<んぐるわ会報>

2009・5・10

 「んぐるわ会報」は、ヤングガンガンで2009年20号から開始された連載で、同誌が2008年から2009年にかけて大々的に行った新連載攻勢、その第一弾に当たります。この新連載攻勢、大作伝奇バトルものや新撰組もの、萌え系ラブコメ、スポーツものなど多岐に渡っていましたが、この作品は比較的オーソドックスな学園コメディもので、美少女キャラクターが強く押し出されているあたり、ヤングガンガンの他の人気作品と共通性が感じられます。ヤングガンガンでも比較的売れ線と言える定番のジャンルではないでしょうか。

 作者は高尾じんぐ。ヤングガンガンのマンガ賞出身で、同誌の生え抜きの新人と言える存在です。これまで何回か読み切りを掲載してきましたが、これまではいずれもあまり印象に残りませんでした。そして、初連載作品となったこの「んぐるわ会報」も、連載開始当初は静かな立ち上がりで、派手さのない作風で目立った話題を呼ばなかったため、この作品も印象に残らないままで推移するのかなと思っていたのですが、連載を重ねるにつれ次第次第に人気を獲得していき、コミックス1巻が発売される半年後には、雑誌内でも安定した人気作品にまで成長していました。これだからヤングガンガンという雑誌はあなどれません。

 内容的には、高校の生徒会を舞台にした「生徒会もの」とでも言えるような作品で、個性的な生徒会役員たちのまったりしつつ時に笑える日常を描くコメディ作品となっています。後述しますが、最近、このような「生徒会もの」の作品が、様々な場所で頻繁に見られるようになり、ひょっとすると今ではマンガやアニメにおける定番のジャンルとして確立されてきているのかもしれません。中には相当な人気を集めている作品もあり、その動向が注目されるジャンルと言えるでしょう。

 そんな作品の中でも、この「んぐるわ会報」は、比較的オーソドックスな作風で、生徒会の日々の活動を丹念に描いており、生徒会員が特殊な能力を持っていたり、生徒会自体がすごい権力を持っていたり(笑)、そのような破天荒な設定は見られません。むしろ、かなり真面目に日々の活動を描いているところもあり、他の同系のマンガよりも高校生活の描写が現実寄りで、これは大いに好感が持てました。数ある「生徒会もの」の中でも、ストレートに生徒会を描いているという点で、これを決定版と考えてもいいかもしれません。


・各所で見られるようになった生徒会もの作品。
 以前より、マンガやアニメ、ゲームの学園もの作品では、どういうわけか生徒会が登場する作品は多かったのですが、ここ最近以前にも増して生徒会の存在を全面に出した作品、生徒会やその構成員を主役にした作品が目立つようになりました。なぜこのような傾向が見られるのかはよく分かりませんが、やはり「生徒会」と呼ばれる学園生徒を代表する存在に、一種の憧れやかっこよさを感じたり、あるいは仲間と共に行う生徒会の活動に和気あいあいとした楽しさを見出しているのかもしれません。今や一時的な流行を通り越して「生徒会もの」という定番のジャンルすら出来つつあるようにも思えます。

 具体的には、極めて早い時期にアニメ化が決まりコミック化もされたライトノベル「生徒会の一存」や、少し前に発売されコミック化展開も盛んな美少女ゲーム「FORTUNE ARTERIAL」あたりがその代表でしょうか。コミックオリジナルの作品でも各所で見られるようになり、コミックラッシュの「学園革命伝ミツルギ」、コミックアライブの「桜花絢爛生徒会」、電撃大王でもあのあらきかなおが「こいこい生徒会」なる新連載を開始。大手雑誌の週刊少年マガジンでも「生徒会役員共」という4コママンガがあります。コミックブレイドの「パラドクス・ブルー」も、生徒会員だちが主役で生徒会ものと言えなくもない作品です。このようなマンガまで含めれば、他の雑誌でもまだまだ見つかりそうです。

 これらの作品は、総じて生徒会員たちキャラクターの個性を全面に押し出しており、それがほとんど共通した特徴となっています。また、最近ではいわゆる女の子の萌えキャラに比重が置かれていることも多いようです。さらには、生徒会員(特に生徒会長)が異様な能力を持つ天才・カリスマ型の超優秀生徒だったり、美少女の萌えキャラクターばかりだったり、あるいは生徒会自体が学園を支配する(笑)ような凄まじい権力を有していたりと、破天荒な設定であることも多く、現実の学校の生徒会とは大きく異なる、作者や読者の願望を具現化したような存在であることが目立つようです。

 しかし、このヤングガンガンの「んぐるわ会報」は、それらの作品とは一線を画するところがあり、より現実的でバランスの取れた作風になっているようです。その点で注目すべき作品であると言えます。


