<はなまる幼稚園>

2007・6・20

 「はなまる幼稚園」は、ヤングガンガンで2006年18号から始まった連載で、ヤングガンガンの中でもかなり後発の作品に入ります。元々は読み切りで二度ほど掲載された作品で、この読み切りが好評を得て、ほぼそのままの形で連載化されます。作者は勇人(ゆうと)で、あの氷川へきるのアシスタントとして、Gファンタジーで数々のレポートマンガを描いてきた経緯から、一部ではよく知られていた作家です。これが連載デビュー作となります。

 肝心の内容は、「はなまる幼稚園」のタイトルどおり、幼稚園児たちとそれを見守る先生たちとの、賑やかでかつ微笑ましい日常を描く作品で、作品全体からかわいさや暖かさが感じられる作風です。ある種萌えマンガでもありますが、どぎついエロやツンデレのような激しい萌え要素はなく、穏やかな雰囲気に癒される作品で、かつ誰でも親しみやすい絵柄と設定で、かなり多くの人に安心して読まれるであろうマンガです。必ずしもコアでマニアックなマンガではありません。

 読み切り版では、主人公の幼稚園児である杏(あんず)ちゃんが、大好きな土田先生(つっちー)に果敢で微笑ましいアタックを繰り返すという、恋愛やラブコメの要素が中心でした。これは、連載版でもかなり引き継がれていますが、一方で決してそればかりではなくなり、恋愛に限らない幼稚園児たちの微笑ましい行動を描くようになりました。これで、内容に大いに幅が出てきて、ストーリーも深みが増して、本当に読み応えのあるマンガへと進化した感があります。一見して微笑ましいだけの癒し系作品にも見えますが、それだけではない一歩踏み込んだ、ちょっと考えさせるようなストーリーが見られるのが、このマンガの真の持ち味だと言えます。


・これは見事なかぼちゃぱんつ!
 まず、このマンガの良い点は、とにかく可愛らしい絵柄ですね。元々、Gファンタジーで読み切りやレポートマンガを描いていた時代から、くせの少ない中性的な絵柄が特徴的で、とにかく親しみの持てる絵だったのが印象的でした。これは「はなまる幼稚園」でもそのまま引き継がれ、嫌味のまったくないほほえましい雰囲気で溢れています。

 また、読み切り時代から小さな女の子を描くのが得意だったこともあって、今回の幼稚園児たちのかわいさも素晴らしい。極めてデフォルメの効いた丸っこい(笑)キャラクターたちですが、それがよく幼稚園児のかわいさを存分に表現しています。なかでも、主人公たち女の子たちの服装であるスモックとかぼちゃぱんつの表現が素晴らしく(笑)、これがこの作品のビジュアル上の特徴となっています。常にかぼちゃぱんつ丸出しの作画ですが、もちろんそこにエロさは微塵も感じられず、ここでもうまく幼稚園児らしいデフォルメが効いています。

 さらには、先生である大人たちの作画もよく、とりわけ山本先生(後述)のかわいさもまた素晴らしいものがあり、彼女こそがこのマンガの一番人気ともなっています。総じて、子供も大人も卒なくキャラクターたちがよく描けていて、かつ背景も含めて全体の作画もシンプルながら過不足なく良好なもので、初連載作品ながら随分と手馴れた作画レベルを感じさせます。


・個性的なキャラクターが光る。
 そして、見た目の外見だけでなく、キャラクターの個性もまた光ります。ひとりひとりの個性が明確で分かりやすく、かつ面白いキャラクターばかりで、読者を飽きさせません。

