<アキラとひより>

2011・11・11

 「アキラとひより」は、ヤングガンガン2009年No.10から開始された連載で、当初は3回で終了する短期連載として、No.12には予定通り終了しました。しかし、好評を得たのかその後も何度も短期連載を重ねるようになり、まずは同年のN0.23から翌2010年のNo.2まで再び3回のシリーズ連載、さらに同年のNo.13からNo.15にかけてもう一度3回のシリーズ連載が行われ、さらに次には増刊ヤングガンガンビッグに掲載場所を移し、2010年Vol.11から2011年Vol.3にかけて最後の掲載が行われ、ここでようやく完結しました。これらすべてのシリーズ連載をまとめる形で、2011年10月にコミックス1・2巻が同時に発売されました。

 作者は、桐原いづみ。既に他社で「ひとひら」や「白雪ぱにみくす!」などの連載を行っており、特に「ひとひら」は、アニメ化もされて人気を博する評価の高い一作となっています。この「アキラとひより」は、そんな桐原さんのスクエニでの初連載として、これまでどおりの作風でやはり優れた良作となりました。

 タイトルの「アキラとひより」は、この物語の主人公と言える二人の女の子の名前。容姿端麗にしてスポーツ万能で、高校でも一目置かれた存在である吾妻晶(あづまあきら)に対して、明るい放送部員の本橋ひよりが、取材を通じて積極的にアプローチをかけ、それが実を結んで仲のよい友人となり、ふたりがともに成長していくという優れた学園もの、あるいは青春ものとも言える作品となっています。3回の短期連載ごとにひとつのエピソードを完結させる形で、単発でも楽しむことは出来ますが、やはりコミックスでぜんぶまとめて読んだ方がさらに楽しめるでしょう。

 しかし、そのような途切れ途切れの掲載だったゆえに、連載中はあまり大きな話題にはならなかったように思われました。桐原さんのファンでもない限り、このマンガを雑誌で毎回追いかけていた人は、そう多くなかったのではないかと。作者のほかの連載との兼ね合いもあったのかもしれませんが、出来れば普通の連載形式で続けて読みたかったなと思ってしまいました。それならば、また違った反響が得られたかもしれません。


・桐原いづみの連載履歴。
 桐原さんは、上に挙げた「ひとひら」「白雪ぱにみくす!」を始めとして、かなり昔から商業誌でいくつもの連載を行っています。
 最も初期の連載と言えるのは、2006年にマッグガーデンの「コミックブレイドMASAMUNE」で短期連載された「ショコラ」という美少女ゲームのコミカライズでした。原作の方も評判はいいらしいですが、コミック版も丁寧にうまく描けていて、わたしもこれで桐原さんの名前を知った記憶があります。初期の頃の佳作と言えるでしょう。

 その後、今度は双葉社の「コミックハイ!」に活動場所を移し、代表作となる「ひとひら」の連載を開始。高校の演劇部の活動を描いたこの作品は、主人公の「麦」を始めとする演劇部員の成長を丹念に描いた力作となり、読者の間で非常に高い評価を獲得しました。桐原さんの代表作と言えます。アニメの評判もよく、原作コミック終了後もさらにスピンオフ作品「ひとひらアンコール」が連載され、さらに今ではもうひとつのスピンオフ作品「榊美麗のためなら僕は…ッ!!」が連載されています。

 さらに、じきにコミックブレイドの方でも、「白雪ぱにみくす!」というもうひとつの連載を開始。魔界からやってきたお姫様と高校生姉妹、同級生たちの学園生活を描いたこちらの物語も面白く、「ひとひら」同様に長期連載となり、2011年初頭まで連載されています。このふたつの連載を並行して行っていたために、「アキラとひより」の連載は途切れ途切れにならざるを得なかったのかもしれません。

 また、これらと同時期に始まった連載として、双葉社のウェブ雑誌「COMICSEED!」で掲載された「ココノカの魔女」という連載もありました。顔が同じ主人公と魔女の女の子ふたりの活躍を描いた物語で、これも短いながらも良作でした。いくつも連載をこなしながら、いずれも質の高い作品を出し続けていますね。

 さらに、2011年10月から、新たに創刊されたスクエニのビッグガンガン誌上で、「群青」と呼ばれる、高校の女子駅伝部を描いた新作の連載を開始。こちらの方は雑誌の看板的な扱いとなっており、編集部によって大いに期待されていることが窺えます。


・アキラとひより、ふたりの交流と成長を描くストレートな学園もの。
 このマンガの主人公のひとり、吾妻晶(アキラ)は、容姿端麗で抜群のスタイルを持ち、さらにはスポーツ万能で幾多の部活の勧誘を受けながら、どこにも入ろうとせず普段は寡黙に一人で過ごしています。周囲からは憧れの存在でもありながら、近寄り難い雰囲気も漂っていて、一目置かれている存在でした。
 そんな彼女に、放送部1年の本橋ひよりという女の子が、部活動で取材を申し込みます。当初は避けようとするアキラに対して落ち込むひよりでしたが、放送部員の励ましと、持ち前の前向きな性格で気を取り直して再度アタック、ついに取材に成功するのです。アキラは、周囲から見られているほど孤高の存在ではなく、ただとても引っ込み思案で人を避けてきただけで、実際には人並みにかわいらしい女の子でした。そんな彼女の本当の姿を知ったひよりは、以後親しい仲になってともに行動することになるのです。

