<ロトの紋章〜紋章を継ぐ者達へ〜>

2006・7・8

 「ロトの紋章〜紋章を継ぐ者達へ〜」は、ヤングガンガンで創刊号から連載されている作品で、あのかつての超人気作品「ロトの紋章」の続編にあたります。名作「ロトの紋章」がついに復活ということで、連載開始当初から鳴り物入りでスタートし、ヤングガンガンでは最初から看板として第一線に出る扱いでした。作者はもちろん前作と同じ藤原カムイですが、今回は脚本担当として映島巡という方が製作に参加しています。

 「ロトの紋章」の続編ということで、前作のエンディング直後の世界で物語が始まり、前作で主役を張った英雄の子供たちが今回の主役という点が、この「紋章を継ぐ者達へ」の最大の話題となっています。


・前作からわずか25年〜次世代の物語〜。
 上記の通り、今作は前作「ロトの紋章」のエンディング直後から物語が始まります。具体的には、前作で主人公の勇者アルスとそのパーティーが、悪の根源である「異魔神」を倒してから25年後、という設定です。
 前作で世界に平和が戻ってからわずか25年なのですが、すでに世界には次なる暗雲が立ち込めており、「世界中から魔法という魔法が消え去る」という大事件が勃発します。さらにその翌日には、地下世界の中心であるラダトーム城で人々が一瞬にして消え去るという事件も発生します。この事件以後、人々は不安に襲われ、世界は荒廃しつつあり、各地で盗賊が横行する殺伐とした世の中になっています。
 物語の主人公は、ラダトームの王子アロス。彼は、ラダトーム城で起こった事件の生き残りなのですが、今では記憶を完全に失っており、地下世界を荒らしまわる盗賊団の一員として日々を過ごしていました。しかし、ある日地上世界から来たという武闘家兄妹であるリーとユイに出会ったことがきっかけで記憶を取り戻し、王子として自らの使命に目覚め、世界を荒廃させた真相を探る旅を始めるという物語となっています。

 主人公のアロス王子も、武闘家兄妹のリーとユイも、共に前作「ロトの紋章」で主役だった英雄たちの子供であり、そんな英雄の次世代たちが活躍する物語が、今作の最大の売りとなっています。特に、前作の熱烈なファンだった方々にとっては、この設定には大いに惹かれるものがあるでしょう。しかも、物語が進むにつれて、他にも前作ゆずりの人物が次々と登場し、前作からの直接のつながりを感じることが出来ます。


・前作とは異なる方向性。
 しかし、設定的には前作から直接繋がっているにしても、物語の雰囲気や方向性はかなり異なります。
 まず、今回は、魔物(モンスター)がいきなり登場することはなく、人心が荒廃した世界での、人同士の争いの描写が全面に出ています。前作は、序盤から悪いモンスターが完全な敵役として全面に出ており、良くも悪くもドラクエそのままと言った感じでしたが、今作ではそのような単純な物語にはなっておらず、むしろ「悪人」とも言える人物(盗賊)がたびたび登場し、主人公たちはその非道とも言える行為を何度も目撃し、あるいは立ち向かうことになります。
 人間同士の争いに、残虐なシーンが多いのも目立った特徴です。掲載誌であるヤングガンガンが青年誌であることもあり、少年誌では描写しづらいようなシーンが、連載冒頭からたびたび登場します。人間同士の争いに視点が移っていることと合わせて、全体的に「大人向け」の印象を受けます。

 これは、掲載誌が青年誌であることだけが理由ではなく、むしろ、前作「ロトの紋章」のかつての読者で、今では大人になった方々のための作品、という側面も強いもので、その意味でも前作の読者向けと言える内容になっているかもしれません。もともと、前作「ロトの紋章」自体、一般的な少年マンガよりは高年齢向けの印象が強かったのですが、今回はさらにその要素が鮮明になっています。かつての「ロトの紋章」に純粋にはまった少年で、今は青年から大人になっている方のためのストーリー、という方向性が非常に強く出ているのです。


・全く進まないストーリーなど、難点も多い。
 しかし、このような大人向けにしようという試み自体は評価できますが、作品自体には難点も多く、今のところ前作ほどのすっきりした面白さには乏しい感があります。
 まず、とにかく今回はストーリーの歩みが非常に遅い。あまりにも遅すぎて、ストーリーを追う楽しみが少ないのは大いなる難点です。最初に主人公のアロスがリー・ユイに出会い、記憶を取り戻して盗賊団を脱出するまではまずまず良かったのですが、それ以降の展開に面白みがなさすぎます。世界を荒廃させている事件の真相を追う、という流れがあるだけで、個々のエピソードにつながりが少なく、しかもいたずらに進みが遅いばかりで、まるで面白いとは思えない・・・。これではかなり厳しい。

 主人公のアロスが、前作と打って変わって無口・無愛想で内向的な少年であるのも、ちょっと行き過ぎの感があります。これはこれで、丹念に心理を追っていけば重厚なテーマが生まれるのかもしれませんが、今のところはそこまで突っ込んだ描写に乏しく、単に「何を考えているのかよく分からない」少年になっているのは、読者としてはかなり苛立たしいものがあります。前作のような明るく前向きな少年マンガ的ヒーローでないとダメというわけではありませんし、内向的な主人公もそれはそれでいいのです。しかし、それならばその心中の機微をもっと分かりやすく描いてほしいと思います。


・というか、これは面白いのか。
 というか、果たしてこのマンガは面白いのでしょうか。「『ロトの紋章』の続編」という最大の売りがあるからまだ読む気になるかもしれませんが、純粋にひとつの作品として見て、果たして面白いと言えるのか。
 まず、ストーリーの楽しさを求める娯楽作品としては、まったく問題外でしょう。ここまでストーリーが遅々として進まないのでは、まるで話になりません。前作のような、テンポよくエピソードをこなして主人公たちが成長していく爽快感は、今作ではまったくと言っていいほど見ることはできません。

