<スパイラル・アライヴ>

2006・10・16
一部改訂・画像追加2008・11・8

 「スパイラル・アライヴ」は、少年ガンガンでの人気連載だった「スパイラル〜推理の絆〜」の関連作品で、本編よりも前の時代のエピソードを描いた、いわば「外伝」にあたる作品です。この「アライヴ」の物語の後で、「スパイラル」の本編が始まるという構成で、ラストでは本編への繋がりを感じさせるシーンも挿入されています。作者は、スパイラル本編と同じく、原作・城平京、作画・水野英多のコンビです。

 元々は、スパイラルがまだ連載中期だった2001年から2002年にかけて、それもガンガンの姉妹誌であるガンガンWING誌上において、本編のスパイラルと並行する連載という形で掲載されていました。当時のWINGでも、スパイラル本編同様の人気作品として、「まほらば」と並ぶほどの扱いだったと記憶しています。しかし、スパイラル本編との並行連載は、当時の作者たちにとっては厳しかったようで、連載当初から隔月連載という遅いペースを余儀なくされ、しかも6話が終了した時点で連載が中断してしまいました。コミックスは、その6話をまとめた1巻のみが刊行されました。

 しかし、やがてスパイラル本編の連載が終了し、それでようやく再開の目途が立ったのか、今度は本編と同じ少年ガンガンに籍を移して、2006年9月号より連載が再開されました。基本的には再開以前のストーリーを引き継ぐ形で始まりましたが、さすがに4年のブランクでしかも別雑誌掲載のマンガをそのまま続けることは難しかったのか、新しく読み始めた読者のために、設定上で大きな調整・変更がなされています。


・ガンガンへと掲載誌が変更された理由とは?
 しかし、これは元々ガンガンWINGの作品なのだがら、そのまま同雑誌で掲載してもよかったと思いますし、その場合、ブランクはかなり長くても、中断前のストーリーの補足説明を冒頭で少し加えるだけで、そのまま連載再開できたはずです。しかし、実際には、少年ガンガンへと籍を移し、内容的にかなりの変更を伴う形で再開されました。

 理由としては、まず、「スパイラル」本編を直前まで連載していた誌面の方が、読者を引き付けやすいということが考えられます。もはや本編は終了したのだから、かつてのように掲載誌を異にして並行掲載という形を採る必要はない。むしろ、スパイラル本編をつい最近まで読んでいた読者にとっては、そのまま同雑誌で掲載してもらった方がありがたいことは言うまでもありません。

 それともうひとつ、ここ最近のガンガンが、一部の人気連載にかなり依存している誌面となっており、「スパイラル」もその人気連載の一角として、その存在を手放したくなかったという理由も考えられます。さすがに「鋼の錬金術師」と並んでガンガンを支えている古参連載を、そのまま消してしまうのはひどくまずいと考えたのでしょう。ガンガンにとっては幸いにも、まだかつてWINGで連載していたた「アライヴ」の存在があったので、今こそこれをガンガンに招聘し、人気連載を持続させるのが最良の方針だと判断したのだと思われます。


・大きく変更された基本設定。
 そして、ガンガンへと籍を移して連載を再開することによって、大きく物語の設定そのものが変化してしまいました。

 まず、かつてのWINGでの連載時には、「スパイラル本編とは基本的につながらない」物語ということで、ほとんどアライヴのみで登場するキャラクターで、ストーリーが構成されていました。主要キャラクターは、主人公の元気少女である関口伊万里と、彼女と同じ学校に通う生徒である沢村史郎、そして雨苗雪音の3人です。この3人が通う学校は、スパイラル本編で舞台となる学校(月臣学園)とは別の学校であり、直接的なつながりはありませんでした。時代背景も本編とは2年前で、本編とは直接関係のない連続殺人事件が物語の中心となっていました。
 唯一、本編と共通のキャラクターとして、本編主人公(鳴海歩)の兄にして、物語の黒幕的存在である鳴海清隆が登場します。ただし、この当時の彼は「正体不明の謎の人物」という触れ込みだったため、顔が露出しない状態で物語の端々でのみ登場するという役柄でしかありませんでした。

 ところが、これがガンガンでの再開に伴い、このような基本設定が大きく変更され、いわば「ガンガンでスパイラル本編を読んできた読者が受け入れやすいような」改変が加えられています。

 まず、スパイラル本編の主要キャラクターが頻繁に登場するようになりました。いや、ただ登場するだけでなく、いきなり主役格に抜擢され、事実上ストーリーの中核に躍り出る形となりました。本編の2年前という設定は変わりませんが、その設定に合わせる形で本編のキャラクターもデザインされています。具体的には、本編で「ブレードチルドレン」という主人公の敵役だった、浅月香介と高町亮子のふたりが2年前の姿で登場し、しかもほぼ主人公として扱われており、このふたりの目を通したストーリーへと変更されてしまいました。かつての主人公だった関口伊万里は、もちろん今でも重要かつ頻繁に登場するキャラクターではありますが、物語自体はあくまで香介(亮子)の目で見た視点で描かれています。

