<死がふたりを分かつまで>

2007・8・20

 「死がふたりを分かつまで」は、ヤングガンガンで2005年12号から開始された連載で、現在(2007年)も続いている作品です。いまだストーリーはまだまだ続きそうな気配で、完全に長期連載に入ったと見てよいでしょう。最初のうちは雑誌でも中堅どころの位置づけでしたが、最近ではもはや上位レベルの人気作となっています。

 肝心の内容ですが、現代を舞台にしたバイオレンス・アクションものといったところでしょうか。一般向けの青年誌ではよく見られるタイプの作品かもしれません。
 ヤングガンガンは、コアなマニア読者を対象とする連載マンガが誌面の中心となっており、従来のスクエニ系作品にほど近いタイプの作品が人気を集めています。しかし、創刊してしばらく経ってからは、一般の大手青年誌にも載るような、スタンダードな青年マンガも見られるようになりました。特に、2006年以降はその傾向が顕著で、そういったマンガの数がかなり増えています。そんな中で、この「死がふたりを分かつまで」は、かなり早く2005年中期からの連載ということで、雑誌の中でも先駆的な存在と言えます。しかも、そんな同系のマンガの中でも最も高い人気を博し、マニア系の読者から一般の読者まで幅広い支持を集めています。今のところ、これが最も成功した作品と見てよいでしょう。

 作者は、原作がたかしげ宙、作画にDOUBLE-Sの名前が挙がっています。原作のたかしげ宙は、あの「スプリガン(SPRIGGAN)」の原作者としても非常に著名なマンガ原作者です。現在も、この「死がふたりを分かつまで」と同時並行で、「緑の王」(講談社のマガジンZで連載)という作品の原作も手がけており、このふたつを合わせてコラボレーション企画が行われたこともあります。
 対して、作画のDOUBLE-Sは、純粋な新人で、この「死がふたりを分かつまで」が初の連載作品となっていますが、その画力には確かなものがあり、このマンガを一躍人気作品に押し上げるに無くてはならない存在となっています。なお、ペンネームからは、複数人(2人)の作者ではないかと思われがちですが、実際にはひとりの作家となっています。


・新人ながら、目を見張る確かな画力。
 このマンガの場合、バイオレンス・アクションものということで、まずアクションシーンの出来が何よりも重要だと言えますし、それを再現する画力で作品の評価も変わってきます。そして、この新人の作画担当者であるDOUBLE-Sの画力は、非常にレベルが高いもので、文句無く合格を与えられるものでした。

 細部では極めて繊細な画風でありながら、同時に迫力のアクションシーンを余すところ無く描いており、残虐なシーンもきっちりと描き切っています。加えて、劇画調とも言える濃い絵柄でキャラクターの存在感も出し切っており、青年誌のアクションものとして十分な完成度を持っていると言えます。新人にしてこれほど卒なく作画をこなす人は、スクエニではあまり多くないかもしれません。作画に、新人作家らしい「素人くささ」がほとんど感じられず、最初は、誰か実力のあるベテランの作家(の別ペンネーム)だと思っていたくらいです。
 もっとも、ヤングガンガンでは他にもかなり絵がうまい作家が多く、実際にベテランの作家も幾人かいるので、そう突出した存在ではありませんが、それでも、いきなりの初連載でこのレベルの作画を達成したというのは、雑誌としてはかなりの僥倖でしょう。

 彼の描くアクションシーンは、大アップや集中線なども多用したケレン味の強い迫力重視の力強さと、実在の銃器や兵器の細部の構造・超音波による解析画像などをきっちりと描き切る繊細さと、その両面を持ち合わせており、実に洗練された美しさがあります。


・原作者による科学知識をフルに駆使したSF設定が面白い。
 そして、そんなアクションシーンの魅力を大いに高めているのが、原作者・たかしげ宙らしいと言える、科学や軍事知識を駆使したSF的設定の数々です。

 主人公の土方護は、「盲目の凄腕剣士」という設定ですが、サングラスには超音波による周辺解析機能が付いており、それから発せられる画像を見て、敵や障害物の位置を知り、盲目でありながら獅子奮迅の活躍をします。また、彼の使う剣は、あらゆるものを一刀両断に斬り裂くほどの切れ味を見せますが、これにも科学技術を元ネタにした設定が加えられています。
 一方で、彼に守られる存在のヒロイン・遠山遥は、限定的な予知能力を持っており、「身近に起こる未来を予測できる」という設定なのですが、これに対しても科学知識を元ネタにしたそれらしい設定が施されており、実は「高度な予測能力である」という説明がなされています。

