<牙の旅商人 〜The Arms Peddler〜>

2011・2・23

 「牙の旅商人 〜The Arms Peddler〜」は、ヤングガンガンで2010年10号から開始された連載で、骨太なイメージのファンタジー作品となっています。ヤングガンガンでは、これまでも「死がふたりを分かつまで」「FRONT MISSON DOG LIFE & DOG STYLE」「新選組刃義抄 アサギ」「TOKYO BALDO」など、青年誌的なバイオレンスアクションものを何度も手がけてきて、しかも総じて良作・力作が多かったのですが、この「牙の旅商人」もまたそのひとつに連なるかもしれません。連載序盤から、作画・内容の双方においてレベルの高い作品に仕上がっています。

 作者は、原作に七月鏡一、作画に梟(ナイトオウル)の名前が挙がっています。七月鏡一は、マンガ原作者として著名で、週刊少年サンデーのかつての連載「ジーザス」「ARMS」を始め、数々のマンガ原作・原案を手がけています。この「牙の旅商人」は、ヤングガンガン、もしくはスクエニでは初めての作品になりますが、過去の作品と同等の雰囲気を漂わせた硬派の作品に仕上がっています。ただ、過去の作品がおおむね現代が舞台の作品が多かったのに対して、このマンガは、純粋なファンタジー作品となっていることが、ひとつの大きな特徴だと言えるでしょう。
 そして、作画担当の梟(ナイトオウル)ですが、こちらはかつてヤングガンガンで「激流血」という過激な作品の作画を手がけた朴重基という作家のようです。「激流血」でその作画レベルの高さを認められ、その後ファンタジー系の読み切り作品を執筆し、そちらでも安定した画力の高さを見せてくれました。そして、ついにこの「牙の旅商人」の作画担当に抜擢されたようです。

 どちらの作者も屈指の実力者だと思いますが、双方ともにその実力を余すことなく発揮し、内容・作画共にハイレベルの作品に仕上がっています。七月さんの構成するストーリーは、厳しい環境のファンタジー世界において生きる強きものと弱きもの、その過酷な生き様を真正面から描いており、その重厚なシナリオは胸に響くものがあります。決して幸福な物語ではないけれども、そこには人の精一杯の生き様がある。そんな骨太なファンタジー作品になっているようです。

 そして、梟さんによるハイレベルの作画は、その荒涼としたファンタジー世界を丹念かつ緻密に描き切っており、その濡れたような繊細な作画は、世界とそこに生きる人間を厚みをもって描き出しています。人物、背景、そのすべてにずっしりした存在感と思わず見入ってしまう緻密な描き込みが見られる。ヤングガンガンでも、あるいはマンガ界全体を見渡しても、トップクラスの作画のひとつに挙げられると思います。

 従来、このようなヤングガンガンの硬派系作品は、いまひとつ地味な扱いに終始してきましたが、このマンガは、その中でもまだ人気を得る可能性は高いと見ています。「」ジーザス」「ARMS」を手がけた七月鏡一というネームブランドと、幅広い読者に受け入れられる汎用性の高いファンタジー物語になっている点が、有力なアドバンテージになっていると思います。


・前作「激流血」が、このマンガの企画のきっかけだった。
 作画担当者の梟さんの前作「激流血」。これは、過酷ないじめに遭う高校生が、自分を強くするために格闘技を学んでいじめに立ち向かうといったストーリーで、その凄惨な描写に極めて強烈なものがありました。あまりにひどすぎる凄まじいいじめの描写と、主人公やライバルたちが徹底的に叩きのめされる凶悪な暴力シーンで、極めて過激な作品になっていた感は否定できません。そのため、到底一般受けしたとは言えなかったのですが、しかし過激とはいえよく構成されたストーリーといじめを始めとする現代社会の不の側面の描写、そして作画担当の梟さんによる極めて高い作画レベル・・・まるで濡れたような繊細なタッチで描かれるキャラクターたち、そして重々しい暴力シーンに、ひどく見るべきものもあった作品でした。連載当時も、当初は巻末近いあたりの掲載場所で人気のないことが実感されましたが、次第に面白さが認められ、後半のクライマックスに差し掛かるころには、ついには雑誌前半で掲載されるまでに成長しました。