 かつてのWINGの連載時には、「本編のキャラクターとはほとんど重なっていません」という作者の触れ込みがあったと記憶しているのですが、それは今回の再開で完全に失われた形となりました。ストーリー的にも、中断直前の話からは直接繋がっておらず、少し先へ進んだタイミングから始まっています。このあたり、少々つながりに欠けたぎこちない構成になってしまったかもしれません。


・アライヴキャラと本編キャラの大集合。
 このように、元々存在したアライヴのキャラクターに、本編からも次々と主要キャラクターが加わる形となったため、キャラクターが増えに増えたにぎやかな作品となりました。

 まず、本来の主役であった「恋する暴走少女」関口伊万里。彼女の爆発的な個性は再開後も変わらず、その暴走したバカっぷりで読者を楽しませてくれます。彼女の連れである萌黄と茜のふたりの少女も健在。伊万里と合わせてにぎやかな3人娘を形成しています。

 彼女の恋の相手であった、「鳴海清隆を目指す少年」沢村史郎も健在。本編主人公の鳴海歩とは違い、上昇志向の強く、ひねくれたところのない素直な少年です(笑)。そして、その沢村の元恋人で、一連の連続殺人事件の首謀者であるとされる雨苗雪音。彼女もまた個性的なキャラクターで、大人びて落ち着いた雰囲気の少女でありながら、とんでもなく人を(主に伊万里を)バカにしたような発言を繰り返します。彼女は、連載中断直前では、伊万里たちと会話しているシーンで終了していましたが、再開された後は殺人事件の容疑者としてすでに逮捕されています(このあたりで少々ストーリーの繋がりが欠けています)。

伊万里(中央)、萌黄(左)、茜(右)

 そして、これは本編と共通ですが、警視庁に所属する並外れた敏腕警部で、物語の黒幕的存在である鳴海清隆。中断以前はまだ謎のキャラクターという扱いでしたが、再開後は、本編で最後に素顔が明らかになったために、顔がきちんと出る形で登場し、しかも物語に積極的にかかわる形へと昇格しています。それと、彼の同僚の刑事である斉木亨も頻繁に登場し、気まぐれな鳴海清隆の行動に振り回されながら、悪戦苦闘して事件に取り組む仕事ぶりを見せています。

 ついで、本編のキャラクターとしては、前述の「ブレードチルドレン」と呼ばれる少年少女たちは、そのほとんどが登場してきます。主役格であるヘタレ系少年(笑)である浅月香介と、陸上部所属のボーイッシュな女の子で、女子に絶大な人気を誇る高町亮子のふたりは、本編そのままの関係で登場します。それ以外でも、カノン・ヒルベルト竹内理緒のふたりも登場し、特に竹内理緒は積極的にストーリーに関わってくることになります。

沢村史郎(下)、雨苗雪音(上) 清隆(右)と斉木(左) 浅月香介(左)、高町亮子(右)


・伊万里の暴走ぶりが素晴らしい。
 元々、この「アライヴ」のストーリーは、本編以上に推理ものとしての要素が希薄であり、主に(当時の)主人公であった関口伊万里を中心とした、「学園ラブコメもの」としての要素が全面に出ていました。当時の原作者も、「これはラブコメである」と明言していました。

 そして、その恋愛関係の中心にある関口伊万里の、はじけた暴走ぶりは今回も健在です。恋のライバルと一方的に決め付けた雨苗に決闘を申し込んだが軽くあしらわれ、向きになって何度も突進してそのまま気絶、そして今回で初めて出会った浅月香介には、いきなり態度が悪いと言って殴りまくる暴走ぶり。口から火を吐かんばかりの豪快な作画もあいまって、そのバカバカしい勢いに圧倒されます。この伊万里の暴走ぶりこそが、実は物語の中心で鍵を握っているといっても過言ではありません。

 そして、伊万里以外でも、全体的に明るく積極的なキャラクターが多く、本編よりもコメディの要素が強く、かなり楽しい連載となっています。本編は中盤以降かなり重い話となっており、今回も一部ブレードチルドレンの描写にそれが感じられるものの、それ以上に明るいキャラクターの言動、そしてキャラクター同士のはじけた掛け合いが全面に出ていて、かなり印象は違います。こちらの方が読みやすく楽しい作風で、本編とは異なる娯楽作品としての要素がかなり強く出ています。

