<フダンシズム─腐男子主義─>

2008・4・8

 「フダンシズム─腐男子主義─」は、ヤングガンガンで2007年15号より始まった連載で、タイトルとは正反対に、いわゆる「腐女子」の生態を扱ったマンガとして、最近では珍しくないオタクネタマンガの新作として、非常に興味深い作品です。後述しますが、最近はこのようなオタクの生態を扱ったマンガが一大ジャンルをなしており、とりわけ最近は、女性のディープなオタク形態である腐女子を扱った作品も相次いでリリースされるようになりました。このマンガも、それらの後追いと言えなくもありませんが、その実かなり面白いマンガに仕上がっていて、先行する作品にも劣っていないと思われます。

 作者はもりしげ。チャンピオン系列で連載され、アニメ化もされた「花右京メイド隊」「こいこい7」などで有名な作家で、美少女系マンガの作家として認知している方も多いと思います。このマンガにも、ある程度は美少女的な要素はありますが、それ以上に「オタクの生態を扱ったマンガ」としての要素が非常に強く、作者の従来のマンガとは一線を画しています。

 内容的には、いわゆる「腐女子」な女の子を好きになってしまった学園の優等生男子が、彼女に近づくために熱心に腐女子の趣味を覚え、さらには腐女子の姿に女装までして接近しようという、必死な姿が笑いと感動を誘う作品になっています。いわゆる恋愛もの、ラブコメものとしても面白く、女装した男子が彼女と仲を深めるという点で、同じヤングガンガン誌上で連載中の「ニコイチ」のストーリーと共通するところがあり、そのあたりの比較でも非常に面白いものがあります。
 その一方で、真面目に腐女子の生態を読者に解説している点も興味深く、本編ストーリーの最後に併設されている、主人公の姉による腐女子解説コーナーにも、一見以上の価値があります。時には、腐女子のみならず女性のコアなユーザー全般のあり方を幅広く解説しているところもあり、そのあたりの記述もひどく深いものがあります。


・相次ぐ腐女子関連書籍。
 かなり昔より、オタクの生態を真面目に、あるいは面白おかしく描いた「オタクネタマンガ」が、一大ジャンルをなしていますが、ここ最近の目立つ傾向として、女性のオタクである「腐女子」を扱った作品が急増してきたことが挙げられます。それも、マンガだけでなく、腐女子によるブログを書籍化したものが顕著です。

 まず、マンガ作品として、男性向け少女マンガ誌「コミックハイ!」に掲載されている「妄想少女オタク系」があります。おそらくは、ほぼ最初に腐女子を扱ったマンガとして注目すべき作品であり、男女両方の読者に高い評価を得ている良作です。この作品によって、オタクネタマンガに「腐女子もの」という新しいジャンルが加わったような気がします。
 そして、この作品以上に、「腐女子のブログを書籍化した作品」が、大いに注目を集めました。具体的には「腐女子彼女」「となりの801ちゃん」の2作品で、元々ネット上のブログでも人気だったことも手伝って、書籍化への注目度も高くかなりの話題となったようです。

 なぜ、このような腐女子関連作品が、今になって活況を呈するようになったのか? まず、マンガやブログ作品以外でも、腐女子の存在が少しずつ認知され始めていたこと。腐女子たちの集まる池袋の「乙女ロード」が有名になり始めるのもこの頃です。そのような認知の高まりに乗って、これらの作品も一気にヒットしていきました。
 そして、一旦知られ始めた腐女子の生態が、予想以上に興味深かったこともあるのでしょう。アキバ系のオタクの興味深い生態がマスコミによってブームになったのと同様に、今度は腐女子の興味深い姿がクローズアップされるようになったのです。


・腐女子のありのままの姿を分かりやすく見せる内容が面白い。
 そして、このマンガですが、先行する上記作品と比較しても、腐女子の生態・思想を分かりやすく紹介しようという真面目な試みが感じられ、中々に好感の持てるものとなっています。あまりに奇をてらった受け狙いのキャラクターは少なく、ディープなマニアである腐女子とはいえ、その姿をごく普通の感覚に描いているところが大きい。扱う内容はあまりにもマニアックですが、描写自体は丁寧で大いに好感が持てますね。

 主人公の数(あまた)は、ひょんなことから腐女子である姉の代わりに同人誌即売イベントで売り子をすることになり、女装してまで会場に赴くことになります。そこで出会う女の子の姿は、確かに趣味はマニアックすぎるものがあるかもしれませんが、しかしその姿はごく常識的なものであり、売り子である数(あまた)にも丁寧に接してくれ、おつりの用意を頼んでもみんな素直に応じてくれる優しさを備えています。そんな女の子たちの姿を見て、「実は自分の知らないところでこんな世界が広がっていたのか」と、主人公は感嘆することになるのです。

 主人公に接することになる腐女子たちの個性も面白い。主人公のお調子者の姉で、彼に腐女子の常識をいちいち徹底的に解説してくれるタマエ(たまたん)。学校の保健医でありながら、実は人気サークルで同人活動を行っているそほら(森川そほら)。そして主人公が恋をすることになる、同級生の眼鏡美少女・小西望(こにしのぞみ)。いずれ劣らぬ歴戦の腐女子揃いですが(笑)、いずれも主人公に対して丁寧に接してくれ、腐女子を理解するための大いなる助けとなっていきます。

 また、作中で登場する架空作品の設定もよく出来ていて、腐女子たちが美形キャラクターにあらぬ楽しみを見出す魔女っ子ものアニメ「おまかせ☆てんてる」なる作品が、やたら面白く描けています。このアニメを1話まるごと見てみたいものです(笑)。