 まず、主人公たち幼稚園児の女の子三人組の個性が光ります。主人公にして「はなまる元気印な幼稚園児」こと杏(あんず)ちゃん。明るく積極的な幼稚園児で、大人びた行動もして土田先生の気を引こうとしますが、まだまだ幼稚園児らしい言動が先にたってしまい、それには大いになごまされます。
 次に、「純情可憐なピュア園児」こと小梅(こうめ)ちゃん。いまだスレたところの全くない素直な性格で、これまた実に微笑ましい。その幼稚園児らしいかわいい行動には、大いに癒されることでしょう。
 もうひとりは、知的クールな不思議園児こと柊(ひーちゃん)。幼稚園児とは思えないほど頭がよく、常にクールな目つきで、しかしなぜかいきなりコスプレをしたりして、その不思議系な言動には特に萌えるものがあります(笑)。このキャラクターには、師匠である氷川へきるのマンガ「ぱにぽに」に登場する一条さんを思わせるところがあります。
 そして、この3人のバランスが非常によいのもポイントです。ひとりひとりが個性的なだけでなく、3人揃って互いの行動を補完する役目をしており、そのチームワークのよさにもまた微笑ましさを感じます。

 幼稚園児だけでなく、それを見守る先生もいい。杏のいるさくら組の先生である土田先生(つっちー)は、仕事中までDSでゲームをしたり、自分の好きな山本先生の気を引こうとしたりして、一見してやる気がなさそうにも見えますが、実はよく幼稚園児たちを見守っており、肝心なところではしっかりと世話をするかいがいしさも見せます。この先生の性格にも、大いに好感が持てます。
 そして、なんといっても素晴らしいのが、つっちーに好かれるお隣のもも組の先生にして、杏の恋のライバル(?)でもある山本先生(山本菜々子)ですね。そのどこまでもおっとりとして天然で優しい性格で、かつ巨乳という設定は、やたら多くの読者人気を集め、一躍作中で最大人気を確保してしまいました。そののんびりした言動は、しかし幼稚園児たちへの優しい眼差しに満ちており、作中でも最も癒される存在となっています。

 これらメインキャラクターだけでなく、隣組の男子幼稚園児たちや、杏の母親である桜、つっちーの妹であるさつきなどのサブキャラクターも、総じて分かりやすい個性で好感が持てるもので、作中全体を通して、個性的なキャラクターたちの魅力が光る作品となっています。


・単なるコメディではない。何かしら考えさせるストーリーが魅力。
 そして、こんな個性的なキャラクターたちが毎回繰り広げる、賑やかでかつ微笑ましさを感じるコメディが、とにかく楽しい。幼稚園児たちのピュアな行動と、それを見守る先生方の優しい眼差しには、どこまでも暖かい雰囲気が全面に感じられます。ときにトラブルやちょっとしたいさかいが起こることもありますが、それらも、幼稚園児たちの精一杯の努力と、周りの先生たちのフォローが効いて、穏やかに解決していきます。世に癒し系マンガは数あれど、これほど癒される作品もあまりないでしょう。

 しかし、このマンガは、単に癒されるだけのマンガではありません。幼稚園児たちが起こすまだまだ未熟にしてほほえましい行動や、あるいはちょっとしたトラブルをきっかけにして、それが周りにいい影響を及ぼし、さらに暖かい世界が広がっていくという、ちょっと考えさせるようなストーリーが多いのです。純情で内気な小梅が、年長組の優くん(ゆうくん) に助けられ、最初は話しかけるのを躊躇していたのを、杏と柊にフォローされて勇気を振り絞って話しかけ、最後にはお礼を言えて仲良くふたりで遊ぶようになるというストーリー(第4話)、杏がぱんだねこ(ぬいぐるみ)を手に入れたが、それを小梅が欲しがっていたのを見て、自分を我慢して小梅に譲り、それでほんのちょっと成長するストーリー(第5話)などは、その典型と言えます。

 個人的には、第9話、年長組のいじわるな男子(けんじ)とひーちゃんがうんちくで対決し、ひーちゃんが見事に勝利する話が最高でした。うんちくで負けたけんじは、ひーちゃんを出し抜いて手柄を立てようと、おばけがいると噂の林に夜一人で出かけますが、そこでゴミの山をお化けと勘違いして逃げだし、転んで泣いてしまいます。しかし、そこでもひーちゃんに助けられ、しかもこの林がひーちゃんの思い出の場所で、ゴミの山がそれを汚していることを知り、ケンジが率先して幼稚園の皆で揃ってゴミを掃除するというエンディングに結びつきます。この終わり方には本気で感動させられました。

