<回転る賢者のシュライブヴァーレ>

2012・11・14

 「回転る賢者のシュライブヴァーレ」は、ビッグガンガンで2012年Vol.04(4月号)から開始された連載で、同誌が創刊されて半年ほど経ってから始まりました。この雑誌の中では貴重なファンタジー作品、それも現代を舞台にしたバトルファンタジーではないかと思います。

 作者は、星屑七号。これ以前から創作同人で活動を目にしてきた作家でしたが、近年ついに商業誌でも抜擢されたようで、そちらでも精力的に活動を行うようになっています。この連載以前に、こちらは集英社の「スーパーダッシュ&ゴー!」で創刊号から「1月のプリュヴィオーズ」という連載も始めており、この「回転る賢者のシュライブヴァーレ」も、そのしばらく後に始まりました。現在でも2誌同時に連載しており、先日10月にはこの2作品のコミックス1巻が同時に発売されています。

 この「シュライブヴァーレ」ですが、ペン回しが得意な女子中学生を主人公に、彼女と文具の精霊カトレアが契約して巻き起こる精霊バトルを描いた作品となっています。登場人物の力強い意志を感じる骨太なストーリーと、さらには新人ながら卓越した画力によって、雑誌内でも目立つ極めて印象的な作品になっていると思います。これは、もうひとつの連載である「1月のプリュヴィオーズ」にも共通した作風で、商業誌で活動を始めてまだ日が浅いながら、しっかりとした活動をこなしているように思います。

 また、商業連載を始めながらも同人活動も継続しているようで、そちらの作風も一貫したものがあります。それらすべての創作において、これからさらに期待できる作家だと思います。


・創作同人での活動ぶりにも見るべきものが。
 上記でも少し書きましたが、作者の星屑七号さんは、以前からコミティアやコミケなどで創作同人誌を精力的に出しており、そちらの活動に目立つものがありました。その同人での代表的な作品が、「食人女子高生探偵」とタイトルされた一連のシリーズで、現在でも続いており、ウェブ上でも読めるようになっています。

 この「食人女子高生探偵」、「食人」というショッキングなタイトルで、実際にそのような猟奇的な行為も登場しますが、決してそれだけの作品ではなく、骨太なストーリーとキャラクター、しっかりとした描線で描き込まれた絵柄で、とても読み応えのあるマンガになっていると思います。特に、シリーズを重ねた第三話あたりから、主人公の心情も大きくクローズアップされ、さらに読ませる話になっていて、是非ともシリーズ通して読んでほしいところです。

 このような作風は、のちの商業作品である「1月のプリュヴィオーズ」とこの「回転る賢者のシュライブヴァーレ」にもそのまま受け継がれていて、その一貫した創作姿勢は見るべきものがあると思います。これら商業作品の原点とも言える作品にも目を通してはどうでしょうか。

 食人女子高生探偵おるれあんず


・「文具の精霊」という身近で親しみやすい設定ながら、同時にひどく厳しくシビアな設定が特徴的。
 さて、この「回転る賢者のシュライブヴァーレ」ですが、主人公が「シュライブヴァーレ」という文具に宿る精霊と契約し、ふたりで敵対する契約者と精霊と戦う、バトルファンタジーとも言える内容となっています。「文具」という身近にある親しみやすいアイテムを取り入れながら、しかし彼女らの運命はひどくシビアです。

 夢や理想を持つ人間が手にした文具には魂が宿り、それは「賢者のシュライブヴァーレ」と呼ばれる。その所有者の中でも、一部の才能ある人間は「ギフテッド(天才)」と呼ばれ、その天才が手にした文具の魂は、実体化して所有者と契約を交わし、所有者に成功をもたらす。主人公の一之瀬七梨(ななり)も、そんなギフテッドのひとりとなります。これだけなら輝かしい未来が待っているように見えます。

 しかし、そんなギフテッドたちには、いくつもの過酷な運命が待っていました。まず、成功を収める天才は常に孤独。さらに、死んだ後も遺体も何も残らず、この世に存在した証全てが消えてしまう「残酷な死」を迎える。契約してギフテッドとなるためには、まずその運命を受け入れなければなりません。
 さらには、そんな過酷な運命を受け入れギフテッドとなったとしても、待っているのは同じギフテッド同士の熾烈な戦い。戦って勝った者は、負けた相手の文具を奪い、負けた相手の才能や幸運をすべて吸収しさらなる成功を約束される。しかし敗れた者は、才能も幸運もすべて失い悲惨な運命を辿ることになってしまう・・・。

