<ヤングガンガンの隠れた良作特集>

2008・2・3

 今のスクエニ雑誌の中で、最も堅調で良質な連載が揃っていると言われるヤングガンガンですが、実際にアニメ化されるまでの人気作品も多く、その点でも非常に活況を呈しています。2006年の「すもももももも」のアニメ化を皮切りに、以後「BAMBOO BLADE」「セキレイ」「天体戦士サンレッド」「黒神」とアニメ化企画が連続しており(右記画像は「黒神」)、しかも次期アニメにも「咲 -saki-」が控えています。アニメ化作品以外にも人気作品はかなり多く、「WORKING!!」「はなまる幼稚園」「ユーベルブラット」「ニコイチ」「荒川アンダーザブリッジ」「マンガ家さんとアシスタントさんと」など、優れた連載は数多く見られます。これらの作品は、いずれも最近ではコミックスの売り上げや知名度も高く、比較的マイナーなスクエニ雑誌の連載の中では、一般層への人気・知名度でもかなり健闘していると見てよいでしょう。

 しかし、ヤングガンガンはそれだけでありません。これらコミックスの売り上げも好調な人気作品だけでなく、それ以外にも「隠れた良作」とでも言えるような作品がまだまだあるのです。これらは、コミックスの入荷数はおしなべて低く、決して広く人気があるとは言えませんが、しかし雑誌内ではその実力を認められており、雑誌の前の方に掲載されたり、センターカラーや増ページを獲得することも珍しくありません。ここでは、そんなヤングガンガンのあまり知られていない、しかし人気作品と比べてもその質は決して劣らない、マイナーな数作品にもスポットを当ててみたいと思います。

 これらの作品は、コミックスの売り上げは乏しいが雑誌内では盛り上がっていると言う点で、雑誌を購読してまで読む熱心な読者には知られていると思いますが、普段コミックスしか買わない、コミックス派の読者(最近はこのような人の方が多いでしょう)では知っている人は少ないと思われます。この記事は、そんなコミックス派の読者にこそ是非読んでいただきたいと思います。


<ムカンノテイオー>
 まず、ヤングガンガンの影の功労者と言えば、この作品を挙げないわけには行きません。これは、ひょんなきっかけからテレビ局に新人アシスタントディレクターとして入社した、元暴走族の若者の活躍と成長を描く物語で、青年誌では定番の「職業もの」、それも「テレビ業界もの」とも言えるマンガです。
 その点だけを見ると青年誌ではありきたりなジャンルのマンガとも見えますが、しかしこれが予想以上に優れた傑作となっていました。このマンガの見所は、ずばり圧倒的なリアリティ。テレビ業界の内情、特にその悪しき点や問題点を徹底的に描き出すその姿勢は、特にテレビ関係者には驚きをもって迎えられ、「これほどリアルな業界ものは今までにない」という圧倒的な評価を獲得することになりました。

 もちろん、読者にとってもこのマンガは意義深いものでした。このマンガが連載された当時も、番組における捏造や過度の視聴率優先主義など、マスコミのあり方が問題になっていた真っ最中であり、そんなマスコミの様々な問題点をリアルに追及したこのマンガは、まさに屈指の社会派作品だったと言えるでしょう。 連載は少し前に終了しましたが、もちろん今でもこの内容は通用しますし、テレビマスコミのあり方に興味のある方はまさに必見だと言えます。

 マンガのレベル自体も高く、特に作画担当の玉置一平の絵が実にいい感じでした。「クロス探偵物語」というゲームソフトのキャラクターデザインを担当した人らしいのですが、この人の絵は癖がなく垢抜けていて、リアルなテレビ業界人の姿や、業界で奮闘する熱血新人主人公・平蔵の姿を実に魅力的に描いていました。

