<セキレイ>

2007・12・7

 「セキレイ」は、ヤングガンガンで創刊号より連載中の作品で、同誌の中でも中堅〜上位クラスの人気を誇る、雑誌の中核となる連載のひとつです。作者は、マンガ家やイラストレーターとしての活動歴が長く、エニックスでもかつてステンシルで連載を行ったことがある極楽院櫻子
 元々は、ヤングガンガンの前身雑誌である「ガンガンYG」の連載作品で、ほぼまったく同じ形でヤングガンガンで連載が開始されました。ガンガンYG時代から一定の評価と人気を獲得しており、そのためヤングガンガン創刊時から、雑誌の主要連載のひとつとして扱われ、今に至るまで安定した位置をキープしています。

 作品の内容ですが、ジャンルとしては「美少女ラブコメ(エロコメ)+バトルもの」といったところでしょうか。葦牙(あしかび)と呼ばれる主人の下で、セキレイ(鶺鴒)と呼ばれる異能力を持つ女性(一部に男性も)たちが熾烈な闘いを繰り広げるという、「美少女バトル」ものの要素がまず全面に出ています。が、それに加えて、主人公の男の子の下に多数の鶺鴒たちが集うラブコメ・エロコメ的展開の比重も強く、あるいはこちらの方がメインとなっているかもしれません。作者自身「ギャルゲーをプレイするような感じで読んでください」などといった発言もしており、実際にギャルゲーのお約束的設定をそのまま採り入れた部分も多数見られます。

 さらに、この作品は、同系のラブコメの中でも、とにかく露骨なエロ・お色気描写が非常に強いのも特徴で、ヤングガンガンの中でも最もエロ要素が強く出ている作品のひとつとなっています。ヤングガンガンは、創刊当時はとにかく青年誌的なエロに満ちたマンガが多数掲載され、現在でもエロ描写の強い作品はかなり見られますが、このマンガこそが、そのイメージの中核となっている感すらあります。あるいは、昨今ではスクエニ全体でもエロを強く押し出した作品が頻繁に見られ、かつてよりもエロが目立つ出版社としてのイメージが少なからずついてきましたが、その中でも、この「セキレイ」を擁するヤングガンガンが与える影響は、決してあなどれないものがあります。

 しかし、この作品は、エロ色が強いとはいえストーリーや設定もしっかりしており、マンガとして純粋に読める点は評価できます。これが、創刊当時のヤングガンガンの、エロだけの低レベルな作品群とは一線を画したところであり、このマンガが雑誌内で安定した人気を得て連載を続けている最大の理由となっています。


・極楽院櫻子とは。
 この「セキレイ」の作者・極楽院さんですが、かつてはむしろ女性向け、それもボーイズラブ(BL)作品の執筆が中心の作家でした。今でもその活動は残っており、そちらでは「さくらあしか」の名義で執筆しているようです。イラストレーターとしての仕事も、女性向けのものが中心で、かつてカードゲーム「アクエリアンエイジ」のイラストを担当した時も、男性キャラクターで構成された拡張セット(「オリオンの少年」)のメインビジュアルを担当しています。

 その後、スクエニ(当時はエニックス)のステンシルでもマンガの連載を行い、その「アクエリアンエイジ オリオンの少年」のコミック化を行うことになります。この作品は、ボーイズラブ作品ではありませんが、それでも女性向けの少女マンガ的作品であり、自らがデザインした美形少年キャラクターたちが主役のバトルもの作品となっていました。作品の内容自体はそこそこだったと記憶していますが、当時のステンシルはもはや勢いがなく、しばらくのちに廃刊となってしまい、このマンガもそのまま連載終了となってしまいます。
 その連載と並行して、他社のコミックバーズでも「カテゴリ:フリークス」という連載を開始しますが(現在も連載中)、こちらもある程度男性キャラクターの方が中心の内容で、やはり当初からの作者の作風が窺えます。

 そういった経緯を持つ作者ですので、ガンガンYGで、この「セキレイ」のような、極端に男性向けとも言える露骨なエロ全開の作品を出してきた時は、かなりのギャップがありました。元々男性向けの美少女やエロにも興味のある方だったようですが、それにしてもそれまでとは随分と異なる作品を打ち出してきたなと思いました。
 しかし、これがかなりの人気と評価を集め、そのままヤングガンガンの連載へと続いていくことになります。スクエニでの極楽院さんは、かつてのステンシルでの連載「オリオンの少年」では、雑誌自体がひどくマイナーな少女誌だったこともあり、ほとんど話題になりませんでしたが、作風をがらっと変えたこの「セキレイ」において、ついにかなりの人気と評価を確保することになりました。これは意外な経緯ではありますが、かつては奮わなかった作者が、ここにきて活躍の機会を得ることが出来たのは、随分と僥倖でありました。ヤングガンガンでは、このような「かつてはさほど奮わなかった作者が、改めての連載で人気を得る」ケースがいくつか見られますが、このあたりでも雑誌作りのうまさが光る結果となっています。