 では、前作でも見られた、重厚な人間描写と、これから生まれる深いテーマについてはどうか。しかし、これもまたまったくもって不十分です。
 作者の藤原カムイは、ガンガンの方でも「ドラゴンクエスト エデンの戦士たち」という、ドラクエ7をコミック化したもうひとつのドラクエマンガを描いていますが、こちらの作品は、ストーリーの進みの遅さは相変わらずですが、人間描写とテーマに関しては十分見ごたえがあります。少年たちの成長と葛藤や、個々のエピソードで登場する人物たちの深い人間描写には、極めて深い描写が見られ、一部は哲学的な人生論にまで達している感すらあります。
 しかし、この「紋章を継ぐ者達へ」の方では、そこまでの深い描写にはまるで達しておらず、そもそも主人公のアロスが何を考えているのか、それすらよく分からない状態なのです。人間同士の争いを描写することで、人間の醜さを描いたり、そういったシーンに直面した主人公達の迷いを描くのは悪くないと思いますが、それ以上の突っ込んだ心理が判然としない。これでは、そもそも作品を通して何が言いたいのか、作者が何をしたいのかすらさっぱり分からない。

 そして、これはどうしようもないことかもしれませんが、この作品の設定そのものにもかなり引っかかるところがあります。
 まず、「前作から25年」という設定なのですが、ここまで前作からの時間経過が短いと、前作のエンディングの爽快感が薄れるような気がするのです。前作からわずか25年後に、盗賊が横行するようになるまで世界が荒廃してしまうとは、前作で勇者があそこまで苦労して取り戻した平和は一体なんだったのか、という気にすらなります。「前作の英雄たちの子供を活躍させたい」という気持ちは分かりますが、もう少し工夫できなかったものか。
 モンスターがあまり登場せず、人心が荒廃した人間が主な敵役、というのも、人によっては問題かもしれません。このような大人向け・高年齢向けの方向性が悪いわけではないのですが、前作のような「悪いモンスターを倒す」という、良くも悪くもドラクエ的な要素が薄れたのは惜しい気がします。このような単純な勧善懲悪ストーリーが必ずしもいいとは思いませんし、今作のような人間の醜さを描写する大人向けのストーリーもこれはこれで悪いわけではない。しかし、ならばもう少し突っ込んだ人間心理の描写がほしい。今の状態では、単に青年誌的なバイオレンス描写が目立つだけの作品に留まっています。
 そして、前作の最大の見所であった、壮大な規模と壮観な光景で繰り広げられるバトル描写がほとんど見られないのも痛い。わたしは、前作「ロトの紋章」の最大の見所は、巨大な敵や無数の敵に勇者が敢然と立ち向かう、映画のような見ごたえのある「スペクタクルバトル」だと思っていたのですが、今回は人間が主な相手だからか、規模の小さい人間同士のバトル描写に終始してしまっています。最近になってようやくそれに近いものも出てきましたが、もっと早くから出しても良かったのではないかと思います。

 全体を通して、今作からの方向性の転換でかつての前作の魅力はスポイルされ、そして新しく入ってきた要素も成功していないように見受けられます。これでは、あの「ロト紋」の続編として面白いものとして仕上がっているのか、はなはだ疑問です。


・「『ロトの紋章』の続編」だからといってありがたがるのはやめろと言いたい。
 もともと、このマンガは、あの「『ロトの紋章』の続編」ということが最大の売りでした。これがあるからこそ、当初から創刊雑誌の看板扱いだったわけですし、「ドラクエ」「ロト紋」という優れたコンテンツを全面に押し出して人気の獲得を図るのは、それ自体は決して悪いことではありません。
 しかし、肝心の作品自体が面白くなくては、本末転倒だと思うのです。それならば、まず第一に作品内容の充実を図るべきですし、「ロトの紋章」だからといって、いたずらに持ち上げ続けて雑誌の看板の地位に置き続けるのは、決していいことではないでしょう。

 受け取る読者の側が、これをありがたがり続けるのも疑問です。いくらロト紋の続編だからといって、それが必ずしも面白いわけではない。「『ロトの紋章』の続編」というだけで、いつまでも無闇に推し続けるのはやめていただきたい。特に、この「ロトの紋章」のような、かつての少年マンガの名作では、少なからずその評価を強引に求めてしまう方が多いようです。どうも、少年マンガの愛読者の方々は、全体的に少々押しが強すぎるところがあるように思います。とにかく、なにはともあれ、まず純粋に一個のマンガ作品として評価すべきではないでしょうか。

 今のヤングガンガンでは、この「紋章を継ぐ者達へ」だけでなく、「すもももももも」や「黒神」「ユーベルブラット」のような、当初から雑誌の看板となっている人気マンガがたくさんあります。また、「WORKING!!」や「BAMBOO BLADE」、筒井哲也作品のように、雑誌の中堅どころからさらに人気を上げ、今では雑誌を支える存在となった作品もたくさんあります。このような作品こそが、今のヤングガンガンを本当に支えているのであって、一方で「紋章を継ぐ者達へ」は、正直期待はずれの感は否めません。この事実はしっかりと認識する必要があります。
 今後、スクエニは「ロトの紋章」(前作)の完全版を順次発刊するなど、さらに「ロト紋」を前面に押し出していく方針のようです。しかし、今の「紋章を継ぐ者達へ」の内容では、正直力不足です。今後は、「『ロトの紋章』の続編」というだけで特別扱いするのではなく、純粋に作品の質を高めることに力を注ぐべきであると考えます。


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