<TOKYO BARDO 東京バルド> 

2009・10・13

 「TOKYO BARDO 東京バルド」は、ヤングガンガンで2009年3号から開始された連載で、同誌が2008年から2009年にかけて行った新連載攻勢、その最後の一作にあたります。この新連載攻勢、全部で8作という大掛かりなもので、これ以前の新連載にも良作がいくつか見られましたが、最後に来たこの作品も、負けず劣らずの中々の良作になっています。

 作者は、原作に俵喜都、作画に麻生我等(あそうがとう)の名前が挙がっています。原作者の名前は、今まで一度も耳にしたことがなく、こちらはよく分からないのですが、作画の麻生我等は、かつてアニメ「精霊の守り人」のキャラクターデザインを担当しており、その後ヤングガンガンで、同作品のスピンオフ作品「ジン 〜アニメ『精霊の守り人』外伝〜」を連載しています。この連載、ヤングガンガンの売れ線とは言えない渋い作風で、あまり大きな人気を得たとは言えませんでしたが、一方で作画面を中心に作者の実力には確かなものが見られ、それが今回の作品での起用につながったのではないかと思われます。ヤングガンガンは、このように実力のある作家で、かつてはあまり成功しなかった者でも、もう一度こうしてチャンスを与えて成功する例が多く、今回もそのひとつとなるかもしれません。
 また、彼ら以外に、協力という形で、牛山拓二・稲葉尚人の両氏の名前がスタッフに挙がっていますが、彼らについてもよく分かりません。作画担当の麻生氏以外はいまひとつよく分からない布陣であり、作品の設定面で詳しい方をどこかから採用したのかもしれません。

 内容は、「TOKYO BARDO」というタイトルどおり、現代の東京を舞台にした作品で、それもオカルト伝奇バトルものという、ある種ありふれた設定の作品とも言えます。しかし、この作品の場合、風水や呪術、陰陽道についての入れ込みがかなり深く、さらには東京という都市のもつ魅力、その様々な側面を見せようとしている点で、他の類型の作品とは異なるオリジナリティが見られます。風水や呪術についての設定が極めて本格的で、そのようなものに興味のある人、そういった小説やマンガ、ゲームなどを体験した人には、さらにおすすめできるかもしれません。

 さらには、オカルトやファンタジーの要素があるとは言え、ヤングガンガンの中では比較的一般の読者向けだと思われるところもポイントです。同時期の新連載では、同じようにこれまでのマニアックな「スクエニ的」とも思える連載だけでなく、こういった一般の青年誌を意識した作品がいくつか見られ、最近ではヤングガンガンもやや方向性を変え、こういった作品も採りいれつつあるのではないかと思ってしまいました。


・東京を守る一族に生まれた青年の過酷な運命を描く、骨太なストーリー。
 このマンガの主人公は、東京を守る使命を持つという退魔の一族・比良坂家の次男・深雪(みゆき)。彼が、東京に封じられた邪神を蘇らせようとする邪悪な一族と闘う、といった筋書きの物語で、この大筋だけならば、本当にごくオーソドックスな退魔師ものに見えます。しかし、このマンガでは、その深雪を待ち受ける過酷な運命と、それに立ち向かおうとする彼の意志の強さ、その双方が迫力の筆致で描かれていて、読者の心に強く訴える骨太なストーリーとなっています。

 深雪には、夏喜(なつき)という姉がいて、ふたりで共に当主だった祖父から厳しい修行を受けていました。しかし、深雪は、その厳しすぎる修行に意味を見出すことが出来ず、夏喜にやめて逃げ出そうと提案します。しかし、夏喜はそれをよしとせず、「誰かがやらなければならない使命が、自分でよかった」と言い、自分だけは残って一族の役割を果たすことを選びます。深雪は、そんな夏喜に見送られて家を去り、のちに海外で若手の都市プランナーとして活躍するようになります。

 しかし、夏喜は、邪悪な一族との闘いで邪神に襲われ命を落とし、その訃報を聞いて深雪は海外から帰国します。その時になって、かつての知人から夏喜が得体の知れない死に方をしたことを知り、再び東京を守る比良坂一族の者として、しかしその本心は死んだ夏喜の復讐のためだけに、心を奮わせて邪悪な一族と邪神に立ち向かうことを決意するのです。

 このような、「過酷な使命を持つ一族としての力」と「殺された最愛の姉の復讐」という、主人公の持つふたつの大きな動機が語られるシーンは、大ゴマの連続と激しいバトルという迫力の演出で、強く読者を引き付けるものとなっています。やはり、物語の冒頭で、このように主人公の持つ強固な意志が語られると、物語への引き込まれ方がまるで違います。麻生我等の大胆な作画もそれを強く後押ししており、一気に読者を引き込む力を持っています。


