<009 RE:CYBORG>

2013・1・31

 「009 RE:CYBORG」は、ビッグガンガンで2012年Vol..6から開始された連載で、同名のアニメ映画作品のコミカライズ、それも映画に先駆けて連載が始まった先行コミカライズとなっています。最近では、TVアニメの先行コミカライズは、スクエニでは定番中の定番企画となっていますが、このマンガは劇場映画、それもかなりの話題作ということで、連載開始当時から盛んに押されていたように思います。映画の公開は2012年10月27日でしたが、コミックはその数ヶ月前から連載され、単行本1巻も映画公開とほぼ同時に発売されました。

 タイトルの「009」からも分かるとおり、この作品は、あのかつての名作マンガ「サイボーグ009」のリメイク作品であり、映画の情報が公開されて以来、大きな注目を集めていました。映画の監督は神山健治で、かつて「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の監督を務めたことで、そちらとの演出の関連性を指摘する声も上がったようです。映画はフル3DCG作品でありながら、セルアニメの手法をも同時に採用しており、その凝った作画も大きく宣伝されていたと思います。

 そして、この映画のコミカライズを担当するのが、麻生我等(あそうがとう)。彼は、映画のキャラクターデザインを担当しており、キャラクターデザイナーがそのままコミックを描いています。彼は、元々はマンガ家で、そのマンガの技術は確かであり、かつ映画とまったく同じデザインの作画で、映画の再現という意味でも非常に満足度の高いものとなっています。彼は、かつて同じ神山健治監督作品だったTVアニメ「精霊の守り人」のキャラクターデザインも担当しており、かつその外伝コミカライズをかつてヤングガンガンで連載していたという経緯があり、今回の映画でキャラクターデザインとコミカライズと担当したのも、そこからのつながりであると思われます。

 コミック版の内容は、基本的に映画のそれをよく再現していると思われますが、ただストーリーの進みはかなり遅いようで、コミックス1巻の内容は、映画ではほんの冒頭くらいまでとなっています。これは、映画に先行したコミカライズという事情もあると思いますし、さらには個々のキャラクターのエピソードも、映画よりさらに深く描かれているところもあり、決して悪い作品ではないと思います。ビッグガンガン誌上では、決して売れ線とは言えない硬派な作風のマンガだと思いますが、しかし作画も内容も十分な力作ですし、もっと評価されてほしいと思いますね。


・麻生我等の多岐に渡る仕事履歴。
 上でも少し描きましたが、このコミカライズ担当の麻生さんは、以前よりアニメのキャラクターデザインやコミック連載を多数手がけてきました。スクエニとの関係も深く、特にヤングガンガンでいくつかの連載を行っています。ここでは、まずこの作家の当初からの履歴を振り返ってみます。

 まず、この麻生我等、最初は成年マンガで活動していました。成年マンガ誌の「快楽天」などで活動していたようで、一部ではこの当時から知られていたようです。彼の成年(エロ)マンガは、いわゆる萌えではなくよりリアルな作風だったようで、のちの作品でもキャラクターの肉感的な描き方にその名残が残っているような気がします。

 その後の麻生さんは、突然あのアニメ「精霊の守り人」のキャラクターデザインに抜擢されます。原作は児童小説のこの作品のキャラクターを担当するとは思いませんでしたが、やはりその大人びたリアルなキャラクター造形が評価されたのでしょうか。そして、このコミック版がスクエニで連載されるのですが、本編のコミカライズがガンガンで連載される一方(こちらの作画は藤原カムイが担当)、外伝スピンオフ「JIN」の連載がヤングガンガンで行われ、こちらの作画を麻生我等が担当したのです。それは、力強い骨太な作画と躍動感溢れるアクションシーンで「精霊の守り人」の世界をよく再現しており、外伝ながら本編に劣らない力作だったと思います。

 そして、その連載が評価されたのか、同じヤングガンガン誌上で、今度は「東京BARDO(東京バルド)」というオリジナルの連載が始まります。現代東京を舞台にした風水伝奇バトルといった作風で、ここでも力強い作画とアクションは健在でした。原作者は別にいたようですが、都市学と宗教哲学の要素を取り入れたテーマ性溢れるストーリーも、大いに読み応えがあったと思います。

 また、その連載とほぼ同時期に、TVアニメ「世紀末オカルト学院」のキャラクターデザインも行っています。内容はまさに怪作といってもいいすさまじい作品でしたが(笑)、「マヤ様」と言えば今でもその個性的な造形のキャラクターを思い出す人は多いかもしれません。

 こうして振り返ってみると、アニメのキャラクターデザインの仕事に関しては、どれもヒットしたアニメの仕事ということで、成功したと言ってもよいと思いますが、一方でヤングガンガンのコミック連載に関しては、どちらも決して雑誌の売れ線とは言えない硬派な内容で、人気の上ではいまひとつだったと思います。個人的にはどれも相当な良作だと思っていただけに、今までのこの結果は非常に残念に思っています。

 そして、今になって、再びアニメのキャラクターデザインの仕事で、今度は劇場映画「009 RE:CYBORG」のキャラクターデザインと、そのコミカライズの仕事を手がけることになったのです。今回の連載も、また同様な作風の骨太で硬派なアクション作品となっていますが、さてその出来はどうだったのでしょうか。


