<ハイスコアガール>

2011・11・16

 「ハイスコアガール」は、増刊ヤングガンガン、およびその後継雑誌であるヤングガンガン増刊ビッグ、さらにその後継であるビッグガンガンで連載されている作品で、「ハイスコア」の名の通り、コンピュータゲームのプレイ、それも一昔前のゲームセンターのゲーム(アーケードゲーム)を扱った日常コメディ作品となっています。最初に連載されたのが、確か2010年10月29日に発売された増刊ヤングガンガンVol.11で、それ以降3回刊行されたヤングガンガン増刊ビッグ、そしてビッグガンガンと続けて掲載されています。増刊ヤングガンガンは、基本的に読み切り作品中心の雑誌で、これも当初は連載ではなかったと思いますが、好評を得て続けて掲載されるうちに連載化したようです。

 作者は、押切蓮介。90年代後半から活動を続けている作家で、そのホラーテイストの作品には定評があります。週刊ヤングマガジンで連載された「でろでろ」、少年シリウスで連載中の「ゆうやみ特攻隊」、ぶんか社の「ホラーM」で掲載され大きな反響を呼んだ「ミスミソウ」あたりが、代表作と言えるでしょうか。他にも数多くの短期連載や読み切りを残しており、ホラーマンガ家として高い評価を得ているようです。

 しかし、この「ハイスコアガール」、そういったホラー要素は一切なく、一昔前の「レトロゲーム」と呼ばれるアーケードゲームを楽しむ子供たちの姿を描いた作品になっています。これは、作者のもうひとつの大きな趣味であるらしく、かつてゲーム雑誌で「ピコピコ少年」という同じくレトロゲームをテーマにした作品を掲載したこともあるようです。これは、そちらの系譜に属する作品であると言えるでしょう。

 その内容ですが、ゲームが大好きな悪ガキ少年ハルオと、同じくゲームが大好きなお嬢様・晶(アキラ)とのぎこちない交流を楽しく描いたコメディとなっていて、一見して高嶺の花のお嬢様が、庶民的なゲームの達人であると言うギャップと、そのお嬢様と親身になって付き合おうとするハルオの姿が、とてもコミカルで楽しいマンガになっています。また、昔のゲームセンターのゲームに対するマニアックな知識もふんだんに登場し、作者のゲームに対する思い入れも存分に感じられる作品にもなっています。昔の、80年代〜90年代前半のゲームセンターが好きだった読者なら、より楽しむことが出来るでしょう。


・実力派作家・押切蓮介。
 押切蓮介さんは、前述のようにホラー作品を多数手がけており、いずれも定評を得ています。90年代後半からもう10年以上執筆を続けているようですが、その活動は非常に精力的で、幾多の連載に加えて読み切り作品も多数に上ります。

 その中でもいくつか代表的な作品を採り上げると、まずは週刊ヤングマガジンで連載された「でろでろ」。これは、ホラーに加えてギャグがふんだんに取り入れられた作品で、軽妙なホラー+ギャグテイストの作風を確立しました。以後、このようなホラー・ギャグが押切の定番の作風となります。一方で、比較的シリアスな作風と言えるのが、少年シリウスで連載中の「ゆうやみ特攻隊」。少年誌らしくシリアスなバトル中心の作風で、こちらはこちらで好評を得ています。

 これらの作品は、いずれも妖怪や幽霊が登場するスタンダードなホラー作品ですが、一方で人間の負の心理のみで構成されたサスペンス調の作品として、「ミスミソウ」が挙げられます。これは、過激ないじめとその復讐劇と、そこに横たわる人間心理を描いた重厚な作品として、これはとりわけ高い評価を得たようです。

 このような、ホラー・サスペンス中心の作品の中で、一方で作者のもうひとつの趣味である「ゲーム(レトロゲーム)」を採り上げた作品もあります。「CONTINUE」というゲーム雑誌で連載された「ピコピコ少年」は、掲載先がコアなゲーム雑誌なだけあって、昔のゲームが好きな大人のゲームファンの間で大きな評判となったようです。ファミコン世代の大人には大いに楽しめる作品でしょう。