・ヤングガンガンでも露骨なエロ描写でトップクラス。
 まず、このマンガを読んで誰もが気づくことは、極端なまでに男性向けとも言える、露骨なエロ描写が大量に登場することでしょう。

 ヤングガンガン、あるいは他のスクエニ雑誌でも、最近はエロ要素を強く押し出したマンガには事欠きませんが、このセキレイのエロ描写は、見た目の直接的な描写からして、最もエロ要素が全面に出ています。
 まず、なんといっても、乳首まる出し。あの「みかにハラスメント」でさえ、乳首の描写だけは避けていたのに、ヤングガンガン連載のこのマンガに関しては、最初から大量に乳首が登場します(笑)。ヤングガンガンのほかのマンガでもその描写は見られますが、ここまで露骨に、しかも頻繁に出てくるマンガは他にないでしょう。しかも、ヒロインの結(むすび)をはじめ多くの女性キャラが、極端なまでの巨乳であり、まるで男性向け成年マンガに出てくるような、異様なまでにデカい胸があまりに印象に残ります。
 さらには、これまた男性に喜ばれるであろう、ブルマと体操服姿とか、全裸での入浴シーンとか、そういう描写でも事欠きません。作者の極楽院さんは、女性作家でしかもボーイズラブ作品まで手がける作家ですが、女性でここまで男性向けエロ全開の人は、さすがに多くはないような気がします。

 これらの極端な男性向けエロ描写は、さすがに読者を選ぶことは間違いないでしょう。女性読者ならば、まず見た目だけで抵抗を覚える可能性が高いですし、男性でも苦手とする人は多いはずです。このような作品が、ヤングガンガンで創刊時から中核作品のひとつとして扱われていることからも、この雑誌がエロ重視の路線を強く取っていることが分かるでしょう。


・まるでギャルゲーとも言えるラブコメ的展開。
 エロ描写に加えて、まるでラブコメ的な要素も非常に強い。作者自身、「ギャルゲーをプレイするような感じで読んでください」と言っているようですが、この発言に偽りはありません。

 主人公の佐橋皆人からして、ギャルゲーの主人公にありがちな、典型的なヘタレキャラクターとして描かれており、そんな彼の周りに、セキレイの美少女たちが次々と集まってきて、しかも多くが主人公に好意を抱いているという、ギャルゲー的ラブコメ展開の王道を行くような展開が目立ちます。ある意味、ギャルゲーのお約束をネタにしているようなところまで感じられます。
 ヒロインたちの中でも、特にそれを強く感じるのが、メインヒロインの結(むすび)と、後から皆人の元にやってくるツンデレのセキレイ・月海(つきうみ)でしょうか。結の方は、天真爛漫な性格で、なんの恥じらいもなく主人公にくっつこうとし、そこでツンデレの月海が恥らいつつも阻止しようとするという、いかにもラブコメ的な展開を、毎回のように見ることが出来ます。

 これらのラブコメ的展開は、ストーリーの合間合間で繰り広げられるのが通例ですが、しかし読者の間でも好評なためか、時折掲載される単発の読み切りでは、このようなエピソードが毎回見られるようになっています。


・鶺鴒計画を中心に据えたストーリーこそが本領。
 しかし、そのようなエロやラブコメ的描写こそあれ、やはりこのマンガは、「鶺鴒(セキレイ)計画」なる設定の元に繰り広げられる、美少女(一部男性キャラも)たちによるバトルストーリーこそが、その本領だと考えます。
 このマンガの舞台は、「新東帝都」という東京を模した架空の都市。M・B・Iなる超巨大企業による占拠・封鎖が行われ、その中で108羽のセキレイと呼ばれる存在が、葦牙という主人と契約を結ぶことで力を得て、最後の一羽になるまで闘い合うというのが物語の骨子です。この設定は、ガンガンYGでの連載時初期からはっきりと打ち出されています。似たような「美少女同士のバトルロイヤル」的な作品は、他にもよく見られますが、このマンガの場合、最初からかなりよく設定が練られており、日本神話を絡めた用語も特徴的で、連載初期の頃からよく印象に残りました。

