむ事はない。本編の「アラクニド」の闘い方が、トリッキーなからめ手も駆使した、時に華麗さも見られるものであるのに対して、こちらは泥臭いストロングスタイルが逆に新鮮です。また、主人公がこんな闘い方をする理由は、主人公の悲惨な過去にも関係しており、重いストーリーも背後に絡めたひたむきな闘いぶりには、強烈に惹かれるものもありますね。


・いじめに生活保護と、奇しくもタイムリーな作品となってしまった。
 その主人公の過去とは、かつて幼かった自分と姉が、貧困から養護施設へと入り、そこや学校で数々のいじめや暴力に遭うというものでした。いじめに関しては、本編の「アラクニド」にもひどく過激な描写がありましたが、こちらの「キャタピラー」でも同等の苛烈な描写が目立ち、もはや虐待と言えるシーンまで出てきます。特に、主人公の姉が養護施設の長に性的虐待を受けていたくだりが過激で、これを見つけた主人公が怒り狂って徹底的に暴れ狂い、結果的に姉まで巻き込んで殺して(?)しまったことが、彼女の大きなトラウマとなっています。

 ところで、この一連の過去の悲惨な回想の中で、ひときわ興味深いシーンがありました。それは、主人公の姉が、まだ小学生だった子供時代に、同級生から「生活保護」をネタにいじめられるくだりです。子供だからこその同級生に対する残酷な仕打ちが露骨に出たシーンで、読んでいて非常にリアルなものを感じました。そして、奇しくもその直後に、実際のニュースでも生活保護にまつわる事件が起こってしまったのです。生活保護受給者に対して言われない中傷や誹謗が飛び交うことになったこの事件を見て、「これでは、このマンガのようないじめが、本当に小学生の子供の間で起こってもおかしくないな」とまで思ってしまいました。

 このマンガ、決して「社会派」と言えるタイプの作品ではないと思います。現実の日本を舞台にしていて、一部にリアルだなと思える描写も見られるとはいえ、あくまでメインはバトルアクション。基本的にはバイオレンスバトルを楽しむエンターテインメントだと思います。しかし、ここで、奇しくも現実のいじめや生活保護と直接重なるシーンが登場する、タイムリーな作品となってしまいました。これは、マンガが社会派なのではなく、むしろ、現実の日本の方が、フィクションのマンガの世界に近づいたと言えるのではないでしょうか。マンガの世界で起こるような、それこそまるで絵に描いたような事件が、実際に起こるようになってしまった。このあたりで、今の現代日本の不毛さ、殺伐さを感じずにはいられませんでした。


・過激ながらおすすめしたい良作バトルアクション。本編「アラクニド」との絡みにも注目。
 上記のように、この「キャタピラー」、一部にかなり過激なシーンがある作品で、かなり抵抗を感じる人もいるのではないかと思います。バトルアクション自体がバイオレンス要素に満ちて、流血や切断シーンなども頻繁に出るほど過激で、さらには上記のようにいじめや虐待のようなより嗜虐的なシーンまで何度も登場します。まさに青年誌らしい作品とも言えますが、こういった作風をさほど好まない人も多いかと思います。

 しかし、この作品、それだけで評価して読まずに済ませるのは、あまりにも惜しいマンガだと思います。本編同様に非常に重厚なバトルアクションとなっていて、また個性的な「蟲」の能力を駆使した奇抜な闘いぶりも健在。かつての無骨さ極まった「JAKCALS」に比べれば、主人公は「芋蟲の姉さん」と呼ばれる女性ですし、その点でもバトルに華があり、かつての連載よりこちらの方が人気が出そうです。

 また、ここに来て、本編「アラクニド」とストーリーが絡んでくるようになり、さらに面白く読めそうです。「キャタピラー」の芋蟲の姉さんが、「アラクニド」の方にも登場し、そちらの主人公である「蜘蛛」の藤井有栖と対決というシーンは、ここに来て本編でも最大の見せ場として、非常に興味を惹かれるものがありました。今後もこのようなシーンの登場に、今度は逆に「アラクニド」のキャラクターが「キャタピラー」に出てくるような展開にも期待していいのではないでしょうか。現在(2012年8月現在)、「アラクニド」はコミックス5巻を数え、そして「キャタピラー」も、その「アラクニド」の6巻と同時発売の形で、待望のコミックス1巻が発売されます。「アラクニド」は既に中々の人気を示しているようですし、コミックスの発売を契機に、スピンオフである「キャタピラー」の方にも注目が集まれば幸いです。


「ヤングガンガンの作品」にもどります
トップにもどります