 超音波による周辺解析機能付きサングラスも、現時点ではかなりのオーバーテクノロジーですが、ましてやあらゆるものを切り裂く剣とか、未来を予知する能力などは、もう完全に非現実的な能力です。しかし、そんな非現実的なものを、うまく科学知識を駆使した説明を加えることで、「本当に実在するような、説得力のある設定」に作りかえることに成功しています。これは、まさにSF的な作品創りであり、原作者による科学やSFへの強い興味が、全面に出た内容となっています。そして、これが作品の魅力を強く高めており、このような確固たる現実味を帯びた設定が毎回加わることで、アクションシーンの面白さが格段に増しているのです。


・加えて、軍事(ミリタリー)要素満載の描写もそそられる。
 科学知識だけではなく、銃器や兵器などの描写に強く見られる、確固たる軍事知識の存在も、作品の面白さに拍車を掛けています。
 こちらの方は、原作者のたかしげ宙に加えて、軍事資料の協力者もいるようで、毎回毎回の凝った銃器や兵器の描写だけでなく、最新の軍事技術を駆使した高度な戦闘描写、さらには、現時点ではほとんど見られないような最新鋭の兵器の登場まで見られます。

 とりわけ、敵が持つ銃を、主人公の護が剣ですっぱりと斬り裂き、破壊された銃器のパーツが飛び散っていくシーンなどは、特にそれが強く出ています。いかにもそれらしい銃器の構造が細部まで描かれ、それだけでよく描かれているなと感心します。そして、敵味方共に持っている銃器が多彩で、一般的な拳銃やマシンガンから、時にはミサイルランチャーの類まで、多種多様な種類が見られます。

 極めつけは、ストーリーの中盤において、「牙(ファング)」と呼ばれる凄腕の暗殺者が使用する、無人飛行兵器(ドローン)でしょうか。周囲のものをプロペラで斬り裂く恐ろしい能力と、護の剣でも斬れないような圧倒的な防御力を併せ持ち、そんな兵器に複数同時に襲われ、さしもの護も窮地に追い詰められることになります。ここまでの兵器の存在は、現時点ではさすがにオーバーテクノロジーで、むしろSF的な設定だと言えますが(似たような無人偵察機は既に数多く存在しますが、ここまでの性能のものはさすがにないはず)、それでも、圧倒的なリアリティのある描写で「実際にこういう兵器で戦闘を行っている」と読者に納得させるだけの力、面白さがあります。


 
・ストーリーはシンプルだが、キャラクターは実に魅力的。
 肝心のストーリーについてですが、大枠ではさほど凝ったものではなく、それこそ典型的な悪人退治もので、「主人公の盲目剣士と、彼が所属する犯罪被害者救済組織(”エレメンツ・ネットワーク”と呼称)が、ヤクザや非人道的な企業、国際的テロ組織などを相手に、最新の技術を駆使して戦いを繰り広げる」というものです。最近では、世相を反映してか、このような「犯罪の被害者たちが、加害者たる凶悪犯罪者に対してあるべき制裁を行う」作品がかなり目立つような気がします。が、このマンガに関しては、決してそのようなテーマを重視した社会派の作品としての色は強くなく、純粋にSFアクションものとしての要素が強く出ています。犯罪描写やその被害者などの要素はあくまでエッセンスであり、基本的にはバイオレンス・アクションを全面に押し出した純娯楽作品と見てよいでしょう。

 このように、ストーリーそのものは意外にもシンプルですが、それを彩るキャラクターたちに関しては、実に魅力的です。とりわけ、この作品では、男性キャラクターの比率が高く、力強い活躍を示す彼らの姿が際立っています。