・やはり麻生我等の作画は本物だった。
 そう、今回の連載でも、その麻生さんの躍動感溢れる迫力の作画は健在でした。濃く太い描線で描かれた骨太な作画は、この009の重厚な世界をよく再現しています。あるいは、アニメのセル画で描かれた原作映画よりも、このコミック版の方が、どっしりした落ち着いた質感が出ているような気もします。

 とりわけそれを感じるのが、冒頭でジェット(002)とグレート(007)がニューヨークで邂逅するシーンでしょう。これは、ゼロゼロメンバーの中でも特に大人びたこのふたりが、地下の酒場で世界を揺るがすテロ事件について政治的な会話を行うシーンとなっています。ここは、冒頭から大人向けの重厚な雰囲気を漂わせており、麻生我等の濃く太い絵柄が、その空気感をこれ以上ないほどよく表現していました。

 そして、なんといっても、やはり迫力のバトルアクションが最大の見所です。グレートがジェットと別れた後、彼は黒服の男たちに追跡され、彼らを倒すためにわざと路地裏に引き込み、そこで激しいバトルを繰り広げます。このシーンは、銃を持つ相手に対して巧みな体裁きで応戦し、彼らの攻撃を見事に捌ききり、さらには、ゼロゼロナンバーならではの特殊能力を駆使して敵にとどめを刺します。このような、巧みな体術を駆使した近接戦闘の醍醐味に満ちたシーンは、「精霊の守り人」や「東京BARDO」でも見られたもので、やはりこの009でも健在でした。

 コミックス1巻のクライマックスである、島村ジョー(009)が覚醒するシーンでは、ジェロニモ(005)との戦闘に加え、テロ攻撃でビルが爆発する中で決死の飛び降りを敢行したフランソワーズ(003)をジョーが間一髪助ける場面となっていて、ここでもダイナミックなアクションを存分に体感することができます。総じて、映画のコミカライズとしては申し分のない作画だと思いますね。


・映画冒頭部分のストーリーをじっくりと描く。
 次いで、コミック版のストーリーについてですが、比較的じっくりとした進みとなっており、前述のとおりコミックス1巻に収録されている内容は、映画冒頭の10〜20分程度の内容となっています。これに関して、あまりにも進行が遅すぎてどうか、物足りないという声もあるようですが、しかしその分ひとつひとつのシーンはじっくりと描かれていて、映画では比較的あっさりと描かれた序盤のエピソードを、より深く掘り下げた力作となっていると思います。

 前述のジェットとグレートの邂逅もそうですが、今回の009は全体的に大人向けの志向が強いようで、冒頭から各キャラクターたちの政治的な思想・行動をじっくりと描いていることに好感が持てました。世界全体を揺るがすテロ事件に対する、各人の思惑がよく描かれています。

 それとは対照的に、高校生として生きている島村ジョーの複雑な思い、覚醒へ向けての葛藤も、じっくりとよく表現できていたと思います。今回の映画では、「冷戦終結後からの27年間、3年に1度ジョーの記憶をリセットし高校生としての生活を繰り返させていた」という設定になっています。ジョーは、記憶をリセットされつつも、しかし「何度も同じ高校生を繰り返している気がする」と漠然とした思いを抱えて、親しい友達もいない寂しい生活を送っていたのです。ほとんど何の家具もない生活感のない部屋で、ただテレビの画面をじっと見ているジョーの姿は、その不安定な精神をよく表していました。

 そんな彼が、ついに目覚める必要があるということで、ジェロニモによって覚醒を促されるのですが、しかしなぜか記憶が中々戻らない。最後にはフランソワーズの決死の努力によってついに目覚めるのですが、まだまだ精神的に不安定で幼さものぞかせるジョーが、ついに元のサイボーグ戦士へと戻るそのシーンは、ジョーの持つ優しさと強さがより深くじっくりと描かれた、コミック版ならではの名シーンになっていたと思います。


・ビッグガンガンで復帰した麻生我等の新作。じっくりと追いかけていきたい。
 以上のようにこの作品、話題作の映画のコミカライズで、しかも実力を持つマンガ家、それも原作のキャラクターデザインを担当する麻生我等自らが、コミカライズを行っていることで、非常な力作、良作となっていると思います。今ではスクエニの定番となっているアニメ作品の先行コミカライズ、その中でも屈指の一作ではないでしょうか。

 ただ、これはかつてのヤングガンガンの連載でもそうですが、やはり今回も売れ線の作品とは言えないことは気になるところです。むしろ、ビッグガンガンの中では、明らかに浮いているといってよい。ヤングガンガンなら「牙の旅商人」「死がふたりを分かつまで」のような硬派なバトルアクション作品がありますが、ビッグガンガンではそのような作品やや少なくなっています。最近ではラブコメや恋愛ものにも力を入れてきたようで、そんな誌面において映画が原作の話題作とはいえ、果たしてこのマンガを目当てにビッグガンガンを買う人がどれだけいるか、実際のところ非常に少ないのではないかと思います。

 しかし、わたしは、それでもあえてこのマンガを推してみたい。かつての麻生我等のヤングガンガン連載も面白かったですし、今回もその実力は変わっていません。映画のストーリーを、じっくりと時間をかけて深く描いていく姿勢にも好感が持てますし、ラストまその軌跡を追いかけていきたい。映画の公開が過ぎて数ヶ月、これから先コミック版がどこまで連載できるのかは未知数ですが、無事に最後まで連載を全うすることを願ってやみません。


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