<怪廊歪奇譚 イビツ>

2010・4・3

第1話2ページ  「怪廊歪奇譚 イビツ(かいろういびつきたん イビツ)」は、ヤングガンガンで2009年20号から開始された連載で、現代日本が舞台のホラー作品になっています。ヤングガンガンは、男性向け・青年向け作品を中心に様々な娯楽作品を手がけてきましたが、このようなホラー系の作品は今まであまりなかったと思います。あえて言えば、「マンホール」(筒井哲也)がそれに該当するとは思いますが、これはどちらかと言えば社会派の要素の強い作品でした。それに対して、この「イビツ」は、現代日本が舞台という点では共通していますが、より純然たるホラーで、読者を怖がらせることを主眼に置いた作品になっていると思います。

 作者は、了春刀(はるとりょう)。以前に名前の聞いたことのない作家で、スクエニのヤングガンガン発の新人作家ではないかと思われます。絵柄やストーリーからは、比較的オーソドックスな青年誌的な作風を感じます。絵柄では今のところさほど大きな特徴は見られませんが、ホラーシーンの怖さ、えぐさもそれなりに見せるものもあり、当面の作画レベルはまずまずではないかと思いました。

 このところのスクエニは、どうもこのような「ホラー」「サスペンス」「ミステリー」などに力を入れる方針を採り始めたようで、各雑誌でそのような連載をいくつか始動させ、かつそれ専用のマンガ賞を立ち上げるなど、今度はこのジャンルでヒット作を出していこうと考えているようです。そして、その企画の中で、ヤングガンガンの連載の代表となっているのが、この「イビツ」ということのようです。

 ただ、そのようにスクエニの期待を背負っていることはよく分かるのですが、しかし、肝心の内容はいまひとつぱっとしないようで、連載開始以来あまり大きな話題にはなっていないようにも思われます。ホラー作品ではあるものの、怖さよりもグロさや気持ち悪さ、痛さが強く出た作風は、かなり人を選ぶのではないかと思いました。ヤングガンガンは、今のスクエニではおそらく最も成功している雑誌で、多数のアニメ化作品のほか意欲的な新連載を多数打ち出しているのですが、残念ながらこれは成功には至っていないと思いました。


・スクエニが力を入れる「ホラー・サスペンス・ミステリー」
 このところのスクエニは、急に「ホラー・サスペンス・ミステリー」などの作品に力を入れる方針を採用したようで、スクエニ各誌で「スクウェア・エニックスマンガ大賞 極」と題して、ある特定のジャンルのマンガを募集するマンガ賞の募集を開始、その第一弾としてこの「ホラー・サスペンス・ミステリー」に属するマンガを求めているようです。

 なぜ今になってホラーやサスペンスを求めるようになったのか。おそらくは、ここ最近始まった有力作品で、ホラーやサスペンスに属するマンガがいくつかあったため、それらを集めてこの手のジャンルを盛り上げようとしたのではないか・・・と思っています。その中でも最有力の作品は、ガンガンで始まった「JUDGE」(外海良基)と、その前作とも言えるヒット作「Doubt」でしょう。「Doubt」は、閉鎖空間での殺し合いゲームを題材にしたサスペンス調の作品で、ガンガンの最近のオリジナル連載の中では、コミックスの売り上げが突出したスマッシュヒットとなったようです。そして、その人気を受けて、続編とも言える同コンセプトの作品「JUDGE」を開始。このあたりで、ホラーやサスペンス系の作品を盛り上げようという企画が生まれたのではないでしょうか。

 他の同系の連載では、ガンガンJOKERの「死神様に最期のお願いを」、ガンガンONLINEの「アホリズム」、Gファンタジーの「鳥籠学級」などがラインナップに上がっていますが、うち後者ふたつは、もう随分前に始まった連載で、この企画のために後付けで無理に当てはめたような気がしなくもありません。「鳥籠学級」などは、ホラーやサスペンスと言うにはやや変則的な作品ですし、なんとかこの企画のために数を揃えたような印象です。

