<ユーベルブラット>

2006・1・8

 ヤングガンガンを支える主要作品のひとつであり、最近では珍しいストレートなファンタジー作品です。作者は塩野干支郎次。
 元々、ヤングガンガンの前身であるガンガンYGにおいて、最有力作品として連載を重ねていたのがこの作品であり、その後ヤングガンガン創刊時から、看板作品として大きな期待を背に、改めて連載を開始しました。そして、これが見事期待に応え、今もヤングガンガンの中核作品となっています。
 実は、ガンガンYG時代には「ドラッグオンドラグーン」、ヤングガンガン創刊時には「FF11」という、ゲームを原作とした似た雰囲気のファンタジー作品があったのですが、それらがどれも不発に終わったのか、すぐに立ち消えとなってしまい、オリジナルであった「ユーベルブラット」が唯一成功する形となりました。ヤングガンガンの編集部としては、このようなファンタジーを複数連載して、本格ファンタジー路線を採りたかったのかもしれませんが、それは不成功に終わったと言えるかもしれません。しかし、唯一残った「ユーベルブラット」が想定以上の成功を収め、これが非常に面白い作品なので、読者としては何ら問題ありません(笑)。

 ガンガンYG時代の連載は、それだけでひとつのストーリーとして完結していますが、これがヤングガンガンの本連載のプレストーリーとして「ユーベルブラット 0巻」として発売されています。ヤングガンガン時代からの連載である「ユーベルブラット 1巻」から読み始めてもいいのですが、0巻にはこの物語の基本的な設定が語られており、話そのものもひとつに完結していて面白いので、まずはこちらから読むことをおすすめします。


・重厚な本格ファンタジー。
 この作品は、太い描線と黒を基調とした画面が映えるビジュアルにまず惹かれるものがあります。そして、内容的にも重く厳しいストーリーで、およそ少年誌らしくないエロやバイオレンスの描写もあり、まさに本格ファンタジーの印象があります。ファンタジーと言っても、日本的なライト感覚のファンタジーではなく(これはこれで好きなんですが)、海外のファンタジーを思わせる重厚なイメージの作品です。
 巨大な城塞や飛行船、ドラゴンのような、まさにファンタジーを思わせるモチーフが頻繁に登場するのも嬉しいところです。本格ファンタジーとなると、ストーリーやテーマ以上に、やはりまずこのようなビジュアル的なイメージが最も重要だと思うのです。そのような雰囲気溢れるファンタジー世界が、黒を基調とした重厚な絵柄で画面一杯に描かれている。これがこの作品の第一の魅力でしょう。
ファンタジーと言えばドラゴンだ

・目を引く苛烈で残虐な戦闘アクション。
 そして、何と言っても、このマンガを本格ファンタジーたらしめているのは、極めて苛烈で、あるいは残虐とも言える戦闘シーンの数々です。主人公であるケインツェルが、自慢の剣で立ちはだかる敵を容赦なくズタズタに葬り去っていくわけですが、真っ二つに切り裂かれた敵の姿と、黒で描かれた飛び散る鮮血の描写は極めて鮮烈です。このマンガの絵柄は、極端に凝った細部まで徹底的に描かれたものではなく、むしろくっきりはっきりした描線が特徴なのですが(キャラクターに関しては特にそうです。背景はかなり細かい)、そのためにより鮮烈さが際立ちます。
 大勢の敵を一度にまとめてぶった切って葬り去るシーンが多いのも特徴です。このような大勢の敵を豪快に倒すシーンは、やはりあの「真・三国無双」以来の流行りでしょうか? 圧倒的な鮮烈さと、それ以上に爽快感に溢れるシーンで、この「ユーベルブラット」の最大の見せ場と言っても過言ではありません。
ケインツェルの剣撃

・「復讐」を軸に据えた重厚なストーリー。
 そして、このマンガはストーリーも重厚です。主人公・ケインツェルの復讐劇が物語の中心で、あくなき復讐を求める彼の行動には一貫性があり、さらには、その復讐に賭ける心情の描写に非常に力が入っています。これが作品の軸を揺るぎないものにしています。
 かつて旅の仲間でありながら、使命を果たした自分たちを裏切って殺し、絶大な権力と名声を手に入れた「七英雄」を倒すために、妖精の力を得て一命を取り留めたケインツェルが復讐を遂げていくというストーリーなのですが、ここで面白いのが、これが単なる個人的な復讐に留まらず、権力や名声を盾にした存在に対して苛烈に復讐を行うという点です。
 ケインツェルの行く手に立ちはだかる敵は、いずれも大きな権力や名声を嵩にかけて尊大にふるまう連中ばかり。そのような腐敗した悪人を、圧倒的な力でズタズタに切り刻んでいくさまは非常に痛快です。多くの敵は、帝権の守護者である七英雄の威光を背に権力をふるい、ほとんどの人々はその名前の前に萎縮してしまうわけですが、ケインツェルの場合その相手はまさに復讐すべき張本人ですから、萎縮するどころか逆に苛烈に剣をふるい惨殺する。ここがまさに物語の肝とも言えるところで、絶対的な反権力としての主人公の存在感が際立っています。

 さらには、復讐すべき相手が帝権の守護者であり、その威光と名声で国内の秩序を保っている存在である、という点も大きなポイントです。彼らは、かつて仲間を裏切って惨殺した連中で、間違いなく悪人なのですが、しかしその彼らの存在のおかげで国内の秩序が保たれていることも事実なのです。彼らを慕う部下や国民の存在も圧倒的です。ここに大きな矛盾があり、「彼らは悪人ではあるが、しかし単純に殺していい存在なのか」という疑問が生じてきます。ケインツェルと邂逅した帝国の騎士の中には、「彼の復讐の正当性を認めつつも、現状の秩序を守るためにあえて剣を向ける」という者もいて、このような葛藤も物語のひとつの焦点となっています。
ケインツェルと騎士ロズン

・ヤングガンガンの中でも希少なファンタジー作品。
 このように、マンガの完成度については申し分ない「ユーベルブラット」ですが、今のヤングガンガンでは貴重なファンタジー作品という点でも評価が高いですね。前述の通り、他のファンタジー作品が創刊初期で立ち消えとなってしまったことで、ヤングガンガンではあの「ロトの紋章」と並んで数少ない本格ファンタジーとして、誌面の多様性の上でなくてはならないものとなっています。このような黒いイメージの重厚な作品がひとつあることで、誌面が引き締まります。
 さらには、このような本格ファンタジーは最近では珍しく、他社のマンガと比較しても際立つ存在で、その点でも貴重です。巨大な城塞をバックにドラゴンが空を舞うファンタジーを味わいたいならこのマンガしかない。黒を基調とした重厚なイメージも魅力で、とてもかつて「ネコサス:シックス」とかいう萌えマンガを描いていた作者のマンガとは思えません(笑)。ストーリーやアクションシーンの完成度も素晴らしく、青年誌らしいエロやバイオレンスに抵抗さえなければ、誰にでも薦められる良作だと言えるでしょう。


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