<Angel Dust> 

2009・11・9

 「Angel Dust(エンジェルダスト)」は、ガンガンWINGで2005年1月号から開始された連載で、約1年の連載期間を経て、2006年の2月号をもって終了しました。当時は、お家騒動後の危機を乗り越えたガンガンWINGが、安定期に入りかなりの充実ぶりを見せていた時期でしたが、このマンガは1年程度で終わってしまい、残念ながら不成功に終わってしまったと言えます。コミックスも3巻で終わっており、あまり読者の印象には残らなかったかもしれません。

 作者は、喜名朝飛(きなあさと)。かつて、1995年の月2回刊行時代のガンガンで、「幕末風来伝 斬郎汰」という幕末時代物でデビューし、その後ガンガンやガンガンWINGで、大小の連載を何度も行っています。残念ながら雑誌の表に出るような作家にはなれませんでしたが、エニックス(スクエニ)では長く活動した作家のひとりに数えられるでしょう。特に、99年に「東京魔人学園剣風帖」のコミカライズ作品をWINGで連載して以降は、WINGでの活動が中心になり、この「Angel Dust」が、(現時点では)最後に見られた連載になります。

 ゲームコミックの連載が続いていた作者にとっては、これが久しぶりのオリジナル連載となり、開始当初は相当なやる気が感じられたと思います。その内容は、現代を舞台にして、古代文明の遺跡のお宝を狙う者たちが登場する「トレジャーハント」もので、主人公たちトレジャーハンター二人組の活躍を描くものとなっています。そして、このふたりが、人間離れした超越的な能力を持つ不思議な子供と出会い、彼の正体の謎がやがて世界の存亡へと結びつくという、壮大なストーリーへと発展していきます。

 当初からストーリーはよく練られ、登場するキャラクターの個性・役割もはっきりしていてそちらも魅力的であり、加えて世界各地の古代文明の遺跡・遺物や、周辺の町で暮らす人々との交流など、興味深い題材も多く、かなり面白い作品に仕上がっていたと思います。少なくとも、連載開始当初は非常に好感触でした。

 しかし、意外にも早い時期での終了を余儀なくされたようで、連載の終盤、残り三分の一程度は相当な駆け足で、思った以上に性急に終わってしまいました。最後の展開も早すぎるところがあり、連載中盤で早期での打ち切りが決まってしまったのかもしれません。これは、非常に残念な結末であり、当初は良作だと思っていた作品がひとつ不成功に終わる形となりました。当時のWINGはまだ安泰でしたが、このように新規の連載が不成功に終わることで、人気作品が抜けた後の穴を埋める作品がなくなってしまい、のちの雑誌の落ち込みの先駆けになってしまった。そんな気がするのです。


・「斬郎汰」に始まる喜名朝飛のエニックス履歴。
 作者である喜名朝飛さんは、エニックス(スクエニ)で長く活動を続けてきた作家であり、最終的には約10年の間様々な作品を執筆することになりました。当初の作風では男性か女性化いまいち判然としませんでしたが、実は女性作家であり、かつ沖縄在住の作家として、その生活の様子が作者コメントの端々にのぼることもありました。

 最初の作品である「幕末風来伝 斬郎汰」は、それなりに長く(隔週刊で約1年半)続いた連載となり、掲載誌がエニックスで最も有名なガンガンだったこともあって、今でもこれが最も有名かもしれません。デビューしたての連載だけあって、内容・絵柄共にやや荒削りなところもありましたが、幕末で人斬りとして猛威をふるう少年剣士を軸に展開されるダイナミックなストーリーは、かなり読めるものとなっていて、隔週刊で毎号30ページ、月産60ページというかなりのハイペース連載でありながら、一度も休載することなく、1年半の連載を駆け抜けました。この連載はかなり好評だったようで、終了後に単発で外伝作品も掲載されています。

 その後、隔週刊から月刊に戻った98年のガンガンで、「Noesis(ノエシス)」というSFアクションものを連載。しかし、これは最初から5話で終わると予定は決まっていたようで、非常に短い連載期間で終了してしまいました。掲載誌はガンガンとはいえ、これを覚えている読者は多くないかもしれません。コミックスも1巻のみで終わっています。

 そして、次に喜名さんは、掲載先をWINGへと移し、そちらでゲーム「東京魔人学園剣風帖」のコミック化作品を掲載。元のゲームが非常な人気作だったこともあって、喜名さんの作品では、この連載もかなり知られている方かもしれません。内容もまずまず好評だったようで、終了後に同ゲームの続編である「東京魔人学園外法帖」のコミック化もまかされることになります。「外法帖」の連載開始は、お家騒動が勃発した直後の2002年1月号であり、騒動を超えてWINGに残った数少ない作家のひとりとなりました。