 そのため、実際にこの手の作品が出てくるのは、まだまだこれからといった感も強いのですが、そんな中でもこの「イビツ」は、数少ない最近になって開始されたホラー系作品ということで、スクエニ編集部の期待もかなり大きいように見えます。ガンガンの「JUDGE」ほどではないにしても、当初からヤングガンガン誌面上で編集部による推進ぶりがよく感じられますし、ヤングガンガン増刊に読み切りが載ったりと、その攻勢は盛んなようです。

少年ガンガン2010年4月号74・75ページ


・ストーカー系の異常者が恐怖の中心だが・・・。
 さて、では肝心の作品の内容はどうか。この「イビツ」、現代の日本が舞台のホラー、それも幽霊や得体の知れない妖怪・化け物が出てくるタイプの作品とはちょっと異なり、人間の異常者(この作品ではストーカー)が執拗に主人公に付きまとってくる恐怖を描いています。この手の作品も、ホラーのジャンルとしてはひとつの定番のようで、映画化もされたスティーブンキングの小説で、異常なファンによって拘束される恐怖を描いた「ミザリー」などが、比較的それに近いものがありますし、あるいはこの作品のように、恐ろしいストーカーに追われる恐怖を描いたマンガとして、「ドラゴンヘッド」の望月峯太郎が一昔前に描いたホラー作品「座敷女」があります。これは、1993年の作品で、ストーカーがまだ一般的に知られる前に描かれた先見的な作品として知られ、かつストーカー役の女が非常な恐怖を誘うことで、純粋なホラー要素でも評価が高いようです。この「座敷女」が、今回のヤングガンガンの「イビツ」と、作品として最も近いものがあるかもしれません。

 しかし、この「イビツ」に関しては、「座敷女」ほどの恐怖はあまり感じず、それよりもむしろ「グロさ」や「気持ち悪さ」の方を先に感じてしまうような作品になってしまっているようです。

 主人公の大学生(和樹)は、ある夜、家に帰る途中のゴミ捨て場で、ゴミの中に座り込んでいる気味の悪い少女を見つけます。少女は、いわゆるゴシックロリータ系のファッションに身を包み、破れた傘を手に持っていますが、しかし体中が臭くて汚くよごれており、腕には自分で切ったかと思われるような異様な切り傷がありました。その翌日、ゴミを捨てに行った時に今度は因縁をつけられ、彼女に付きまとわれるようになってしまいます。そのゴシックロリータの気味悪い少女(主人公は「ロリータ」と命名)は、手にした汚いぬいぐるみを洗わせてくれと要求し、和樹の部屋に入りこもうとして、たまらず和樹は洗面所でぬいぐるみを洗うことを許可しますが、そこでぬいぐるみを洗うとあとから後から臭くて汚い汁があふれ出て、一体なんなのかと怒りと同時に恐怖も感じるようになります。
 その後、ロリータは完全に和樹につきまとうようになり、ゴミをあさって和樹の生活を調べ上げ、夜中に寝ているときに勝手に部屋に侵入、寝ている和樹に語りかけたり、周囲で異様な行動を取るようになります。

第1話19ページ

 このような始まり方を見るに、このロリータと呼ばれる少女は、人間とは思えない恐怖の存在というイメージではなく、本当にいそうなストーカー系の異常者として描かれていて、それも「汚さ」や「気持ち悪さ」の方が強調されているように思えます。個人的には、このような描写からは、怖さよりも不快さの方を先に感じてしまい、やや拍子抜けしてしまいました。最後に、真っ暗な部屋で、ロリータが、寝ている主人公のそばに来てささやくシーンなどは、本来なら最も怖いシーンのはずなのですが、ここでも思ったほどの恐怖を感じず、単に「気持ちの悪いストーカーがここまできてしまったか」と思ってしまいました。


第3話20ページ ・このグロさはかなり人を選びそう。
 その後のロリータは、自分を和樹の「妹」だと思い込むようになり、親愛なる「お兄ちゃん」の元へとストーカー行為を加速させるようになります。それも、和樹の実の妹であるヒカリに標的を定め、部屋に来た彼女に恐ろしい対応をすることになります。

