<黒神>

2006・1・4

 ヤングガンガン創刊時からの看板作品のひとつで、韓国作家コンビによるバトルアクション物ということで、話題性も非常に高い作品です。
 元々、ヤングガンガンの前身であった季刊誌「ガンガンYG」に掲載された読み切り「黒神 外伝」が非常に面白く、当時から雑誌の目玉扱いでした。しかも、既にその時点で、ヤングガンガンの創刊とこのマンガの連載も視野にあったようで、創刊当時から最大の看板作品のひとつとして、大きな期待を受けて連載を開始しました。そして、幸いなことに、これがまさに期待通りの完成度を持つ良作でした。

 このマンガは、原作・作画担当共に韓国人作家によるもので(原作:イム・ダリョン、作画:パク・ソンウ)、そのため随所に韓国のマンガらしい特徴が窺えます。しかしその一方で、日本の読者にも親しみやすいイメージをも有しており、韓国作品独特のテイストでありながらも、日本人でも割と抵抗なく素直に読める作品となっています。


・極めて濃い絵柄と、日本的萌え路線。
 まず、韓国のマンガの特徴として、絵が濃いという点があります。最近になってスクエニで掲載された韓国作家の作品も、あるいは他出版社の作品でも一様にその特徴が見られますし、日本でもメジャーになった韓国発のコンピュータゲームのキャラクターデザインを見ても、日本のゲームのそれに比べてやはり非常に濃い印象があります。
 具体的には、韓国の絵は、とにかく線が太く、色の塗りも鮮明で濃いのが特徴です。この「黒神」ももちろん例外ではなく、極めて太い描線と黒さが目立つ彩色の作品で、非常に鮮烈な印象を持っています。絵のレベル自体も極めて高く、まずこの絵のインパクトだけでも買いでしょう。

この萌えは他の韓国マンガでは味わえない(笑)  しかし、このマンガは、他の韓国のマンガではあまり見られない日本的な萌えを感じる絵柄であることも大きな特徴です。
 韓国のマンガやゲームの絵は、日本の作品の影響を色濃く受けていて、基本的なテイストは日本のそれに近いものを有しています。しかし、韓国の方の好みなのか、やはり日本よりも濃いイメージのキャラクターデザインが多い印象を受けます。萌えなキャラクターももちろんいるわけですが、日本のそれに比べると、そのデザインがキツめの印象があります。日本の萌えキャラクターが「かわいい」とするならば、韓国のそれは「美しい」「美人」である印象が強いのです。
 しかし、この「黒神」は、韓国のマンガとしては珍しく、日本的な萌え路線を持っていて、要するにかわいい女の子が描ける絵柄なのです。この、萌えなかわいい女の子が登場する韓国マンガというのが素晴らしい(笑)。韓国の濃い鮮烈な絵柄と、対照的に日本的な萌えキャラクター。この素晴らしいバランスこそが、「黒神」最大の魅力と言っても過言ではないでしょう。


・練りこまれた設定、重厚なテーマ・ストーリーも光る。
 さらに、このマンガは、現代ものの能力格闘バトルマンガでありながら、各種の設定がよく作られていて、その点でも韓国作品の特徴を有しています。「共存均衡」に「元神霊(もとつみたま)」に「三位一在」に「契約」に「イクシード」と、ものものしいキーワードが並んでいます。最初「元神霊」が読めなくてひどく苦労しました(笑)。この作品のヒロインであるクロは、その元神霊(人間を超越した存在)であり、世界の共存均衡を守るために人間の世界にやって来て、主人公である慶太(伊吹慶太)と「契約」を結び、敵対する元神霊と闘うことになります。
 実は、一昔前のファンタジー作品ならば、日本でもこのような凝った設定を有する作品は珍しくありませんでした。しかし、今の日本では、ファンタジーよりもむしろ現代的な「萌え」路線の作品が中心となり、凝った設定を持つ本格路線のファンタジーや伝奇作品は、相対的に少なくなっているように感じます。しかし、韓国の作品は、なぜか一昔前の日本の作品の特徴を持つものが多く、そのおかげで今の日本では少なくなった凝った設定を楽しむことが出来るのです。

 さらには、これらの設定は、単にエンターテインメントの要素だけでなく、世界や人間の存在そのものに関わる重厚なテーマをも同時に有しています。そのため、単なるバトルアクションにとどまらない、重厚な設定を核とした一本筋の通ったストーリーを持つ読み応えのある作品となっています。


・格闘アクションのダイナミズム。
 しかし、このマンガの最大の売りは、何と言っても激しい格闘バトルです。濃く鮮烈な絵で描かれる格闘シーンは、画面一杯のエフェクトを駆使した迫力あるもので、しかもヒロインのクロが血反吐を吐くまで殴られるという壮絶な描写もあり、萌えな描写とは一線を画する激しさです。このマンガの作画担当者(パク・ソンウ)は、元々はほのぼの系の萌えマンガを描いていた人らしいのですが、このマンガでは一転して苛烈なバトルシーンを徹底的に描いている点が驚きです。この、韓国特有の鮮烈な絵柄で描かれる格闘シーンのダイナミズムは素晴らしいの一言です。

 ヒロインのクロがボクシングの技を使って闘うというのも面白い。この手の格闘バトルものでボクシングを使うのは珍しく、ここに優れたオリジナリティが感じられます。人間を超越した存在である元神霊が、人間から教わったボクシングを使うという設定上の面白さもさることながら、あえて異種格闘では不利とされるボクシングで、フットワークとパンチを駆使して敵を倒していくというスピード感・爽快感は見逃せません。


・必ずしも萌えだけではなく、むしろ少年マンガ的な趣きも強い作品。
 さらに、このバトルシーンでは、元神霊と契約者が同調(シンクロ)することによって発動するイクシード(必殺技)もあり、このあたりの少年マンガ的な燃え展開も見るべきものがあります。実は、このマンガは、必ずしも萌えだけのマンガではなく、むしろ熱血バトル系少年マンガの要素が強い作品です。何か一昔前の少年マンガの趣きがあり、このあたり王道系の少年マンガが好きな人ならば存分に楽しめるでしょう。


・ヤングガンガンの中核を成す看板にして実力派の良作。
 以上のように、このマンガは、韓国特有の濃い絵柄でありながらも日本的な萌えが存分に楽しめ、しかも激しい格闘バトルと凝った設定、ストーリーとどこを取っても高い完成度を誇る、実力派の韓国作家が存分にその力を発揮した良作です。萌え要素は高いものの、決してかわいい女の子がバトルを繰り返すだけのマンガではなく、きちんと内容もあるバランスの取れた作品である。既存の韓国作品とはテイストが異なる新機軸の韓国マンガということで、その点で話題性も高く、これからもアニメ化等のさらなる展開が期待できるかもしれません。名実ともにヤングガンガンの看板作品のひとつであることは間違いないでしょう。


 なお、前述の、本編の前に雑誌に掲載された読み切り「黒神 外伝」は、単行本一巻の巻末に収録されていますが、この話は実に良い。本編に先行する話なので、まず先にこれから読むことをおすすめします。これを先に読まないと、なぜクロがボクシングを使って闘うのか、その意味が分からないでしょう。


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