 実は、個人的には、かつての連載の時から、「この『アライヴ』の方がより万人向けに楽しめる作品なのでは」と考えていました。再開後もその印象は変わっておらず、むしろ「スパイラル」本編に馴染めなかった人には、こちらの方がより薦められます。もちろん、初見の読者に対しても、「こちらの方が本編よりもとっつきやすいのでは」と思われ、かなりオススメ度の高い作品となっています。(*ただし、再開直後のぎこちない構成は初見読者にはとっつきにくく、一考の余地があります。)


・推理、事件の要素もバランスよく配分。
 以上のように、基本的にはラブコメを中心としたにぎやかで明るい作風なのですが、要所で連続殺人事件を巡る推理の要素が見られるのも良いところです。

 元々、本編からして推理中心の作品ではなく、むしろ重いストーリーやキャラクター同士の駆け引きの要素がクローズアップされていました。今作では、そのあたりがまずコメディを中心とした明るいものとなり、それに事件の推理の要素も適所で織り込まれている構成で、バランスよく個々の要素が楽しめる作品となっているように思えます。もちろん、より本格的な推理ものを期待する読者にとっては、これは物足りない構成かもしれませんが、元々「スパイラル」はそのような本格推理からは逸脱した方針こそが、最大の持ち味であり、「アライヴ」でもそれが変わっていないのは実に心強い。

 そして、これは中断前のWING掲載時から一貫して見られた方針で、それが再開後も変わっていなかったのを見て、かつての読者として一安心しました。伊万里を中心として思い切りはじけたコメディを存分に楽しみつつ、一方でまじめに推理、事件ものの要素もあり、サスペンスなストーリーも楽しめる。このバランスの良さこそが、アライヴ最大の持ち味だと思います。


・作画レベルも安定、最後まで手堅く楽しめる良作だった。
 実は、ガンガンでの「スパイラル・アライヴ」の再開については、個人的にはかなり不安視していました。かつての連載からブランクが長すぎますし、もろもろの都合で掲載誌がガンガンに変わったのも大きな不安でした。ガンガン系では、連載中に掲載誌を移転すると多くの場合作者が調子を崩し、クオリティを落とした上にそのままなし崩し的に早期終了したり、あるいは立ち消えになってしまう作品が非常に多いのです。スパイラル本編が終了した後すぐに連載再開の告知が行われ、本編の二匹目のドジョウを狙っているように思えたのもマイナス要因でした。

 しかし、いざ連載が再開してみると、本編同様の堅実なクオリティを保っており、かつての中断前に見られた、コメディとサスペンスがバランスよく配分された作風も変わっておらず、ひどく安心して読むことが出来ました。
 また、水野さんの絵のレベルがさらに安定し、キャラクターが存在感を増してきたのも高評価です。それでいて、かつての中断以前の4年前と比べても大きな絵の変化がなく、ほとんど誤差の範囲内に留まっていたのも優秀でした。

 最終的には、2008年6月号で最終回を迎え、ガンガンでの連載期間は2年弱、コミックスも5巻で終了し、本編よりもコンパクトにまとまった作品になりました。それでいて、ラストまでの謎解き、展開にも説得力があり、きれいにまとまった最後だったと思います。その分、本編ほど緊張感のある展開が長く続くことはなく、盛り上がりという点ではやや劣ったかもしれません。本編に比べると読者の話題性も少なかったと思いますが、それでも手堅くまとまっていることも事実であり、今後本編につながる外伝としてはこれで十分だと思われます。

 唯一、最後の後日譚のくだりで、スパイラル本編の後についての描写がなかったのは、ちょっと残念だったかもしれません。本編の前の物語とはいえ、その本編の連載はすでに終了しており、その時代からここまで長く読んできた読者のために、その本編の後を見せるシーンがあっても良かったのでは・・・と思ってしまいました。

 そして、この「スパイラル・アライヴ」の連載終了をもって、ここまで長く続いてきた「スパイラル」という大作は、すべて終了したことになります。本編の連載が始まったのは99年、あのエニックスお家騒動が始まるはるか前、ガンガンがまだ非常に安定していた時代の一作です。当時は、作者ふたりとも新人でしたが、そのふたりがここまでの長期連載を続けることになるとは、一体誰が予想したでしょうか。他の連載がお家騒動で相次いで中断する中、この作品は無事に続くことの出来た数少ない人気連載となりました。以後のガンガンでは、お家騒動以前のカラーを残す貴重な(ほぼ唯一の)連載となります。

 騒動の前後双方で、コンスタントに随時執筆された外伝小説も面白く、ドラマCD化やアニメ化もされました。この騒動で激動する時期において、これほどの成功を収めた作品は他にないでしょう。そして、この「アライヴ」の連載終了で、9年近くに及ぶスパイラル関連の著作はすべて終了。これで、ガンガンのお家騒動以前の作品はすべて終了し、ガンガンのかつての時代の残滓とも言える存在はすべて消えてなくなり、完全にひとつの時代が終焉を迎えたと言えるでしょう。


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