<のうりん>

2013・11・21

 「のうりん」は、ヤングガンガン2011年7号から開始された連載で、同名のライトノベルのコミカライズ作品となっています。原作はGA文庫のライトノベルで、1巻は2011年8月の発売です。原作の刊行の約半年後からコミック連載が始まっているわけで、比較的早い時期からのメディアミックスと言えます(最近よくあるアニメ化に合わせての先行コミカライズではありません)。かなり初期からの、原作の実力を認めてのコミック化だったのではないでしょうか。

 作者は、原作小説の作者が白鳥士郎。作画に亜桜まる。構成協力に松浦はこ。キャラクター原案に原作のイラストを手がけている切符(きっぷ)の名前が挙がっています。亜桜まるは、かつて週刊少年マガジンで「だぶるじぇい」(原作・野中英次)の作画を担当していたことがあり、そちらの連載で知っている人も多いと思います。当時からかわいい女の子が印象的でしたが、それはこの「のうりん」のコミカライズでも健在で、原作イラストの切符の絵柄もかなりよく再現しているように思われます。一方でかなり勢いのあるギャグシーンも多いのですが、そちらもよく描いていて、総じて原作の雰囲気をよく再現した作画になっていると思います。

 作品の内容ですが、「のうりん(農林)」のタイトルどおり、農業をテーマにした作品となっていて、岐阜県にあるという「田茂農林高等学校」なる農業高校が舞台となっています。農業を扱いながらも、美少女の萌え要素をも強く取り入れており、しかもかなり露骨なエロネタ・下ネタが頻繁に登場し、さらにはマンガやアニメのパロディネタも毎回のように出てくるなど、エンターテインメント要素を大きく盛り込んだ作品になっています。

 しかし、その一方で、実際の農業の日々の作業やその苦労、農業が直面する諸問題などが実直に描かれ、見た目以上に農業に対するしっかりした視点も感じられます。さらにコミック版では、亜桜まるによる作画によって、その農業に取り組む姿がより分かりやすく描かれている点が評価できます。


・農業はネタになる? 農業をテーマにしたマンガの数々。
 上記のとおり、この「のうりん」は、農業を扱う作品となっていますが、ここ最近、このように農業を扱うマンガがいくつか見られるようになりました。一般的には、農業は地味とも取れる職業で、娯楽であるマンガ作品には合わないかなと思っていたのですが、決してそんなことはなく、むしろその本質的な面白さから読者の目を引く可能性が高いのかもしれません。

 まず、農業大学を舞台にした作品としては、「もやしもん」(石川雅之)というヒット作があります。「菌」が肉眼で見えると言う不思議な体質を持つ大学生が主人公で、菌がかわいいキャラクターとして描かれるのが特徴的で、さらには農業大学ならではのイベントが何度も登場したり、まさに「農業の学校」が舞台となるにふさわしいマンガだったと思います。アニメにもなってこちらも大ヒットしました。

 より直接的に農業を描いたヒット作としては、あの荒川弘の作品を取り上げるべきでしょう。作者自らも登場する、農業を描いたエッセイ「百姓貴族」、そして農業高校を舞台にしたストーリーマンガ「銀の匙 Silver Spoon」があり、後者はテレビアニメ化もされてこちらも好評です。作者の実家が酪農家であることは以前から知られており、長らく実際の農作業を手がけただけあって、その面白さは確かなものがあります。

 さらには、最近になって、よりコア読者向けに萌えを取り入れた農業マンガも見られるようになりました。この「のうりん」がその代表ですが、もうひとつ、「JA 〜女子によるアグリカルチャー〜」(鳴見なる+唐花見コウ)という作品が、角川書店のヤングエースで連載されています。こちらは長野県にある小川村が舞台となっており、その村で公認されるマンガになっています。マンガの舞台となった町や村が、作品とタイアップして町おこしをしようという試みは、今では随所で見られるようになりましたが、農業がテーマの作品でもそれが見られるようになったのは、ごく自然な流れかもしれません。

 このように、比較的リアルに農業を取り上げようとする作品(「百姓貴族」や「銀の匙」)だけでなく、今では萌え系だと思われる作品まで農業をテーマにしたものが見られるようになりました。その中でも、この「のうりん」は、このところ特に注目される作品のひとつとなっているようで、すでに農業関係者からも多くの反応があるようです。


・笑えるエロネタ・下ネタ全開の楽しすぎるコメディ
 しかし、この「のうりん」、農業を扱うと同時に、あるいはそれ以上に笑えるコメディとなっている点が大きなポイントです。それも、のっけからエロネタ・下ネタが大量に盛り込まれていて、むしろこれが最大の特徴ともなっています。特に、このコミック版では、そのエロ・下ネタがかなり露骨な絵で描かれているため、見る人によっては大きく引かせるほどの過激なものになっています(笑)。

