<射〜sya〜>

2012・3・16

 「射〜sya〜」は、2010年の増刊ヤングガンガンVol.10から開始された連載で、次号のVol.11にも掲載された後、その後誌名が変更された「増刊ヤングガンガンビッグ」でVol.03まで掲載されました。さらに、新創刊された「ビッグガンガン」へと移籍してそのまま連載継続、同誌でコミックスも真っ先に発売された作品のひとつとなりました。増刊からビッグガンガンへと移籍した連載は他にもいくつかありますが、これはその中でも増刊時代の掲載履歴が非常に長い作品となっていて(増刊時代だけで計5回)、コミックス1巻もこの増刊に掲載されたものだけでまとめられています。

 作者は大塚志郎。元々は小学館のサンデーや増刊サンデーで活動していた作家で、2007年から2008年にかけて週刊少年サンデーで連載された「マリンハンター」、そしてその後週刊少年サンデー超で現在まで連載中の「阿鬼羅」が、これまでの代表作となっているようです。スクエニでの活動は、この「射〜sya〜」の連載が初めてで、こちらで新境地を開拓した形となりました。

 作品の内容ですが、タイトルからも推測されるとおり、高校の女子弓道部を舞台にした弓道マンガであり、これまでヤングガンガンでいくつか見られたスポーツ・部活もののひとつと言えそうです。ギャグ・コメディ色がかなり強く、とりわけお色気(特に胸)をネタにしたギャグが多いのが特徴的で、とにかく賑やかな作品となっています。

 その一方で、かなり真面目に弓道に取り組む描写もうかがえ、毎回弓道の基本的な知識や心構えをしっかりと読者に伝えようとする姿勢には、大いに好感が持てます。ぱっと見た外見では、美少女たちが中心の萌えコメディにも見えますし、それも決して間違ってはいないと思いますが、それ以上に弓道の本質をしっかり描こうとするスタンスにも、大いに見るべきところがあると思います。新創刊されたビッグガンガンの連載の中でも、最も期待できる作品なのではないかと思っています。


・先行する弓道マンガと比較して、いかにもヤングガンガン(ビッグガンガン)らしい連載と言えるのでは。
 スポーツマンガは、マンガの中でも最もメジャーなジャンルで、野球やサッカーなどを題材にしたものは、それこそ数え切れないほどあります。そんな中で、この「弓道」をテーマにしたマンガは、それほど数は多くないようですが、それでも先行する作品はいくつかあるようです。

 最も知られているのは、ヤングジャンプで連載され、現在ではウェブ雑誌に移行している「カイチュー!」(林佑樹)でしょうか。高校の男女弓道部員たちの活動を描いたラブコメギャグ作品となっています。なお、タイトルの「カイチュー!」は、弓道用語の「皆中」(放った矢が全て命中すること)が元ネタ。かわいらしい絵柄と楽しいコメディが中心の明るい作品となっているようです。

 芳文社の4コママンガで比較的知られているのが、「落下流水」(真田一輝)でしょうか。こちらは女子弓道部員たちが主役となっていて、作者の趣味である百合描写やお色気描写がふんだんに入っているのが大きな特徴。さらに、こちらは比較的短期の連載でしたが、「的中!青春100%」(秋★枝)という作品も。こちらは、この作者最大の持ち味である恋愛要素がほどよく盛り込まれています。どの作品も、全体的に女子部員の方がクローズアップされているのは、やはりそれだけハカマスキーが多いということでしょうか(笑)。

 そして、これら先行する弓道マンガと比較して、この「射〜sya〜」を見てみると、同じく女子弓道部員の美少女たちが中心である作風は共通したところもありますが、より掲載誌であるヤングガンガン(ビッグガンガン)らしいものになっていると思います。美少女+スポーツ(部活)ものと言う点で、「BAMBOO BLADE」や「咲 -saki-」と近いコンセプトを感じますし、お色気要素のふんだんに入ったコメディ・ギャグ色の強い作風も、いかにもヤングガンガン(ビッグガンガン)の連載だと思いました。


・お色気ギャグネタ全開の楽しいコメディ。
 この物語の主人公は、矢澤正弓(やざわまゆみ)という高校一年の女子。彼女が、とあるきっかけで学校の弓道部部長・間堂美射(げんどうみしゃ)に出会い、弓道部への入部を勧められたことで、物語は始まります。

 美射が、弓道未経験者の正弓に強く入部を勧めたのには、大きな理由がありました。それは、女子弓道において大きな才能となる、貧乳。「乳は弓を引くのに邪魔以外の何者でもない。その貧しい胸は弓を引くのに理想的」といって、強力に入部を促します。その言葉にショックを受けてたじろぐ正弓に対して、今度は副部長の高橋学(マナ)がさらに説得。「弓道をやれば胸が大きくなる」と言い放ち(*うそです)、それに惹かれた正弓は、ついに入部を決意することになるのです。

 そんな風に正弓が入部した弓道部ですから、とにかく何かにつけて胸に関するネタが多い(笑)。弓道をやれば胸が大きくなると本気で信じ込んだ正弓は、他の弓道部員たちを必死に観察し、確かにみんな胸があることを確信して、自分も胸を大きくすべくひたすら弓道に打ち込むことになります。この主人公のちょっとずれた行動がとにかく面白い。また、ことあるごとに胸をもんだりもまれたり、半裸になったりと、そんなお色気シーンが毎回のように見られます。