 あとは、幼稚園みなで桜の花見に行き、そこでたちの悪い酔っ払いに絡まれそうになるが、杏たち幼稚園児の無邪気な言動と、杏の母親の桜のおおらかな性格で丸く収まり、みんなで楽しくお花見をするという話もよかった。このような、ちょっと何かを残すストーリーは、必ずしもこのマンガが癒し系なだけではなく、実はかなり奥の深いものがあることをよく示しています。


・山本先生は素晴らしい先生です。
 そんな奥の深いストーリーの中でも、とりわけ、あの山本先生の言動には、強く感じ入るものがあります。
 はっきり言いますと、この山本先生は、決してチチがでかいだけの天然さんではありません(おい)。一見してのほほんとした天然全開の先生に見えますが、決してそれだけではなく、実は本当にしっかりと幼稚園児たちを見守っており、まだ未熟な子供たちを、その暖かい心で適切にフォローしていくのです。

 その山本先生の実力が最もよく表れたのが、第6話の、杏がひとりで山本先生のお手伝いをする話です。杏ちゃんは一生懸命手伝いをしようとしますが、まだ未熟な幼稚園児で、本人はうまくやったつもりでも、中々うまくいきません。それを、山本先生が、ひとつひとつそっとフォローしていくのです。その仕事の手際よさと、杏をきづかう優しさに満ちた行動は、山本先生が幼稚園の先生として本当に優れていることを、これ以上ないほどよく表現しています。
 園児が帰る時間になっても、山本先生が帰らないのを見て、杏がそのことを聞いた時の受け答え(「明日の準備とか少〜しだけかな〜」)にも、相手をきづかう優しさが感じられます。その後も、杏とのひとつひとつの会話、ひとつひとつの受け答えの中に、その真の優しさが感じられるのです。はっきりいって、山本先生は理想の幼稚園の先生です。こんな先生がいれば、幼稚園児たちも本当に幸せに過ごせることでしょう。


・ヤングガンガンの隠れた良品。小粒ながらきらりと光る。
 以上のように、この「はなまる幼稚園」、どこまでも可愛らしくくせの少ない好感度の高い絵柄、幼稚園児の微笑ましい言動で癒される作風のみならず、それ以上に奥が深く、読者の元に何かを残すストーリーにも見るべきものがあり、実は相当な良作に仕上がっています。ヤングガンガンの連載の中では比較的後発で、毎回のページ数も少なく、決して誌面で大きく目立つ存在ではないのですが、その実力には確かなものがあり、小粒の連載ながらきらりと光る、隠れた良品となっています。

 さらには、このマンガ、必ずしも青年誌であるヤングガンガンでの連載でなければならないような作品でもありません。とりたてて青年誌的な要素は感じられず、そもそもなぜヤングガンガンでの連載に決まったのか、初期の頃は少々疑問に思っていたくらいです。この作風ならば、ガンガン系の他の雑誌、とりわけ師匠と同じGファンタジーあたりでの連載でも良かったように思います。

 しかし、このマンガは、掲載誌などまるで関係なく、本当に面白い。これほど和み癒されるマンガはそうそうありませんし、しかもそれ以上に深い内容まで散見されるのです。コミックスの一巻も発売されましたが、こちらの注目度も中々のもので、萌えマンガとしてかなり多くの読者に読まれているようです。ヤングガンガンの錚々たる萌えラインナップの中でもまるで引けをとらず、むしろこのマンガが、現時点では最後に連なる萌え系作品として、ヤングガンガンのラインナップの中でも、ひどく貴重なものとなっています。そして、それでいて、実は一般層でも読めるであろう懐の広さがあり、必ずしもオタク向けなだけのマンガにもなっていません。作品の方向性では、あの猫好きの人に多数のファンを獲得した「ちょこっとヒメ」を思わせるようなところがあり、こちらももっと多くの読者に読まれてもいい作品です。雑誌の連載もコンスタントに毎号掲載されるようになり、これからの展開が一層楽しみな作品だと言えるでしょう。


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