 主人公は、畑耕作(はたこうさく)という岐阜の農業高校に通う高校2年生ですが、田舎の高校に通いながらも、東京のアイドル・草壁ゆかに入れ込みまくり、寮の部屋では自作の抱き枕を始め多数のグッズに埋もれて生活しています。
 しかし、そんな生活の最中、突如そのゆかが引退というニュースが流れ、ショックに打ちひしがれた彼は、抱き枕カバーにパンツ一丁でもぐって部屋に引きこもってしまいます。幼なじみの中沢農(みのり)によって強引に(パンツ一丁のままで)教室に連れて行かれた彼ですが、そこで出会ったのは転校生の美少女。彼女は木下林檎と名乗りますが、それは耕作にとっては見間違えるはずのない、あの草壁ゆかの姿でした・・・。
 と、このように「アイドルが農業高校にやってきた」というコンセプトで始まるこの物語ですが、その元アイドルの林檎を始めとする女性キャラクター、さらには男性キャラクターも、ことあるごとにエロネタ・下ネタを繰り広げる展開となり、この露骨で過激なコメディがとことん笑える作品になっています。

 元アイドルでクール系(無口系)美少女の林檎、幼なじみで乳も尻もでかい耕作にとって世話焼き女房的な存在の農、さらには畜産専攻のトップでおっぱいがでかすぎる良田さん(良田胡蝶)ら、彼女たちが毎回のようにお色気シーンを披露してくれます。林檎がビキニアーマーの姿でビニールハウスや鶏舎で作業したり、農が体操服&ブルマ・林檎がスクール水着を来て田植えを始め、ついには田んぼの中でふたりがくんずほぐれつのバトルを繰り広げるエピソードは、まさにこのマンガならではの名シーン(?)と言えるでしょう。
 そんな中で、とりわけひどいのが、ベッキー先生との相性で呼ばれる担任の戸田菜摘先生でしょうか。アラサーを通り越してアラフォーになってしまっても付き合っている彼氏はおらず、そのことを生徒の前で嘆いたり、ことあるごとに過激なエロトークを繰り広げたり、最も性に放埓なキャラクターとなってしまっているようです。

 男性キャラクターも負けてはいません。林檎の純白パンツを手にしてパンツのよさを語り始める主人公・耕作も大概ですが、それ以上にまさに変態として描かれているのが、彼の友人で眼鏡の優等生・過真鳥継(かまとりけい)でしょう。真面目に農業に取り組むときは優秀な生徒なのですが、しかしことあるごとに服を脱いでパンツ一丁になり、過激な一発芸を披露したりします。さらには、苦学生で日々アルバイトをしているらしいのですが、働いている店が「凱旋門」(ゲイ・専門)という店らしく、普段一体どんなバイトをしているのか本気で心配されます(笑)。

 こんな風に、当初からエロ・下ネタには事欠かない作品でしたが、連載が進むとさらに過激なエピソードも登場するようになり、花園カヲルというガチホモの生徒と耕作がキスをする羽目になったり、あるいはBLとコラボした商品を開発しようと試み、人型に削った切り株でキノコを育て付属品としてヨーグルトをつけるという過激な商品を実際に開発してしまい、PTAにばれてひどい目に遭うという、とんでもないエピソードまで出てきてしまいました。


・無数に登場するパロディネタも楽しい。
 加えて、アニメやマンガ、ゲーム、ドラマや映画などから取られたパロディネタが無数に登場するのも、目立って大きな特徴となっています。こうしたパロディをふんだんに取り入れた作品は、少し前からいくつも登場するようになり、今ではもう珍しくなくなりましたが、しかしこの作品のパロディは、有名な作品のよく知られたセリフや、ネット上で流行った言葉を巧みに取り入れていて、元ネタを上手く使った面白さで群を抜いていると思います。また、このコミック版では、そのパロディが元ネタそのままの分かりやすい絵で描かれるようになったことで、さらに面白さを増しています。

 各話のタイトルからして、すべて何らかの作品のパロディになっていますが(「進撃の巨乳」「萌(めぐみ)の錬金術師」「KOF キング・オブ・ファーマーズ 2011」など)、中身も毎回のようにパロディ全開です。なんらかの元ネタのあるセリフをことあるごとにキャラクターが口にし、あるいはしゃべるだけでなく元ネタと同じポーズ・行動を取ることも数多く見られます

 このコミック版で、絵的に特に目立つパロディとしては、第7話「ウオッシュメン(2)」で出てくる「よくもだましたアアアア!」「ばーーーーっかじゃねえの!?」(ヒストリエ)、第14話「猿と学生(1)」のラストシーン「生存戦略 しましょうか」(輪るピングドラム)、第19話「君が見せた笑顔(3)」に登場する「ガイアがもっと耕せと囁いている」(一時期ネットで流行ったファッション雑誌のコピー)あたりが挙げられます。また、「秘密の花園 〜ぼくの奇妙な冒険〜」というタイトルの最新エピソードは、タイトル通り全編に渡って「ジョジョの奇妙な冒険」のパロディで構成されていて、しかも肝心のストーリーも、花園カヲルというガチホモが登場して主人公とポッキーゲームの果てにキスをするという、あまりにもカオスすぎる凄まじい一編となっています。ある意味、この回がこの作品の一面(下ネタ&パロディネタ全開)を最もよく表していると言えるでしょう。