 さらに、連載が進むごとにそんなお色気ネタがさらに加速し、部長の美射が脱衣競射をやることになったり、文化祭でメイド喫茶をやることになったり、さらには野球部との間で負けたら部長が胸を揉まれるとかそんな対決を繰り広げたり、とそんなエピソードが次々と登場します。

 個人的には、あまりにお色気やエッチ、エロネタが前面に出た作品には引いてしまうことも多いのですが、この「射〜sya〜」に関しては、あまり抵抗を感じることなく、素直に楽しめています。お色気ネタが、純粋に楽しいギャグに昇華されていて、明るく楽しめるのがその大きな理由でしょう。ギャグやコメディ主体の弓道ものマンガは、上記のようにいくつも先例がありますが、このマンガもそれに匹敵するくらい面白いと思います。


・弓道に対する真面目な描写も面白い。
 しかし、このマンガ、そんな風にお色気+ギャグコメディの要素ばかりでもありません。純粋に弓道に対する取り組み、基本的な知識や心構えをしっかりと描いている点に、大変好感が持てます。

 これは、第1話で正弓が弓道部に入部した時から、かなり詳しく弓道の基本「射法八節」が説明されています。部長の美射による模範演技の段階で「足踏み」「堂造り」「弓構え」「打ち起し」「引分け」そして矢を放つ直前の構え「会」、矢を放つ「離れ」、矢を放った後の「残心」と、その流れのすべてがきれいに描かれ、さらにそれを正弓が試しにやってみることに。この時、弓を引くときの「押し手」という技術をまず学び(腕を捻り込んで弓を引ききる技術)、そして引ききった後で矢を放つ「離れ」の意外なほどの恐怖、それを克服してついに矢を放った後の開放感・・・それらがすべて初心者の目からうまく描かれています。弓道についての知識がなかったわたしは、この第1話を読んでまず感心してしまいました。

 その後も、毎回のようにきちんと弓道に対する真面目な描写がかならず織り込まれ、思った以上に弓道を真剣に扱っていく姿勢が感じられます。中でも個人的によかったのは、正弓が弓道の道具を揃えるために弓具店を訪れる第3話かな。この話で、正弓は、誤って店の竹弓を割ってしまうのですが、その弁償のために自分で働いて返すという姿勢に店長のおじさんが感心し、店で2週間ほどバイトさせることになります。そこでの正弓は、胸に対するこだわりを「大きく」とか言ったりして、とかとんちんかんな言動を取ったりもするのですが、そこを店長がうまくフォローし「弓道の『射』は大きく美しく」と、これは弓道教本にも書いてある基本なのだと周囲に教えていきます。このシーンはほんといいなと思いました。そして最後には、「弓道やる若い子が増えるのはうれしい」と言って、弓具の代金までサービスしてくれる心意気まで見せてくれました。これは本当に気持ちのいいエピソードでしたね。

 さらには、野球部と弓道部が対決する話も見ごたえがありました。弓道部が放つ矢を野球部が打つ、という対決なのですが、途中までは矢をなんとか打ち返そうとしていた野球部員たちが、美射が登場して時速200キロを超えるそのすさまじい射で圧倒してから、彼らの心境が変わっていきます。「あの弓は人を射殺すことの出来る武器だ。野球の球はもし当たったとしてもまず死ぬことはない。しかし、矢はもし当たったら本当に致命傷だ・・・。」
 そして、最後に番がやってきた正弓が矢を打つ前に、その射の恐怖におびえ、戦うことなく降参してしまうのです。これは、弓道という武道の持つ怖さ、凄みをまざまざと読者に見せ付ける名エピソードではないかと思います。


・これはいい弓道マンガ。ビッグガンガンでも最大の期待作のひとつ。
 以上のように、この「射〜sya〜」、主人公の胸に対するこだわり(笑)を中心としたお色気ギャグコメディとしてまず面白く、かつ肝心の弓道についても思った以上にしっかりと描かれていて、非常にいい弓道マンガになっていると思います。コメディとして楽しめる箇所と、真面目に弓道を扱う箇所が、バランスよく織り交ぜられているところが本当に面白い。先行する弓道マンガと比較してもまったく遜色なく、とりわけ弓道に対する真面目な描写に関しては、一歩上回っているところもあると思います。楽しくもためになる弓道マンガですね。

 コミックスの前書きによると、作者は高校時代に弓道部だったようで、「弓道の漫画が描きたくて漫画家を志したくらい思い入れがある」とのことで、それがこのマンガでの真剣な弓道への取り組み、ひいてはマンガ自体の完成度にもつながっていると思いました。大塚さんは、これがスクエニでの初作品となるのですが、新天地で本当に自分の描きたいマンガが描けているのではないでしょうか。

 そして、今では、新創刊したばかりのビッグガンガンでも最大の期待作になっていると感じます。増刊ヤングガンガン時代から面白いなと思っていましたが、晴れてビッグガンガンへと移籍して連載が継続され、これからは毎月連載となったのは本当にうれしい。コミックスも真っ先に発売され、同じく増刊時代からの連載でコミックスも同時に発売された「シスプラス」や「ハイスコアガール」「シスター・ハニー・ビスケット」、あるいは新創刊から始まった「群青」あたりと並んで、今のビッグガンガンのオリジナル作品の中で、最も扱いの大きい作品のひとつになっているようです。コミックスの2巻も一カ月後に立て続けに発売されるなど、勢いのよさも目立ちます。これは本当に期待していいでしょう。出来れば先行する「BAMBOO BLADE」や「咲 -saki-」のように、アニメ化まで行ってもいいんじゃないかとまで、気の早い話ですが思っています。


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