 そんなレトロゲームマンガの血を引くもうひとつの作品が、この「ハイスコア・ガール」。今回は、レトロゲームの中でも、とりわけゲームセンターに設置されたアーケードゲームを採り上げたことが大きな特徴となっています。「ストリートファイターII」や「ファイナルファイト」と聞いて興味を引かれる読者なら、実に楽しめるマンガになっていると思います。


・悪ガキの主人公とお嬢様のヒロインとの対比が面白いコメディ。
 このマンガの主人公は、勉強も運動もダメでゲームだけは得意な少年・矢口ハルオ。冒頭の印象としては、典型的な悪ガキ少年として描かれています。
 そんな彼が、いつものようにゲームセンターに通っていたところ、そこで、クラスではお嬢様として知られている大野晶がそこにいるのを発見します。晶は、成績優秀・容姿端麗・クラスの人気者でお金持ちのお嬢様という、自分とは正反対の存在で、まったく縁のない高嶺の花だと思っていたのですが、実はそんな彼女が、ゲーセンでも腕の立つ凄腕のゲーマーであったのです。
 唯一の自分の得意ジャンルであるゲームにおいても、その腕の違いを見せ付けられるハルオ。悔しさとあまりハルオは対戦で闘いを挑むことになります。それは、当時人気だった「ストリートファイターII」。ザンギエフという玄人好みのするキャラクターを巧みに操り、屈指の腕前を見せる晶に対して、ハルオは苦戦を強いられ、とうとう強キャラのガイルを使って待ち(待ちガイル)という恥も外聞もない凶悪な戦法を展開。これに激怒したお嬢様の晶に思い切りぶん殴られ、ついにゲーセンでリアルファイトに発展してしまいます(笑)。これが第1話のあらすじですが、「お嬢様が実は凄腕のゲーマー」「劣等感に駆られる悪ガキの主人公の抵抗」というふたりのキャラクターの対比がとても面白く、思わず笑って読んでしまいました。

 その後のエピソードでも、駄菓子屋の劣悪な筐体でストIIをクリアする晶に驚愕したり、同じくファイナルファイトでも卓越したプレイを見せる晶に驚いたり、ゲーマーお嬢様の意外なまでのテクニックに驚くハルオ少年という構図が続きます。その一方で、実は晶は家ではゲーム機を買ってもらえず、そのため家庭用ゲーム機の知識ではハルオの方が上回り、晶に対して親切にゲームについて教えてやるハルオというエピソードもあり、こちらではまったく正反対の構図も見られ、こちらはこちらで面白い。「ゲーマー少年と実はゲーマーのお嬢様」という、意外性のある組み合わせが非常に面白いコメディを生んでいます。


・実は優しい主人公ハルオと晶の交流にじんとくる。
 そんな感じで、当初はリアルファイトに発展するほど仲が悪かった(ハルオが一方的にライバル意識を燃やしていた)2人ですが、しかしゲームを通じて付き合ううちに、次第にふたりの関係にも変化が訪れてきます。

 成績優秀・容姿端麗・クラスの人気者でお金持ちのお嬢様という社会的なステータスではまったく適わず、唯一の得意ジャンルだったゲームでも適わないと知ったハルオですが、実はそんな晶も、お嬢様ならではの苦労があることを知ることになるのです。上でも書いたとおり、お嬢様であるがゆえに晶は家ではゲーム機を買ってもらえない。そんな晶に対して家庭用ゲーム(ここではPCエンジン)のゲームをひとつひとつ丁寧に解説してやるハルオの姿は、晶に対する気遣いが強く感じられます(さらには、同じゲームを愛する者の間で共通する、ゲームに対する思い入れも)。その後も、お嬢様の素顔をひとつひとつ知るにつれ、ハルオの心も次第次第に打ち解けていき、より親身になった交流を行うようになるのです。

 思うのですが、この主人公のハルオは、当初は典型的な悪ガキ的なキャラクターとして描かれ、まあ実際に悪ガキだと思いますが(笑)、しかし性根は悪い人間ではなく、ずっと優しい性格の少年ではないかと思うのです。そんな少年の真の姿を、単なる悪ガキである姿を脱却して真の優しさを見せていく展開が、とても心地よいと思うのです。