・個性的な生徒会員たちが魅力的。
 とはいえ、この「んぐるわ会報」も、やはり他の生徒会もの同様、生徒会員のキャラクターたちの個性が最大の売りとなっていると見てよいでしょう。やはりこのマンガも例に漏れず女の子の生徒会員が前面に押し出されており、特に「ちっちゃくてクールなドS」と紹介されている、妙に天然が入リつつ何を考えているかよく分からない変わり者の生徒会長こそが、この作品の実質的な主人公であり、かつ最大人気のキャラクターとなっています。

 ただ、「ドS」と紹介されるほどドSなのかと言われると、そこまでどぎついキャラクターではなく、そのドSな行動はほとんどの場合、生徒会の会計の松戸(松っちゃん)に対して向けられます。その松戸は、この生徒会唯一の男子生徒で、体格のいい大柄な外見に似合わず、その性格はおとなしく生真面目で、しかも生徒会長が好きなのでその妙な命令に逆らうことができず、毎回毎回変にいじられる、このマンガで最大のギャグキャラクターとなっています。ただ、前述のように、生徒会長の性格もそこまでどぎついものではなく、いじりと言ってもそんなに悪辣すぎるものはないように思えます。むしろ、いじり役といじられ役で、非常に面白いパートナーとして描かれているようです。松戸の方もいじられるばかりでなく、時に思わぬ活躍を見せたりするなど、決して卑屈なキャラクターではありません。わたしとしても、この松戸という実直で真面目な男子生徒はかなり好きですね。

 そして、生徒会副会長の常盤(ときわ)嬢。どこから見てもお嬢様の完璧美人で、おだやかな物腰ながら生徒会の細かい仕事も一手に引き受けるやり手の副会長として描かれています。変わり者の生徒会長とはまた違った正反対の魅力があり、この生徒会を影で支える強い味方であると言えます。
 さらには、この作品では語り役を果たすこともある、書記の里見嬢。明るく快活な性格で、生徒会の雰囲気を盛り上げ、時にはマイペースなほかの役員を引っ張っていく役割も果たしているようです。
 さらには、幽霊部員であまり出席しないもうひとりの副会長・成子も見逃せません。ぶっきらぼうでぞんざいな性格で、たまに顔を出した時もいやがりながらも律儀に仕事を果たして帰っていくエピソードは、彼女の人となりをよく表していたと思います。

 これらのキャラクターすべてに言えることは、個性的でありながらもバランスの取れた性格で、他の同系のマンガにありがちな、破天荒にすぎるキャラクターが存在しないことですね。キャラクターの造形から見ても、このマンガがかなり真面目に作られていることがよく分かります。


・とにかく真面目に現実的な生徒会の姿が描かれていることが最大のポイント。
 キャラクターの造形に加えて、ストーリーも現実の生徒会の姿、その活動ぶりを、実直に描いていることも大きな特徴です。
 キャラクターの個性とギャグ、コメディ展開に合わせて、多少は現実から離れた展開を見せることもありますが、おおむね実際の学校でも見られるであろう、現実的な生徒会の活動内容がストーリーの中心で、あるいは単なる日常を扱った回でもいかにも学生らしい?普段の描写が見られるなど、意外にも落ち着いた作品作りが随所に見られます。

 例として最初の話からその内容を挙げてみると、第1話が生徒からの投書意見の検討会議、第2話が生徒会の会報制作、第3話が校門での朝の挨拶運動、第4話が部活動の部室の調整、飛んで第7話が地域のボランティア(公園美化運動)への参加と、いずれも実際にあってもおかしくない生徒会活動の姿が描かれています。第5話・第6話は、生徒会での活動ではありませんが、生徒会室でのちょっとした日常の出来事が描かれています。
 この中で天然の生徒会長が突然妙な行為に走ったり、中でも松戸がありえないいじられ方をされて笑いを誘うなど、「さすがにこれはやりすぎだろう」と思えるリアクションも一部にはありますが、それ以上に現実的な活動ぶりが随所にうかがえます。最初にこのマンガを目にした時は、もっと個性的すぎる生徒会のキャラクターたちが破天荒な大騒ぎを起こすマンガかと思っていたのですが、実際にはもっとずっとバランスの取れた作風でした。それでも、当初は「この内容だと落ち着きすぎてやや地味なマンガかな?」とも感じていたのですが、何回も連載を重ねるにつれ、その現実性のある学校描写でのまったりとしたおだやかな空気と、その中で起こる笑えるコメディ展開が心地よく感じられ、いつの間にかこのマンガの世界にはまっていたのでした。

 そして、これこそが、この「んぐるわ会報」の生徒会ものとしての最大の特長でしょう。現実性のある日々の活動、学生らしい日常生活をストレートに描いている。特に感心したのが、コミックス1巻の最後に収録されている番外編(増刊ヤングガンガンに掲載されたもの)で、里見の語りの元で日々の定例会議の様子や、先生に請われて急に手伝いに借り出される様子(生徒会は先生たちにとって便利屋さん的存在だと説明される)、そして活動がようやく終わったあとの下校時の楽しい寄り道の一時など、日々の生徒会員たちの姿が実によく描かれていました。わたしは、この番外編を読んで「このマンガは本当に面白い!」と思うようになったのです。


