<夏色キセキ>

2012・6・1

 「夏色キセキ」は、ヤングガンガンで2012年Vol.3から始まった連載で、同名のアニメ作品の先行コミカライズに当たります。最近では、このヤングガンガンを始めとして、スクエニでもこのようなアニメに先駆けてのコミカライズが相次いでおり、もはやひとつの主要路線となった感があります。それも、知名度の高い話題作のコミック化が行われることが多く、この「夏色キセキ」も、まさにそのような企画の代表となっているようです。

 アニメは、2012年の4月から放映開始されましたが、その半年前に作品の制作が告知されて以来、盛んな宣伝活動が行われました。なんといっても、メインキャラクターの4人の女の子を、人気声優ユニットのスフィアが担当することが、最大のセールスポイントとなっていました。さらに、作品の舞台が下田となっていて、その地元の街並みや自然も大きくクローズアップされ、そちらでのタイアップ企画も盛んに行われました。いわゆる「聖地巡礼」の効果を狙った作品は、このところいくつも見られるようになりましたが、この作品は、とりわけそこを押しているようです。

 コミック版は、アニメの放映に3ヶ月ほど先駆けて開始されました。アニメよりかなり早く始まったゆえか、まずはアニメのプレストーリーとも言えるエピソードから始まり、そしてアニメの放映と合わせるように、アニメのエピソードに入っています。そして、このアニメのプレストーリーの部分が大変よく出来ていて、このコミック版ならではの面白さがよく出ているように思います。

 作画担当は、たつひこ。ヤングガンガンからの新人作家のようで、今回のコミカライズが初連載のようです。その作画は、非常にやわらかく感じのいい絵柄となっていて、キャラクターのかわいらしさや、あるいは夏の下田の空気感をよく表現していて、非常に好感が持てました。若干の硬さが残っているように感じた、アニメの作画よりも、こちらの方が個人的に好みですね。


・先行コミカライズはもはやスクエニでも主要路線。
 前述のように、この「夏色キセキ」のような、「アニメ放映に先駆けてのコミカライズ(コミック版連載)」いわゆる「先行コミカライズ」が、ここ最近のスクエニでも主流となってきました。以前からヤングガンガンではよく行われていましたが、最近では他の雑誌でもこの方式が拡散してきたように思います。

 ヤングガンガンで行われたのは、主にボンズの作品のコミカライズで、古くは「天保異聞妖奇士」、最近では「STAR DRIVER 輝きのタクト」。アニメの方もいずれも話題作でしたが、コミック版の出来もよくて、とりわけ「天保異聞妖奇士」のコミックは、作画担当の蜷川ヤエコの美しい緻密な絵が好評で、高く評価されたと記憶しています。ボンズは、スクエニの人気マンガのコミック化の動きも盛んですが(「鋼の錬金術師」「ソウルイーター」「絶園のテンペスト」)、逆にこうしてオリジナル作品をスクエニで先行コミカライズ、という動きも毎回行われています。それだけ制作会社と出版社の結びつきが強いのでしょう。

 そして最近では、少年ガンガンの方でも、2011年にあの「ギルティクラウン」の先行コミカライズが行われています。アニメは相当な話題作で、それをガンガンでやるということで、誌面上での宣伝告知活動も非常に盛んだったように思います。当時のガンガンで最大の注目作になっていたと言っても過言ではありません。
 さらに、ガンガンJOKERの方でも、これまた話題作の先行コミカライズが行われました。「花咲くいろは」ですね。アニメの評価も高く、その評価を受けて、そのスタッフによる次回作「TARI TARI」の制作も決まったようで、その先行コミカライズもまたJOKERで開始されています。
 新創刊されたビッグガンガンでも動きがあります。2012年秋に劇場公開予定のサイボーグ009のリメイク作品「009 RE:CYBORG」の先行コミカライズが、劇場版キャラクターデザイナーの麻生我等自らの手によって始まっています。以前から麻生我等作画の連載がいくつかヤングガンガンで行われていたので、今回もそのつながりでコミカライズが実現したのでしょう。

 このように、今ではスクエニの各雑誌で、アニメに先駆けての先行コミカライズが行われているのが現状です。その中でも、このヤングガンガンの「夏色キセキ」は、アニメ自体の告知活動が大きかったこともあって、とりわけ大きな扱いになっているようです。


・プレストーリーののびのびした開放的な空気感が最高にいい。
 さて、肝心のコミック版の内容ですが、アニメのプレストーリーとなっている部分のエピソードが、まず非常によく出来ています。舞台は前述のとおり下田なのですが、広々とした郊外の初夏の光景、そののんびりした空気がとてもよく描かれているのです。そして、その中でのびのびと活動している主人公の女の子4人組の姿が実にいい。