・風水・陰陽道・呪術などの深い設定が最大のポイント。
 そして、そのような退魔師が活躍するバトルストーリーと並んでもう一つ、このマンガを構成する大きな要素が、風水や呪術、陰陽道などの和風伝奇オカルトの深い設定でしょう。それも、タイトルどおり東京にまつわる風水・呪術の設定を強く採り入れているのが大きな特徴です。

 主人公の深雪自身、有名な都市プランナーとして都内の大学の教授として着任し、東京を構成する風水的な要素を熱心に講義します。この時の講義内容からして異様に詳しいもので、かつての江戸は富士の気を江戸城に呼び込むために渦巻状の構造をしており、さらには四つの方角に神獣をなぞらえた四神相応の思想も採用され、鬼門と呼ばれる北東の方角に、鬼門封じとして上野の寛永寺が置かれていると解説します。
 しかし、それは実はダミーであり、真の鬼門封じは浅草神社、裏鬼門は日枝神社であると解説。最後には「東京の始まりは風水や密教の秘法によってその基盤が作られた呪術都市」とまで言い切ります。そのかつての東京(江戸)を作り上げた都市のプランナーが、徳川家康の側近であった天海という正体不明の密教僧であったと。

 さらには、中国の星座である二十八宿が邪神の眠る場所とされたり、あるいは深雪の持つアイテムとして風水の羅盤なども登場し、コミックスの巻末には各種の詳しい設定説明のページも追加されるなど、作品全面に渡って風水・占星術・密教・陰陽道などの設定が大量に織り込まれています。このような極めて詳しい設定は、風水や呪術、密教や陰陽道など、和風伝奇オカルトものが好きな人には、非常に興味深いのではないでしょうか。加門七海の小説やエッセイ、あるいはゲーム「東京魔人学園」などが好きな方、「天海」と聞いてそれが誰だかすぐに分かるような方には、特にこのマンガはおすすめです(笑)。はっきり言えば、東京を守る一族の風水・呪術バトルというこのマンガ自体、東京魔人学園の青年誌版と言ってもいいような作品になっています。


・東京という都市の魅力(魔力)を直接描く。
 また、そのような風水を通した東京の姿だけでなく、より直接的な東京の姿、より詳しい場所の説明、そしてその巨大都市の持つ力についての言及が見られる点も特徴です。主人公自身、都市プランナーという設定ですし、都市のあり方というテーマもまたこの作品の中に存在するようです。

 例えば、連載第6話で登場する箱根山。これは、東京新宿区・戸山公園内にある人造の山のことで、標高44.6メートル。これは、江戸時代に大名の手によって作られたもので、東海道五十三次になぞらえて作った「戸山荘庭園」の名残であると説明されます。庶民のように気軽に遠くへ行けない身分の者たちが、疑似体験として旅や外出を楽しむ為に作られた、いわばテーマパークのような場所であると。このような場所が東京の新宿にあると知って、これには大いに感心してしまいました。
 しかも、ここは都内有数の心霊スポットで、「戦時中、細菌戦の人体実験を行っていたとされる731部隊との関連が噂されており、箱根山の地面の下には陸軍戸山学校時代の銃弾が多数埋まっている」(Wikipedia)という事実がそのままストーリーに採り入れられており、その地下で731部隊の生き残りと主人公の激しいバトルが繰り広げられます。風水だけでなく、いわゆる都市伝説的なものまで採りいれてあるところも面白い。冒頭では、旧日本軍の作った地下道という都市伝説が、そのまま最初のバトルの舞台ともなっています。

 あるいは、よりマクロな視点で、東京という都市の持つ力を示すくだりもあります。「なぜ人は都市に集まるのか」というテーマで深雪が切々と講義をするシーンが、その際たるものでしょう。「仕事が多い所得が高いといった経済的側面 住み良い都市環境 高度な教育システム 洗練された都市空間 医療や福祉の充実 そして人との繋がり 人はこれらを求めて都市に集まる」と。しかし、その一方で、東京は様々な問題をも抱えているとも言います。「通勤難・交通マヒ・住宅難・公害・災害・・・それでも人口は膨らむ一方だ」と。そして最後に、なぜそれでも人が集まるのかと問いを発し、その答えとして「それは人が都市の魅力に取り憑かれているからだ」と言い放ちます。「ダンテは『神は田舎を創り人は都市を創る』と言っている。神の創りしものを捨ててまで人が集まる、その東京の魅力とは一体何だと思うか。」この深雪の問いへの解答は、読者自身に委ねたいと思います。