 その後「外法帖」の連載は約2年をもって2003年末には終了し、しばらくの間喜名さんの次回作はなくなってしまいます。しかし、約1年の期間を経て、実に久々のオリジナル連載であるこの「Angel Dust」を開始。かつて「魔人学園」の連載を長く続けてきたからか、親交のあったゲームプロデューサー(監督)の今井秋芳氏が、コミックスに推薦のコメントを寄せています。今井氏自身、同時期に「九龍妖魔學園紀」なるトレジャーハントをモチーフとしたゲームを出していますし、なにか通じるところがあったのかもしれません。


・トレジャーハントの二人組+謎の少年が繰り広げる魅力的なストーリー。
 前述の通り、この物語の主人公は、裏の世界でトレジャーハンターとして活躍する東洋人二人組・藤代聡和泉マリア。彼らは、凄腕のハンターとして世界の遺跡で活躍する一方、今はヨーロッパの田舎町の教会に、神父とシスターとして赴任し、地元の住人たちとの関係も良好に過ごしています。しかし、ある日その教会の屋根を突き破って、空からプラチナの髪の神秘的な少年が落ちてきて、運命的な出会いを果たすのです。彼は、空から落ちてきたにもかかわらず無傷であり、目覚めた後も無邪気な性格ながら端々で異能とも取れる能力を発揮、リンネと名乗り二人に協力してトレジャーハントに挑むよき仲間となります。

 まず、この三人を中心としたキャラクターの役割がはっきりしていて、個性的で魅力的な人物が多い。個人的には最も気に入っていたのが、三人のリーダー格である藤代で、整った顔立ちで落ち着いた言動を取る大人のキャラクターとして、WINGのマンガではこういったキャラクターは珍しいのかもしれませんが、そのよく出来た人格者の大人としての人物像に大きな魅力を感じました。彼のよき相棒であるマリアも、言動はがさつながらトレジャーハンターとしての腕前は卓越したものがあり、そのアクティブな性格が好印象でした。そんな二人と出合った不思議な少年リンネは、無邪気ながら時に見せる人間離れした能力と、その存在に秘められた神秘的な謎に惹かれます。このリンネの謎を巡る展開が、ストーリーの一つの中核をなしています。
 三人のライバルとして登場する、こちらも凄腕のトレジャーハンターのバーニィ・キャンベルとその相方のマルガリータも、存在感のある名脇役です。普段は医者と看護師として働き、現地の人々を救うために働く一方で、裏ではやはりトレジャーハンターとして、それもとある因縁から藤代を仇として狙う好敵手として、ストーリーのもうひとつの中核をなしています。

 そして、そんな彼らと交流を持つ、世界各地の現地の住人たちの姿もよく描けています。このマンガ、遺跡のみを舞台にした単なるトレジャーハントものにはなっていません。遺跡にまつわる歴史的な背景や、あるいは現地の人々の生活・思想・文化・・・そういったものも丹念に描かれているのです。少なくとも序盤から中盤にかけてのストーリーは、主人公三人組やライバルであるキャンベルたちが、世界各地でトレジャーハンターとして裏の世界では暗躍しながら、しかし普段の生活では地元の住人たちとのよき交流が(あるいは、時に文化の違いから来る軋轢も)見られるという、中々に考えさせるところの多い内容だったのです。

 すなわち、この作品、古代遺跡の謎とお宝を巡るトレジャーハントという大きな設定を中心に、主人公やライバルキャラクターたちの華々しいアクション活劇を描く一方で、古代遺跡の歴史的背景、世界各地の現地の文化の描写、住人たちとの交流なども丹念に描かれるという、よく練り上げられた作品になっていました。ストーリーも、不思議な少年リンネの謎を巡る一連の展開と、藤代とバーニィの因縁を巡る展開と、その双方がうまくミックスされ、続きが読みたくなる飽きの来ないストーリーを実現できていました。全3巻で終わってしまった作品ながら、その内容はかなり充実していたと思います。


・終盤にかけての展開はやや性急にすぎる。絵柄のクオリティが安定しなかったのも欠点か。
 しかし、このマンガ、確かに充実した内容でありながら、あまり長続きせず、結局のところ1年あまりという短い期間で終了してしまいます。当時のWINGの中心だった、ゆる萌えな作風やかわいい絵柄とは異なる作風であり、あまり大きな人気は出なかったのかもしれません。あるいは、最初からこの程度の期間で終わる予定だったとも考えられますが、いずれにせよ終盤では駆け足の展開となり、えらくバタバタした終わり方になってしまいました。

 具体的には、このマンガ、当初はヨーロッパの片田舎の町(フランス中部のオーベルニュ地方)の教会を皮切りに、以後チベットのラサ、そして南米クスコの町と、世界各地の古い遺跡が残る場所を主人公たちが巡る展開となっていたのですが、この3番目のクスコのイベントのあたりから、一気に話が飛躍していき、謎の少年リンネの大いなる正体が判明、敵対する強大な存在との対決、さらにはアメリカを中心とする世界各国の勢力争いまでか関わってくるという、まさに世界規模の壮大な話へと発展してしまいます。最後には宇宙にまで舞台は拡大し(笑)、超越的な能力バトルでクライマックスを迎える展開となります。