 まず、何と言っても主人公の土方護ですね。盲目の凄腕剣士で、その強烈な戦闘能力もさることながら、自らを「犯罪者」と公言し、敵となる犯罪者たちに対して情のカケラも見せず、残虐に制裁を加えるその苛烈な姿は、まさに「ダークヒーロー」の名がふさわしいものです。最近では、ここまで過酷で残虐とも言えるヒーローの姿は、意外に珍しい存在かもしれません。
 そんな護を技術面でサポートする頭脳担当のパートナー・井川、「エレメンツ・ネットワーク」内の1チーム「THE WALL」のリーダーで、卓越した状況分析能力と指揮能力を誇るアルファ、同じく「THE WALL」の一員で、メンバーの数少ない女性でありながら卓越した白兵戦能力を持つシエラ、同じくインディアやフォックストロットなどのメンバーたち一人一人も、いずれ劣らぬ高い能力を持ち、各所で奮迅の働きを示します。

 一方で、そんな主人公たちに敵対する悪役にも、魅力溢れる人物が多い。某国の外交官で、テロ集団の極悪な1リーダーであるエジー・トゥルスを筆頭に、彼に取り入る切れ者のヤクザである古村、トゥルスに雇われた超一流の暗殺者「牙(ファング)」など、いずれ劣らぬ存在感を持っています。

 面白いのは、そんな対立するふたつの組織の間で揺れ動く、日本の警察組織の刑事たちですね。とりわけ、源田という刑事は、頭も腕も相当に強い警察内の切れ者として描かれ、捜査を進めていまだ正体を見せないエレメンツ・ネットワークの存在に気づいていき、一時的に彼らの一員と強力して共に犯罪組織に立ち向かおうとするなど、次第に事件の核心に迫ってくる第三の実力者として、その姿には非常に魅力的なものがあります。


・幅広い読者に支持を得ている人気作品として、大いに期待できる。
 この作品は、純粋に娯楽作品であり、しかもストーリーも比較的シンプルなものですが、それでも圧倒的に読ませる力があります。ストーリーは単純な悪人退治でも、重厚かつ繊細な画力で描かれたアクションの爽快感、それを強烈に補完する科学や軍事の知識を駆使したSF設定、そして圧倒的なキャラクターの魅力と、とにかくエンターテインメント要素が詰まっていて、純粋に読んで面白い作品になっているのです。新人作家にして高い画力を示すDOUBLE-Sの実力と、原作者のたかしげ宙らしい軍事・SF設定に満ちたストーリーがうまく合わさって、非常にレベルの高い作品に仕上がっているとも言えます。ヤングガンガンでは、このように、実力のある原作者と作画担当者を組み合わせて成功した作品が、他にもいくつも見られますが、これもまたそのひとつに加えてよさそうです。

 しかも、この作品は、コアでマニアックな人気が目立つヤングガンガンのほかの人気作品と異なり、一般層にも幅広く人気を獲得している点が、特に評価できます。最近では、これ以外にも一般向けとも言えるスタンダードな青年マンガが増えているヤングガンガンではありますが、ここまで高い人気を得て成功することが出来たのは、現時点ではこの作品くらいでしょう。かつては、あの筒井哲也作品が、これ同様に一般向けとも言える重厚な作品をいくつか残しましたが、肝心の人気、売り上げでは今ひとつでした。しかし、この「死がふたりを分かつまで」は、それをはるかに越えるほどの知名度をすでに獲得しており、ヤングガンガンの連載の中でも、最も幅広く雑誌外の読者にも知られた作品のひとつになりつつあります。やはり、純粋に読者を惹きつけるエンターテインメント要素が多数含まれているのが、人気の秘密でしょうか。

 そして、その一方で、ヤングガンガンを毎週買って読むような、コアなマニア読者の評価も高いのも見逃せません。普段は萌え系のスクエニ的な作品を中心に読む読者でも、この作品はチェックしている人はかなり多いようです。それだけ、誰が読んでも面白い作品に仕上がっているのでしょう。そのような点において、今のヤングガンガンの連載の中でも、潜在的に最も期待できる作品ではないかと思えるのです。

 今後の希望的推測として、このままさらに人気が上昇して、アニメ化などのメディアミックスまで達成することができれば、ヤングガンガンの従来の人気作品とはまた異なる、新たなイメージの雑誌の顔となるかもしれません。今のヤングガンガンは、このような広く一般層をも意識した新しいタイプの作品が増えており、誌面が活気に満ちて面白くなっていると思うのですが、そんな作品の先駆的存在にして最大人気作品として、この「死がふたりを分かつまで」の存在は、非常に大きなものがあると思われます。


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