・やはり麻生我等の絵は良い。
 そして、やはりこのマンガは、作画担当の麻生我等の絵は非常に良い。

 この麻生我等、「精霊の守り人」のキャラクターデザインを担当する以前は、成年マンガ(エロマンガ)を描いていたようで、そこからいきなりTVアニメのキャラクターデザインを担当することになるとは、かなり意外な経歴の持ち主であると言えます。確かに、キャラクターの描き方に肉感的なところも感じられ、それは「精霊の守り人」や、その後のヤングガンガンの連載にも多少残っているかもしれません。しかし、この「TOKYO BARDO」に関しては、わずかにそのような部分こそ残っているにしても、それ以上に純粋に骨太なキャラクター、バトルやオカルトシーンがよく描けており、もはやそのような面影はほとんどないと言えます。
 むしろ、極めて迫力と躍動感に満ちた青年誌的な絵柄であり、細かい部分での緻密さには欠け、やや雑に感じられるところが一部にはあるものの、それ以上に読者の目に強く残るような印象の強い作画が目に付きます。

 まず、キャラクターを描く描線が太く濃いもので、これが迫力と存在感のあるキャラクターを生み出しています。主人公の比良坂深雪などは、顔立ちの整った好青年といった風の人物ではありますが、それ以上に強固な意志を感じる表情と目線が印象的で、これは他の多くのキャラクターにも言えています。特に、深雪と同じような青年キャラクターや、さらには年配の男性の描き方が特に印象に残ります。

 そして、おどろおどろしいオカルト要素、怨霊や骸骨のような魑魅魍魎の作画もいい。単なる怖さだけでなく、彼らが持つ力の強大さ、それも圧倒的な力を持って襲い掛かってくるシーンも印象的です。カラーページでの鮮烈な色彩で、あるいはどす黒い作画で怨霊や邪神が画面いっぱいに描かれているシーンも見ごたえがありました。

 そして、そんな彼らと主人公との熾烈な闘い、そのバトルシーンこそが、このマンガ最大の見所と言えるでしょう。とにかく動きのある作画がよく描けていて、その躍動感溢れるキャラクターのアクション、しのぎを削る息詰まる接近戦の緊張感、攻防の一瞬がよく描けています。このあたりは、ヤングガンガンでの前作「ジン」でもそのまま見られた特長であり、今回はその時より全体の作画能力も上がっているようで、さらに見ごたえのあるものとなっています。


・人気は出づらい作品だが、これもまたヤングガンガンの良作のひとつ。
 以上のように、この「TOKYO BARDO」、現代の退魔師ものという比較的目新しさには乏しいジャンルの作品ではあるものの、キャラクターの意志の強さが感じられる骨太なストーリー、麻生我等による迫力と躍動感に満ちた作画、風水や呪術の要素を積極的に採り入れた詳細な設定、東京という都市の魅力を探っていくテーマなど、見所の多い力作となっており、昨今のヤングガンガンの新連載攻勢の中でも、期待できる作品のひとつになっていると思います。

 ここ最近のヤングガンガンは、これ以外にも「レキオス」や「新選組刃義抄 アサギ」など、いかにも青年誌的な骨太なストーリー、アクションなどが楽しめる作品を積極的に取り入れているようで、しかもいずれもかなりの力作、良作となっており、この方針にも期待してよさそうです。

 しかし、この作品も、作者の前作「ジン」同様に、あまり大きな人気には発展しづらいタイプの作品だと思えます。「レキオス」が池上永一の原作作品でそちらからの人気が期待できる点、「新選組刃義抄 アサギ」が、歴史好きのマニア女性に人気が期待できる点を持っていることと比較しても、この「TOKYO BARDO」には、そのようなところがなく、ぱっと見ただけではごくありふれたオカルトアクションにとどまっているように思えるのも、あまり人気が出ない理由かもしれません。今のヤングガンガンでも、連載自体は堅調なものの、掲載順は後ろの方に回されることが増えてきましたし、肝心の内容、特にストーリー面でも、序盤の頃の迫力がやや薄れ、少し勢いが落ち着いてきたと感じるのもやや不安な材料ではあります。

 しかし、このマンガは、個人的には大いに期待したい。このような風水や呪術などの伝奇設定や、あるいは都市というテーマは、わたし個人も大いに好きなモチーフなので、今のヤングガンガンでもひどく楽しみにしている作品のひとつだったりします。最近の新連載の中では、これが最も気に入っているかもしれません。決して悪い連載ではなく、これもまた今のヤングガンガンの数多い良作のひとつに挙げられる力作だと思いますし、是非ともマイペースで連載を続け、雑誌を支える中堅作品として健闘してほしいと思います。


「ヤングガンガンの作品」にもどります
トップにもどります