<JACKALS>

2006・8・1

 「JACKALS」は、ヤングガンガンの連載マンガのひとつで、2005年の24号(最終号)から連載が開始されました。ヤングガンガンは、2004年末に創刊1号が発売されましたから、この「JACKALS」は創刊からおよそ1年経ってからの連載開始で、ヤングガンガン連載陣の中でも、比較的後発の作品と言えます。
 作者は、原作が村田真哉、作画がキム・ビョンジン。名前からも分かるとおり、作者は韓国の方で、原作が日本人で作画が韓国人という、中々に珍しい異色の組み合わせになっていますが、これには事情があります。

 内容的には、青年誌らしい過激な描写が売りの、バイオレンス・アクションものでしょうか。近代の犯罪都市を舞台に、「ジャッカル」と呼ばれるプロの殺し屋たちが鎬を削って殺し合いのバトルを繰り広げる、というもので、やはり骨太で過激なアクションが最大の売りとなっており、しかも、この韓国作家の手による非常に「濃い」絵柄のアクションが実に特徴的です。


・村田真哉、キム・ビョンジンという異色の取り合わせ。
 さて、この作品は、原作と作画の分業制で、しかも日韓双方の作家による分業という、かなり珍しい組み合わせとなっているわけですが、これには事情があります。そもそも、このふたりは、それぞれ異なる国の出身ということもあり、この作品以前にはまったくつながりはありませんでした。それが、おそらくはヤングガンガン編集部の積極的な起用作の一環として、ふたりが手を結んで作品を創作することになったのです。

 まず、作画担当のキム・ビョンジンについてですが、彼は、これ以前に、ヤングガンガンの創刊時において、あの「ファイナルファンタジー11」のコミック化の作画担当に抜擢され、実際に連載を行っていました。しかし、どういうわけか、これがたったの3回で立ち消え(実質打ち切り)となり、いきなり執筆を中断してしまったのです。なぜいきなり立ち消えになったのか、その理由はいまだに分かりません。作品自体の評判が悪すぎて打ち切りになったという話もありますし、あるいは作者や編集者側の都合によるものかもしれません。この「ファイナルファンタジー11」のコミック化は、ヤングガンガン創刊当時、あの「ロトの紋章」と並ぶ最大の目玉作品として、大々的に雑誌の看板として扱われていましたから、それがあっさりと立ち消えになったときは、その違和感も相当なものでした。

 ただ、同時に、確かにこのコミックが「さほど人気を得られないだろう」と予感させる部分もありました。それはつまり、「キム・ビョンジンのあまりにも濃い絵柄が、日本の、特にライトなゲームコミックを求める読者層には人気を得られないだろう」という予感です。韓国のマンガ家の全体的な特徴として、日本のそれよりもとにかく描線がはっきりとして非常に太く、色の塗りも非常に濃い点が挙げられますが、キム・ビョンジンの絵柄は、まさにそれを地で行くような非常に濃い絵柄であり、日本のゲームコミックのそれとはまったく印象が異なっていました。これでは売れないと判断されても無理はありません。そのため、わずか3話で立ち消えになったときも、相当な違和感の背後で、「ああ、やっぱりそうなったか」という思いも同時に抱いてしまったのも事実です。

 しかし、「ファイナルファンタジー11」のコミック化には合わなかったかもしれませんが、キム・ビョンジンの絵自体は非常に優秀であり、それ自体が劣っているということは決してありませんでした。ヤングガンガンの編集部としても、この才能ある作家をそのままにしておくのは惜しいと考えたのか、しばらく間を置いた上で、今回の「JACKALS」の作画担当に採用したと思われるのです。一度失敗した実力派作家を再生させた点で、随分と巧みで面白い起用法だと言えます。

 そしてもうひとり、原作の村田真哉の方ですが、彼は純粋にスクエニ発の新人作家です。純粋にひとりで活動するマンガ家であり、決して原作専門というわけではありません。ガンガンG1大賞(月例賞)を受賞したあと、ヤングガンガンの創刊時代に「デアボリカ」という異色の読み切りを描いたこともありますが、さほど目立つ存在ではありませんでした。彼の欠点は、とにかく絵がぎこちないこと。バイオレンスやホラー要素が売りのマンガなのに、肝心の絵がガチガチにぎこちなく、アクションの動きが非常に硬い。魅力に欠ける点は否定できませんでした。
 しかし、そのマンガのストーリーについては、中々に読めるものもありました。そんな彼を、ヤングガンガン編集部は、絵を求めなくてすむ原作者として起用したのです。つまり、この 「JACKALS」というマンガは、絵に問題はあるが中々の内容のマンガを描く新人作家と、かつて連載が中断したが、絵については定評のある実力派の韓国作家と、その双方を組み合わせて企画したのです。このような、作家たちの互いの欠点をカバーしつつ長所を生かすようなコラボレーション企画を、ヤングガンガンの編集部はいくつか行っており、この「JACKALS」もそのうちのひとつです。そして、今回のこの試みはかなりうまく言っており、原作と作画の双方がうまく働いた、かなりの良作となっています。

 ちなみに、このような原作・作画担当の組み合わせ企画の例としては、他にも「BAMBOO BLADE」があります。こちらの方はもっと大きな成功を果たし、今ではヤングガンガンでも有数の人気作となっています。