 一応、これらの展開には、序盤の頃からその伏線となる要素はきっちり提示されており、展開事態も駆け足ながらなんとか最後までうまくまとまっていて、決して壊れた話にはなっていません。それはそれで幸いなのですが、しかしあまりに早い終わりには随分物足りないものを感じたのも事実で、もっと長く続けばより練り上げられた面白い作品になったと思います。わたしとしては、もっと世界各地でのトレジャーハンターとしての活躍や現地の歴史・文化や人々との交流を見たかったし、そんな風に練られたエピソードを見せつつ、大きなストーリーも少しずつ進めてくれた方が良かったです。序盤のフランスやチベットでのエピソードが、実際よく出来ていたし、そんな始まりが好印象だっただけに、終盤の展開と早すぎる終わりには、正直かなり落胆したのを覚えています。

 加えて、このマンガの分かりやすい欠点として、とにかく絵柄のクオリティが安定しなかった点があります。いや、これはこの作品に限らず、喜名作品全般の大きな欠点でもあるのですが、とにかく絵があまりうまくない部分が目立ち、特にアクションシーンの質に大きな問題があります。このマンガは、作者の作品でも最も後発のものだけあって、ある程度は改善されているのですが、それでもこのアクションシーンの絵には、あまり高い評価を下すことが出来ません。一方で、キャラクターの表情や、そこから推し量れる内面の描写、時に見られる世界各地の遺跡や建物の光景には、かなりいいものを感じているので、その点では十分評価できるのですが、それ以上に全体的に見た絵柄の雑さ、アクションシーンの質において、あまりいい印象を持たれなかったのではと思うのです。同時期のWINGの連載が、整った絵柄、かわいい絵柄で支持を得たものが多かっただけに、このマンガの絵柄では、余計に不利だったかもしれません。


・このようなマンガの不成功が、のちのWINGの不振へと結びついたのではないか。
 このように、当初の好感触とは裏腹に、意外にも短期の連載で収束してしまったこの「Angel Dust」、当時のWINGのほかの人気連載がかなり充実していたこともあって、あまり印象に残るマンガにはならかかったかもしれません。当時のWINGで人気の出るタイプのマンガともずれていて、あまり話題も聞かなかったように思います。

 実際、この2005年当時のWINGは、お家騒動の被害からほぼ完全に立ち直った安定期の真っ最中でした。あの「まほらば」がアニメ化されて絶対的な人気を確保し、WINGの部数も一時的に大きく増大した時期でした。「まほらば」以外の人気作品「dear」「天正やおよろず」「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」なども揃って好調で、もしかすると騒動後のWINGの全盛期とも言える時期だったかもしれません。それだけに、わずか1年でさほどの注目も浴びずに終わったこの連載の印象は、非常に薄いものとなっています。

 しかし、このような良作と思えた作品が、あっさりと不成功に終わったことが、のちのWINGの休刊へと至る不振の遠因になっているような気がします。WINGは、2006年以降、上述の「まほらば」を始めとする人気作品が次々と終了し、その穴埋めのために2006年の「一年間連続新連載」を皮切りに、その後も新連載を多数導入しますが、ほとんどが成功せず、誌面のクオリティは一気に低下してしまいます。これは、直接的にはこの時期の新連載の不振が原因ですが、元を辿れば、2003〜2005年当時の安定期に、後に続く人気連載を打ち出せなかったことが大きく関係しています。上述の人気作品は、いずれも2002年かそれ以前に開始されたものばかりで、そののちの数年間のうちに、その後を継ぐべき連載を輩出することができなかったのです。これでは、それらの人気作品が最終回を迎えたあとに、後が続かなくなることは明白でした。

 中でも、この「Angel Dust」の作者の喜名さんは、この連載を終了させた後、もう次回の連載を見ることはなくなってしまいました。WINGには、他にも有望な作家が、ベテラン新人問わず何人もいたと思うのですが、あっさりと消えてしまい再登場しなくなるケースも多く、それも不振の大きな原因となっています。まして喜名さんの場合、ガンガンでの「斬郎汰」の連載後10年にも渡って連載を行ってきた作家でしたから、もう一度なにか連載の機会を持たせても良かったのではないか。

 今となっては、最後の連載であるこの「Angel Dust」の終了から4年近くが過ぎ、掲載誌のWINGも2009年についに休刊となっており、もはや喜名さんの再登場の可能性は非常に低くなっていると思います。事実上、現時点でこの「Angel Dust」がスクエニでの最後の連載となってしまっていることが残念です。(のちに、最近まで他出版社のウェブコミックで連載を行っていたようですが・・・。)


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