・絵柄も含めて、久々にヤングガンガンらしいと言える作品ではないか。
 そしてもうひとつ、このマンガがいかにもヤングガンガン的な、ひいてはスクエニ的とも言える作品になっていることも、あえて評価したいと思います。

 創刊当時から、ヤングガンガンの人気作品は、絵が整っていてかつ美少女キャラクターが強く出た作品、それもバトルやスポーツ、ギャグ、コメディ萌えなどの要素で人気を得た作品が、雑誌を引っ張ってきました。これは、従来のスクエニの路線とは若干異なるけれども、それでも他の青年誌とは一線を画するラインナップで、これがヤングガンガンの最大のカラーとなっていました。具体的なラインナップとしては「すもももももも」「黒神」「ユーベルブラット」「BAMBOO BLADE」「セキレイ」「咲-saki-」「WORKING!!」「はなまる幼稚園」などの作品が挙げられます。

 しかし、このところのヤングガンガンは、どういうわけかこのような新規連載が少なくなっており、むしろ他の青年誌に近いイメージの現代もの、時代もの作品が多く見られるようになり、逆に当初からのカラーが薄れてきたような気がします。それらの新連載が必ずしも悪いわけではないのですが、しかし元々のカラーが薄れつつあったのは少々さびしくも感じていました。

 しかし、この「んぐるわ会報」は、この時期になって久々に登場したそのカラーの作品として、上記のヤングガンガン人気ラインナップに加わることも期待できるマンガになっていると思うのです。整ったラインと丁寧な描き込みで構成された作画は、派手さはないもののきれいで読みやすいもので、いかにもスクエニらしい絵柄で好感が持てますし、内容的にも女の子のキャラクターが前面に出た学園ものということで、こちらはスポーツものでストーリーの方向性は異なるとはいえ、「BAMBOO BLADE」や「咲-saki-」と近い雰囲気も感じられます。これならば、まず確実にヤングガンガン読者、スクエニ読者の支持を得られるのではないか。やや落ち着いて派手さに乏しい作風なので、これから先「BAMBOO BLADE」や「咲-saki-」と同等の看板クラスの人気まで行くかはまだ難しいところだと思いますが、その可能性も十分あると思うのです。


・これはスクエニらしい生徒会ものとして大いに期待できる。
 以上のように、この「んぐるわ会報」、笑えるコメディで存分に楽しめるその一方で、とりわけ現実的で真面目に生徒会の活動を描いている姿も評価できる、そつなく優秀な作品だと思います。学校の生徒会を扱った諸作品の中でも、派手さこそないものの、現実の学校で本当にあるかもしれない、地に足の着いた生徒会の様子を描いていることが最大のポイントだと思います。キャラクターも、あまりにも個性的過ぎる破天荒な存在や、異様な能力を持った超天才のような極端な存在がいない点で、大いに好感が持てますね。実直に真面目に等身大の生徒会の姿を描いている点で、「生徒会ものの決定版」ともなりうるマンガだと思います。

 そして、これが久々に登場したヤングガンガンらしい人気作となっている点でも、大いに注目すべきでしょう。ここ最近のヤングガンガンの新連載の中では、いつの間にかこのマンガが一押しとも言えるマンガになってきたと思います。そして、このマンガがヤングガンガンでも生え抜きの新人の作品であるという点でも大きい。このところのヤングガンガンの新連載陣の多くが、外からの作家の登用や、外の企画のコミック化などで占められていることを考えると、この数少ないスクエニからの新人作品は、ひどく貴重な存在であり、これからも重宝すべき一作ではないかと思うのです。

 唯一、他のバトルやスポーツ、萌えやエロを前面に押し出したヤングガンガンの先行作品と比べると、やや落ち着いた作風で、人によっては地味に感じられるのが、やや不安かもしれません。今後、さらに突き抜けた人気を得られるまでに至るかどうかは、現時点ではやや微妙なところです。先日発売されたコミックス1巻も、各所で特典が付くなど事前の期待はかなりのものがあったのですが、実際に書店に並んでいるところを見ると、まずまずの扱いにとどまっているように感じられました。そこそこの入荷冊数はどこでもありましたが、平積みで目立つ扱いにまではなっていなかったところもいくつか見られたのです。

 しかし、個人的には、このマンガには是非ともさらなる成功を果たしてほしい。数多く見られるようになった生徒会ものの中で、最も実直かつ真面目に現実的な生徒会の姿を描いた作品として、このマンガは大いに意義があると思うのです。「マンガやアニメの生徒会=破天荒なキャラクターや異様な権力」という常識を覆す一作として、今後の発展に大きく期待したいと思うのです。


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