・骨太なバイオレンスアクションが最大の見所。
 前述の通り、このマンガは、犯罪都市で「JACKALS」と呼ばれる殺し屋たちが、派手な殺し合いをする過激なアクションが最大の見所です。それも、「クライム”ブレイド”アクション」と銘打たれている通り、主人公が巨大な剣のような異様な武器を使って闘うという点が、ビジュアル的に大きな売りとなっています。
 元々、その作画能力を見越して起用された韓国作家が描いているだけあって、アクションのビジュアルについては、非常によく出来ているといってよいでしょう。少なくとも、一枚絵の迫力ある作画については見るべきものがあります。キム・ビョンジンさんの絵は、数居る韓国作家の中でも、特に線の太さと全体的な濃さが目だっていると思いますが、やはりこのようなバイオレンス・アクションではその力強さが際立ちますね。この起用は正解でしょう。
 特に、主人公であるニコルが使う”アリゲーター”という異形の武器と、彼と成り行きで共闘関係を結ぶことになるフォウという青年が使う”レクイエム”という大剣から繰り出される技の数々が、最大の見せ場と言えます。結局のところ、こんな巨大な武器で「次はどんな技を繰り出すか」を期待するのが読者の最大の興味と言えるわけで、それがよく描けているのは素晴らしい。

 ただ、欠点がないわけではありません。確かに一枚絵のアクションはよく描けているのですが、コマごとのアクションの連続性に欠けるというか、少々ありえない場面転換が多く、アクション全体の流れから見るとぎこちなさが残ります。原作の村田さんは、自身の読み切りの絵はぎこちなかったわけですが、それが原作担当になった後でも、その画面構成に残っているように思えます。何でも、アクションの構図は原作者の方が考えているらしく、作画担当が変わって絵そのものはよくなっても、そのあたりの欠点が残ってしまっている感があり、少々残念に思います。


・ストーリーは薄味か。アクションと世界観の方に比重が。
 さて、アクションはいいとして、肝心のストーリーについてですが、こちらの方は(今のところ)割と薄めのものかもしれません。
 基本となるストーリーは、ギャング同士が抗争を繰り広げる犯罪都市「シセロシティ」を舞台に、主人公で殺し屋を手がけるニコルが、殺人バトルを繰り返すというもの。仕事で対立するギャングの一方の幹部を殺したのはいいものの、その後依頼主のギャングから口封じのために命を狙われることとなり、それを殺してもまた新手に追われ・・・という繰り返しで、そのたびに過激なバイオレンスアクションを続けるというもので、過去の作品でもよく見られるありきたりなものとも言え、さほど凝ったストーリーは用意されていません。このあたり、先の読めない凝ったストーリー展開を期待する読者には、少々物足りないかもしれません。基本はバイオレンスアクションで、ストーリーの方は薄味ということでしょうか。

 ただ、決してすべて面白くないというわけではなく、個々のバトルエピソードでの、敵との会話シーンには中々面白い内容も見られます。殺しに関して、個人の主義や生き方がぶつかり合う会話が、考えさせる内容で面白い。個人的には、連載2回目のバトルで、市の汚職警官と闘うシーンで、警官の欺瞞に満ちた行動をニコルが喝破するシーンが良かったですね。このバトル自体の内容も面白く、連載初期の最も良かったエピソードだと思っています。

 そして、アクションやストーリー以上に、やはり犯罪都市の雰囲気溢れる世界観が、大きなひとつの見所ですね。前書きで原作者自身も書いているのですが、このマンガの舞台「シセロシティ」は、19世紀の実在の都市をモデルとし、当時の未発達で混沌とした都市の雰囲気を全面に押し出した点が特徴です。無秩序で犯罪が横行する無法都市であり、レンガの壁と街灯の明かりの近代的な風景もありながらも、その下でギャング同士が血で血を洗う抗争をしているという、そういった明るさと猥雑さが混在するレトロな都市の雰囲気が好きな人には、中々に魅力的なものとなっています。このあたりは原作者の趣味が大きく活かされていますね。


・派手な人気こそないが、確実な良作であることは間違いない。
 以上のように、アクションやストーリーで端々に少々欠点が見られるものの、全体的には中々によく描けた作品で、原作・作画双方の長所が良く出た良作であると思います。このふたりの作家を組み合わせた企画は、見事に成功したと見てよいでしょう。今のヤングガンガン編集部には、このような柔軟性のある作家起用がよく見られ、非常に好感が持てます。
 ただ、さすがに人気の点ではいまひとつです。先日発売されたコミックスの一巻も、残念ながら入荷冊数はかなり低いものでしたし、ヤングガンガンの中でも地味な存在であることは事実でしょう。はっきりいって、このマンガには「萌え」の要素など微塵もありませんし(笑)、バトル系とはいえ、女性読者に人気の出るライト系少年マンガの絵ともかけ離れているため、男性・女性ともにオタク人気が期待できるようなマンガではありません。大きな人気が出ないのはやむを得ないところでしょう。

 しかし、表だった人気こそないとはいえ、確かな良作として、ヤングガンガンの中で地味ながらも連載ラインナップの一角を占め、雑誌を支える役目は十分に果たしていると思えます。今のヤングガンガンの中でも、特に濃く荒々しい作画が一際目立つ作品で、誌面の多彩さに貢献しています。ライト感覚の作画の多い誌面の中で、たまにこういった異質のビジュアルが混じっていると、誌面に適度なメリハリがついてよいですね。何かと休載が多い連載陣の中で、コンスタントに毎回掲載しているのも、褒められるべきポイントでしょう。今後も、ヤングガンガンを地道に支える中堅作品として、日々連載を続けていただきたいものです。


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