<やはり俺の青春ラブコメは間違っている。−妄言録−>

2013・3・31

 「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。−妄言録(モノローグ)−」は、ビッグガンガンで2012年Vol.10から開始された連載で、ガガガ文庫(小学館)のライトノベルのコミック化作品となっています。厳密には、原作小説ではなく、その「TVアニメ版のストーリーのコミカライズ」のようですが、原作と大きく変わってはおらず、原作のコミック化としても読めると思います。2013年春のTVアニメ開始に先駆けてのコミック化となっており、最近のスクエニ雑誌では珍しくない先行コミカライズのひとつと言えます。

 作者は、原作が渡航(わたり わたる)、作画が佳月玲茅(かづき れち)。作画の佳月玲茅は(以下”れち”さんと表記)、以前ガンガンパワードであの「キミキス」のコミカライズのひとつ「キミキス 〜after days〜」を、そしてガンガンONLINEでは、ひぐらしシリーズの一編「ひぐらしのなく頃に 昼壊し編」を連載していましたが、いずれも少し前(2009年以前)の作品となっていて、この「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」のコミカライズで久々の連載復帰となりました。以前に比べると作画の質が上がっているようで、丁寧な作画で原作キャラクターの持ち味を遺憾なく再現していると思います。

 原作の小説は、ここ最近のライトノベルの中でも特に評価の高い一作であり、TVアニメも放送前から期待されている作品でもあります。そしてビッグガンガンのこのコミカライズも、また非常によく出来ており、自信を持ってお勧めできると思います。れちさんの作画が非常にいいことに加えて、アニメ版の先行コミカライズということで、アニメの予習と言う意味でも最適だと思います。


・相次ぐライトノベルからのアニメ化。その中でも特に期待の一作。
 このところ、以前に増してライトノベルからのアニメ化が増えているようです。以前はアニメの原作と言えばその主流はやはりコミック、マンガだったわけですが、最近ではマンガからのアニメがやや少なめとなり、むしろライトノベルからのアニメの方が数が多いことすらあるようです。

 この2013年冬のアニメを見渡しても、「俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる」「ささみさん@がんばらない」「GJ部」「僕は友達が少ないNEXT(2期)」「さくら荘のペットな彼女」などがあり、いずれも好評を博しました。また2013年春から放映予定のアニメを見ても、今ここで取り上げている「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」に加えて、「変態王子と笑わない猫。」「デート・ア・ライブ」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない。(2期)」「這いよれ!ニャル子さんW(2期)」などが予定されており、やはりかなりの本数があります。いわゆる2期のアニメ(再アニメ化)も多いですが、これは以前のアニメが人気だった上での放映決定ですので、それが相次いでいるということは、やはりライトノベルのアニメ化は好評を博しているということではないでしょうか。

 なぜライトノベル原作のアニメがここまで多くなったのか。理由を考えるに、まず原作のライトノベルが好調で良作が多く見られるようになったことはもちろん、ライトノベルからのメディアミックス展開がいろいろ都合がいいこともあるのではないでしょうか。数ヶ月に1冊のペースで出るライトノベルは、マンガ連載に比べて話のストックがたまりやすいという利点がありますし、またライトノベルからまずコミック化してそれからアニメ化という展開も可能です(マンガ原作からの小説化というのもなきにしもあらずですが、こちらはあまり多くない)。いずれにせよ、今はアニメの原作元としてもっとも手ごろな媒体がライトノベルと言えそうです。

 そんな中で、この「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」の原作、これは近年人気のノベルの中でも、特に評価の高まっている一作となっているようです。最初から面白いと評判だったようですが、先日出た6巻の反響がとりわけ大きく、ここで大きく盛り上がってきました。アニメ化を控えるライトノベルの中でも、特に期待される作品になっていると思います。


・単なるラブコメではない!主人公やヒロインのキャラクター性が最高に面白い。
 さて、「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」ですが、高校を舞台にしたいわゆる部活もののラブコメディとなっています。主人公の高校生・比企谷八幡が、なぜか教師に強要される形で、「奉仕部」なる謎の部活に入部させられ、そこでヒロインの雪ノ下雪乃に出会い、いろいろと反発しながらも共に活動するようになるというもの。このようなスタイルは、あの「僕は友達が少ない」を代表とするいわゆる「残念系ラブコメ」に近いものがあり、実際に原作小説はこうした作品を目指して書かれたという経緯もあるようです。

