<レキオス-LEQUIOS-> 

2009・10・5

 「レキオス-LEQUIOS-」は、ヤングガンガンで2008年23号から開始された連載で、同名の小説を原作に持つコミック化作品です。この時期に大規模に行われた新連載攻勢のひとつでもあり、その5番目に当たります。この新連載攻勢、短期で終了した作品を含めて全部で8作品もありましたが、その中でも編集部が最も力を入れていた大型の企画になっています。

 作者は、原作が池上永一、作画に前嶋重機。どちらもその筋ではかなり知られた作家であり、「大物作家」と言ってもよいかもしれません。ヤングガンガンでは、優れた原作者と作画担当者を組み合わせて良作を作り出す企画が顕著ですが、それらの多くは、ヤングガンガンからの生え抜きの新人作家によるものか、外部からの作家でも、いまだあまり知られていない作家の登用がほとんどでした。このように、すでに知られている作家を起用する企画は少数派であり、しかも原作者と作画担当者双方がそれに該当するとなると、この作品を含めてごく僅かだと思われます。

 そのためか、当初から編集部による積極的な宣伝活動が盛んに見られ、ヤングガンガンの新連載の中でも、特に全面に押し出されていた主力扱いの作品となりました。一方で、原作にしろこのコミック版にしろかなり癖の強い(アクの強い)作品で、しかもこれまでのヤングガンガンの中心だった作品とは雰囲気の異なる、より一般的な青年誌で見られる作風だったためか、いまだ安定した人気を得るまでは至っていないようです。ストーリーも分かりやすい描かれ方をしておらず、数多くのキャラクターの間で視点が飛び交うようなスタイルになっているのも、とっつきにくい大きな要因になっているかもしれません。

 しかし、それでも作者の個性が存分に出た相当な力作であることは確かで、ヤングガンガンでも一目置かれた扱いになっていることは間違いありません。同時期の新連載の中では、こちらはすでに成功して高い評価を得ている「新選組刃義抄 アサギ」と、そして「TOKYO BALDO」と並んで、ヤングガンガンのより一般誌に近い方向性での力作であり、しかも既に評価を受けている小説のコミック化ということで、今後に期待するところは非常に大きいのではないでしょうか。


・池上永一と前嶋重機という実力派の執筆陣。
 上記の通り、この作品は、原作者と作画担当者が、すでにかなり知られた作家となっており、スクエニのヤングガンガンでの連載に際しては、編集部の方でも大きく採り上げる記事が目立ちました。

 まず、原作者の池上永一ですが、すでに話題となった小説を何作か出しており、その中にはSF色の強い作品も多く、SFのジャンルでも評価されている作品がいくつかあるようです。現代や近未来社会を舞台にしながら、魔術やファンタジーのようなモチーフを採り入れる作風が大きな特徴です。また、自身の出身地である沖縄を舞台にして、そこの風俗や文化を鮮やかに描き出す作風でも知られ、このふたつはそのままこの「レキオス」にも当てはまります。
 中でも、近年の著作である「シャングリ・ラ」「テンペスト」が特に有名で、前者は角川書店で既にコミック化されており、2009年4月からTVアニメ化もされ、つい先日終了しました。原作もアニメ雑誌のNewtypeで掲載されていたこともあり、この「シャングリ・ラ」がマンガ読者やアニメファンの間では最も知られている作品かもしれません。「レキオス」のコミックスでも帯に「あの『シャングリ・ラ』の原点」との煽り文が書かれており、作者最大の有名作と関連させようという試みが感じられます。

 そしてもうひとり、作画担当の前嶋重機ですが、こちらはマンガ家よりむしろイラストレーターとして、既にかなりの人気と評価を獲得しており、男性のマニアの間では特にそ知られている作家です。ちなみに、妻はマンガ家の伊藤悠で、「皇国の守護者」のコミカライズを担当したことで、こちらの方がさらに有名かもしれません。
 彼の著作としては、ワニマガジン社より季刊で刊行されているビジュアル誌「GELATIN」で連載中の「DRAGON FLY」や、ライトノベル「戦う司書シリーズ」の挿絵などが特に有名で、後者は先日TVアニメも始まったようです。極めて濃い筆致、スタイリッシュな造型、そして緻密に描き込まれた画風は、見るものに鮮烈な印象を与えており、それはこの「レキオス」のコミカライズにも顕著に表れています。