・農業を真面目に描く真摯なエピソードが本当に読ませる。
 こんな風に、エロネタ・下ネタ・パロディネタの娯楽要素だけでも十分に楽しい本作ですが、しかし本来のテーマである「農業」を扱った真摯なエピソードの出来も素晴らしく、これこそが本当に読み応えのある作品となっています。

 まず、コミック版では2巻の中ほどから始まる「スーパー嫁姑大戦」というエピソード。ここでは、農にライバル視されて難題を突きつけられる林檎が、ビニールハウスの害虫退治や鶏舎の掃除などは無難にこなしたものの、最後に「ひよこのくちばしの先を切る」という作業を命じられ、躊躇することになります。農業や酪農業は、生き物の命を扱うがゆえに時に残酷な行為に直面しなければならない。耕作は、それが嫌なればあえて農業の道に入る必要はないと言います。無理強いすることはない、それぞれが幸せな道を歩んでほしいと。しかし、そんな過酷な現実を前にして、なおも試練を乗り越えた林檎は、ここで農業を志す誰もが挑む通過儀礼を超え、耕作たちの本当の仲間になったのでした。

 2巻の終わりから始まる「猿と学生」というエピソードも印象的です。学校の畑や鶏舎が、猿と思われる動物に荒らされる事件に挑むこの話。農民と害獣とは常に戦争状態にあるという深刻な現状が語られ、退治するのはやむを得ないという認識で、ついには猿を捕らえることに成功します。処分は仕方ないと皆が思う中、しかし動物園から引き取ろうという思わぬ助けが。ここで、良田さんから、「動物との共存の道を模索できないか」という理想に進む提言がなされます。農業を取り巻く厳しい現状と、それに妥協せず理想に進もうとする意志と、その双方が描かれた名エピソードとなっています。

 さらに、3巻の「君が見せた笑顔」というエピソード、これに最も心を動かされました。耕作たちが、林檎に見せようと連れて行ったある場所。それは、度重なる連作で荒廃し死んでしまった農地でした。政府からの「指定産地制度」といういわば補助金のために、特定の作物を作らざるを得ない。土地がやせてくれば無理に肥料や農薬を使う必要があるが、そうして無理を重ねてついには土が死んでしまう。農業はそこまでやらねばならないほど追い詰められていると。
 では、連作を避けて肥料も抑えて丁寧に栽培すればいいのか。耕作は、いやそういうわけではないと言うのです。そもそも、農業自体が土を傷つける行為であると。土にストレスをかけてやがては荒廃させる。しかし、それこそが農業だと言うのです。はるか昔から人間は土を殺し続けている。そこには、農業をしなければ人は生きていけないという切実な理由がありました。

 まさに絶望的な結論ですが、しかしそこにも希望はありました。その土地の隣には、荒廃した土地を何年にも渡る努力で回復させた農地が広がっていたのです。そこに実ったトマトを食べたいという林檎。口にして笑顔をこぼす林檎を見て、耕作は改めて思い出します。農業をやっていて一番楽しいのは、食べた人のこの笑顔を見た時であると。


・これは次期アニメの覇権確定ですね・・・間違いない。
 このように、この「のうりん」における農業をテーマにしたエピソードには心を打たれるものがあり、農業を取り巻く諸問題、あるいは農業の本質まで真摯に取り上げようと姿勢は、大いに評価出来るものとなっています。原作者は、小説の執筆前に1年かけて農業高校の取材を行ったようで(岐阜にある加茂農林高校)、その成果が強く表れた形となっています。また、このコミック版においても、始めるに当たって原作者と作画担当者、アシスタントや編集者などが全員でもう一度取材を行ったようで、それが生徒たちの服装や農機具、各種設備の描写によく反映されています。総じて、作品に関わるスタッフたちの努力をよく感じられる力作に仕上がっていると思います。

 そして、さらにこの「のうりん」が素晴らしいのは、真面目に農業を扱っている一方で、それ以上にエロネタ・下ネタ・パロディネタに代表される娯楽要素を十分に備えていることです。楽しいコメディを描く一方で、どこまでも真面目に農業の姿を描く、その双方の楽しさが合わさって、初めてこの「のうりん」という作品ならではの面白さが生まれたのだと思っています。これは、ライトノベルやコミックとして理想的な形のひとつではないでしょうか。

 そして、このコミカライズにとどまらず、2014年の1月からはテレビアニメが放映されることが決まっています。原作の出来がここまで素晴らしいですし、そのまま原作の持ち味を活かす形でアニメ化するだけで、十分な面白さが期待できるのではないでしょうか。特に、過激な下ネタや露骨なパロディネタは、アニメで動きと声をつけてきっちり再現できれば、さらなる笑いを呼ぶのではないか。その上で、農業をテーマにした深い作品性も見せれば、さらなる評価を得ることは想像に固くない。真面目な話、同じく農業高校を舞台にした名作「銀の匙」のアニメと覇権を争ってほしい(笑)。それすら超えるだけの実力が、この作品にはあると思っています。


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