 しかし、それらの先行作品と比較しても、この「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」は、中々に特徴的な作品だと思います。ラブコメかと言われるとそれとはちょっと印象の異なる作品ともなっているかもしれません。その大きな理由は、やはり主人公やヒロインのあまりに印象的な性格、キャラクター性でしょう。

 まず、主人公の比企谷八幡(ひきがや はちまん)。彼は、以前からずっと友達ができず、いわゆる「ぼっち」として長く学校生活を送っており、今ではもはや友達を作ろうともせず、そのまま「ぼっち」を極めようとする有様で、とてもひねくれた卑屈な性格となってしまいました。その言動は本当に卑屈そのもので、顔の表情も「目が腐っている」などと周囲から言われていて、コミック版では本当にそんな腐った目のようにも描かれているようです(笑)。さらには以前はかなり重度の中二病でもあったようで、いまでも高二病などと言われています。
 と、まあなんとも散々な性格の主人公ですが、しかし決して悪い人物というわけではないようで、むしろ彼の言動は、学校で同じ「ぼっち」のカースト(階層)に属していた者にとっては、非常に共感できるところもあるのではないでしょうか。わたしなどは、八幡の過去のぼっちだった苦いエピソードを振り返るシーンのたびに、これ以上ないほど共感してしまいます(笑)。

 一方で、彼が奉仕部で出会うことになる雪ノ下雪乃。彼女は、八幡とは大いに異なり、秀才が集まったクラスの中でもトップの成績を維持し、運動神経もよく容姿も優れた、学内でもきっての有名人となっています。超優等生とも言える彼女ですが、しかし彼女はその高みにいることが災いしたのか、やはり友達がいないようです。
 そして、一見して完璧超人にも見える彼女ですが、負けず嫌いでしかも非常に正直な性格で、決して建前やごまかしを言わないあたりが、非常に特徴的なキャラクターとなっています。誰に対しても正直に意見を述べるそのスタイルを貫き通し、奉仕部の活動(生徒からの依頼)にひときわ真面目に取り組む姿は、八幡とはまた異なる存在として非常に魅力的に映りました。


・奉仕部の活動を通して「生き方を変える」テーマを描いているところが最大の見所ではないか。
 そして、その奉仕部の活動を通じて、キャラクターたちが「生き方を変える」姿を描いていることが、この「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」最大のテーマであり見所ではないかと思います。

 この「奉仕部」、一応の目的は、生徒の問題を解決する手助けをする部となっており、それを聞きつけた生徒たちの悩みを解決することが、八幡と雪乃に命じられた活動です。そして、このふたりが文句を言いつつも生徒を助けることで、その助けられた生徒の生き方が変わり、あるいは助けた側の八幡や雪乃も、その影響を受けて自分の行動が変わる。その姿にまた共感を覚えるのです。

 最初に奉仕部を訪れたのは、八幡と雪乃の同級生の由比ヶ浜結衣(ゆいがはまゆい)という女の子。彼女は、クラス内では上位カーストに位置するとされる生徒で、本来ならふたりとは正反対のはずの存在ですが、しかし実際には付き合っている「友達」たちに合わせて過ごしているところがあり、必ずしも満足な学校生活を送ってはいませんでした。しかし、頼みごとで訪れた奉仕部で、他人に迎合しない態度を取る雪乃の生き方に感銘を受け、やがては今まで迎合するだけで逆らうことのなかった友達たちに対して、あえて自分の意見を通すようになり、それまでとは生き方が変わるのです。

 対して、奉仕部の活動に触れても、生き方が変わらなかった(=今までの行き方を再確認した)のが、八幡の相棒(体育で友達がいない同士でペアを組む仲)の材木座義輝(ざいもくざよしてる)。彼はいまだに中二病全開の高校生で、しかもライトノベル作家を本気で目指すも、その小説は今のところどうしようもないレベルのものでした。しかし、彼は、その小説を読んで感想を言ってくれと奉仕部のメンバーに頼み込み、まったく建前も何もない本気の批評に触れることで、「それでも人に自分の小説を読んでもらえて感想をもらえるのはいいものだ」「読んでもらえるとやっぱりうれしい」と言って笑うのです。彼は、中二病だけでなくもう立派な「作家病」にかかっていて、「書きたいことがあるから書きたい」「それが人の心を動かせたらなお嬉しい」という思いを貫いていくのでした。「また新作が出来たら持ってくる」といって立ち去る彼の後姿は、ひどく晴れ晴れとしたものがあり、このシーンには大いに感動してしまいました。