 惜しむらくは、最後はおそらく打ち切りで終わってしまったこと。一応エピソードは完結していますが、おそらくはこの後も連載予定だったと思える終わり方で、実に残念に思いました。人気がなかったことが最大の理由でしょうが、このマンガだけはもっと続けてほしかったところです。


<JACKALS>
 いわゆるバイオレンスバトルもので、かなり残虐なシーンも垣間見えるので、その点で人を選んだ感は否定できず、大きな人気が出ないタイプのマンガであることは明白でしたが、それでもこのマンガはかなりの良作であり、ヤングガンガンでは長らくコンスタントに連載を続けました。比較的休載の多いヤングガンガンの連載の中では、休載も少なく真面目な掲載ぶりが評価できる作品で、コミックスも7巻まで刊行されることになりました。あまり人気の出ないタイプの作品としては、かなり健闘したと言えるでしょう。

 19世紀のアメリカの都市、それも犯罪が横行する都市を舞台に、殺し屋やギャングたちが抗争を繰り広げる姿を描いた作品で、ある種の社会性・思想性をも帯びていた点も魅力でした。原作者の村田真哉は、マンガ家として絵はいまいちぎこちなくあまり評価できなかったのですが、ストーリーについてはかなりいいものを作り出す作家だったので、原作に当てたのは十分でした。

 そして、作画担当のキム・ビョンジンの仕事ぶりも優れていました。韓国作家特有の濃い作画で、圧倒的な迫力のアクションシーンを多数手がけました。若干シーンのつながりに欠けるところこそあれ、武闘家たちの大技の瞬間を切り取ったバトルシーンの数々は、このマンガ最大の見所となりました。スクエニの韓国作家としては、同じヤングガンガンで「黒神」を連載中のイム・ダリョン、パク・ソンウのコンビが最も著名ですが、このキム・ビョンジンもあなどれません。ヤングガンガンの創刊当初、「ファイナルファンタジー11」の作画を担当しましたが、こちらは短期で打ち切られて失敗に終わりました。しかし、この「JACKAL」では見事に本来の仕事ぶりを見せてくれたと言えます。

 また、ヤングガンガンでは、このように原作者と作画担当者をうまく組み合わせて良作を作り出す試みが本当に多く、あの「BAMBOO BLADE」がその代表なのですが、この「JACKALS」も地味であまり知名度が高くないながらも、やはり成功した試みとしてきっちりと評価すべき作品だったと思います。


<激流血>
 これもまたバイオレンス全開の作品で、しかも高校生の残虐で凄惨ないじめの光景を徹底的に描きまくっており、さらに人を選ぶ作品になってしまっているのですが、しかしこれも実は大変な力作でした。いじめから逃げないためにボクシングを始めて格闘技にのめりこむ主人公、という点で、他社の作品「ホーリーランド」と近い設定の作品ですが、こちらはこちらで独特のイメージ、雰囲気を放っており、雑誌内での存在感はかなりのものがありました。

 とにかく凄惨な描写、それも単に暴力的なものだけでなく、主人公・西嶋圭の置かれた精神的な苦痛、両親の酷薄な態度やネット上での中傷などを描いている点でも凄まじく陰惨なものがあり、まず序盤のうちから相当陰鬱なマンガとして始まります。その点で、当初は読者の間でも素直に評価する人は多くなく、連載も盛り上がっていなかったのですが、これが主人公が格闘技(ボクシング)を覚えて強くなり、いじめに対抗して生きる意志を見出し始めたあたりから、風向きが変わってきます。自分にいじめを繰り返してきた高橋を徹底的にぶちのめすシーンが、特に爽快感抜群で、前半のクライマックスとなります。

 そして、その後主人公が格闘の快楽に目覚めるという危なげな成長を辿るようになり、ついには「狂犬」と呼ばれる狂った格闘家と戦うことになり、これが作品の盛り上がりの頂点となりました。この当時の「激流血」は、雑誌の後ろの方に掲載され続けた序盤の頃と違い、雑誌の前に続けて掲載され、連載が盛り上がってきたことをよく示していました。このような人気の出ないジャンルのマンガでも、きっちり評価して雑誌の扱いに反映させることが出来るのが、今のヤングガンガン編集部の強みと言えそうです。