 そして、そんな「激流血」において、コミックス1巻の帯にコメントを寄せた一人が、七月鏡一さんだったのです。同じくコメントを寄せた作家には、沙村広明さんなどもいたのですが、いずれも作画に極めて高い評価を寄せていました。沙村さんの「なんという線の色気だ」という褒め言葉は、いまだに印象に残っています。
 さらに、このコメントをひとつの接点として、今回の原作と作画担当のタッグが組まれたのではないかと思われます。かつて「激流血」でシュアな作画を残した梟さんと、その作画を絶賛した七月さんとを合わせて作品を企画したのではないか。ヤングガンガンでは、以前より実力のある原作者と作画担当者を組み合わせて、数々の良作を作り上げてきました。アニメ化もされた「BAMBOO BLADE」(原作・土塚理弘、作画・五十嵐あぐり)がその代表的作品です。この「牙の旅商人」も、そんな一連の作品のひとつであり、いかにもヤングガンガンならではの優れた企画作品だと言えるでしょう。


・やはり作画レベルの高さが光る。
 「激流血」は、現代の高校と周囲の街並みが舞台の作品でした。これはこれでよくその殺伐とした現代世界の一面をよく捉えていましたが、今回の「牙の旅商人」は、荒涼とした荒野とそこに点在する町や村、廃墟がその舞台のファンタジー作品。こういった世界観の作品でこそ、梟さんの高い画力がより際立つような気がします。

 なんといってもその背景の緻密な作画が素晴らしい。奇岩が点在するだけの荒野、崩れ落ちた建造物がはかなさを誘う廃墟、賑やかなバザールが開かれる猥雑な商都など、そのすべてを細部まで徹底的に描写しています。全体的に白と黒のコントラストが際立つ鮮烈な作画で、これはどす黒い陰惨な作画が印象的だった「激流血」からそのまま受け継がれています。いや、あまりに凄惨だった「激流血」の作画に比べると、やや落ち着いた感もあり、過激になりすぎずうまくまとめたバランスのよさも感じられます。

 背景だけでなく、人物の描写も素晴らしい。ひとりひとり色気のある描線で描かれた深みのある顔立ちは、その者の内面をよく伝えています。顔を見ただけでどんな人物かその奥底まで伝わってくるような重厚な作画。これもまた彼の最大の持ち味です。また、前作はほとんどメインキャラクターは男性ばかりでしたが、今回は主人公を導く武器商人・ガラミィは顔立ちの整ったかっこいいお姉さんといった感のキャラクター。このガラミィが、梟さんの繊細で濡れたような描線によって、実に魅力的なキャラクターに仕上がっています。その一方で、骨太なイメージの壮年の将軍やいかつい獣人のような濃いキャラクターもよく描いており、いろいろなタイプの人物を精力的に描き分けていますね。



・厳しい世界に生きる弱き人々の精一杯の意志を描く。
 そして、もちろん作画だけでなく、七月鏡一によるストーリーも、非常に力がこもったものになっています。あえて武器を求める力なき人々の姿を、様々な角度から描いています。

 ガラミィは、武器商人ギルドに属する武器の行商人の一人。依頼者の立てる黒旗の下に参じて、依頼者の求める武器を提供するのが仕事です。あえて物騒な武器を求める者は、軍人や戦士たちだけでなく、力のない弱い人々もいます。そんな彼らが、あえて武器を手に取って悲痛な目的のために命をかける。その姿に、弱きものの抱く精一杯の強き意志を感じるのです。

 連載の第2話では、”水神”なる守り神に雨を恵んでもらうため、娘を生贄に捧げることになった老人が依頼者。他の村人たちはガラミィをまったく歓迎しませんが、彼だけが迎え入れて強く武器を求めます。自分たちを嘲った水神に復讐するための武器を求める彼の意志は固く、ありったけの財産と自分の命を引き換えにガラミィから武器を購入し、自らの命を引き換えに水神を爆殺して果てます。
 しかし、村に水を恵む水神を倒したことで、村人たちは路頭に迷うことになります。果たして、老人の願いをかなえることは、正しいことだったのか・・・。あるいは、この厳しい世界において真の救いはあるのか、そんなことを読者にも問いかける優れたエピソードになっていたと思います。