・本編に付随する「姐さん講座」の腐女子解説が面白すぎる。
 そしてもうひとつ、本編に加えて、毎回の話の最後に併設されている「姐さん講座」における腐女子の解説が面白すぎます。主人公の姉にして、お調子者のツインテール美少女・タマエが面白おかしく腐女子関連の知識を紹介するコーナーで、そのくだけたバカバカしい解説が笑えるのもさることながら、それ以上に非常に解説が分かりやすく、腐女子の実態を偏見無く知ることの出来る優れた場所になっています。

 まず、わたしが最初に目からうろこだったのが、腐女子独特の思想である「カップリング」の解説についてです。わたしは、すでにカップリングに「攻め」と「受け」があることは知っていました。これはさすがに有名なところでしょう。しかし、その「攻め」「受け」の役割分担が固定しないカップリングのことを「リバ(リバーシブル)」ということは、まったく知りませんでした。というか、そもそもリバという概念自体知りませんでした。これは読んだ時に本当に驚いた知識で、これほど役に立つコーナーだったとは夢にも思いませんでした(笑)。

 その後も、腐女子関連の概念についてひとつひとつ丁寧な解説が続いており、「フラグ」「なりきり」「コピー誌」「SS」など、同人誌やイベント、ゲーム関連の用語を逐次解説するその姿勢には頭が下がります。中でもちょっと驚いたのが、同人サイト関連の知識で、女性の同人系サイトは、「綺麗でデザイン性が高い一方で、なぜか字が小さいという特徴がある」と解説してあったのですが、これは大いに思い当たる節があって、思わずひざを叩いてしまいました。そういえば、確かに全体的に字が小さいサイトがすごく多いような気がする・・・。思わず、このマンガの作者の深い同人知識に感激してしまいました。


・恋愛ものとしても面白い。
 そして、このような腐女子の生態を深く深く扱った内容がまず第一に興味をそそられますが、このマンガは決してそれだけではありません。主人公の男の子と、腐女子である女の子との、女装を通じた微妙な関係の恋愛模様、そのもつれたストーリーがひどく面白いのです。

 主人公の優等生男子・宮野数(みやのあまた)は、普段は超堅物として女子には目もかけない生真面目すぎる生き方をしていますが、そんな彼が同じクラスの小西望に恋をしてしまいます。しかも、姉に無理矢理売り子として女装までして連れて行かれた同人誌即売会で、普段の真面目な装いとはまったく異なるコスプレをした小西望と出会い、彼女が腐女子だったことを知って大いに衝撃を受けてしまいます。そして彼女に近づくために、腐女子として女装姿を貫き、「アマネ」という名前で彼女と腐趣味を通じて付き合うことになります。

 この、普段の堅物の優等生の姿とは正反対の女装姿でないと、彼女とまともに付き合えないという微妙な関係、それがひどく面白いのです。普段の男子生徒の姿では、何をやっても小西望にはまったく興味を持たれず(「天然でスルー」)、しかし女装した「アマネ」の姿では、同人誌即売会で会うのみならず、彼女の家まで行ってお泊りするまでの中に発展してしまいます。

 このあたりの、「普段の姿と女装した姿の間での、恋愛におけるギャップ」の面白さを描いた点で、同じヤングガンガンで連載している金田一蓮十郎の「ニコイチ」とひどく共通したところがあり、そのあたりで非常に面白いものがあります。「ニコイチ」の方が連載開始はずっと早く、この「腐男子主義」はそちらに影響を受けた可能性もありますが、作品の設定自体は大きく異なっており(「ニコイチ」は大人の恋愛を扱っています)、単にたまたま共通した可能性の方が高いようにも思えます。いずれにせよ、同じ雑誌上で、似たような女装ものの恋愛ストーリーがふたつも読めるというのは、ひどく面白い現象だと言えるでしょう。


・扱う趣味はあまりにもディープだが、内容は真面目で好感が持てる。
 以上のように、この「フダンシズム」、腐女子というあまりにもマニアックな存在をフィーチャーした作品ではあるものの、総じて真面目な創作姿勢で描かれており、腐女子について真剣に語ろうとする内容には大いに好感が持てます。確かに、「姐さん講座」などの一部において、かなり笑いを誘うような描き方も見られますが、それ以上に腐女子の詳細について丁寧に解説・紹介しており、実に理解を助ける出来となっています。先行する腐女子を扱った作品と比べても、過不足無く腐女子を理解できる優秀な作品ではないでしょうか。

 加えて、恋愛・ラブコメものとしても十分に面白い懐の広さを所持しています。しかも最近では定番(?)である男性キャラの女装ものとして、その面白さは他の作品でも証明済み、この作品も先行のそれに劣らない面白さを持っています。連載初期の頃は、腐女子を扱ったオタクネタマンガということで、少々抵抗を覚えるところもあったのですが、実際に出てきた作品は、実に素直に楽しむことの出来る面白さを持っていました。

 昨今のオタクネタマンガの多くが、オタクをネタにして笑いを誘うことが中心の作品が多く、最近の「マンガ家さんとアシスタントさんと」「正しい国家の創り方。」などが、完全にバカバカしさ全開の作風となっているのに対して、このマンガは、そのような要素もあるにはありますが、それ以上にオタクの姿をそのまま捉えようとした作品となっており、一線を画しています。このマンガは、ある程度ネタ的な笑いを絡めつつも、それ以上に真面目な作風で好感の持てる作品になっているのです。

 最後に。このマンガの各話の扉では、毎回オタクに関連する場所の背景が丹念に描かれています。コミケの開催地である東京ビッグサイト(東京国際展示場)内外の光景をはじめ、その近辺各所の風景もいろいろと描かれているようです。これもちょっとした作者のこだわりが感じられて好感が持てますね。


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