 また、このマンガの作者ユニットの「28ROUND」は、これも韓国作家の組み合わせであり、特に作画担当の朴重基の描くこの濡れたような色気のある作画、そのリアルな人間の描写にはひどく感じ入るものがありました。そんな筆致で描かれるアクションシーンの凄まじさも素晴らしいものがありました。本当にスクエニの韓国作家の実力は侮れません。この作家は、ヤングガンガンの増刊でも新作読み切りを描いており、こちらも見るに値するものがあります。


<鬼燈の島>
 このマンガは、ここで紹介する中では比較的知られたほうかもしれません。元は角川系で活動していた三部けいによるヤングガンガンでの新作で、子供たちが閉鎖された島から脱出を試みるホラーサスペンスといったジャンルで、ストーリーも作画もかなりこなれたものとなっており、さすがに実力派の作家らしい良作になっています。

 気丈な子供たちが、大人たちの魔の手から逃れるために必死になって行動する姿と、追ってくる大人たちの怖さとが緊迫感を誘い、さらには島の内部の廃坑や夜の森の不気味なシチュエーション、時折現れる正体不明の女の子の幽霊の姿などもあいまって、そこには確かな怖さを感じます。典型的なホラー作品ではなく、雰囲気で少しずつ読者を緊迫させて引き込ませるいい作品となっています。

 また、登場人物である子供たちや大人たちの個性づけも面白く、特に子供たちにとって最大の仇敵となる変態教師(笑)・クワダテの存在は見逃せません。この男のいかれた言動には大いに見るべきものがあり、外伝で描かれた中学時代のエピソードでの変態ぶりも大いに笑いを誘うに十分でした。ある意味、このマンガの真の主人公かもしれません(笑)。


<FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE>
 そして、このマンガこそが、今(2009年)現在で、雑誌内で最も盛り上がっているマンガとなっています。一応は、タイトルどおりフロントミッションのゲームコミックという位置づけなのですが、内容はオリジナル色が非常に強く、一種の「戦争もの」作品としてみたほうがいいと思われます。マイナーで決して人気の出るジャンルではないにもかかわらず、雑誌内での評価は高く、最近では雑誌の前の方に常時掲載され、頻繁にセンターカラーでも掲載されています。

 とにかく、あらゆる意味でレベルが高い。原作者・太田垣康男による迫真のドラマに満ちたエピソードの数々は、作者の思想をも十分に感じられる奥の深いもので、本気で感動できる優れたストーリーとなっています。戦争を様々な角度で切り取って、その現実をまざまざと見せ付ける作者の力量には感服すべきものがあります。

 そして、そのストーリーを再現する作画担当のC.H.LINEの作画レベルがまたすごい。ここまでメカ、背景、人物描写と、どこまでも精緻に緻密に描かれ、一コマたりとも手を抜いたところは感じられません。この作画レベルは、おそらくは今のスクエニの中でも、あるいは他社のマンガと合わせて考えてもトップクラスに位置するのではないでしょうか。
 そして、その精緻な絵柄で描かれる軍事描写も実に興味深い。これもオリジナルのゲームとは異なる設定らしいですが、これはこれで大変面白い。特に、「楽園の果実」編で見られる、飛行型探査機のデータを脳内に直接投影する脳直システムは、実に魅力的な能力で、知的好奇心を思う存分刺激してくれました。

