<FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE(後編)>

2008・12・9

*前編はこちらです。

・「猟犬」たちの過酷な運命を描く第三エピソード。
 第一、第二のエピソードが、主に「戦争に巻き込まれた」人物の周辺事情を描いているのに際して、その後に続く第三のエピソード「猟犬の群れ」は、純粋に戦場での一部隊の動向、激しい戦闘シーンと戦場での日常の光景を描く物語になっています。比較的オーソドックスな「戦争もの」マンガだと言えるかもしれません。

 「猟犬」とは、敵ヴァンツアーに奇襲を加えて仕留めるゲリラ的な歩兵部隊のこと。戦場において圧倒的な力を有する巨大なヴァンツアーに対して、少数の歩兵で対抗するのは、それ自体が非常に危険で過酷な任務であり、そんな任務に日々挑む兵士たちの、厳しくも充実した日々を描いています。「ヴァンツアーハンティングの心得」と銘打たれた十か条の掟は、その危険な任務と日常の生活形態をよく表しており、特に最後の2つの項目の「その9 食事と睡眠は十分に取れ」「その10 仲間を見捨てるな」は、厳しい戦場にありながら暖かい兵士たちの繋がりを思わず感じ取れる名文句になっています。

 そして、この物語には、原作者である太田垣康男のテーマが直接的に表現されています。「戦争が起これば戦地に赴いて家族を守るために戦い、戦争が終われば故郷に帰って日常の生活に励む」。そのような人間の生き方が、勇敢な兵士たちの言葉によく表れているのです。

 しかし、そんな彼らも最後には悲惨な結末を迎えます。O.C.U.に所属する彼らは、敵U.S.N.の大規模な攻勢に対する退却作戦の中心的存在として、最も危険な任務であるしんがりを任されることになります。しかし、敵U.S.N.軍の攻撃はこれまでにないほど熾烈を極め、最初から敗色濃厚な任務であることは自明でした。首尾よくヴァンツアーを輸送してくるヘリを撃ち落としたものの、生き残ったヴァンツアーに部隊は捕捉され、ミサイルとガトリングガンで先制攻撃をかけられます。
 圧倒的な火力を有するヴァンツアーに見つかり、先制攻撃をかけられたゲリラ部隊ほど悲惨なものはなく、隊長がまず真っ先に骨も残さずにミサイルで爆死、残った兵士たちも次々とガトリングガンで無残な戦死を遂げます。唯一最後に残った兵士も、必死に廃墟となった地下鉄の構内を逃げ惑いますが、ここであの犬塚が登場し、不思議な指図をして兵士を導きます。その導きに従って進むと、敵ヴァンツアーの側面をつく形で地下鉄の出口にたどり着き、ここでようやくバズーカで急所を破壊、ヴァンツアーを仕留めることに成功します。しかし、その兵士もヴァンツアーのパイロットの射撃であっけなく倒され、部隊は完全に全滅してしまいます。

 そして、実はこのシーンが、すべて犬塚の手でカメラに収められ、ネットにアップされて全世界の人にアクセスされる画像になっているという意外な結末で幕を閉じます。平和な国のマンションの一室で、この画像を見ている人々の対照的な姿が、あまりにも印象的で、機知と皮肉に富んだ優れたエンディングとなっています。


・この作品最大の盛り上がりを見せた長編「楽園の果実」編が秀逸。
 そして、その後に登場した第四のエピソード「楽園の果実」編が、これまで以上の素晴らしい盛り上がりを見せます。これまでの3つのエピソードも実に優れたものがあったのですが、この「楽園の果実」編は、これまでとは異なる大規模なストーリーの長編となっており、そのドラマの盛り上がり、完成度では一線を画するものがありました。この第四のエピソードをもって、このマンガは完全に「名作」の域に達したとみてよいでしょう。