・ストーリーの構成はやや把握しづらいが・・・。
 このマンガの大まかな構成は、沖縄の米軍基地で「レキオス」なる存在を召喚しようとする秘密結社の企みと、それに乗じて、あるいは巻き込まれる形で沖縄に集まってくる人々の運命を描いたものですが、ストーリーが各キャラクターの視点で飛び飛びに語られるため、いまひとつ把握しづらいものとなっています。どちらかと言えばコミックスでまとめて読んだ方が分かりやすいですし、雑誌の連載で追っていくのはやや難しいかもしれません。同作者の「シャングリ・ラ」のアニメは、圧制を敷く政府軍とそれに対抗するレジスタンスの少女、という分かりやすい構成で描かれているのですが、このマンガの方はそこまで明快な構成にはなっていないように思えます。

 一応、このマンガも「レキオス」なる謎の存在を求める秘密結社の幹部と、それに対抗する主人公たちという構図は根底にはあるのですが、それ以上に様々な思惑を持つ人物が序盤から一度に登場し、彼らひとりひとりの視点に飛びつつ物語が語られるので、一見してどんな構成なのか分かりづらくなっています。一応の主人公は、沖縄で暮らすハーフの女子高生・デニスですが、彼女ばかりがずっと登場するわけではなく、他のキャラクターたちが入れ替わり立ち替わり次々と表舞台に登場し、そのたびに物語の視点が次々と切り替わっていきます。

 思うに、このマンガは、ストーリーを追い続けることにこだわるのではなく、彼らひとりひとりのキャラクターの姿と行動を楽しむ、そちらを主眼に置いた方が楽しめるのではないでしょうか。原作者自身も、「『レキオス』は体感するマンガであって、理解する作品ではありません。スピードに乗って、キャラクターの言動に乗って、運動体になって駆け抜けてください」と発言しており、まさにその通りのコミカライズになっていると思います。それに、把握しづらいと思われるストーリー自体も、「レキオス」を中心として各キャラクターがそれに関わっている構成さえ分かれば、意外と単純で分かりやすいものですし、決してそこまで難解な作品ではありません。


・とにかく個性的なキャラクターたちが実に魅力的。
 そして、そんなひとりひとりのキャラクターたち、その姿が実に魅力的なのです。「レキオス」を巡って沖縄に集まってくる、あるいは巻き込まれる運命の人々、彼らひとりひとりの姿も性格もエキセントリックでアクが強く、強烈な印象を読者に与える者たちばかりです。

 物語のヒロインである、ハーフ(アジア系アメリカ人)の女子高生デニスの、色黒で目鼻立ちのはっきりした姿と性格も印象的ですが、彼女以上に個性的なキャラクターも多く、そんなキャラクターの言動を追っていくだけで楽しい。デニスにまとわりつく異様な姿の女守護霊チルー、沖縄の嘉手納基地に勤める日系三世で、有能な空軍パイロットであるブライアン・ヤマグチ少尉、超天才の文化人類学者でありながら、露出狂で度を越した変態キャラのサマンサ・オルレンショー、同じくこちらは変態物理学者にしてサマンサのライバル・フェルミ、CIAの美人諜報員でレキオスの謎を同僚と共に追うコニー、沖縄のユタ(シャーマン)にして高い予言能力を持つ飄々とした婆さんのオバァ、そして「レキオス」を巡る計画の中心人物である米軍中佐にして秘密結社幹部のキャラダイン・・・。
 そのひとりひとりが、姿といい言動といいアクの強い濃いキャラクターばかり。この中では、空軍パイロットのブライアン・ヤマグチあたりは、まだ比較的真面目で平均的なキャラクターとして描かれているように見えますが、それ以外のキャラクターは一癖もふた癖もある者たちばかり。そんな彼らの行動を追って体感するだけでも、躍動感に満ちていて楽しい。

 そんなキャラクターの中で、さらに突出して印象深いのが、変態女性学者のサマンサでしょう。彼女は原作でも評価がやたら高かったらしいですが(笑)、その露出全開で変態的な言動を取りまくり、かと思えば思わぬ天才ぶりを発揮してレキオスを追い求めるその姿は、実に奔放で放埓な魅力に溢れており、コミック版では前嶋重機の伸びやかなキャラクター作画でビジュアル的にもその鮮烈さが存分に出ています。

物語のヒロイン・デニスと沖縄のユタ(シャーマン)・オバァ

ブライアン・ヤマグチ少尉と物語の黒幕・キャラダイン中佐 レキオスでも最大の名物キャラクター・天才学者にして変態痴女、サマンサ・オルレンショー CIA諜報員コニーと変態物理学者フェルミ