 4人の女の子は、元気なスポーツ少女・夏海、しっかりした言動の優等生・紗季、陽気なお調子者のムードメーカー・優香、物静かな性格の不思議少女・凛子の4人組で、大抵はムードメーカーでトラブルメーカーでもある優香に引っ張られる形で、下田のあちこちを駆け回り、いろいろな活動に楽しく興じる様が、とてもよく描けています。そして、彼女たちを取り巻く下田の街並みや自然の光景がとても素晴らしい。
 中でも特によかったのが、冒頭1話のラストシーン、4人が街を見下ろす郊外の坂の上を走って駆け下りるシーンです。優香が心底楽しそうに両手を広げて先頭を切って駆け、夏海はそれを止めようと手をかけ、紗季は迷惑そうに「しょうがないなあ」と言いたげに後ろで追いかけ、そして凛子はマイペースに表情を変えずに少し離れたところを追いかけている。そしてそんな4人の背後に広がる下田の街の遠景と森の緑、夏の青空と白い雲! モノクロの作画なのにそこに鮮烈な色彩まで感じてしまうような、広々とした開放感いっぱいの素晴らしいシーンだったと思います。

 そんな最高の始まり方をした1話でしたが、その後5話までプレストーリーが続き、ひとつひとつどれもよかったと思います。優香が雑誌のライターに声をかけられて、読者モデルになろうと言いはじめて町中を片手に奔走する3話、テニス部で活動している夏海と紗季の元で、優香と凛子のふたりも新入生用のメニュー作成を一緒に手伝う4話などは、特によかったと思います。こうしてアニメが始まる前のコミック版の連載を見ると、これは本当にいい作品だなと思ったのですが・・・。


・肝心のアニメの評判がいまひとつなのは残念。
 しかし、いざ始まった肝心のアニメ本編は、意外にもその評判はあまり芳しくありませんでした。とりわけ、放映開始直後の1話・2話あたりの評価がよくなく、それ以降はまだ回復しているものの、しかし総じてあまり評判がよくない状態が続いています。

 コミック版がかなりいい感じだと思っていたので、これは個人的にも本当に意外だと思ったのですが、いざ実際にアニメを見てみると、確かにこれはちょっとどうかな、と思えるところも感じられました。
 まず、このアニメのストーリー、コミック版のプレストーリーのような、のんびりした開放的な日常を描くようなものではなく、のっけからシリアス展開で、夏海と紗季がいきなり喧嘩して険悪な関係になるなど、あまりいい雰囲気ではなかったのです。最初からこのよくない雰囲気に当てられて、悪い印象を持ってしまった視聴者も、少なからずいるのではないかと思われました。また、その後、山の上にある神社の裏方に祀られている「御石様」という巨石に願いをすると、いきなり4人が空を飛んでしまうという展開となり、この唐突に不思議とも言える展開には、やはり戸惑いを感じる人が多かったようです。

 この作品、事前の情報から、穏やかでのびのびした日常系の作風を予想している人が多かったと思います。わたしもそうなのですが、しかし実際に始まったアニメは、のっけからシリアスでギスギスした空気も感じられ、展開も唐突で不自然さを覚えるなど、視聴者の期待に反してしまったところは、少なからずあったと見ています。これは非常に残念だったと言わざるをえません。

 また、アニメの作画がいまひとつなのもマイナスポイントです。制作時間が少し足りなかったと監督自身発言しているようで、実際にキャラクターの絵がいまひとつ安定しておらず、見ていて毎回どうも不安にさせられてしまいます。



・アニメ本編、コミック版ともどもがんばってほしい。
 そんなわけで、肝心のアニメ本編でいきなりつまづいてしまった感があるのですが、しかしその後の話ではかなり立ち直ってきていますし、これは素直にいいなと思えるエピソードも増えてきました。シリアスな展開だけでなく、日常の楽しい光景を描いたシーンも出てきていますし、もう雰囲気はかなりよくなっています。これからは、最後まで期待していいのではないでしょうか。

 コミック版の方は、もっとよいのではないかと思います。元々プレストーリーの雰囲気が非常によかったので、その後アニメ本編のストーリーに入り、シリアスな展開に移行しても、あまり抵抗を感じません。冒頭からいきなりシリアス展開に入ってしまったアニメよりも、ずっと自然に入り込め、楽しめるストーリーになっていると思うのです。むしろ、アニメの方もこうしてほしかったと思うくらいです。

 さらには、作画担当のたつひこさんの絵がすごくいい。この「ふわっ」とした作風は、非常に感じのいいもので、コミック版のやわらかい気持ちのいい雰囲気は、この絵から来ていると行っても過言ではありません。4人の女の子の中では、特に優香のころころと変わる表情がよく描かれているような気がします。たつひこさんの描く優香は非常にかわいらしい。アニメ版だとどちらかと言えば紗季の方がよく作画されているような気がしますが、コミック版だと優香ですね。ムードメーカーの優香がよく描かれていることで、楽しい雰囲気になっているとも感じます。

 この後も、できれば「たつひこ版」の雰囲気の良さを大切にしたコミック版として続いてほしいですね。アニメの水島精二監督も、コミックスの後書きでそのようなコメントを残していますし、アニメとコミック、そのどちらでもそれぞれの楽しさを期待したいですね。


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