 主人公は、O.C.U.の退却作戦に取り残されたベテランパイロット、レン・アカギ大尉。ヴァンツァー戦で深手を負い失神した彼は、気づいた時には厳しい追撃を繰り返すU.S.N.軍の只中に取り残されていました。時系列的には、前のエピソード「猟犬の群れ」の直後の話になります。
 周囲には多数のヴァンツァーをも要する圧倒的な兵力の敵軍。深手を負いヴァンツァーをも失った彼にとって唯一頼りになるのは、サカタ製の脳直システムで統御される、無人探査機による周囲監視システム。これで周囲の状況を的確に把握した彼は、ゆっくりとタバコを吸って精神を落ち着け、いよいよ困難な脱出行を開始します。
 しかし、脱出の途中で思わぬ事態が起きます。敵軍の兵士の目をすり抜ける目的で監視していたところ、一人の少女を凌辱するシーンに出くわし、どうしても無視して離れることができず、一人突撃して首尾よく兵士たちを全滅させ、少女を救い出すことになるのです。
 少女の名はキノ。まだ年若い少女と、ベテランの兵士で中年の男であるレン大尉とは、まったく異なる境遇に見えて、不思議と惹かれあうところがあり、ふたりで困難な脱出行を進めるうちに、さらに近い関係へとつながっていきます。一時的に隠れていたショッピングセンターでの、束の間の楽しい買い物と食事の時間は、ふたりの心にこれまでにないひと時の安らぎを与えてくれました。実は、キノは孤児で長く風俗で売春婦として働くという不幸な日々を送っており、一方で長年の歴戦で多くの仲間を失ったレン大尉との間には、孤独なもの同士で惹かれあうところがあったのです。

 しかし、ついにふたりの間に敵軍の追っ手が迫ります。敵の無人兵器で深手を負った大尉は、すんでのところで味方の直接支援攻撃に助けられますが、そこで登場したのがまたしても犬塚。彼は、大尉を無傷のままで放置されたヴァンツァーの元へと誘い、コレに乗って戦うように促します。折りしも敵ヴァンツァー部隊が迫りくる中、キノを救い、かつ味方の退却を助けるためには、犬塚の言うとおり再びヴァンツァーを駆って、地獄の戦場へと舞い戻るより手はありませんでした。キノは大尉と別れることを激しく拒絶しますが、大尉は彼女をあえて突き放し、生き残ったらまた会おうといって、激しく泣くキノを置いてヴァンツァーに乗って出撃します。この別れのシーンこそが、おそらくはこの物語最大のクライマックスであり、実に感極まる珠玉の名シーンとなっています。

 その後、ヴァンツァーを操る身となったレン大尉ですが、ここでまたしてもサカタ製の脳直システムが絶大な力を発揮し、たびたびの危機に陥りつつも素晴らしい周辺把握能力と機器ハッキングシステム、そして抜群の判断力と戦闘能力で敵を撃破します。この時に異様な行動を見せるのが犬塚で、この戦闘シーンをすべてカメラに収め、「これこそが見たかった戦闘シーンだ」と叫んで異常な歓喜に打ち震えることになるのです。感動と興奮を呼ぶストーリーの片隅で、ひとり戦場という空間でここまで喜びに浸ることの出来る犬塚の存在は、実に不気味で異様な印象を読者に残します。


・この圧倒的な作画レベルと、凝った軍事描写は素晴らしいの一言。
 そして、このマンガは、そんな優れたストーリーとドラマだけでなく、圧倒的な作画レベルでも見るべきものがあります。前作「THE DRIVE」でも作画レベルは非常に高かったのですが、作画担当が替わった本作でもまったくレベルは落ちておらず、この「FRONT MISSON」コミックにおける精緻かつ重厚な作画レベル は、素晴らしいの一言に尽きます。
 細部の機構まで精密に描かれたヴァンツァー(ロボット)の作画はもちろんのこと、徹底的に描かれた大都市のビル群と市街地、それが攻撃で無残に崩壊する時のひとつひとつの破片や瓦礫まで精細に描かれ、一方で人間の描写も生々しいリアリズムを持って、その内部の心理を見透かすかのように重厚に描かれています。とにかく、全体的な画面の描き込みの密度には驚くべきものがあり、およそリアリティが要求されるロボットものの作品としても、最高レベルの作画を達成していることはまちがいありません。