 そして、これはすべて作者一人の手によって考え出された設定らしいのですが、これには、かつての極楽院さんの連載「アクエリアンエイジ オリオンの少年」から影響を受けたのでは?と思われるところも少々感じられます。なんとなくではありますが、「主人の下に仕える闘士たちによるバトル」という点で、基本的な設定に共通する部分がありますし、一人の主人の下に多数のセキレイが集うという点でも、同じく一人の主人の下に複数の闘士(マインドブレイカー)が集うアクエリアンエイジと似ています。ついでに言えば、ヒロインである結(むすび)が大ダメージで機能停止した際、そこから新たな人格のセキレイが覚醒するというシーンなどは、アクエリアンエイジでいうブレイクに当たるのではないかとも思ってしまいました。

 そして、このような設定の下で、多数のセキレイたちが次々に登場し、賑やかにバトルや交流を繰り広げる展開が面白い。「108羽」という設定は、決して設定だけのものではなく、実際にかなり多くのセキレイたちが登場しています。メインとなるキャラクターだけでも現時点で十数人いますし、今のところ少しだけの登場のセキレイや、名前だけが登場しているセキレイも加えれば、20以上のセキレイの名前が挙がっています。個々のセキレイには、それぞれの思惑があり、積極的に闘いを求めるセキレイばかりではありません。鶺鴒計画から逃げ出そうとするものや、積極的に関与せず傍観を続けるものもいます。闘うにしても、やみくもに闘うよりは、誰か特定のセキレイとの因縁で相手を選ぶものが多い。あるいは、セキレイの主人である葦牙にも、計画への対処は様々です。そして、鶺鴒計画の中心にいるM・B・I幹部たちの思惑が、すべての中心にあります。

 その上で、彼ら個々のキャラクターたちに次々とスポットを当てていくストーリーには、確かに読ませるものがあり、このマンガを単なるエロ・ラブコメ的作品にとどまらないものへと押し上げています。ヤングガンガンは、創刊当初からエロをやたら全面に押し出した作品が目立つ誌面ではあるのですが、「セキレイ」は、その中でも最も読める作品であり、早期に打ち切りとなったエロ系作品とは一線を画していました。


・今のヤングガンガンでもかなりの人気作だが・・・。
 以上のように、エロやラブコメ要素の極めて強い作品でありながら、練られた設定と読ませるストーリーをも同時に兼ね備えたこのマンガ、雑誌の中でも安定した人気を確保しており、創刊当時から雑誌の中核を占める作品のひとつとなっています。「BAMBOO BLADE」や「すももももも」「咲-saki-」「黒神」など、一線級の人気マンガと比べればやや劣るところはあるかもしれませんが、実質的にそれらに近い扱いをも受けています。今のところ、アニメ化までの展開にはやや遠いように感じられるものの、ドラマCDや画集、フィギュアなどの関連商品は積極的にリリースされており、やはり相当な人気作品であることは間違いないでしょう。ヤングガンガンでも、トップクラスの作品を背後で支える重要な連載であると言えます。

 ただ、個人的には、やはりあまりにもエロ要素が強すぎる点が気になります。さすがにここまで乳首巨乳を徹底的に極められると(笑)、読者を大きく選ぶことは間違いないでしょう。ヤングガンガンの萌え系作品では、女性読者でも人気の高い作品は多く、このマンガも実は女性での愛読者はかなりいるようなのですが(かつての女性向け作品からの読者もいるのでしょう)、しかし、それ以上に多くの女性読者には抵抗が強いことも確かでしょう。

 あるいは、男性読者でも、このようなエロ描写を好まない、あるいは苦手とする読者はかなりいるのではないかと思われます。個人的にも非常に苦手なタイプのビジュアルで、慣れるまでにかなりの時間を要しました。このあたりが、雑誌の他の一線級作品と比べて、若干劣る場所に甘んじている原因となっているかもしれません。

 そして、これはヤングガンガンでのエロ路線を象徴するような作品のひとつともなっています。ここ最近のスクエニは、やたらエロを押し出した作品が目立つようになり、特に青年誌であるこのヤングガンガンは、とりわけエロ描写の強い作品が目立つ誌面となっているようです。そして、この「セキレイ」のような、あまりにも露骨にエロ描写のある作品が、他にも多数人気作となるようだと、それが少々気がかりなのです。実際、このところ2回ほど発刊された増刊号でも、やたらエロ系の読み切り作品が目立つ誌面となっており、しかもそんなマンガのひとつが読者の間でも好評を得たようです。しかし、そのマンガは決して内容がある作品とは思えないもので、そんなエロばかりを売りにした作品が、今後も人気を得るような事態が続くようだと、それは大いに不安があるような気がします。

 もっとも、この「セキレイ」に関しては、エロだけでなくきちんと内容も充実した作品であり、これならば文句はありません。ヤングガンガンの編集部には、今後もある程度のエロ路線を取るにしても、このようなきっちりと読める作品を出していってもらいたいものです。


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