・沖縄の風俗や風景が詳細に描かれているのも興味深い。
 そしてもうひとつ、この「レキオス」ならではの(あるいは池上永一作品ならではの)持ち味として、舞台となる「沖縄」の姿が良く描かれていることが上げられます。池上永一は、自身の出身地である沖縄を舞台とした作品を数多く手がけていますが、この「レキオス」のコミック化において、彼の描きたかった沖縄のビジュアルが、本当によく再現されていると見てよいでしょう。
 同じヤングガンガンの作品でも、「黒神」の沖縄編(ニライカナイ編)では、沖縄の様々な場所が舞台になっていましたが、この「レキオス」は、さすがに原作からして沖縄をよく知る作者が書いてきただけあって、より深く丹念にその姿が描かれているように思えます。沖縄の持つ独特の、日本本土とは違う雰囲気、その空気感が本当によく出ているようです。

 まず、沖縄で使われている言葉を、沖縄人のキャラクターがそのまましゃべります。日本語とは大きく語感の異なる言葉で、そのままでは意味が非常に分かりづらい言葉ではありますが、対応する日本語を同時に掲載して、読者に語感をそのまま伝えようと試みています。
 そして、コミック版ならではの、沖縄の様々な場所の光景が、逐一よく描かれている点が目を引きます。賑やかで雑多な印象を持ち、あちこちに英語の看板も目立つ街並み、美しい自然が残る海岸と海、今も残る巨木に寄り添う自然礼拝所・御嶽(ウタキ)、そして広大な敷地を占める米軍基地・・・。これらの光景が、前嶋重機ならではの緻密にして大胆な作画でよく描かれています。

 また、米軍基地の扱いですが、原作者の池上永一は、沖縄の基地問題を直接作品のテーマとしてよく採り上げるものの、それが単なる批判ではなく、かといってもちろん肯定するわけでもなく、基地のある島で生きる人々のありのままの姿、その明るく前向きな姿を描いていることが特徴的です。これは、このマンガでもよく表れており、主人公のハーフの女子高生・デニスを始め、基地のすぐ近くに住み、基地と関わり合いながら生きる現実の沖縄人の姿が、直接的に表現されていると思います。


・とっつきにくいのは確かに難点だが、それでもこのマンガは評価したい。
 この「レキオス」という作品、原作はもちろんこのコミック版も、癖が強く人を選ぶところがあると思います。一見して把握しづらいストーリー構成と、次々と登場するアクの強いキャラクター、やや雑多な印象を受ける作画と、いまひとつとっつきづらい作品になっている点は否めないでしょう。特に、ストーリーが一本の筋を成しておらず、無数のキャラクターの間を次々と視点が移り変わる構成は、雑誌で読んでいる読者にはひどく分かりづらいもので、追いかけるのをやめた読者も少なからずいるのではないかと思われます。鳴り物入りで始まった連載ながら、いまひとつまだ成功し切れていないように思えるのも、そのあたりの理由が大きいはずです。

 しかし、それでもこの「レキオス」は、それ以上の力を持つ面白いマンガだと思うのです。個性的すぎるキャラクターたちが沖縄という特異な場所に一堂に会し、そこで「レキオス」という魔術的存在を巡って様々な行動を繰り広げる。この躍動感溢れるキャラクターたちの姿・言動は、誰一人取っても強く惹かれるものがあります。このマンガの主役は、一応はヒロインのデニスなのでしょうが、実際には誰が主人公だと考えてもおかしくはない。異様なまでの激しい個性を見せる変態痴女・サマンサや、悪役のボス的存在ながら圧倒的な存在感を見せるキャラダインなどは、特に印象深い存在となってこのマンガの「顔」的な役割をも果たしているようです。そんなキャラクターたちの姿を流れるように捉えることで、「レキオス」という謎の存在を巡るストーリーを体感していく。これこそが、このマンガの真の楽しみ方ではないでしょうか。

 さらには、前嶋重機による作画が、原作の持つ魅力をよくビジュアル化しています。沖縄の空気感溢れる背景や、伸びやかで大胆な姿を見せる印象的なキャラクター造型、そして米軍基地のヘリや戦闘機などの軍事描写に至るまで、すべてにおいて本当によく原作を再現している。どちらかと言えばイラストの方で評価の高い前嶋さんですが、このマンガの仕事ぶりも十分に評価されてもよいでしょう。

 とはいえ、残念ながら、このマンガが大きく一般受けする可能性はやや低いような気がします。多くの読者にとって、とっつきづらい作品になっている感は否めないですし、このマンガを雑誌で読むのをやめてしまった読者がいるのも仕方ないところです。アニメ化まで達成した「シャングリ・ラ」のような分かりやすい構成ではなく、メディア展開もしづらいかもしれない。しかし、それでも、この作品の持つ圧倒的な力は見逃せないものがあり、ヤングガンガンの中でも最も個性派の意欲作として、今後も追いかけていきたいと思います。


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