 そして、これまでいやいやながら彼と体育でペアを組んでいた八幡も、この出来事をきっかけに、彼とそうして過ごす時間が少なくとも”嫌な時間”ではなくなった。こうして、依頼を受けた方の八幡も、ほんの少し生き方が変わっていくのです。


・れちさんの作画がとてもいい感じ。
 そうした奉仕部を舞台にした原作譲りのストーリーが面白いのに加えて、れちさんの作画が卒なく優れているのも、このコミック版ならではの魅力です。

 とにかくキャラクターの姿がとてもよく描けている。整った作画で、それぞれのキャラクターの内面まで伝わってくるような絵になっていると思います。
 ヒロインの雪乃などは、非常に繊細な筆致で、座っている時の静謐で美しい姿などが実によく描けていて、その繊細な内面まで伝わってくるようで、これは原作のぽんかんGさんのイラストにも匹敵するものがあると思います。対して、主人公の八幡を初めとする男性陣もいい。八幡は、その卑屈でうざすぎる姿がこれ以上ないほどよく描けていますし、腐ったような目つきまでもう完璧です(笑)。材木座の鬱陶しい姿もまたパーフェクトで、彼らがえらく愛されていることがよく伝わります。こうしたキャラクターの内面まできっちり描けるのも、また評価に値するのではないでしょうか。

 れちさんは、古くは2007年のフレッシュガンガンに掲載された「ドクサイ某国プリンセス!」という読み切りから、女の子がかわいく描けていて好感を持っていたのですが、ただそのころはまだ描線が安定していないところがあったように思います。その後のアンソロジーでの読み切りや、キミキスやひぐらしなどの連載作品でもその傾向はまだ残っていましたが、しかし2011年のでヤングガンガンで「ヒメごと」という4コマの読み切りで久々に再登場した際には、前よりずっと整った絵柄になっていて、これにはちょっと驚いた記憶があります。そして、その約1年後に始まったこの「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。−妄言録−」においても、その綺麗な作画は健在でした。デビュー作から追いかけてきて、ここに来てその成長ぶりが顕著に見られるようになったことを、大変うれしく思いますね。


・これは本当にいいコミカライズ。アニメともども今後の展開に期待!
 以上のように、この「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。−妄言録−」、優れた原作のテーマをきっちりと表現しつつ、作画のレベルもおしなべて高く、キャラクターの魅力を本当によく再現しているなど、非常に優秀な作品となっています。良作の多いスクエニのコミカライズ作品の中でも、実に卒なく原作を再現した優秀作品だと思います。

 個人的には、久々にれちさんの連載が拝めたこと、それも以前よりずっと作画の質の高いコミカライズで連載に復帰したことが、本当に嬉しかった。デビュー作となった「ドクサイ某国プリンセス!」の時から注目し、キミキスやひぐらしのコミカライズも楽しんで読んでいたのですが、その後かなり長い間ブランクがあり、「もう連載はないのかな」と心配に思っていました。そんな折に、本当に久々に連載を獲得し、しかもずっと整った作画で原作キャラクターの内面をこれ以上ないほどよく再現していた。作者の成長がダイレクトに感じられたことが、何よりも嬉しい点でした。

 そして、近年アニメ化が相次ぎ特に人気の出ているライトノベルの中でも、特に評価の高まっている一作のコミカライズである点も、このマンガの大きなアドバンテージですね。他社の雑誌でもコミカライズが始まっているようですが、何よりも他に先駆けて連載を開始しているこの作品の存在感は、ひときわ目立ちます。以前のれちさんの手がけたコミカライズは、後発のコミカライズだったこともあって、やや注目が遅れてしまったところもあったと感じましたが、このマンガはそんなことはない。これからはアニメも始まり、原作の評価もここに来て一気に高まるなど、作品を取り巻く環境も良好で、これからさらなる盛り上がりも期待できます。アニメ放映直前にはビッグガンガンの表紙を飾るなど、今後の展開にさらに期待していいのではないでしょうか。


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