 ヒカリは、部屋に知らない少女が、それも汚い異様な格好をした少女がいることを知り、なんとか彼女と接しようとしますが、彼女の方はまともに打ち解けようとせず、ただ作っていた料理(スープ)を差し出して和樹が帰ってくるのを待つように要求します。しかも、お兄ちゃんのことをいろいろと話すヒカリに対して怒り、自分の足をフォークで突き刺すという自傷行為を繰り広げた挙句、自分の方が妹にふさわしいと宣言、もし妹なら自分の出したスープを食べろと命令します。
 そんな異様な姿を恐れたヒカリは、差し出したスープを拒否して押しのけますが、床の上にこぼれたスープから犬の足がこぼれ、しかもロリータは犬の目を咥えて噛み砕くという異常行動に出ます。しかも、あまりの恐怖に失禁したヒカリを押さえつけ、股間に熱いアイロンを押し付けようとした寸前、ようやく和樹が帰ってきてヒカリを救い出し、この場は事なきを得るのですが・・・。

 このような、「生きた犬を切り刻んで作ったスープ」や「自分の足を突き刺すという自傷行為」「被害者にアイロンを押し付ける」などの描写を見るに、怖さよりも「グロさ」もしくは「痛さ」の方が全面に出ていると感じます。前述の「汚さ」「気持ち悪さ」も合わせて、ホラーとはいえこのような要素は、かなり読者を選ぶのではないでしょうか。苦手な人はとことん苦手と言えそうな作風です。全体的に、「怖さ」よりも「グロさ」の方が強く出ている作風で、わたしも個人的にはかなり苦手なタイプの作品だと感じました。わたし以外にもそういった人は比較的多いのではと推測してしまいますし、この内容ではあまり広く支持を得られないのでは・・・と思ってしまいました。


・ヤングガンガンにしては珍しく、これは不成功なのではないか。
 その後のロリータは、ヒカリを追って学校にも出現し、今度はどこからかハンマーを持ってきてまず用務員のおじさんを撲殺、次いでヒカリの友人でバスケ部員であるユカに目をつけ、ヒカリに近づくなと責める彼女をハンマーで殴りつけ、足を砕き指を砕き、最後には首をへし折って殺してしまいます。その後ヒカリに狙いを定め、さらにさらにロリータの行動はエスカレートするのですが・・・。

 しかし、このシーンでも、ハンマーで身体を砕くという「痛さ」の方が強調されていて、やはり基本的な印象は変わらないように見えます。このような「グロさ」や「痛さ」を強調した作風では、いまひとつホラー作品としての「怖さ」が相対的に薄くなっているような気がするのです。正直、他のホラー作品に比べると、いまひとつ怖さが弱く、むしろ、この汚いストーカー少女の理不尽な行動から来る不快感の方が、先に来てしまっているのではないか。これでは、大きな人気を得るのは難しいと思ってしまいました。

 そして、実際にも、読者からの反応がさほど見られず、大きな話題にはなっていないと感じます。編集部の方では、この作品をかなり推している雰囲気も感じられるのですが、読者の反応は芳しくないようです。これは、ヤングガンガンの新連載にしては、珍しく不成功に終わっているかもしれません。ヤングガンガンは、ここ最近もまだまだ堅調で、「アサギ」や「東京BARDO」などの硬派な作品でも良作がいくつも出てきています。ここで、ホラーという、これまでのヤングガンガンでは少なかったジャンルの作品を投入するのは、決して悪くない方針だと思いましたが、残念ながらその第一弾の出来は芳しくなかったようです。

 あるいは、スクエニ全体で推進しているホラー・サスペンス系作品のひとつとして、他の雑誌の作品と比較しても、これは今ひとつのようです。やや作品のニュアンスは異なりますが、ガンガンの「JUDGE」やガンガンJOKERの「死神様に最期のお願いを」の方が、より確かな面白さを感じます。もっとも、こちらの方はホラーというよりもサスペンス要素の方が強く、その分純ホラーであるこの「イビツ」に期待したいところもあったのですが、残念ながら作品の出来は今ひとつ。むしろ、ヤングガンガン増刊で1回だけ掲載された読み切りの方が、得体の知れない人形による恐怖を描いた短編になっていて、こちらの方が純粋な恐怖を感じるホラーになっていてよかったかなと思います。本編も、ロリータの正体の核心に迫るようになってから、若干そういった要素も感じるようになってきましたし、ここからうまく化けて面白くなるといいと思うのですが・・・。

第5話18ページ


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