 こうした「契約者(能力者)同士の過激なバトル」というのは、この手のバトルファンタジーでは定番とも言えますが、しかしこのマンガの場合、そうしたシビアな設定・主人公たちを待ち受ける運命をしっかりと見据えて描くことで、より骨太な物語となっているように思えます。


・キャラクターの力強い意志が最大の見所。
 さらに、そのようなシビアな設定の下で、しかしキャラクターたちが垣間見せる意志の強さこそが、このマンガ最大の見所になっていると思います。

 まず、冒頭第1話で、主人公の七梨が見せる、「困っている人、助けを求めている人の力になれる強い人間になりたい」という決意表明が印象的です。七梨は、これまでは「ペン回しくらいしか取り柄がない凡人」と自分を低く評価し、そんな夢を持っていてもかなうことはなく、これからも平凡に生きていこうと考えていました。それは、カトレアと出会っても変わらず、当初は契約を結ぶことを拒むくらいでした。
 しかし、クラスメイトが愚者のシュライブヴァーレに取り込まれようとする姿を見て、さらにはカトレアが必死に闘おうとする姿を見て、ついに自分の夢──人を助けられる強い人間になりたい──という願いを打ち明け、カトレアと契約を結ぶことになります。

 さらに、第3話でも、七梨と闘うことになる契約者・宇佐美舞衣の歪んだ意志とのぶつかりあいが見所でしょう。宇佐美は、幼いころから演じることが好きで、純粋に女優を目指していました。しかし、まだ芸能界に入って出会った契約者に、仲良くなったと思っていた友人に裏切られて襲われたことで絶望し、自分も周囲を蹴落として成功を目指ようになっていました。その悲痛な過去を知った七梨は、それでも「夢に優劣はない」と強く主張し、あくまで友人として宇佐美を救おうとします。最後に、戦いに敗れた宇佐美に対して「友人として間違いに気づいてほしかった」と諭す場面も、強い意志とそれを包む七梨の優しさが強く感じられる名シーンになっていると思いました。


・しっかりと描かれた緻密かつ迫力の作画にも惹かれる。
 さらには、そのような印象的なストーリーを描き切る、星屑七号さんの高い画力も評価できるポイントだと思います。わたしの場合、内容よりもまずこの絵に惹かれました。

 とにかく、これが商業初連載の新人作家ながら、どこまでも安定した作画になっています。はっきりした描線としっかりした造形で描かれたキャラクターは、非常に見栄えがしますし、何よりもメインキャラクターとなる女の子たちがみんなかわいい!(笑)。これは非常に大きな長所だと思います。

 さらには、要所でふんだんに使われた効果線によって、バトルシーンが非常に見応えのあるものとなっています。迫力とスピード感が全面に出た美しいバトル。これがこのマンガ最大の見所でしょう。さらには、バトルシーンのみならず、画面いっぱいに濃い描き込みが見られ、全体を通して見栄えのする画面となっていると思います。およそ作画に関してはまったく問題なく、非常にいい仕事をしていると思います。

 このような作画は、同人誌の頃からまったく変わっていませんが、それを厳しい仕事が要求される商業誌でもそのまま見られたのが大きいと思います。しかも、連載を複数抱えた上での安定した作画には頭が下がります。


・作者の思い入れが伝わる力作。他誌の連載も合わせて注目したい。
 以上のようにこの作品、主人公たちの強い意志が感じられる力強いストーリーと、緻密さと大胆さを兼ね備えた作画で、極めて印象的な作品になっていると思います。ストーリーや設定自体は、比較的オーソドックスで王道ともいえるものだとは思いますが、しかしまっすぐに正義を訴えるテーマは読んでいて実に気持ちいい。作中の設定はえらくシビアな点も垣間見られますが、主人公たちがその厳しさを正面から打破していく、爽快感をも存分に感じられる作品になっていると思います。

 思うに、このマンガ、作中のキャラクターたちの多くは少女(女の子)ですが、その内容は、実に骨太な少年マンガとも言える作品となっているのではないでしょうか。星屑さんの描く女の子のかわいさも、もちろんこの作品最大の魅力ですが、それと同時に熱い展開が楽しめるのもまた最大の魅力でしょう。

 そして、この「シュライブヴァーレ」に加えて、作者のスーパーダッシュ&ゴー!での連載「1月のプリュヴィオーズ」も合わせて読んでみたいところです。こちらの作品も、その作風はまったく変わっておらず、やはり力強いストーリーと作画を堪能することが出来るでしょう。
 しかも、同人時代からこのような作風を通してきて、そして商業デビューからふたつの作品を同時に連載し、そのどちらも安定した高い完成度を見せている。その実力には確かなものがあると思います。これは本当に楽しみな新人作家が出てきました。


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