 また、そんな精緻な作画で描かれる軍事描写にも見るべきものがあります。一度に多量のヴァンツァーが降下する大規模作戦のシーン、凝りに凝ったコクピット内部の大写しのシーンなど、読者にこれはと目を見張らせるシーンが本当に多い。一個の戦争もの作品として非常に優秀なものとなっていることは間違いありません。

 中でも極めつけは、やはり「楽園の果実」編で見られる「サカタ製脳直システム」の技術描写でしょう。これは、複数の飛行型探査機のデータを脳内に直接投影する驚きの兵器であり、周囲の状況やマップデータを直接複数の視界で把握できる最新鋭のシステムです。例えるなら、グーグルマップとストリートビューを脳に直結したようなシステムで、このシステムを駆使して周囲の状況と敵軍の情報を的確に察知し、行動ルートまできっちり決めて脱出行を図る展開は、読者の知的好奇心をそそるに十分なものでした。複数の無人探査機を巧みに操って行動する大尉は、孤独な一兵士ながら実に頼もしい勇姿を見せてくれます。

 その後、ヴァンツァーに乗った後の大尉は、さらに異様な能力を見せます。今度は人工衛星と脳を直接リンクした大尉は、宇宙からの目で周囲の状況を完璧に察知するだけでなく、衛星回線を通じて周囲の機器にハッキングを行い、まるで自分の手足のように自在に操って敵ヴァンツァー部隊を翻弄します。最後には複数の廃棄されたヴァンツァーをもすべて手中に収め、圧倒的な火力で止めをさすその姿は、「もはや人間ではなくなっている」という犬塚の言葉どおりの、ありえないほど凄まじい戦闘力を目の当たりに見せてくれました。


・今のヤングガンガンの影の傑作。もっと日の当たる場所で評価されるべき作品。
 このように、この「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」、内容・作画双方において驚くほどの完成度の作品となっており、今のヤングガンガンでもトップクラスの実力派作品になっていると感じます。ヤングガンガンには、このような決して売れ線ではない、硬派で地味な作品にも良作が多いのですが、このマンガはその中でも最たるものでしょう。編集部の方でもその盛り上がりをつとに感じているようで、最近では雑誌の前の方に掲載されたり、センターカラーになったりすることも頻繁に見られるようになりました。このような作品でも、きっちりと評価して雑誌での扱いに反映させることが出来るのが、今のヤングガンガンの強みだと言えそうです。

 しかし、雑誌での扱いは良くなりましたが、コミックスの売り上げや雑誌外の読者への知名度ではいまだ大きく劣っており、まだまだ広く認められているとは言えない作品に留まっています。これには、まず「FRONT MISSON」というゲームが原作にあることも大きく関係しているのでしょう。「『FRONT MISSON』のゲームコミック」というイメージがまず先に立ち、ゲームを知らない読者の関心を遠ざけているのではないかと思えるのです。「FRONT MISSON」自体、スクウェア・エニックスのゲームの中では、比較的マニアックなコアユーザーに支持される作品であり、幅広くユーザーを集めるタイプの作品ではないことも大きいでしょう。

 しかし、このマンガは、決してゲームコミックという範疇にとどまる作品ではありません。むしろオリジナルの戦争ものマンガと言った方がよいくらいの作品で、原作者太田垣康男による重厚なストーリーとドラマ、思想性、そして作画担当のC.H.LINEによる最高レベルの緻密な作画、軍事描写には驚くほどの高い完成度が感じられます。これならば、スクエニ以外のどのマンガと比べても決して引けをとらないもので、時に見られる過激な残虐描写や性描写に対する抵抗さえなければ、幅広く多くの読者に薦められる優秀な作品になっていると思うのです。

 実際、このマンガがもっと他の出版社の雑誌、例えばモーニングあたりに掲載されていたらどんな反応が得られたでしょうか。ヤングガンガンというあまり読まれていない場所だからこそ誕生した「影の傑作」であり、今のヤングガンガンで、もしくはスクエニ全体で見ても最も面白いマンガになっているかもしれません。「楽園の果実編」の後を継ぐ第五エピソード「英雄の十字架」もまた傑作となっており、今後はもっと日の当たる場所で評価されるべき作品だと思われます。


 FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE(新章)(さらなる続編記事)


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