<天体戦士サンレッド>

2007・4・25

 「天体戦士サンレッド」は、ヤングガンガンで創刊時から連載している長期連載で、雑誌の中でも通好みの中堅作品として健闘している作品です。作者はくぼたまことで、かつての一世を風靡したデビュー作「仮面レンジャー田中」、ガンガンでの大人気作で出世作「GOGO!ぷりん帝国」で、知る人には非常に人気の高い作者です。この「天体戦士サンレッド」も、かつての人気作品のコンセプトをほぼ忠実に受け継いでおり、根強い人気はいまだ健在で、かつヤングガンガン時代からの新しい読者も引き込んでいるようです。

 内容は、「(一応の)主人公であるヒーロー戦士である「サンレッド」と、世界征服を企む悪の秘密結社「フロシャイム」との熱き戦いを描く」という、特撮ヒーローものを踏襲した作品にも見えますが、実際には、それぞれの陣営、それぞれのキャラクターたちの「庶民的な暮らしぶり」が徹底的に描かれたギャグマンガに他なりません。本来、圧倒的な力を持つはずの「正義のヒーロー」や「悪の怪人」たちが、実際には非常に小市民的な言動を採るというそのギャップ、それがあまりにも面白いのです。このような「庶民派ギャグ」こそが、くぼたまことの真骨頂であり、これはくぼた作品のほぼすべてに共通した、彼独特の魅力となっています。

 そして、そのような「庶民派ギャグ」は、幅広い読者に高い人気を博しており、マニアックなファンも見た目以上に多く存在するようです。コアなマンガ読みの間で評価されているのはもちろん、普段は萌え系のマンガを中心に読む、いわゆるオタク系読者の間でも人気が高く、ヤングガンガンの中でも幅広くマニア人気を獲得した、隠れた人気作品となっています。


・「サンレッド」の原点「気象戦隊ウェザースリー」
 さて、この「サンレッド」、実は原点となるべきマンガが存在します。
 かつてあっという間に廃刊した雑誌「コミックバウンド」。そこで一瞬の間連載されていた「気象戦隊ウェザースリー」というマンガ、これこそが原点です。原点というよりも、作品のコンセプト自体がほとんど同じであり、登場人物に若干の変更がある程度で、基本的に全く同じ作風が楽しめます。

 さて、この「コミックバウンド」という雑誌、あまりにも品性の乏しい雑誌で、青年男子をメインターゲットとした過激な作風、特にエロ・グロ・バイオレンスをことさらに押し出したマンガが非常に多く、多くの読者にとってひどく抵抗のある誌面でした。そんな中で、この「気象戦隊ウェザースリー」は、「庶民派ギャグ」という安心して読める作風で、雑誌内でもかなり貴重な存在だったように思います。エニックス以外の外部作家ばかりの連載陣の中で、数少ないエニックス作家と言う点でも安心できました。

 しかし、その「コミックバウンド」は、あまりにも評判が悪かったのか、5号という極めて早いタイミングで瞬く間に廃刊となり、この「気象戦隊ウェザースリー」も、一瞬にして立ち消えとなってしまいました。当時は、くぼたさんのガンガンでの人気作「GOGO!ぷりん帝国」も終了しており、これでくぼたさんの活躍の場は完全に失われてしまい、ひどく失望したのを覚えています。しかし、それがまずヤングガンガンの前身「ガンガンYG」で一時的に復活し、さらにこのヤングガンガンの創刊で、新たに「天体戦士サンレッド」として復活したのは、何よりの僥倖でありました。

 ただ、この「ウェザースリー」、コミックバウンドという掲載場所を考慮してか、他の連載同様に少なからず暴力的なシーンが多かったのも事実です。もちろん、決して暴力ばかりのマンガでもなく、純粋に中身のあるマンガでもあるのですが、それでもこのバイオレンス要素は、やはり少なからず抵抗があったように思います。これは個人的にもかなり読みづらいと感じる要素で、その点でこの「ウェザースリー」は、くぼた作品の中では若干人にすすめにくいマンガになっています。



・なんといっても「庶民派ギャグ」。
 さて、このマンガの最大の魅力、それはここまで何度も繰り返してきたとおり、ヒーローや怪人たちによる庶民的な言動、そのギャップの面白さに他なりません。

 そしてこのマンガの場合、「天体戦士サンレッド」というタイトルにもかかわらず、中心的に描かれているのはヒーローのサンレッドではなく、むしろ悪役の怪人たちの方で、彼らがその異様な外見で繰り広げる庶民的な行動こそが、最高に笑えるのです。安アパートでつつましく生活を送り、スーパーやコンビニで安く買い物を済ませ、普通の電車で通勤し、バイトにも精を出して生計を立てる彼らの姿は、まさによき小市民以外の何者でもなく、その凶悪っぽい外見とのギャップがとにかく凄まじい。絵的に見ても異様で、それだけでも笑いを誘います。何気に舞台が川崎というのも笑えるポイントです。

 中でも最高に面白いのが、このマンガの実質的な主人公とも言える、フロシャイム川崎支部の幹部・ヴァンプ様でしょう。彼の小市民的な生活ぶりは、まさに主婦の鑑とも言えるもので、料理・洗濯・掃除と、すべての家事において圧倒的な有能ぶりを見せてくれます。しかも、悪の組織の幹部なのにひたすら柔らかい性格で、部下の怪人や下っ端にも丁寧に接し、近所付き合いも忘れず、すべてにおいて気配りを忘れないその素晴らしい人格には、言い知れない魅力を感じます。読者の間でも、このヴァンプ様の人気は圧倒的で、「天体戦士サンレッド」の実質的な顔となっています。