 中でも第7話は、そんなハルオの優しさが出た屈指の回。お嬢様が夏休みの間お稽古事に追われまったく遊ぶことも出来ないことを知ったハルオ。そんなハルオは、自転車を飛ばして遠くのレトロゲームが揃っているという噂のゲーセンまで連れて行ってやるのです。はるか遠くまで必死に自転車を飛ばし、晶のために頑張るハルオ。そんなハルオの人の良さが全面に出たじんとくるエピソードだったと思います。


・なんといっても昔のゲームの知識が素晴らしい。
 そして、そんな主人公とヒロインのコメディ・交流の描写もさることながら、このマンガのもうひとつの、そして最大の魅力は、なんといっても一昔前のゲームの知識がたくさん登場してくることでしょう。作者の押切さんの趣味が全面に出たこのマンガは、彼のゲームに対する愛・思い入れに溢れています。

 当初最も詳しく登場しているのは、なんといってもストリートファイターII(ストII)(カプコン)。91年に発売されたこのゲームは、瞬く間に大人気を博し、「ゲーセンで対戦」という新しいエポックを築き上げた金字塔とも言えるゲーム。そんなゲームのマニアックな対戦知識が、冒頭からふんだんに盛り込まれ、当時をリアルで知るわたしは、おおっと感心せずにはいられませんでした(笑)。90年代前半をゲーセンで過ごした私のような古い人間には、まさにツボ中のツボとも言えるマンガでした。

 同じくカプコンのゲーム、ファイナルファイトの描写も興味深い。ストIIの原型とも言えるゲームにして、ベルトフロアアクションの元祖にして最高傑作。そんなゲームは、屈指の高難易度のゲームとしても知られていますが、それを最も難しいと言われるハガーでなんなくクリアするお嬢様の姿は、このゲームを知っているものなら思わず唸るものがあるはずです。晶の手によって奮闘する市長の姿に感慨を覚えてしまいました。

 あるいは、ハルオが晶に対して解説するPCエンジンのソフトのタイトルも面白い。「R-TYPE」「妖怪道中記」「ビジランテ」「ワンダーモモ」「獣王記」「PC原人」「ゴールデンアックス」「奇々怪界」…と自分の持っているソフトを次々と紹介し、さらには、PCエンジンというハードの素晴らしさまでひたすら熱く語るハルオ(笑)。これは、主人公ハルオの手を借りて、作者自身がPCエンジンへの思い入れの限りを語っているとしか思えません。個々のゲームの面白さ、魅力を丁寧に解説するハルオの姿を見て、ああこの作者は本当にゲームが好きなんだな、と、同じゲーム好きとしていたく共感してしまいました。


・アクの強い絵柄だが中身は優しい。ゲーム好きならより楽しめる逸品。
 以上のように、この「ハイスコアガール」、ゲーム好きの悪ガキ少年とお嬢様という意外な取り合わせのコメディがとにかく楽しく、さらには意外な優しさを見せる少年と少女の交流にじんときて、そしてなんといっても一昔前のレトロゲームの思い入れたっぷりのマニアックな知識も面白いという、とてもいいマンガになっています。最初に読み切りで読んだ時から面白いと思っていましたが、連載となってさらに面白さが増してきたような気がします。

 このマンガ、ホラーを主に手がける作者のマンガだからか、見た目の絵柄はかなりアクの強い、濃い絵柄となっています。スクエニでは比較的珍しいタイプの絵柄で、見た目でちょっと敬遠する読者もいるかもしれませんが、しかしそれは実にもったいない。わたしは、確かに絵柄はアクが強いけれども、しかしその中身は作者の優しさに溢れていると思うのです。意外な優しさを見せる悪ガキ・ハルオの姿に、それが最もよく表れていますし、そんなハルオと晶の交流にじんとくる。そんな善きマンガになっていると思うのです。

 あるいは、作者の好きなレトロゲームに対する丁寧な解説ぶりも、ゲームに対する優しい目線に満ちています。この人は本当にゲームが好きなんだなと感じられるマンガになっていますし、同じゲームが好きな読者なら本当に楽しめるマンガになっていると思います。

 これまでの増刊ヤングガンガン、及び増刊ビッグでの連載も面白く、個人的には雑誌で最も楽しみにしていました。新創刊されたビッグガンガンでも、やはりこのマンガは一押し。コミックスの発売が本当に待ち遠しい一作となっています。


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