 次の第3話では、今は使われていない廃墟となった山間の砦に、ただ一発の銃弾を届けにいくという依頼をガラミィが受けます。かつて20年前に、この砦で戦いが行われたとき、武器商人ギルドは、依頼者であるグレダ国の将軍エルネスに武器を届けるはずだったにも関わらず、将軍がいくら待っても来ることはありませんでした。そのことを恨みに思った将軍の息子スネブが、ここを訪れるギルドの人間を殺していたのです。しかし、その実情は、周囲を取り巻くバルダール軍に阻まれて、ギルドの必死の戦いもむなしく、依頼を果たすことができなかったのです。そのために、武器商人ギルドは、この砦にかつて届けられなかった銃弾を毎年届けに来るようになったと、ガラミィはとうとうと語るのです。
 この話は、武器を求める劣勢の軍勢の必死の訴えと、それに応えられなかった武器商人ギルドの自戒の念と、その双方が鮮明に描かれた優れたエピソードだったと思います。


・少年の葛藤と奮闘、そして成長にも注目。
 さらには、主人公であるソーナという少年、幼くして過酷な目に遭い、ガラミィに買われた身でありながらも、そこから這い上がって奮闘する様子にも注目したい。まだあどけない少年の成長物語という側面もあるのです。

 ソーナは、荒野の村で優しい両親と共に幸せに暮らしていましたが、凶悪な盗賊団に襲われて両親も村人も皆殺しとなり、しかも盗賊団の首領ハイドラによってただ一人生き残らされ、その手のひらに消えることの無い焼印を押されるという屈辱を受けます。そのまま荒野に放り出された彼は、通りがかった武器商人のガラミィに辛くも命を救われます。しかし、愛する者をすべて失ったソーナは、両親や村人の墓の前から動こうとしません。しかし、そんな姿をガラミィによって一喝され、彼女に金貨100枚で買われる形で、復讐のための武器をもらって共についていくことになるのです。

 最初のうちは、かろうじてガラミィについていくばかりで、厳しい世界を目の当たりにして、非力な彼は何も出来ない状態が続きます。しかし、それでも、ガラミィが接する人々の生き様を目のあたりにすることで、少しずつ外の世界の法則を知り、成長へとつながることになるのです。

 そんな彼も、ついには少しずつ活躍できる機会がやってきます。奴隷が売り買いされる商業都市ユガで、ガラミィの策略の一環で一時売り買いされる身分に落ちてしまいますが、そこである国の王女を助ける機会を得るのです。亜人の族長ガロンの頼みを受ける形で、小さな体で抜け穴を通って王女の下へ向かい、彼女を先導して脱出させる大きな手助けとなります。さらには、ガラミィと合流した先の洞窟では、不気味なモンスターにも勇気を振り絞って立ち向かう様を見せます。
 とはいえ、戦闘能力はまだまだで、いまだ成長途上であるとは言えますが、それでも家族や村人を皆殺しにされ絶望に暮れていたことに比べれば、その内面は大きく前向きに変わったと言えるでしょう。これから先、身体的な成長と共にさらにどう変わっていくのか楽しみなところです。


・荒野という滅びの光景と、そこに確かに生きる人々の営みを描いた力作。
 このように、この「牙の旅商人」、圧倒的な作画レベルによる世界や人間の緻密な描写が素晴らしく、かつ武器商人を巡る数々の人々の意志と、主人公である少年の成長とストーリーでの見所も多い力作となっています。ヤングガンガンの中でも特に硬派で重厚なイメージの作品であり、かつ極めて高いレベルに仕上がった良作であることは間違いないでしょう。

 コミックスの後書きによれば、原作者は、子供の頃からこういった荒野に漠然とした憧れを抱いていたようです。西部劇や地球滅亡後を描くSFにその源泉はあるとも言っていますが、「乾いて赤茶けた土。朱色に燃える巨大な太陽。大地に黒い影を落とすのはもはや遺跡としか呼べぬ滅んだ文明の残骸」と作者が語る、死を孕んだ「滅びの光景」であるにもかかわらず、そこに何か惹きつけられたと。確かにその思いには頷けるものがあります。
 さらに、その死んだはずの荒野には、確かに生きる人々もいて、そういう人々の意思も描きたかった。そんな人間の中で、特に一人思いついたのが、ガラミィという女性であったようです。

 そんな作者の夢想は、長い間形にはなりませんでしたが、2年前にヤングガンガン編集部に紹介された「激流血」をきっかけに作画担当の梟の作品に触れ、ついに彼の作品が日の目を見るときが来たようです。ヤングガンガン編集部は、以前にも優れた原作者を外部から招いてきましたが、今回もまた成功したのではないでしょうか。かつてはサンデーでいくつもの名作を手がけてきた七月鏡一さんですが、今回はヤングガンガンでの「荒野のファンタジー」という作者の新境地を、梟さんの最高の作画レベルと共に楽しみたいと思います。


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