・ヒーロー「サンレッド」も面白い。
 ヴァンプ様を始めとする怪人たちに存在感を完全に奪われてはいますが、一応の主人公であるヒーロー・サンレッドもかなり笑える存在です。
 この男、ヒーローと言えば確かにそうなのですが、実際にはどう見てもただのチンピラであり、普段は働きもせずにパチンコに精を出し、愛人であるかよ子に養ってもらっているという典型的なヒモであります。このようなふざけた男であるがために、怪人との対決でもボコボコにのしてしまう暴力的なチンピラな側面も強調されているのですが、しかしその一方では、わざわざ怪人たちのために便宜を図ったり、意外にも優しい面を見せたりするなど、面白いところも多いのです。
 とりわけ、怪人の庶民的な行動に対するツッコミが面白く、「怪人が何でバイトなんかしてんだよ」「てめーらの買い物なんかあとにしろ」「(腹を壊して休もうとしたヴァンプ様に対して)やけに体に優しい悪の組織だな」など、読者の思っていることを代弁するような役目も果たしています。

 また、この男、連載の序盤のうちは、かなり暴力的でひどいところもあり、怪人たちをボコボコにのすようなシーンも多かったのですが、これが連載を重ねるにつれて、どういうわけか次第に態度が軟化していき(笑)、怪人に対して親身になったアドバイスをしたり、何かにつけてヴァンプ様と交流するようになり、しまいには文句を言いつつもヴァンプ様の頼みを聞いてやるまでに馴れ合ってきました。特に、ヴァンプ様に頼まれて、本部アパートのブレーカーを直す話などは、絵的にもあまりにも滑稽で、「何で俺が悪の組織のブレーカー直さなきゃならねーんだよ」というツッコミも最高に笑えました。

 さらにこの男、ヒモである身分から愛人であるかよ子にはまったく頭が上がらず、しかもかよ子は主婦業での付き合いでヴァンプ様と仲が良く、そんなふたりにつまはじきにされ、立場を失ってしまう様子も、また面白いところです。


・「怪人が平然と人間の間で生活をしている」という光景が最高。
 さらに、この「サンレッド」、かつてのくぼたまことのガンガン連載「GOGO!ぷりん帝国」とはまた異なる面白さがあります。それは、「怪人が平然と人間の間で生活をしている」こと。
 「ぷりん帝国」では、地球侵略を狙う怪人たちの星が舞台だけあって、出てくるキャラクターはほとんど怪人たちで占められていました。しかし、この「サンレッド」の場合、舞台が地球の川崎であり、しかもなぜか怪人が人間社会に溶け込んでおり、人間の間で平然と暮らしているのです。この、怪人と人間がごく自然に(?)同居しているというビジュアルが、あまりにも滑稽で面白い。

 具体的には、怪人が人間と同じ電車に乗って通勤するくらいは当たり前、人間と完全に同じ扱いでバイトに精を出したり、高島屋に買い物に行ったり、あげくの果てには人間の女子学生と合コンを開いたりと、そのあまりの異様な光景がバカバカしすぎて、絵を一目見るだけで最高に笑える構図になっています。どう見ても人間とはかけ離れた身体構造の怪人が、ごく普通に人間の隣で生活し、バイトの先輩に怒られて頭を下げまくったり、合コンで一発ギャグを当てようと必死になっている光景、それこそがこの「サンレッド」の真骨頂と言えるでしょう。


・実はかなりマニアックで幅広い人気を獲得している貴重な作品。
 以上のように、この「天体戦士サンレッド」、相変わらずのくぼたまこと独特の作風は健在で、毎回非常に楽しめる連載です。雑誌の中では、毎回のページ数が少ないこともあって、さほど大きな扱いにはなっていないのですが、それでも確実な人気を得ており、ヤングガンガンの中堅作品として、雑誌を支える存在としてなくてはならないものとなっています。

 そして、このマンガの場合、意外にもオタク系のマニアックな読者にも、非常に人気が高いのもポイントです。もともと、くぼたまことのマンガは、コアなマンガ読みの間では定評が高く、今回の「サンレッド」ももちろん、マンガ読者の間での高い評価は健在です。
 しかし、これに加えて、普段は萌え系のマンガを中心に読むオタク系マンガ読者の間でも、意外にもかなりの人気を得ています。かつての「ぷりん帝国」時代からのガンガン読者の人気も続いており、かつ今回の連載からの新たな読者層からも、幅広く高い人気を得ている。理由を考えるに、異様な怪人たちの繰り広げる庶民的行動が、読者の好みを問わず誰もが「ネタ」として楽しめることと、そしてヴァンプ様を始めとする個性的なキャラクターが、実はかなりのキャラクター人気を得ているという事実が挙げられます。これは、かつての「ぷりん帝国」時代から続いている現象で、ガンガン系(スクエニ系)読者には非常に相性のいいマンガであると言えるでしょう。実際、今のヤングガンガンの連載の中でも、これほど広い読者層から支持されているマンガは少なく、その点でも大変に貴重な作品だと言えます。

 最後に。このマンガ、雑誌連載時に見られる編集者によるマンガの周りの書き文字、いわゆる「煽り文」がやたら面白く、その鋭いツッコミや妙に笑える解説文には、かなりのセンスが感じられます。しかも、このマンガの場合、コミックスでもその煽り文が消されず、そのまま残してあるのがやたら笑えます。煽り文の面白さだけでも相当なものなので、それに注意して読んでみるのも面白いでしょう。


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