 このように、あらゆる意味でレベルの高さを極めるこのマンガ、実は今のヤングガンガン全部の作品の中でも、最も面白いのではないかとすら考えています。アニメ化された人気作品もそれはそれで面白いのですが、このマンガはさらに一回り上回る完成度を感じます。わたしとしても、本来は決して好むジャンルのマンガではないにもかかわらず、最近は毎回最も楽しみにしている状態です。これが雑誌外ではあまり知られていないというのが残念でならない。「MOONLIGHT MILE」の太田垣康男の新たなる傑作ということで、もっと認知されてもいいのではないでしょうか。


<ジン 〜アニメ『精霊の守り人』外伝〜>
 これもいい作品ですね。タイトルどおり「精霊の守り人」の外伝作品にあたり、アニメ版を手がけたスタッフ(作画の麻生我等)の手によるコミック化となっています。アニメ版の「精霊の守り人」は、半分がアニメオリジナルと言えるほどオリジナルの話が多いのですが、このヤングガンガンの連載もそのひとつと見るべきかもしれません。アニメスタッフによるこの作品への思い入れを感じる一作となっています。

 最初のうちは、やや作画に不慣れなところもあったように見受けられましたが、じきに安定し、精緻かつ迫力のある美しい作画を見ることができました。アニメの作画を手がけた麻生我等の仕事ぶりには確かなものがありました。カラーページの描き方も素晴らしいものがあり、確かな作画レベルを感じることの出来る一作となりました。

   ストーリーでは、原作では主人公の敵役となる「狩人」という特殊部隊の一人・ジンの若かりしころにスポットを当てており、遅くして狩人になることが決まったジンの過酷な運命、その激しい訓練の有り様を存分に描いています。反面、貴族間での王位継承争いを描くエピソードは、やや陳腐に感じられるものの、主人公の妹がその争いに巻き込まれて命を落とし、それが後のジンの生き方に影を落とすという終わり方は、本編への繋がりを感じさせる優れたものだったと思います。

 「精霊の守り人」は、原作もアニメ版も高い評価を得ているにもかかわらず、スクエニでの連載については、ガンガンでの藤原カムイの本編連載もこのヤングガンガンの外伝も、どちらもひどくマイナーでコミックスの売り上げもおしなべて低く、まるで知られていない作品になってしまっています。これもひどく残念な状態ですね。なお、この外伝の作者の麻生我等は、現在ヤングガンガンでオリジナルの新作を開始しており、こちらの感触もかなりよく、期待できる作品になっているようです。



・コミックス派の読者も一度目を向けて読んでほしい。
 このように、今のヤングガンガンは、女の子がやたら出てくる売れ線の作品(笑)ばかりでなく、このようなマイナーで渋い作品にも良作が多いのが最大の特徴であり、そちらにも十分に目を向けるではないかと考えます。
 そもそも、これらの作品は、雑誌内では決して「隠れている」わけではありません。雑誌内では編集部によってきっちり評価され、いずれの作品も前の方に掲載されたりセンターカラーになったり、意欲的な推進宣伝活動が見られたりと、どれも相応の扱いをされているのです。このような作品でも正当に評価し、雑誌内の扱いに反映させるのが今のヤングガンガン編集部の素晴らしいところであり、編集者のマンガを見る確かな目を感じることが出来ると思います。

 しかし、残念ながら、そんな扱いが見られるのは雑誌内にとどまり、コミックスの入荷数はいずれもおしなべて低く、書店ではまるで目立たない状態であり、コミックス派の読者にはまるで注目されていないという現状もあります。今ではコミックス派の読者の方が多数を占めていると思われますし、つまり多くのマンガ読者には知られていない状態になっているのではないか。これは、ヤングガンガン自体がマイナーな雑誌であることも大いに影響しているのでしょう。

 しかし、だからこそこういったマンガにも注目してほしい。中でも「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」などは、極めてレベルの高い傑作であり、ヤングガンガン以外のどの雑誌でも通用するクオリティを有しています。これがマイナーなままで終わるというのはあまりにも惜しい。アニメ化される人気作品だけでなく、是非ともこういった隠れた良作も一緒に読んでほしいと思うのです。


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