 この物語は、そんなふたりのういういしい交流の姿と、さらには双方の成長を丹念に描いているところがポイントです。アキラは、優れた容姿と抜群の運動神経を持ちながら、あまりにも引っ込み思案で人との交流を半ば避けて過ごしてきました。そんな彼女が、ひよりと出会い、その明るく積極的なひよりと共に行動することで、少しずつではあるが自らの意志で行動を起こすようになり、時にみんなを助けようと奮闘する。その姿がとてもほほえましく、思わず応援したくなります。

 一方で、ひよりですが、こちらは元から明るく積極的な性格だけあって、自発的に成長する素地に満ちています。そんな彼女ですが、放送部の活動ではまだまだ入ったばかりで技術的には未熟な存在。しかし、アキラへの取材やビデオテープの制作を懸命に頑張っていくことで、放送部員として成長していく。そんなひよりの一身に励む姿もまた応援したくなります。

 こんな物語ですが、一方で明るいコメディシーンも多く、そこまで切羽詰ったストーリーでもありません。「ひとひら」や「白雪ぱにみくす!」では、中盤以降かなり重い展開も見られましたが、こちらはそれに比べると幾分ライトタッチで、全体的な雰囲気はとても明るく、のびやかな学園生活を楽しめる作品になっています。


・ふたりの周囲を取り巻くキャラクターたちも気持ちいい。
 そして、そんなふたりを取り巻く高校の先輩や同級生たちが、ふたりの交流と成長を暖かく見守っているという構図もいい。周囲のよき人たちの手助けこそが、ふたりを前へと進ませていると言っても過言ではありません。

 ひよりにとって最大の助けとなっているのは、やはり放送部員の先輩たちでしょう。おおらかな性格の高坂部長、ふざけながらもやるときはやる創(はじめ)と修也(しゅうや)の二人組、そんな放送部をゆるくまとめる顧問のみかんちゃん(先生)もいい感じです。こんな人たちがいたら、学校の部活動も本当に楽しいことでしょう。
 ひよりには、同級生ののんちゃんとあいちゃんと呼ばれる友達もいます。このふたりも直接的にひよりを手助けして一緒に行動することが多い。3人とも明るく賑やかな性格で、集まってわいわいと行動している姿は、見ていて楽しいですね。

 一方で、アキラにとって最大の理解者は、幼なじみの佐藤浩一という男の子。飄々としつつも物腰が柔らかく、思慮に長けていて、ちょっと大人びたところもあるかもしれません。幼い頃からのアキラとの付き合いで、その内面をよく知っている彼の存在は、アキラにとって最も心強いものとなっています。
 その浩一は生徒会に所属しているのですが、そこの会長の矢島と副会長の陸海(りくかい)も面白いキャラクターです。お調子者の矢島と、それを冷静にフォローして実務を取り仕切る陸海のふたりのコンビが見ていて面白い。全体を通して楽しいキャラクターたちが主人公ふたりの周囲を取り巻いていて、いわゆるライバル役とか敵役とかいう存在がいない、優しい物語になっています。短編の連続であまり長い連載ではなかったのですが、もし長く続いていれば、こうしたキャラクターたちひとりひとりを掘り下げる話があってもよかったと思っています。


・やはり途切れ途切れの連載だったことは悔やまれる。作者の次回作に期待。
 以上のようにこの「アキラとひより」、この作者らしい学園ものの良作となっていて、とりわけ主人公たちの成長を丹念に描くスタイルは、名作である「ひとひら」やあるいは「白雪ぱにみくす!」などの過去の連載と共通するものがあります。やはり桐原さんはこうした物語を描くのがうまいですね。さらに、今回の作品では、3回で終わる短いエピソードの連続で構成されているためか、どれもあまりに重すぎるエピソードにはなっておらず、明るく解決につながる終わり方になっている点も好感が持てます。「ひとひら」や「白雪ぱにみくす!」のように、中盤で非常に重いエピソードに突入するのも読み応えがあってよかったのですが、こんな風に短めの話で明るく終わる話が続くのもいいですね。明るく楽しく読める学園もの、青春ものになっていると思います。

 ただ、やはり、連載期間中は、3回の短期連載がたまに載るという形式だったために、この作者にしてはあまり注目されていないように思えたのが残念でした。あの「ひとひら」の作者の新作とはいえ、3回で終わって次に掲載されるのが未定という状態が続くのでは、よほどのファンでもない限り、わざわざ雑誌で追いかけて読んだ人は少なかったのではないでしょうか。また、雑誌を毎号買って読んでいた読者でも、ここまで間が空いてしまうと、前の話を半ば忘れてしまっていた人が大半でしょう。一応、毎回単発でも読めるエピソードにはなっていますが、連続した作品としての盛り上がりには欠けた感は否めません。作者の他の連載の都合があったのか、あるいは人気を得られるかどうか様子見での掲載が続いた結果なのか分かりませんが、やはりまとめての掲載の方がよかったと思います。いい作品だけに、特異な掲載形式のために注目度が低くなってしまったのは残念でした。

 しかし、そんな桐原さんの次回作「群青」は、今度こそさらに期待できるかもしれません。新創刊されたビッグガンガンの創刊号からの新連載にして、他のどの連載よりも大きく扱われ、看板クラスの作品となっているようです。こちらは、女子駅伝部の活動を描く話となっているようで、やはり学園ものでかつキャラクターたちの成長を描く青春ものとして期待できそうです。この「アキラとひより」が良作だっただけに、スクエニでの次回作にも大いに期待したいですね。


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